『海鳴剣士風聞帖』
『一枚目・呼ばれて来ました海鳴に』
「海鳴〜海鳴〜 お降りの際はお忘れ物なきようお気をつけ下さい〜」
空気の抜ける音とともに、電車の扉が開く。
「さて、ようやく到着と」
電車を降りて現れたのは、二十歳前後の青年。
黒目黒髪、少しだけ伸びた髪を、後ろだけ紫色の紐で縛っている。
服装もどこででも売っているような長袖のTシャツにGパン、片方の肩にナップザックを掛け、左手に竹刀が入っていると見える刀袋と少々野暮ったい格好だ。
それでもやや高めの身長に痩せて見える体つきに、端整な顔立ちと長閑そうな表情が相俟って、どこか涼しげで、着飾れば、おそらく並みのモデルよりかは見栄えのするであろう青年だ。
肩の荷物を掛けなおし、海の近く独特の空気を吸い込みながら伸びをする。
五月に入り、ほんの少しだけ夏の匂いがし始めた、新緑が混じる海からの潮風が心地良い。
「話には聞いてたけど、ずいぶんとよさそうな街だな」
彼がここ「海鳴市」を訪れたのには理由があった。
それは一昨日のこと。恩人からの「少し用があるんだけど、海鳴に来てくれるかい?」と、こちらの返事を待つことなく切られた電話に素直に応じるためである(用件の確認をしようとしたのだが、電源を切られていたのか通じなかった)。
「さて、これからどうしますか・・・」
一人呟いてみる。念のため先刻、海鳴に着いたことを知らせようと携帯をかけてみたが、なぜか通じなかった。
頭の中で、これからどう動くか考える。
おそらく彼女のこと、ここの土地感覚に疎い自分が行きそうな場所の見当はつけているだろう。
何故かいまだに電話は通じないが、もし急な用であるならば、向こうから電話がかけられてくるのだろう。おそらく仕事の話の可能性は高かったが、用件だけ告げて切られた電話に困惑しなかったといえば嘘になる。
仮に仕事だったとしよう。もともと近い内に、彼もこの地を訪れるつもりであった。
そうしてみれば、今回の海鳴来訪は渡りに舟ではある。
それに、言い方は悪いが彼女からまわしてもらう仕事というのはかなり時間がかかり、尚且つ難易度の高いものが多い。
と言うより、彼女から仕事を斡旋してもらうようになってから、安全や簡単といった単語とかけ離れた生活をしているような気がしないでもない。
今回の急な電話にしても、厄介なことに違いないと体が確信してしまっている。
嬉しくない方向でパブロフの犬化が進んでいるようだ。
彼女からの電話番号で携帯が鳴るたびに体が緊張するというのは、ノイローゼの始まりだろうか。
電源を切られていることにいくばくかの不安を覚えないでもない。
だからと言うべきか、いちおう自由に行動できると思われるいまのうちならどう動いても、たぶん、おそらく、きっと、問題は無いはずである。
「よし、まずは海鳴大学病院に行くことにしよう」
必要以上の長考から結論を導き出し、青年は目的地へ向かうために駅の改札を抜ける。
改札を抜けた彼を、優しく吹いた風が髪を揺らしながら去ってゆく。
駅の改札を出た瞬間にふと感じた、「海鳴」という土地が持つ一種独特の懐かしさ。
さきほど彼の顔を撫でていった風は、長く故郷の土を踏んでいなかった青年――坂崎宗二郎を、優しく迎え入れてくれているように感じた。
「さて、これからどうなることやら」
剣士としての勘だろうか。困ったような、それでいて楽しみという可笑しな感覚に、宗二郎は苦笑を浮かべて歩き出した。
(・・・と、いい感じに故郷を懐かしんで、歩き出したのがほんの数分前の出来事で・・・)
胸中でため息を吐きつつ、宗二郎は少女を威圧するように囲む、三人に意識を向けた。
「だ〜から、てめーがふらふら歩いてっから、ダチが怪我した、つってんだよ!」
「大丈夫かよ〜、リョウ君?」
「ヤベーよ、マジいてーよ!!」
