Side:ネロ
訓練校とやらに入って、早1週間――今の所は『基礎訓練』てのが中心になってるみたいだな。
剣と銃での戦い方なら兎も角、魔法に関しちゃ俺は素人同然だから意外と学ぶ物は多かった――なのはの教え方が巧いってのもあるだろうけど。
同じチームを組む事になったギンガとヴィッツとも、まぁ巧くやれてるとは思う……思うんだが……
「1週間経っても食事の度のこの光景には慣れる事が出来ねぇ…」
目下最大の悩みと言うか問題と言うか、兎に角そう言うのは食事の度に俺の目の前に現れる『山』……早い話がギンガの食事の量だ。
今朝は真っ白って言う事は、ドンブリにつけられたライスなんだろうけど、この量は絶対にオカシイだろ!明らかに食べすぎだろ!!!
ダンテが30インチ(約72p)のピザを1人で平らげたのを見た時も驚いたが、見た目のインパクトはこっちの方が断然上だな。
ライスがチョモランマレベルに盛られてる上に、ベーコンエッグは1ダース、サラダはボールで持って来てスープはラーメンドンブリ。
挙げ句の果てにはミルクは1リットルのパックでだと!?よく朝からそんなに食えるよな……俺も食べる方だが、此れは次元が違うだろ……
「此れ位食べないと、午前中の訓練が持たなくて……」
「燃費の悪い身体してるよねぇギンガって。
てか、此れだけの異常な量を食べて一切太らないってんだから理不尽だ、不条理だ、世の女性の敵だ、お詫びして謝罪しなさい!」
「そう言われても……あ、でも妹のスバルは更にもっとよく食べるんですよ?」
「「嘘だろ!?」でしょ!?」
これ以上って、嘘だろオイ!?ドンだけ食べるんだよアンタの妹は!!
「あはは……家って6人姉妹で、中でも私とスバルと末っ子のウェンディは特によく食べるんですよ。毎食丼飯6杯は確実に食べますし。
そんな訳で、我が家のエンゲル係数は凄まじい数値で、両親が頭を痛めてます。」
「「少し自重しろ大食い娘。」」
俺とヴィッツの突込み意見は間違ってない。何一つ間違って居ない筈だ。
リリカルなのは×Devil May Cry 黒き騎士と白き魔導師 Mission5
『日々訓練〜Let's Training〜』
「なはは……確かに凄い量だとは思うけど、ごはんがおいしく食べられるって言うのは良い事だよ?」
「なのは!……其れはそうかも知れないが、この量は流石に常軌を逸していると思わないか?」
「ん〜〜〜〜……きっとギンガは『痩せの大食い』ってやつなんだよ♪
見た目よりも筋肉量が多い『燃える体質』で、人並み以上に運動の為のエネルギーが必要なんだよきっと……多分、そう思いたいの……」
なのはですら、微妙に現実逃避するのは仕方ねぇと思う……まぁ、ギンガは残さず食べるから文句も言えないけどな。
で、なのはも今からブレックファーストか?
「うん、ご一緒しても良いかな?」
「俺は構わないが……ギンガとヴィッツは如何だ?」
「私は構わないですよ?寧ろ光栄です♪」
「私も異議なし。」
ならOKだな………こっちに一斉に向けられた、羨望やら嫉妬の視線はこの際完全に無視だ――1週間もあれば嫌でもなれるってモンだぜ。
ったく、訓練の後とかに個人的に魔法で知りたい事が有るからなのはに聞いただけでこの視線が来るからな…そんだけなのはは人気って事か。
「久遠も一緒か?……今日もイナリズシなんだな?」
「大好物♪」
前に1つ貰ったが、確かにイナリズシは美味いよな――流石に略毎食食べる気にはならないが、好物ってんなら仕方ない。
で、なのはのブレックファーストは……え〜〜と、それって『ワショク』ってやつか?
「うん、一般的な和食の朝食だね。
ご飯に焼き魚とお味噌汁、それからお新香と焼き海苔と、絶対外せない納豆!此れこそ最強の和の朝食だよ!」
「ナットウって、その小さい器に入ってる豆か?……意外に普通だな、ドンだけの劇物フードかと思ったが……」
「え〜〜と、一体どんなイメージ持ってたのかな?」
「いや、ダンテの奴が
『良いかぼーや、ジャパンには美味いモノが沢山あるが絶対にナットウにだけは手を出すなよ!?
