注意

この作品はオリジナル設定満載です

それが嫌な方は読まないほうがよろしいです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さくら達は二人をベッドに寝かせ、熱いコーヒーを入れて飲んでいると少年が起きてきた。

「……ここ………どこ、ですか?…………」

少年は寝ぼけ眼をこすりながらどこかさくら達に怯えながらビクビクと声を出してきた。

この様子を見ていたさくらはゆっくり少年に近づき、膝をついて正面から優しく包み込むように抱きしめた。

抱きしめられたことでビクッと身を震わせるがさくらの大丈夫、大丈夫という言葉とともに後ろ頭を右手でポンポンと落ち着かせる母親のような叩き方によって安堵したのか、少年は迷子になった子供が母親に抱きつくようにさくらに力いっぱい離さないよう抱きついた。

「安心して、ここには貴方に害を与える人はいないわ。ねぇ、お姉さんに貴方の名前を教えてくれるかな?」

しかし、少年は俯いてしまった。

その様子をさくらは少年が口を開くのを待ち、忍は少年のどう答えたらいいのかわからないといった様子を見守っていた。

「その子の名前は志樹。沙耶峰志樹だ」

少年が答えるよりも先にドアの方から答えが帰ってきた。

「「「っ!?」」」

志樹と呼ばれた少年とさくら、忍の三人が声のしたほうを見るとノエルに支えられた男がいた。

男は志樹の前までやってくると左手でガシッと頭を掴み、笑顔で勢いよく振った。

「無事でよかったぜ。まったくどこに行ったのか心配したじゃないか」

志樹に何もないことを知り、微笑みうかべながら安堵した。

「お兄ちゃん、ごめんなさい。でも、志樹って?」

何故、自分の名前に“志樹”と名付けたのか聞いてみた。

「お前さんには名前が無かったから、勝手に付けさせてもらったんだが嫌だったか?」

志樹は首を横にちぎれるんじゃないかと思われるぐらい振った。

兄弟かと思っていた二人は二人のやりとりを見ていて違うのだと気づいた。

しかし、男は突然手を離すとさくら達に近づいた。

「すまないが、志樹を連れて急いで『さざなみ寮』へと向かうんだ」

さくら達は“さざなみ寮”という自分達に関係ある場所が男から出てくるとは思わなかった。

さくら達が驚いている横でノエルが志樹を抱きかかえて部屋を出ようとしていた。

それに気づいた忍はノエルに近寄った。

「ちょ、ちょっと何してるのよノエル!」

「忍お嬢様、此処は危険です。避難をしなければ」

ノエルの言葉を聞いてさくらは初めて違和感を感じた。

生き物ではないが何かが動いているのを感じたのだった。

そして、さくらが声を出すより先に事態が急変した。

ガシャァアアアアアンッ!!

窓から龍の刺繍がされたフードを被った女が三人侵入してきた。

男が盾になるようにさくら達の前に立った。

「早く!早く志樹を連れて逃げろ!」

「あなたはどうするの!?」

「オレはこいつ等の相手をする。その間に逃げろ!」

「でも」

「綺堂さくら!オレに構わずにとっとと行くんだ!」

いきなり自分の名前を呼ばれて驚くが確かに逃げないと足手まといになってしまうと本能が告げていた。

「次に会ったときはちゃんと説明してもらうわよ」

「了解だ」

さくらは男の言葉を聞いて忍達に車まで行くように言い、最後に揺ぎ無い闘志を漲らせている金の瞳を持つ黒髪の男の雄姿を目に焼き付けて忍達の後を追った。

その時、侵入者の1人が男に向かって“kキドウユウキ”と呼ぶのが聞こえた。

 

 