目の前で女の子を囲んでいるのは、宗二郎からしてみれば、三つ子のようにそっくりな服装に、真っ黒な顔をした三人組だった。
一人はリョウ君と呼ばれた青年で、あとの二人は長髪と帽子をかぶっている。三人とも、いまの状況を楽しんでいるらしく、口調は荒っぽくしながらも、表情はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
どうやら、運悪く彼らの目に留まってしまったのだろう。腰まで届く艶のある黒髪を三つ編みにした眼鏡の女子高生が、駅の壁に背をつけた状態で、困惑した表情を見せている。
「ええと、ぶつかったのは確かに悪かったと思いますけど、ほんの少し手が触れたぐらいでそんな大怪我には・・・」
男三人に囲まれた状況でも、まだまだ冷静なのだろう。
口調は慌てているが、少女は整った顔を怯えさせることもなく、意外としっかりした声で受け答えしていた。
よく達人は見ただけで相手の強さがわかるという。
その例に漏れず、宗二郎の目には、心身ともに若く見える少女が外見よりもはるかに鍛えられていると見た。
目の前の三人組など、彼女がその気になれば、容易くひねることができる程度の手合いであることは、想像に難くない。
だが、
「細けえこと、いちいち突っ込んでんじゃねえよ!おとなしく治療費払うか、俺らに付き合うかしろ、っつってんだよ!!」
もともと、そちらが本当の目的だったのだろうが、自分たちの当初の予定ほど少女におびえた様子もなく、冷静に受け応えされるのに焦れ、先ほどまで腕を抱えて痛がっていた「リョウ君」なる人物が、少女の方に一歩踏み出し、その手を掴む行動に出た。
「ちょっ、離して・・」
その突然の相手の暴走に、少女が声をあげようとした時、
「まあまあ、あんたたちもその辺で。つまらない因縁をつけた上に乱暴まで働いたとなると、騒ぎも無用に大きくなってしまうぞ」
いつの間に近づいてきたのか、宗二郎の長閑な制止が、やんわりとかけられた。
「「「!?」」」
「え?」
少女が絡まれていることに気づいている通行人の何人かは、その様子を心配気に眺めているが、ほとんどの人は、厄介ごとに「我関せず」といった態度で通り過ぎていく。
少女に絡んでいた三人組も、そうした周囲の状況から邪魔は入るまいと、多少強引な手に出たところに、長閑ともいえる制止がかけられたため、三人とも驚いて、反射的にいつの間にか後ろに立っていた宗二郎の方へ振り向いた。
最悪、警察官が立っているということも考えていたのだろう、後ろに立っていた宗二郎の姿に、三人組の表情からあからさまに緊張が解ける。
宗二郎は百七十九センチと背は高い方だが、どちらかといえば痩せて見える体つき、表情は長閑で、顔つきも精悍というより端整である。
余談ではあるが、後に彼の妹が「女の人だけなら嫌だけどまだ許容範囲として、男の人から手紙を渡してと言われたときは、さすがに女の子として自信が揺らぎました」と彼女の知人に語り、それを聞いた人々が頬を引き攣らせ、当人を前に無差別で悪意の無い好意がいかに危険かについて語り合うことになっている。
ともかく、そんな容姿の宗二郎が制止をかけたところで、三人組が自分たちの行為を反省するはずもなく、一瞬でもひるんでしまったことが、逆に火に油を注ぐ結果となってしまった。
「あぁ!?煩せえよっ!いきなりあんだよ、お前!」
ナンパ(?)に水を注されて頭に血が上ったのか、逆に宗二郎へ三人組の一人が噛み付いてきた。宗二郎の記憶では、確か「リョウ君」と呼ばれていた青年である。
「いや、ただの通りすがりだけど。女の子ひとりに男が三人なんて、あまりにいただけないと思ってな」
「通行人が口挟んでんじゃねえよ!失せろよ、痛い目にあいてえのか!」
「どうでもいいから、ちょっと黙らせとけよ」
かなり短気な連中なのか、リーダー格の長髪の言葉に、すぐさまリョウ君(?)が、顔面に軽いパンチを繰り出した。