アレは人間の……いや、悪魔が食べても良いモノじゃない。アレはジャパニーズだけが食せる未知の魔性の食い物だ!悪魔も逃げ出すぞ!』
って、言ってたモンだから、果たしてどれだけ恐ろしいモノかと思ってな。あのおっさんが戦々恐々してるのは滅茶苦茶レアな光景だったな。」
「西洋の人には馴染薄いかもしれないけど、それはちょっと誇張しすぎだと思うなぁ〜〜?」
同感だ、別に只の豆料理じゃないかよ?臭いがキツイって言ってたけどそんな事もねぇし……明日食べてみるか。
ん?如何したなのは、食べないのか?
「あ…うん、お醤油切れてるみたい。貰ってこないと。」
「ショーユ?その赤い蓋のやつで良いのか?……なら他の席から貰えばいいだろ……Catch this!!(借りるぜ!!)」
――バシュン!!
こんな感じでな?
「……ネロさんの右腕って最大でドレくらい伸びるんですか?」
「さぁな?……推定だが50mくらいは伸びた記憶がある。」
「悪魔の右腕ハンパないわね……」
「力加減が巧く行かないと壊しちゃうもんね……ネロ君て本当に器用だよねぇ?」
そうか?……の割には、未だに誘導弾が巧く使えないんだが…
幻影刀は自由に動かす事が出来るけど、ブルーローズの魔力弾は直射しか出来ないからな……こう、巧く動かすコツとか有るのか?
「その辺に関してはやっぱりイメージかなぁ?
元々が実弾を発射する銃だから、『弾丸は真っ直ぐ飛ぶもの』って言う概念が出来てて曲げる事が出来ないのかも。
だけど、アレだけ自由に幻影刀が扱えるんだから、ブルーローズは直射用って割り切って使う方が良いと思うよ?」
「直射用…ね。
なら、今よりももっと幻影刀の精度を上げて、更に攻撃パターンを増やした方が良いかもな。」
このチームだと、少しばかり遠距離戦に難があるのは否めねぇってのが正直なところだ。
ヴィッツの風魔法は射程は長いが威力は低いし、ギンガはそもそも遠距離攻撃手段を持ってない。
目下、俺のマキシマムベットが威力と射程では最大なんだが、アレはフルチャージで使わないと極端に斬撃弾が小さくなるからな…要修業か。
「自分やチームの戦闘スタイルを見極めて、色々な手を考えるのは良い事だよ?
そうやって色々考えて試す事は、結果として視野を広げる事にも繋がるし、柔軟な思考を養う事にもなるからね。」
そう言うモン……なんだろうな普通は。
此れまで、殆どその場その場で『最善』を半ば本能的に選んで来たから実感がないが――確かになのはの言う通りかもしれないな。
『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』だったっけ?つまりそう言う事なんだろ?
「その通り♪
あ、そうだ!!丁度食堂に全員集まってるから伝えておこうかな?は〜い、皆ちょっと注目〜〜〜!」
いや、態々言わなくても全員お前に注目してると思うぜ?
武装隊でも訓練校でもトップクラスの実力を持ったエースが、高々訓練生と食事してるってのは信じられない光景だろうからな?
「……でも、なのはに他意はない、ネロ達と一緒にご飯したかっただけ。」
「そうなんだろうな……」
裏表がないんだ、なのはには……訓練の時も、褒めるところは確り褒めて、ダメなところは容赦なくダメ出しするからな。
だが、ダメ出しをしながらも『何が如何ダメだったのか』をちゃんと分かるように教えるってんだから教育者の鏡だろアレ?見習えよハゲ。
「本日の訓練は、午前中は何時もより軽めのフィジカル訓練と簡単な魔法訓練を行います。
そして、午後は……チームごとの実力テストを行います!まぁ、テストとは言っても、単純に1週間の訓練の成果を見るだけだけどね。」
……マジか?何をやるかは分からないが、チームの実力を見る為のテストだと?……楽しみだぜ。
基礎が大事ってのは分かるが、其れだけだと飽きる奴も出て来るからな――訓練の成果を試す場ってのは絶対必要って訳だ。
「ギンガ、ヴィッツ……」
「えぇ、分かってます……」
「やるからには、全チーム一番の成績よね?」
勿論それ以外には在り得ないだろ?
俺は『相当に負けず嫌い』だと自覚してるが、ギンガとヴィッツも俺に負けず劣らずの『負けず嫌い』みたいだからな……
「……ネロ君、閻魔刀とデビルトリガーは禁止の方向でね?」
「All right.(了解。)アレを使ったら速攻で終わっちまうからチームの力を見る事は出来ないしな。」
と言うか、俺だって滅多な事ではデビルトリガーは使わないぜ?