その頃、さざなみ寮に一本の電話が掛かってきていた。

「はい、こちらさざなみ寮です」

エプロンを着けた耕介が電話に出ると、向こうから懐かしい声が聞こえてきた。

「耕介さんですか?!御剣いづみです!さざなみは、海鳴は大丈夫なんですか?!」

いづみは切羽詰った声で耕介に尋ねてきた。

「おいおい、どうしたんだい?いづみちゃんそんなに慌てて、こっちは至って平和そのものだよ。何かあったのかい?」

いづみの問いに最初は軽口を叩きながら、後半は真剣な口調でなにがあったのか聞いた。

「大事件が起こったんです!!!」

いづみを知るものであれば鼓膜が破れそうなほど大きな声で返事を返してくることや、緊張に満ちた言葉などそうそう無いほどのことである。

いづみがさざなみに掛けてくるということはさざなみ関連、退魔関連、若しくは『龍』関連のみである。

そして、今回はさざなみ、『龍』関連であった。

「いづみちゃん、落ち着いて。一体、なにがあったんだい?」

耕介は少し興奮気味のいづみを落ち着かせるためにゆっくりとした口調で聞いてみた。

いづみはゆっくりと説明を始めた。

「今、私は仕事で香港に来ているのですが、昨夜未明信じられない事件が発生しました」

いづみの言葉を聞き、眉間に皺を寄せて香港にいる頼れる人物達を思い出していた。

「香港で起きたということは啓吾さん達が事件を調査しているんじゃないのかい?」

当たり前な意見を耕介は口に出すが、いづみから驚愕の事実を知らされることとなる。

「それは出来ません。何故なら、香港国際警防部隊は壊滅状態にあるからです

「なっ、なんだってぇぇぇぇぇ!?」

某調査団の隊員風味の驚きをしながら耕介は彼女の言葉を聞いた。

「そ、それはどういうことだい、いづみちゃん!!!」

香港国際警防部隊の約8割が『龍』に潰されました。その中に樺一号、陣内啓吾さんも含まれており、弓華と御神美沙斗さんは有休でそちらに戻っているため被害にはあっていません

それを聞いた耕介は啓吾の容態を聞く。

「それで啓吾さんの容態はどうなんだい?」

「鳩尾の辺りに人間の腕一本が入るほどの大穴が開いていたと、担ぎ込まれた病院の医師が証言しています。そして、今は昏睡状態です。私個人の意見を言わせてもらえるのなら、海鳴大学病院で治療をしたほうがいいと思うのですが、輸送などを考えると」

「いづみちゃん、ちょっと待ってね」

いづみがその先を進める前に耕介は携帯である人物に電話した。

「あっ、もしもし耕介だけど、すまないんだが矢沢先生にコード:Rが発生したって伝えてくれるか?それが済んだら能力使って香港まで飛んでくれ。大丈夫、俺の後ろにいるリスティとシェリーも行かせるから安心して。それじゃ頼んだよフィリス」

フィリスに一通りの指示を出した後、携帯を畳んでポケットにしまうと、後ろにいる二人に目で行ってくれと合図した。

二人は首を縦に振り、一瞬でその場から消えた。

それを見届けた耕介はいづみへと意識を戻した。

「今そっちに妖精三姉妹送ったから、あいつらが啓吾さんを矢沢先生のところに連れて行くから」

「わかりました。あと仕事のほうは一応一段落が着いたのでそちらに同行しようと思うのですがよろしいでしょうか?」

「ああ、こちらはかまわないよ。それじゃあ、いづみちゃんまた後で」

電話を切った後、寮生全員を呼び出して海鳴病院へと向かうために外にいる連中を呼ぶために庭に出ようとした。

ドサッ

玄関のほうから重いものが落ちる音がした。

そこにはボロボロの式服を纏った傷だらけの元寮生がいたのだった。

「薫!?」

耕介は薫に近寄って確認すると、強力な怨霊にやられたのかわからないが傷だらけの上に酷く衰弱していた。

確認が終わると寮生を集めて急いで海鳴病院へと向かった。

 

 