「ふむ」
あくまでこちらを怖がらせる目的だけだったのだろう。
腰も入っていない、見た目だけのパンチにため息をつきつつ、宗二郎は軽い左手の受け流しと入り身で相手の姿勢を崩し、添えた左手を中心に、「ふんわり」と形容したくなる勢いで、地面に放り投げる。
地面に人が落ちる音が響く。
「??!痛え!?」
あっけにとられたのは投げ飛ばされた本人だけではなく、威勢良く命令した長髪に、少女が逃げないよう睨み付けていた、帽子を被った左側の男。
そして状況から見て、助けられる形になる少女までが、男ひとりを軽々と投げ飛ばして見せた、柔らかい面立ちの青年に目を見張っていた。
「一応、話し合いでなんとかしたいと思ったんだが・・・・話しかけてこれじゃあ、無理そうですかね」
あくまでゆったりした雰囲気は崩さず、掴んでいた男の手を離し、リーダー格の長髪に目をやる。
「っの野郎!ざけんじゃねえよ」
「くそったれが!!」
あくまでこちらの出方次第という態度の宗二郎に、彼らの短い我慢の緒が切れたのだろう。
長髪の男と帽子を被ったもう一人は、宗二郎を挟むようにして距離をとった。
「土下座して謝るまでぼこってやるよ!」
喧嘩に慣れているうえに、なにかスポーツをやっていたのだろう。
そこそこ体格のよい長髪の左ジャブが、それなりに速い動きで顔を狙う。
それを指一本ほどの間隔を空けて避けると、ジャブを追いかけるように右のフックが襲ってきた。そのこぶしを軽く手を振り上げて狙いを逸らし、宗二郎は一歩踏み込んで水月に軽く当身を入れる。
「ふっ!」
「うげっ」
それだけで、空気を吐き出すように小さくうめき声をあげて、長髪はその場に崩れ落ちた。
宗二郎の一瞬の早業に、あっけに取られた形で固まっている最後の一人に声をかける。
「これで残ったのはあんただけだが、まだ続けるか?」
「くそっ!覚えてろ!!」
人を一撃で気絶させたというのに涼しげな表情を浮かべ、あくまで穏やかに聞いてくる宗二郎にようやく力量の差を理解したのだろう。
帽子を被った男はありふれた悪態をつき、大急ぎで投げ飛ばされてまだ痛がっていた男を起こす。そして気を失ったリーダーの長髪を二人で肩に抱き、よろめきながら一目散に逃げ出していった。
「あの、スミマセン。助けていただいて・・」
「いやいや、本当なら手助けなんていらなかっただろう。
こちらこそ、すまなかった。余計な真似をしてしまったんじゃ?」
近くの道端に置いていた荷物―ナップザクや刀袋を拾い、フラフラ遠ざかっていく三人を眺めていた宗二郎に近づいてお礼を言いに少女が来た。
彼はそれに対して、長閑だった表情を本当にすまなそうにして頭を下げた。
そんな宗二郎に、少女は慌てて自分がそんなことを思っていないとばかりに体の前で両手を振り、フォローとなる言葉を口にする。
「あわわ、そんなことないですよ。
わたし一人じゃ、あそこまで上手に立ち回れなかったですし・・・」
「いや、こっちもそんなに褒めてもらうようなものじゃなかったし・・・」
「そんなことありませんよ、ホント・・・」
「まいったな・・・」
お世辞では無く、本心から少女が褒めてくれているのがわかり、照れくささから目を逸らし、頭を掻く宗二郎。
「あはは」
宗二郎の照れた仕草が面白かったのか少女が笑い、彼も諦めたように苦笑いを浮かべる。
「はあ、ありがとうでいいのかな。
だけど、そういうことがわかるってことは、えーと君・・・」
「あっ、名前ですね。
高町美由希っていいます」
言いよどんだ宗二郎の様子で、聞きたいことを悟った少女――美由希は名前を名乗り、頭を下げた。
「どうも。俺の名前は坂崎宗二郎。
この街にはたぶん仕事で来たんだ。しばらく滞在することになると思うから、縁があったらよろしくお願いします」
「・・・『たぶん』?