閻魔刀だって、今の所は次元斬とショウダウン使う時の限定の武器だしな……まぁ、其の2つを使う事はないから安心してろって。
「あと、施設壊さないでね?」
「……善処する。」
さて、一体どんなテストになるんだろうな?
――――――
Side:なのは
訓練を初めて1週間、皆それなりに基礎固めが出来て来たからここらでちょっと実力テストを実施する事にした。
ルールは簡単、訓練用のフィールドに仮想敵を配置して、其れ等に対処しながらゴールを目指すと言うモノ――まぁシンプルな感じだよね。
勿論、仮想敵は全て倒す必要はないし、ゴール前にはデータを弄って所謂『HP∞』の『倒せない敵』を配置してある。
倒す事の出来ない相手にどう対処して、制限時間内にゴールできるかが重要になるね。
「倒せない上に動きが…!!……2人とも出来るだけジグザグに飛んで!的を絞らせずにゴールまで突撃するわよ!!」
「了解〜〜〜!って、残り時間30秒切ってんじゃん!!」
「うおわぁ!!いそげぇぇぇぇ!!!!!」
――ドドォォォォン!!!
「残り時間5秒……まぁ、ギリギリだけどゴールしたね。」
但し、最後の相手への対処の仕方で大幅に減点だけど……まぁそれ以外は及第点を付けて良いかな?
夫々の役割分担が出来ていたし、進路上の必要な相手だけを倒し、途中の『敵を倒さないと進めない場所』での戦い方も良かった。
貴女達の今後の課題は、今回の最後に出て来たような相手と立ち会った時に、焦らずに対処できるようになる事――頑張ってね?
「「「はい!!!」」」
私の予想以上に、皆チームとして成長しているね。
正直言うと、ゴール手前までは来ても実際にゴールできるチームはそれ程無いと思ったけど、実際にはギリギリでもゴールしてるチームが多い。
勿論中には『只ゴールしただけ』って言う課題山積のチームも有るけど、此れは予想外の結果だね。
そして、いよいよ最後のチーム……ネロ君達のチームの番。
この1週間、皆を見て来たけど……ネロ君は兎も角として、ギンガとヴィッツも今期の訓練生の中では特出してるのは間違いない。
ギンガはクロスレンジ特化のアタッカーとして、ヴィッツは後方支援担当のディフェンダー兼サポーターとしてね。
チームの組み合わせはコンピュータがアトランダムに決定するんだけど、偶然とはいえこのチームは今期最強のチームだと思うなぁ。
「それじゃあ3人とも準備は良いかな?」
「はい!」
「準備万端です。」
「何時でも良いぜ?This may be fun.(なんか楽しめそうだ。)」
それじゃあ……スタート!!
「OK!Let's rock!!(派手に行くぜ!!)」
ネロ君とギンガのツートップをヴィッツが援護しながらって言うスタイルだね?
ヴィッツが僅かに浮いてるのは、そっちの方が自由に動けるからってうのと、先を行く2人との絶妙な距離を維持できるようにかな?
「ふ!ハッ!エリァ……One!two!Strike!!」
「はぁぁぁ!!ストームトゥース!!!」
ネロ君とギンガのアタッカーコンビも役割分担がちゃんとできてるね。
大型の頑丈そうなのはネロ君が、小型の動きが速いのはギンガが担当する事で効率的に仮想敵を撃破してる。
ヴィッツも常に周囲を警戒して、仮想敵の出現を的確に予測して2人に念話で伝えてる――そっちの方が相手に知られないしね。
しかも、其れをしながら2人が所謂『突進技』を使う時には追い風を吹かせて後押しし、技の威力と突進速度を高めてる…凄いなぁ。
きっと1週間の間に3人で色々と訓練後の反省会とかやってたんだろうね……そうじゃなきゃ此れだけの連携は出来ないよ。
だけど、あんまり波に乗って進むと危険だよ?この先にはこっちからは攻撃できない場所から砲撃を放ってくる相手が居るからね。
他のチームは的を絞らせなかったり、此方から砲撃打って相殺するなりして切り抜けたけど、ネロ君達は如何するかな?
「ヴィッツ、ギンガに捕まって俺の後ろに、一気に突っ切るぞ!」
「了解!ちょっと失礼するよギンガ?」
「全速力で行きますから確り捕まって下さいね?」
へ?速度にモノを言わせて突っ切る心算!?其れは幾ら何でも無謀だよ!
