Side:なのは


「へ?其れって如何言う事ですか?」

医師から聞かされたことに、私は思わず間抜けな声を出してしまった……だってそれは信じられない事だったから。


あの戦闘の後、到着した医療班によって、彼はすぐさま管理局の医療施設に運びこまれて手当てが行われた――んだけど、


「ですから、彼が失神した原因は大量出血による失血性のショック症状だと思うんですが、その大量出血の原因の傷が一切見当たらないんですよ。」


そう、彼の身体には一切の傷が無いと言うのだ。
其れは幾らなんでも可笑しすぎる……だって、あの時私の手に付着した血は間違いなく彼のモノ…その時には傷があったのだし。

其れが僅か数十分で傷跡も残らない程に再生しているなんて事は大凡信じられる事じゃなかった…


どうやら、思った以上に聞く事は多そうだね。
何処から来たのか、名前は何なのか、悪魔と呼んでいたモンスターは何なのか……そして異形の右腕は何なのか……大変そうだなぁ…

って言うか此れは本来私の仕事じゃないよね?執務官とかそっちの仕事だよね?
フェイトちゃんは別のお仕事で出払ってるけど、他の人達は何をしてるのかな?武装隊の私は本来もう帰っても良い筈だよね?


「……彼の右腕が怖くて誰も彼と関わろうとはしないみたいで……正直私もちょっと怖かったです…」

「……そ、其れだけの理由で!?」

確かに不思議な右腕だけど、そんなに怖いかなぁ?異形の右腕なんて、漫画やアニメではよくある事だし、魔法が有るんだからアレくらいねぇ?
まぁ、其れなら確かにあの右腕を『怖い』とは思わない私がやるしかないか……病室には入って良いんだよね?


「はい、問題ありません。」


じゃあ、目が覚めるまで中で待たせてもらおうかな。












リリカルなのは×Devil May Cry  黒き騎士と白き魔導師 Mission2
『邂逅〜The First Contact〜』











Side:ネロ


「?」

目を覚まして視界に入って来たのは見知らぬ白い天井……此れが『知らない天井だ』って言う奴か――まさか自分で体験する事になるとはな。


「あ、目が覚めましたか。」

「あ、アンタはさっきの……」

俺が寝ているベッドの横に座っているのは、ついさっき一緒に悪魔を撃滅した女性だ。
……さっきは気にもしなかったが見た目がアレでナニな悪魔共を見ても一切怯えてなかったよな?……相当に肝が座ってるって事か。


「時空管理局、二等空尉の高町なのはです。」

「なのは……悪くない名前だな。」

いや、寧ろ目の前のこの人にはピッタリの名前かもしれない――それどころかこれ以上の名前は無いんじゃないかと思う位にピッタリだ。
まぁ、話が出来そうな奴が居るってのは正直ありがたいよな――無駄な戦闘をしなくて済む。


「え〜と、貴方の名前は?」

「……ネロだ。」

「ネロさんですか?……良い名前ですね。」


そうか?てか『さん』付けはよしてくれ、敬称付きで呼ばれる事もなかったし……あと出来れば敬語もなしにしようぜ?
見たところ、アンタも俺も大して歳は変わらないだろ?


「ほへ?ネロさん歳幾つですか?」

「17だ。」

「あ、同い年……」


だろ?だから敬語も敬称もなしだ、堅苦しいのは苦手でな。


「う〜〜ん……じゃあ、ネロ君でも良い?」

「君ね……さんよりは良いか。」

時に此処は何処なんだ?悪魔共と戦ってたら行き成りあんな場所に来てたんだが……少なくともフォルタナじゃない事だけは分かる。


「其れについては今から説明するね?此方も聞きたい事が有るし。
 先ずここはミッドチルダと言う場所で、恐らくはネロ君の住んでいた場所とは全く異なる世界で、ネロ君は……多分次元漂流者。
 戦ってる最中に此処にって言う事だけど、飛ばされる前に何か無かった?たとえば大きなエネルギーの暴走みたいなものとか。」


エネルギーの暴走――俺の攻撃を受けて大量の悪魔が自爆して、俺はその中心部に居たんだけど、其れって関係あるか?