時間を遡ること一時間ほど、沖縄県那覇市が世界に誇る文化遺産である首里城が正殿にてポニーテールの女退魔士と一匹の子狐が大量発生した怨霊と激闘を繰り広げていた。

激闘を繰り広げる真っ只中に龍の紋章が描かれた顔全てを覆う仮面を着けた女が、踵まで伸びる銀髪を左手で弄びながら近づいていった。

「神咲一灯流継承者神咲薫だな、私の言葉に従え」

女退魔士神咲薫と妖狐久遠は怨霊と戦いながら近づいてくる仮面の女に違和感を感じた。

女が何故怨霊に狙われないのか疑問に感じた。

しかし、その疑問はすぐに解決した。

退魔という仕事に関わったことがあるものは皆怨霊の行動原理を理解している。

彼らの行動原理、それは生きとし生ける生物全てを襲うということだ。

彼らが無闇に人間を襲わない場合は二通りある。

1つは彼ら怨霊が使役されていること、もう1つは対象が人間ではないことである。

彼女の場合、彼女が近づくとモーゼの十戒の如く怨霊が道を開けていくさまを見る限り前者であることがわかった。

途端に攻撃を止めた怨霊たちを警戒しながらも薫は近寄ってくる得体の知れない仮面の死霊使い(ネクロマンサー)をじっと見据えた。

「ウチになんの用です?」

警戒する薫たちを見ながら彼女は静かに答えた。

「お前達が持つ霊剣全てを寄越しなさい」

薫は彼女の言葉を聞くや否や、霊剣『十六夜』を構え直した。

「生憎と十六夜はウチの大切な相棒だから渡すことは出来んっ!」

そう言った直後、薫は猛ダッシュしながら近づき、必殺の一撃を放った。

「真威・楓陣刃ぁ!!」

ズァアアアアアアアアアアアッ!!!

しかし、必殺の一撃は当たることなく周りを囲む壁のように集まる怨霊に当たった。

「ちぃ!追の太刀、疾!!」

グルンッ!   ガッキィィィィィンッ!!

楓陣刃を撃った勢いと体勢のまま疾を放つが、左腕一本によって止められた。

「!?ならっ、これでどうだ!閃の太刀、弧月!!」

ガッ!  ドッゴォォォォォォォォンッ!!

それでも薫は力づくで弧月を放つ。

右の正拳突きで弾かれるが、薫たちから少し離れた場所で怨霊退治をしていた久遠が人型となって死霊使いの懐近くまで接近して雷を纏った左後ろ回し蹴りを放っていた。

「くっ!?」

死霊使いも久遠による攻撃を予測していなかったのか受身を取れずに30m程蹴り飛ばされた。

そして、その様子を見ていた薫と久遠は警鐘を鳴らし続ける本能に従い、止めを刺すためにそのまま新たな技を放つ。

「久遠、アレをやるよ!」

「わか・・・った」

「「神咲一灯流・・・式剣、轟雷・楓陣刃ぁあああああ!!!」」

スガガガガガガガガガガガッ!!