スピードで切り抜ける事は出来ない様に設定してあるんだから……!!
――ドォォォッォン!!!
「Ha!Don't let you go!!(ハッ!させるかよ!!)」
えぇ!?ネロ君の右腕から巨大な盾が!!其れで防ぎながら…!!
「其れとコイツはおまけだ。」
――ドドドドドドドド!!!
しかも、幻影刀で狙撃者を攻撃するおまけつき!?砲撃の発射方向から撃ってきた相手の場所を割り出して……やっぱり普通じゃないね。
ネロ君もあの盾なら防ぎきれるって確信してたからスピードを落とさずに突破を選んだんだ。
「スパイラルウィンド!」
「ナックルバンカー!」
「イィィヤ!!Get lost!!(失せろ!!)」
強制戦闘エリアではヴィッツも攻撃に参加して、複数の竜巻で敵を牽制。
ギンガが高速戦闘で各個撃破し、ネロ君は右腕に巨大な魔力の腕を纏わせてのナックルパートで纏めて撃滅…凄い荒技。
残るはゴール前の無敵モンスターだけど……道一杯に広がった相手に、空を飛べないネロ君達は如何する?
「倒せないなら、倒さないで進む!エリャァァァァァァァァ……Catch this!(取ったぜ!!)」
――ドガバァァン!!!
……うん、やっぱりこうなるよね。
若しかしたら別の手段とるかも知れないと思ったけど、2人とも右腕の事は知ってるんだから一番効率の良い此れを選ぶよね。
「「「「「「「「「「あの巨体を投げ飛ばした!?しかも右腕一本で!!?」」」」」」」」」」
ネロ君の十八番、悪魔の右腕を使った必殺技『バスター』。
トレーラーでも投げ飛ばせるし殴り飛ばせるって言うのは本当だったんだ……実際見ると驚きなの。
「Goal……Too easy.(到着……楽勝だったな。)」
制限時間を5分以上残してのゴールだから、確かに楽勝だね……実にお見事。
連携もバッチリだし、言う事ないね……敢えて言うなら、ネロ君の『右腕の力技』以外で最後の仮想敵は対処してほしかったかな?
「ほら、だから私のウィングロードで迂回した方が良いって言ったじゃないですか?」
「いや、あの巨体投げ飛ばした方がインパクトあるだろ?」
「まぁ如何やら最高のタイムでゴールしたらしいから結果オーライって事にしとこう?」
「むぅ……まぁ、確かにあんな凄いモノを間近で見れたので良いとしておきましょう。
ですが、やっぱりウィングロードを交えての戦い方も考えた方が良いと思いますよ?空を飛んでる相手と会う事も有るでしょうから。」
うんうん、直ぐに今回の反省と言うか今後の事を話し合うのは良い事だね。
他のチームの子達も、この3人の凄さを目の当たりにして負けまいと夫々のチームでフォーメーションや連携を相談してるし。
ん〜〜〜、今期の子達は教え甲斐があるなぁ♪
明日からの訓練は、少しだけレベルアップして厳しくしようかな?ふふふ、教え甲斐のある子達はこっちもやる気が出てきちゃうの。
早速明日からの新しい訓練メニューを考えないとだね♪
――――――
No Side
その日の深夜……人気のない夜の公園の一角で……
「ウゥゥゥ……ワンワンワン!!」
野良犬が1匹、暗闇に向かって威嚇の声を上げていた……だが、野良犬の視線の先には何も見えない。
「ガウゥゥゥ…ワンワンワンワンワンワンワン!!!!!」
――バクゥゥゥ!!
尚も吠え続ける野良犬が、突如その姿を消した……いや、正確に言うなら行き成り暗闇から現れた『影』に丸呑みにされたのだ。
『……………』
その影は、一瞬ネコ科の猛獣のような姿を取ると、再び音もなく暗闇に溶け込んで行く。
そしてその光景を、道路の高架橋に逆さづりになった『黒衣の道化師』がさも愉快そうに眺めていた。
「アイツ等が出て来れるまでには広がったってか?いひひひひひ、こりゃあと1〜2年で上級レベルが出て来れるようになるかもな〜〜。
いひゃひゃひゃひゃ!!そうなったらどうなんだろうね〜〜!こりゃたのしみだぜい!!!」
耳障りな嗤い声は、闇に溶け誰の耳にも入る事はなかった。
To Be Continued…
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