『An unexpected
excuse』
〜美由希編〜
「俺が好きなのは……」
口を開く恭也を、美由希や忍をはじめとする仲間内の面々はもちろん、FCのメンバーたちも固唾を飲んで見守る。
「……って、なぜ言わなければいけないんだ?」
「そんなの、私たちが知りたいからに決まってるじゃない!」
「そうです、教えてください恭也さん!」
「師匠! 誰が好きなんですか!」
「教えてください、お師匠!」
「いや、だから……」
「ああ、もう! 理由なんてどうでもいいのよ! いいから言いなさい!」
反論しようとする恭也に皆まで言わせず、ヒートアップしていくFCのメンバー。
「とは言ってもだな……」
恭也は、自分を取り囲む少女たちを見渡すと自らの義妹と目を合わせる。
美由希は恥ずかしそうに、しかし、どこか残念そうに苦笑しながら恭也へと視線を送る。
そんな美由希に対して、恭也も苦笑を返す。
そんな二人の様子には気づくことも無くさらに恭也に詰め寄っていく少女たち。
「師匠!」
「お師匠!」
「恭也さん!」
『高町先輩(くん)!』
「……む?」
だが、ただ一人だけ二人のアイコンタクトに気づいた者がいた。
(これはまさか……ふふふ)
思わずもれそうになる笑い声を押し殺し、いたずらっぽい笑みを浮かべると、彼女――忍は大きな声をあげた。
「恭也〜♪、恥ずかしがらなくってもいいんだよ? 恭也が好きなのは内縁の妻である、この忍ちゃんだもんね〜?」
芝居がかった仕草で科を作りながら、恭也の横に躍り出ると、そのまま彼の腕をとり、自らのそれと絡ませる。
『あ、ああああああああ!』
忍のとった行動に少女たちが悲鳴を上げる。
「い、いきなり何をするんだ、忍!」
恭也もいきなりの行動に驚き、声をあげる。腕に触れる柔らかなふくらみに若干頬を染めながらも、腕をはずそうとするが、忍はがっちりと掴んで離さない。
「い〜じゃない。私と恭也の仲でしょ? それとも、あの時の一緒にいてくれるって誓いは嘘だったの?」
夜の一族の秘密を知り、友人として共にあると誓ったことを持ち出され、否定するわけにもいかず、一瞬言葉に詰まる。
「い、いや、それは……」
「そんな、恭也さんは忍さんと付き合ってたんですか!?」
「どうして秘密にしてたんですか師匠? 忍さんとなら俺たちだって応援したのに!」
「そうですよ、お師匠! みずくさいです」
「い、いや、違うぞ、みんな! 俺の話を聞いてくれ!」
勘違いして騒ぎ出すFCたちに慌てて否定の言葉を口にするが、すでに誰も聞いていない。
「うふふ〜、恭也〜」
微笑みながら、忍がさらにきつく恭也の腕を抱きしめた時だった。
「だめーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
突如あがった大声に誰もが動きを止める。
その一瞬をついて、まさに疾風と表現したくなるほどの速さで彼女は、忍の腕を恭也のそれからはずすと、誰にも渡さない、とばかりにきつく抱きしめた。
「恭ちゃんは、私の恋人なんだからーーー!!!!!!」
そして再び天にも届けとばかりの大声で叫ぶと殺気を込めた目で忍を見つめる。
「み、美由希さん?」
「何がどうなってるんだ?」
「お師匠! どういうことなんです?」
さっきとは違った意味で騒ぎ始める面々。
「ふっふっふ、や〜っぱりそうだったのね!」
忍は、美由希の殺気にたじろぎながらも、顔にはニヤニヤと笑いを浮かべながらそういった。
「へ? え?」
さっきまでとはうってかわった様子に毒気を抜かれ、ポカンとした様子で忍を見つめる美由希。殺気もいつの間にか消えている。
「さっき、恭也と美由希ちゃん、目で語り合っていたでしょう! それでピーンと来たのよ! この忍ちゃんの目は誤魔化せないわ!」
「えっと、つまり……」
「付き合っているのは師匠と忍さんじゃなくて……」
「……はぁ、そうだ。俺が好きなのは……付き合っている相手は美由希だ」
「……恭ちゃん」
はっきりとそう告げる恭也を嬉しそうに見つめる美由希。
『ええええええええええええええええ!!!!!!!』
それに対し、忍以外のメンバーは驚きの声を上げる。
「で、でも、でもでも、お二人は兄妹じゃないんですか!?」
FCのメンバーの一人がそう言って二人に詰め寄る。
事情を知らない他のメンバーも同じように疑問を顔に浮かべて二人を見る。
「いや、俺と美由希は実の兄妹じゃないんだ。性格には従兄妹にあたる」
恭也の説明に納得するFC達。