・・・あっと、こちらこそよろしくお願いします。
え〜と、坂崎宗二郎、なんだか武士みたいな名前ですね」
いまいち要領を得ない宗二郎の言葉に少し首を傾げたが、つい先ほど会った人のプライベートを尋ねるわけにもいかず、美由希もそこは置いといて、教えられた名前の感想を述べるにとどめた。
「まあ、自分でも古めかしい名前だとは思ってる。
まあ、それはいいとして、高町さんも相当の腕を持ってるみたいだな。
間違ってたらあれだけど、見たところ剣道かなにか?」
正直、さきほどからかなり気になっていたこともあり、宗二郎は首を傾げた美由希の態度はあえて無視して(なにしろ本人も「来てくれるかい?」という疑問形の命令を聞いただけで、どんな用件かわからないのだ)、美由希の流儀を尋ねた。
「あの、剣道とは違うんですけど、剣術を少々・・」
すこし迷ったあとで答えた美由希の「剣術」という単語を聞いて、宗二郎の穏やかな顔にわずかだが喜色が浮かぶ。
「そうか、やっぱり「剣術」の方でよかったのか。
なんとなく、そっちじゃないかと思ってたんだけど。
剣術やってる若い人なんて、滅多に会わなくなったから」
「ということは、坂崎さんも剣術の方なんですか?」
どこか嬉しそうに話す宗二郎の表情から、その答えにたどり着く美由希。
「まあ、そういうこと。剣術もよくいえば古風、悪く言ってしまえば古臭いで、話を振ってもわかってもらえないから。普段は剣道で話を合わせてるけど。
まあ剣道ということで話を進めるようにしてるから、こうやってこれを堂々と持ち歩けるんだけどね」
すこしだけ複雑な表情を浮かべて、宗二郎は手にした刀袋をちょっとだけ掲げてみせる。
「あ、それ刀なんですか?」
宗二郎の台詞と動作から刀袋の中身を察して、美由希は思わず身を乗り出した。
常に刀を持ち歩いているみたいなことをいう人間に会えば、大なり小なり不審感や警戒心を抱きそうなものだが、逆に迫ってきた美由希の勢いに、わずかに後ろに下がった宗二郎が恐る恐るといった感じに尋ねた。
「ああ、そうだけど・・・もしかして高町さん、刀・・・好き?」
「はい、それはもう!」
「そうか、俺も刀は好きなんだ。
ただ綺麗なだけじゃなくて、作り手の工夫っていうのかな?
積み重ねてきた技が感じられるような気がしてね」
彼は知らなかったが、自他共に認める「刀オタク」の美由希は、キラキラと擬音が入りそうな眼差しで宗二郎が手にする棒状のものを見つめている。
「くく・・ははは」
犬なら凄まじい勢いで尻尾を振っているに違いない美由希の様子が可笑しく、悪いと思いつつも宗二郎は堪えきれずに笑い出した。
「あ、あうぅ・・・・す、すみません」
宗二郎の笑いに、なんとか正気を取り戻した美由希は顔を赤くする。
恥ずかしいさで体を縮めている様子は、穴があったら入りたいといったところか。
「いや、ごめん。あんまり可愛かったもんで」
「ええっ!?そそ、そんなことないです!
全然、もてたことなんてないんですから、からかわないでくださいよ〜」
普段言われない類の褒め言葉にさらに赤くなった美由希は、困りきった様子で視線を泳がせ始める。
もう少しすると赤くなりすぎ、頭から湯気が出てきそうな美由希を見つめながら、宗二郎は尚も言葉を続ける。
「ふ〜ん、そうなのか?
いや、本当にそう思ったんだけどな」
「ううぅ〜〜〜」
不思議そうに首を傾げ、駄目押しとばかりに微笑を浮かべて言ってくる宗二郎に真正面から見つめられ、美由希はこれでもかというほどに真っ赤な顔になってしまう。
「大丈夫か?