「じ、自爆って……うん、多分それが原因。
 その爆発のエネルギーで小規模な次元震が起きて、ネロ君は其れに巻き込まれてミッドに来たんだと思うよ?」

「悪魔が居るんだから、地球とは全く別の世界があっても驚きはしないが……まさか自分が異世界旅行を経験するとはな。」

「あれ?ネロ君て地球の人?其れなら多分すぐに帰れると思うよ?私も地球の出身だし。」


はぁ?そうなのか?
てか帰れるって如何言う事だ?此処には異世界渡る技術でもあるってのかよ?


「うん、転送ポートがあるからね。
 そっか〜〜、地球出身なら簡単な手続きを済ませて3日もあれば帰れると思うよ?地球の何処?」

「イギリス領のフォルトゥナって島だ。『城塞都市』とも呼ばれてるんだけどな。」

「フォルトゥナ?………イギリス領にそんな場所有ったっけ?」

「え?いやいや、1年前に其処で起きた大規模な災害は知ってるだろ?
 詳細は兎も角、街の8割がぶっ壊れる程の大災害が起きたって事は世界のニュースで報道された筈だぜ?」

「1年前?……ううん、そんなニュースは聞いた事がないよ?それ以前に、ほらこれ見て?」


何だ此れ?世界地図?………おい、如何言う事だよ、フォルトゥナは何処だ?


「……ネロ君、悪いけど前言撤回……ネロ君は元の世界に戻れないかも知れない。
 ネロ君の居た『地球』と私の居た『地球』は多分別物――同じ絶対値を持つ完全に違う世界『パラレルワールド』って言う物なのかも…」


パラレルワールドだと!?……マジかよ……其れは流石に予想外だ。
そうなると俺は戻れないのか?……フォルトゥナの方が気になるが、あの程度の奴等ならダンテが本気出せば5分で終わるから大丈夫だろ。


「ゴメンね?流石に平行世界を渡る技術は、管理局でも開発されてないの。」

「別にアンタが……君が謝る事じゃないだろ?
 それに、よくよく考えたら、仮に戻る事が出来たとして、俺の居場所ないんじゃないか?十中八九、死んだ事になってると思う――多分。」

「えぇ!?な、なんで?」


言ったろ?悪魔の自爆に巻き込まれて、そんで此処に来たって。
て事はつまり、爆発の粉塵が治まった場所には俺は居ないって事になる。
多重連鎖爆発に巻き込まれた人物が、粉塵が晴れたら何処にも居ませんでした……その場に居る他の連中の考えが行きつく先は?


「ネロ君が爆発で吹き飛ばされた……」

「Bingo.(正解。)」

フォルタナは下級レベルの悪魔が其れなりに良く現れる場所なんだ、そんなところに死んだ事になってるだろう人間が戻ったら大騒ぎになっちまう。
其れに俺が居なくても、あそこの城塞騎士――まぁ、自警団みたいなモンだけど、アイツ等だって下級や中級にやられるほど間抜けじゃない。
どうしても手に負えない奴が出てきたら、その時は『悪魔も泣き出す男』が出張ってきて其れでお終いさ。


「だけど…ネロ君の家族の人は…」

「あ〜〜〜…俺には家族は居ないぜ?真っ黒な布に包まれて、孤児院の前に放置されてたらしい。……で、ネロ()って名前になった訳だ。」

「あ…ゴメン…」


謝る事じゃない、何れ分かる事だしな。
ま、何にしても俺はフォルトゥナには戻れないんだ、だとしたらこっちで生きてく事を考えねぇと……時に俺の服は?あと剣と銃も。


「あ、服の方は手当てをする時に邪魔だから脱がせたの――どの道、あんなに血塗れの服は着せたままに出来ないしね。
 それで一応クリーニングには出したけど、コートとズボン以外はボロボロだったから、新しく買った方が良いかも…」

「げ……まぁ、コートが無事なら良いか。紺の騎士服は俺だけの特注品だから愛着あるし。
 で、剣と銃――レッドクイーンとブルーローズは?アレも大事な『相棒』だから、無いと困るんだけど…」

「あ〜〜〜……あの2つはこっちで禁止されてる『質量兵器』だから、ちょっと預からせて貰ったの。」


質量兵器?


「銃とか剣とか『物理的』に人を傷つける事が出来る武器って言えばいいかな?ミッドでは其れが禁止されてるの。」

「マジか?って、そうなると君が使ってたあの槍みたいな、杖みたいのは如何なんだ?ビーム撃ってなかったか?」

「アレはデバイスって言って魔法を使うための武器。ビームは魔法ね。
 ただ『非殺傷設定』って言うのがあって、相手に魔力的なダメージを与える事は出来るけど、命を奪う事はないから此れは認められてるんだよ。」


魔法ってまたファンタジーな。だけど、意外とめんどくさそうだな……つ〜事はレッドクイーンとブルーローズは没収か?
勘弁してくれよ、アレはマジで大切なモンなんだ。どっちも俺が改造したから愛着も半端ねぇ……如何にかできないか?