「義理とは言え兄妹だ。変な憶測や噂を立てられても迷惑だと思ってな。しばらくは黙っていることにしたんだ。美由希が皆伝したらみんなには伝えるつもりだったんだが」
と続けて一息つくと、
「まあ、俺みたいな無愛想では噂にもならなかったかもしれんがな」
といって苦笑する。
それに反応したのは、誰あろう恭也の腕に抱きついたままの美由希だった。
「そんなことないよ! 恭ちゃんはかっこいいもん!」
「美由希……」
「私は生まれたときからずっと恭ちゃんと一緒にいたんだよ? 物心ついたときにはもう恭ちゃんが好きだったんだもん! たとえ誰が何と言おうと、何て噂しようと、私が好きなのは、愛してるのは、恭ちゃんだけだもん!」
そう言って恭也を見つめる。
「恭ちゃんこそ、ホントに私でいいの? 私より綺麗な娘はいっぱいいるし、私、ドジだし、料理下手だし、手とかだって鍛錬でぼろぼろだし……うう」
うつむきながら、自らの欠点をあげて落ち込んでいく。
「美由希」
恭也はそんな美由希の頬に開いている手を当てて自分のほうをむかせ、目を合わせる。
「そんなことは無い。美由希は綺麗だ。その手だって御神の剣士になるために一生懸命になった証だ。俺はそれを誇りに思う。美由希がずっと俺と一緒にいたように、俺だってずっと美由希を見てきたんだ。いい所も悪い所も全部知っている。その上で俺はお前を選んだんだ。もっと自分に自信を持て。それともお前は俺の目を疑うのか?」
じっと目を見つめながら、微笑を浮かべながらそう囁く。
「恭ちゃん……」
感極まったように、目に涙さえ浮かべながら恭也を見つめる美由希。
やがて、その目が閉じられ、求めるように唇が突き出される。
恭也もそれに答えるように、美由希に顔を近づけていく。
そして、二人の唇が重なりそうになったその時、
「おっほん、二人とも周りの状況見えてる?」
という忍の言葉に慌てて離れる二人。
「いや、そのこれはだな」
「いや、そのこれはですね」
二人して同じように慌てる様子を満足そうに眺めながら、
「そういう事は二人だけの時にしてよね」
と続ける。
「師匠があんなこと言うなんて……」
「お師匠……好きな人にはとことん甘いんですね……」
「うう、恭也さん」
普段は見られない恭也の様子に驚く者や、二人の様子に肩を落とす者など他のメンバーの様子は様々だ。
「ハイハイみんな、これで目的は果たしたんだから、さっさと帰るわよ」
忍はそんな面々へ手を叩きながら校舎へ戻るよう促す。
そして、最後に二人を振り返ると、
「それじゃ、残り時間は少ないけど、二人っきりの時間をプレゼントよ。次の時間には遅れないようにね」
と言うと、ウインクを一つ残して自らも校舎へと帰っていった。
中庭に残された二人は、
「ばれちゃったね」
「そうだな」
「……ごめんね? 私があんなことしなければ……」
「いや、いい。いつかはばれていたことだしな。それに……」
「それに?」
「まあ、その、なんだ……さっきの言葉は、その、嬉しかった、ありがとう」
目をそらし頬を掻きながらそういう恭也。その頬はしっかりと赤く染まっている。
それを見た美由希も、同じように頬を染めながら、しかし、笑顔を浮かべて
「うん、私も嬉しかったよ」
と言った。
「ねえ、恭ちゃん」
「何だ?」
「さっきの続き」
「……ここでか?」
「いいじゃない、もうばれちゃったんだし」
と言って、眼を閉じ顔を上げる美由希。
「ふむ、そうだな」
そう言って笑うと、恭也は美由希の唇に自らのそれを重ねた。
二人の陰は一つとなり、チャイムがなるまでの間、二人っきりの時間を満喫したのだった。
あとがき
はじめまして、琴鳴と言います。浩さんのAn unexpected excuseをお借りして書いてみました。なにぶん慣れていないので、つたない文章とは思いますが、最後まで読んでいただければありがたいです。
攻略可能なヒロインの中ででてないのは美由希だけだなと思って書いてみましたが、内容はいかがだったでしょうか? 美由希編と銘打っているわりに目立ってたのは忍だったような気もしますが……
今後も出来るなら投稿してみたいと思います。次の作品も呼んでもらえればと思います。
甘いよ〜。
美姫 「本当に、甘々ね〜」
こういうパターンも面白いな。
美姫 「アンタも負けずに頑張らないとね」
おう!
という事で、琴鳴さん、投稿ありがとうございます。
美姫 「ありがとうね〜」
それでは、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」