顔がすごく赤くなってるけど・・・・」
「い、いや、だいじょうぶです、はい」
何度も出たが、この坂崎宗二郎は現在の格好こそ野暮ったいが、高めの身長に端整な顔立ち、表情は長閑で安心感を与える雰囲気と人に好印象を持たせる容姿をしているだけに、先ほどのような台詞がよく似合う。
またさる事情により男女関わらず、そうした台詞をなんの気負いや照れも無く言えてしまう人種であるため、某レッド・スターと同じく人に誤解を与えやすいというスキルも持っている。
そのくせ、宗二郎本人はそうした誤解によって向けられる感情に対し、身内から『ステゴザウルス』と称されたほどに都合よく、自分の恋愛沙汰に疎かったりする。
しかし、あくまで本人の自覚が無いだけで、端から見るとピンチから助けられた女の子と助けた青年の甘いワンシーンに変わりがなく、騒ぎが終わって少なくなったが、最初の騒ぎから見ていた人や通りがかった通行人からはどこか生暖かい、一部の妙齢の女性からは過去を懐かしむような、羨ましげな視線が向けられていた。
宗二郎はもとより、慣れない褒め言葉に緊張しっぱなしの美由希に気づく余裕はなかったが。
「ええと、体調が悪くなったんだったら、早めに休んだほうがいいぞ。座るだけでもずいぶんと楽になるし」
「あ、あはは・・・ほんと、大丈夫ですから。
えっと・・」
「そうか・・・・」
「・・・・・・・」
かなり暴投気味に、的外れなアドバイスをのたまった宗二郎のおかげで冷静さを取り戻したが、美由希はどう答えたものかと考えあぐね、宗二郎もなんとなく話しかけるタイミングが掴めなくなり黙ってしまう。
「まったく、せっかく迎えに来てやったというのに。到着早々にナンパなんて、いい身分だねソージ」
そんな二人の沈黙を破ったのはややハスキー気味の、呆れたような女性の声だった。
「「リスティさん?」」
声をかけた人物は宗二郎だけでなく、美由希もよく知る人物だった。
二人は同時に横を向き、これまた同じタイミングで、呆れた様子でこちらを眺めながら煙草を吸う、肩口で切りそろえた銀髪のスマートな女性――リスティ・槙原の名前を呼んだ。
「Hi。さっきは災難だったね、美由希。
ソージの方はご苦労だった。僕の手間が省けたよ」
「よく言いますよ。来てからずっと、こっちのことを見物しておいて。
だいたい、俺にナンパなんてできるわけないでしょうに」
片手を挙げて挨拶してくるリスティの言葉に苦笑いしつつ、宗二郎は答える。それを聞いてリスティは、悪戯が事前にばれて不満そうな表情でぼやく。
「残念、バレてたか。相変わらず勘は鋭いくせに自覚はないみたいだね・・・まあいいや、せっかく迎えに来てあげたんだ。そろそろここから移動しないかい?約束もあるしね」
「・・・・なんですか、自覚って?」
「あはは・・・」
何気なく言われた、リスティの悪口とも取れる微妙な一言について宗二郎は頭を捻り、似たようなことで悩む、よく知る身内の朴念仁を思い出した美由希は乾いた笑いをたてている。
「自覚・・・まあ移動するのは賛成。いったいどんな用で呼ばれたのか聞きたいですし」
結局、リスティの言葉の意味がわからなかった宗二郎は当面の問題を優先させることにする。
「なかなか厄介な問題が出てきたみたいでね。偶然とはいえ、美由希もいてくれてよかった。君たち兄弟にも協力を要請しようと考えてたからね」
「恭ちゃんとわたしもですか?」
「また忙しくなるみたいですね」
表情を真面目なものに切り替えたリスティの様子に、宗二郎も雰囲気を真剣なものにし、美由希の方も荒事になりそうな空気を読み、訝しげにしながらも険しい顔になる。
「まあ、ここでは話にくい内容だし、ソージも病院に行くつもりだったんだろ?