「やっぱり大事だったんだね……うん、何とかなるよ。
 問題は質量兵器って事だから、機能そのままにデバイスに改造しちゃえば問題なし。マリーさんなら多分できるだろうし♪」

「裏技使って合法所持って事か?……まぁ没収されないなら何でも良いさ。」

それで?まだ俺に聞きたい事が有るんだろ?……大体予想はつくけどな。


「うん……ネロ君、貴方は一体何者なの?」

「何者か……」

当然聞きたいよな、デビルトリガー引いてた俺を見ている訳だし、何より右腕を見られちまったからな。
誤魔化すのは無理だろうし、何より誤魔化せるような相手じゃなさそうだ――適当な事言って、あのビーム撃たれたら堪らないしな。


………右腕見ても怯えてないし、全部話しちまっても大丈夫か。

「何者と聞かれたら……俺は人間さ――1/4だけ『正義の悪魔』の血を引いただけの人間だよ。」








――――――








Side:なのは


『悪魔の血を引いてる』……ネロ君は確かにそう言った。
でも、『正義の悪魔』って如何言う事?その言い方は何だか矛盾してないかなぁ?


「俺もそう思うが、如何にもそう表現するしかないらしいぜ?
 伝説の魔剣士スパーダは、俺の世界では2000年前に正義の心に目覚めて人間の為に悪魔の軍勢を打倒したって事らしいからな。
 で、俺にはその血が流れてる……まぁ、俺はスパーダの孫って事になるんだろうな。……あのおっさんは息子って言ってたっけか…

「そんな凄い人のお孫さん!?って言うか、その言い方だとそのスパーダさんは最近まで生きてたの!?」

「あ……そうなるか?
 おっさんが40ちょっと前位だから、少なくとも34〜5年前までは生きてた事になるのか?」


なんか、魔法と出会った時以上の衝撃だよ……だけど、其れならある意味で納得かな。
ネロ君の傷が数十分で回復したのは、恐らくネロ君に流れる『悪魔の血』の効力と思えば説明できない事もないしね。
となると、その右腕も……


「俺の中の悪魔の血が具現化したもんだ。言っとくけど最初からこうだった訳じゃないからな?
 数年前に悪魔の襲撃を受けた時に『力が欲しい。護る為の力が…』そう強く思ったら、右腕がこうなっちまった。
 俺の思いに悪魔の血が反応して、傷を過剰再生した結果悪魔化したんだろうけどな。――君はこの腕が怖くないのか?」

「へ?全然怖くないよ?
 確かに物凄い形をしてるとは思うけど、全然嫌な感じはしないから。」

ただ、少し不思議ではあるかな?
ネロ君が使ってたもう1本の剣は、気を失うと同時に右腕に吸い込まれたんだけど……どうなってるの?


「閻魔刀か?アレは普段はこの右腕に収納されてるんだ。
 俺の右腕は色んな魔道具を吸収して俺に力を与えてくれるのさ。」

「そうなんだ…あ、其れでその閻魔刀は…」

「コイツはデバイスへの改造は絶対無理だぜ?此れはスパーダ製の、人知を超えた『悪魔の武器』だからな。」


悪魔の武器!……其れは確かに下手に手を出さない方が良いかもね。
其れに普段はネロ君の右腕に収まってるなら、別に問題はないかな?……上が文句言ってきたらブレイカーかまして黙らせればいいし♪


「……今、物凄くおっかない事考えてなかったか?」

「うふふ、気のせいだよ♪」

そう言えば、今は声が普通だね?
さっき戦ってた時はエコーが掛かったような不思議な声だったし、青白いオーラを纏ってたけど?


「さっきはデビルトリガーを引いて、俺の中の悪魔を覚醒させた状態だったからな。」

「成程……だから眼も赤く光ってたんだ。納得した。」

で、ネロ君は此れからどうするの?