悪いけど美由希も一緒に来てくれ。フィリスのやつも関係しててね。
だからあいつの所で話すよ」
「はい」
「わかりました」
リスティは頷いて見せ、宗二郎と美由希の二人を連れて海鳴大学病院の方向へ歩き始めた。
「ああ、そういえばソージ・・・」
「なんですか?」
いきなり、リスティが振り向いて話しかけてきた。先ほどの険しい表情が嘘のように素晴らしい笑顔だ。特定の人々に「さざなみの小魔王」と評されるあの笑顔である。
宗二郎の背中を、虫が這うような嫌な予感が這い回った。しかし、あくまでいつもの端整で、長閑な表情で先を促した。
何度も被害にあっているのか。横を歩いていた美由希も、標的が自分でないとわかっていても頬に汗を一筋流している。
「ここに高性能マイクで録った、さっきまでの美由希と君の会話が入ったテープがあるんだが、あの子に聞かせてもいいかい?」
「ええー!?」
存分に巻き込まれていた。
「いったいどういう意図であいつに聞かせるのかわかりませんけど、最終的に俺が被害を被るのでやめて下さい」
わけのわからないリスティの行動に頭痛を覚えるが、これは嫌なことが起こる前触れだと確信している。いままでこの突発的な行動に痛い目を見てるし、それによって培われた危険に関する勘の鋭さには自信があるからだ。
宗二郎は、肩に掛けたナップザックから桐箱を取り出して献上し奉った。
「特選大吟醸『龍樹 羅生門』です・・・・お納め下さい」(注・一字違いで本当に売ってます。財布に余裕のある人はどうぞ。私には手が出せませんでしたが・・)
「イエース。よくわかってるね」
リスティは満足げに桐箱を受け取り、懐のテープを宗二郎に渡す。ポケットにテープを入れ、何事も無かったように再び歩き出す宗二郎を見て、美由希はぽそりと呟いた。
「な、慣れてる・・・」
驚けばいいのやら同情すればいいやら、判断に困る美由希であった。
〈後書き?〉
?1・・・・・・
?2・どうかなされたか?
?1・すみません。ごめんなさい。申し訳ありません!(平伏して)
?2・落ち着いてくだされ。いきなり謝れても、それがし困りまする
?1・(深呼吸して)初めまして、作者改め〈こもれび〉と言います。今回、私の文章を読んでいただき、真に有難うございます。恥ずかしくて腹切りたいです・・・
?2・まあ初めての投稿でござれば、それもいたしかたなきこと。ここから精進されよ
こもれび〉ありがとう。そういうあなたは、当初の主人公(予定)だった坂崎冬華(とうか)さんですな
冬華〉なんの因果か、物語の本編ではなく後書き?担当になりもうした。それがし坂崎冬華と申します。決まってしまったことは仕方なき事とは思いますれど、やはり納得しがたいものがあるのも事実。せめて本編に出れなくなった理由をお教えくだされ
こもれび〉うん、ぎりぎりまでどうするかと悩んだんだが、容姿はともかくオリキャラとはいえ、やっぱり「とらハ」の世界に二十六歳で自分を「それがし」としゃべるような時代錯誤はどうかと思ったわけで。
冬華〉・・・・それでここへ送られたわけでござるか
こもれび〉はい、その通り。作者としては、やっぱり若さのある主人公が欲しかったわけで
冬華〉・・・・○○うに剣○の主人公よりは若いはずでは
こもれび〉それはそれ、コレはコレ。第一、時代が違う。まあ、本編で完全に出番が無いわけじゃないから。武士なら武士らしく、潔く諦めてください
冬華〉う〜む、いたしかたあるまい。武士として与えられた役目をまっとうさせていただくとしよう
こもれび〉そうしてください。では改めて後書きらしく・・・「一枚目『呼ばれて来ました海鳴に』」をお読みいただきありがとうございます。拙い文章を読みづらいと感じる方は多いとは思いますが、この作品を書き上げていく中でより良い文を書けるようになりますので、作者と登場人物共々、長い目で見ていただきますようお願いいたします
冬華〉それがしからも、よろしく頼みもうす。それでは後書き?もこの辺りで・・・
こもれび〉そうですね。では・・
こもれび&冬華〉次回「海鳴剣士風聞帖・二枚目『午後の○茶はどうですか?』」。読んでくださった方が楽しめるよう、誠心誠意書かせていただきます。どうかお楽しみに
こもれびさん、投稿ありがとうございます。
美姫 「これからどんな物語が始まるのかしらね」
うんうん。楽しみだな。
美姫 「何やら、事件を思わせるリスティの口調」
待ち受けているものとは何か。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。