「如何するって……便利屋でも始めるしかないだろ?
 こっちで生活するとなったら、こっちの通貨を手に入れなきゃならないし……俺は一般的な仕事に向く性質じゃないからな。」


成程ね……だけど、其れは多分無理だと思うよ?
さっきの戦闘の記録は、参考資料として管理局のデータバンクにアップされてるから、ネロ君の戦闘能力の高さと異様な腕はお偉いさんは知ってる。
多分、此れから執拗な管理局への勧誘が始まると思うんだ……貴方ほどの人材を放っておくことは出来ないからね。


「はぁ?なんでだよ……意味が分からねぇ。戦闘力が高いからスカウト?なんだそりゃ?」

「魔法を扱える人って言うのは意外に少ないんだよ?個人の才能にも左右されるからね。
 だから魔法至上主義の管理局は万年人手不足状態……そんなところに降ってわいた優良物件を野放しにする筈はないよ。」

「Shit……マジかよ……」


そこで提案なんだけど、私の推薦で管理局の訓練校に入ってみない?
尉官以上の局員の推薦で訓練校に入ると、卒業後は優先的に推薦者の居る部隊に配属されるようになってるの。

「こう見えても私は管理局では有名人だからね、ネロ君に面倒な火の粉が降りかからないようにすることは出来るよ?」

「そいつがマジなら、ある意味で面倒事がなくて良いんだが……君に迷惑にならないか?」

「ならないよ、寧ろ『1人くらい訓練生を推薦入学させろ』って上が煩いから丁度良いし。」

「……OK、受けるぜその話。
 しつこい勧誘喰らうくらいなら、君の推薦で訓練校とやらに入った方が鬱陶しい事もなさそうだしな。」


ゴメンね?私としても管理局の強引なやり方は如何かと思うんだけど、こうでもしないと逆にネロ君に物凄い迷惑が掛かっちゃうからね。


「Ha……面倒事には慣れっこだが、面倒な事はないに越したことは無いからな、Thank you.」

「どういたしまして♪」

あ、そうだ!それから私の事は『君』とか『アンタ』じゃなくて『なのは』って呼んでほしいな。
やっぱり、名前で呼んでもらった方が嬉しいしね。


「名前で……All right、此れからよろしく頼むぜなのは?」

「うん、宜しくねネロ君♪」

そう言って右手を差し出すと、少し戸惑ったみたいだけどネロ君も右手を差し出してきて握手をした。
――異形の右腕だけど、ちゃんと人の温もりは宿してた……きっと、この右腕はネロ君の色んな思いが形になった物なんだね――だから怖くない。


取り敢えず、ブルーローズとレッドクイーンのデバイス改造をマリーさんにお願いしとかないとだね。








――――――








No Side


夜も更け、ミッドチルダの市街地も眠りに着く時間帯。
あるデパートでは、警備員が閉店後の見回りを行っていた。全ての電源がオフになっているので、灯りは手にした懐中電灯のみだ。

「ったく、如何にも不気味だねぇ夜中の服飾売場ってのは……マネキンが動き出すんじゃねぇかと思っちまうよマッタク…」

ボヤキながらも警備員の男は見回りを続ける。


――カタッ…


「誰だ!!!」

だが、そんな中で突如聞こえた物音。
店内に居るのは自分だけの筈……侵入者だろうか?警備員は警戒棒を構え、神経を張り巡らす……が、何も来ない。


「……気のせいか?」

そう思い、後ろを振り返った警備員は、今度こそ言葉を失った――目の前にある筈のないマネキン人形が立っていたから。
いや、目の前だけではない、気付けば前後左右、全てがマネキン人形に取り囲まれている。

「ななな、何だよおい!!!!」

『ぎゃははははっはははははは!!!』
『いひゃははははははっはははは〜〜!!』
『Ghahahahahahahahahahahahahahahaha〜〜〜!!!』
『ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ〜〜〜〜!!あ〜〜〜〜ははははははっはは!!』


問の答えは耳障りな嗤い声。
見ればマネキンたちは、何処から持ってきたのか全員がナイフやら短剣を手にしている。

「ちょ…まて…止めろ!!止めてくれ〜〜〜!!!!うぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

刃物が付きたてられる不快な音と、そして響き渡る男の悲鳴と耳障りな嗤い声。


数秒の後、その場に残ったのは変わり果てた姿の警備員と血濡れのマネキン人形のみ。






そして翌朝の新聞とニュースは、トップであるニュースを伝えた……『デパート警備員の男性謎の死』と……







黒き騎士と白き魔導師の邂逅は、少しずつ――だが確実に運命の歯車を回し始めていた…












 To Be Continued… 







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