薫の楓陣刃と久遠の雷を合体させた一撃はゆっくりと地面を穿ちながら目標へと進む。

しかし、まともに受身を取れなかった筈の死霊使いは何事も無かったかのように立ち上がって薫達を品定めするかのように見ていた。

「ふむ、なかなかの威力だった。素手では2対1は辛いか、ならばヤツを使うまでか」

残り10mといった距離に達すると死霊使いに異変が起きた。

「私はどうやらお前達を過小評価していたようだ。しかし、お前達の活躍もここまでだ。我が剣相手ではお前達の勝率は0%だ」

彼女は自身の胸に手を置くと、心臓を取り出すかのように胸を開いて左手で何かを掴んだ。

「とくと見るがいい!これがA(アルト)・A(アーカライズ)・A(アームズ)が愛刀、霊剣『布都御魂(ふつのみたま)』だ!!」

アルトが胸から手を引き抜くとそこには全長2m70cm、刃の長さが2m24cm、片刃直刀の超長剣が紫電と神々しい光を纏っていた。

そして、そのまま轟雷・楓陣刃をいとも容易く切り裂き、周囲の怨霊ごと消し去った。

「「!?」」

まるで一枚の絵画のような光景に薫と久遠は一瞬で魅入られてしまい、動けなくなってしまった。

アルトは何事も無かったかのように沈黙とともにゆっくりと近づいていく。

しかし、ここで沈黙を破るものがいた。

「薫!久遠!しっかりしなさい!敵が迫ってきていますよ!」

それは霊剣『十六夜』に宿る十六夜であった。

ハッと気付いた薫たちは5m程バックしてキッと睨んだ。

「すまない、十六夜。助かった」

「それよりもアレは危険すぎます」

その様子をアルトは興味深げに見ていた。

「ほぅ、魂を喰らって完成するヒトが作りし霊剣は喋れるのだな。ヒトが生み出したにしては良く出来ているな」

「っ!?今のどういう意味だ!」

「薫、そんなことよりも早くここから撤退しましょう!」

アルトの言葉を聞いて薫は見下した言い方をするアルトに食い下がるが、十六夜は逃げるよう薫に言った。

しかし、薫は逃げようとはせずに今一度『十六夜』を構え直した。

それを見ていたアルトはガッカリした顔をした。

「力量を読めぬ愚か者だとは思わなかったぞ。そういえば、お前達に訂正することがあったな」

剣を担いだまま人間の反応できない速度で薫の後ろに回るとポニーテールに使っていたリボンを解いた。

「私は人間ではない、千年前に夜の一族によって作られた自動人形だ。そして、神自らその力を封じ込めて作った本物の霊剣(オリジナル)『布都御霊』を私の中に保存していたから怨霊共は恐れて退いていただけだ」

声が聞こえた瞬間、薫が後ろを向くとそこには『布都御霊』を大上段に構えたアルトがいた。

「受けるがいい!我が必滅の技をっ!」

アルトと剣から異常なまでの圧力を感じて久遠はアルトと薫の間に割って入り、十六夜は持てる全ての力を放出した。

菫色の消滅(ヴァイオレット・バニッシュメント)!!」

剣から紫色の光が放たれたと思うとその光は久遠を包み、包まれた場所から久遠の体が掠れて消えていった。

光とともにアルトは大上段から斬撃も放った。

その一撃を『十六夜』で受けるが、圧倒的な威力により『十六夜』の刀身に無数の罅が蜘蛛の巣のように刻まれた。

「くっ!?」

薫は衝撃の余波に耐えながら久遠の様子を確認すると、既に下半身が消えて無くなっていた。

(このままでは十六夜も久遠も無事では済まなくなる、どうすればいい?)

そう考える間に薫にも光が浸食を始めた。

(これでは薫まで被害が―――!?)

アルトは力を更に込め、薫を真っ二つにしようとした。

(薫を助けるにはアレしか・・・・・・方法は無い!)

十六夜は決心を決めると限界以上の力を出し、刀身が何時壊れてもおかしくないほどに罅が奔った。

「?」

「十六夜!?何をしてるんだ!?」

薫はアルトの圧倒的な力に耐えながら、自己を傷つけてまで力を放出し続ける十六夜も行動を理解できなかった。

「薫、小さい頃のあなたは弱くてすぐ泣いてしまう子でしたね。今では強く、美しく、心の優しい女性になりましたね」

「十六夜・・・?」

「薫、あなたと過ごした時間は私にとって何事にも変えがたい宝です」

「突然どうしたんだ?らしくないぞ十六夜っ!」

十六夜は更に力を放出し、その力が淡い青い光となって薫を包むように宙を舞う。

「耕介様に迷惑を掛けてばかりではダメですからね」

刀から抜け出した十六夜は薫の頭を撫でながら幼子に言い聞かせるように言う。

薫がキッと十六夜を睨んで声を出そうとしたとき、十六夜はニコッと笑って今生の別れを告げた。

「さよなら・・・薫・・・・・・・・」

十六夜の言葉とともに光は薫を包んで球体の陣となって何処かへ消えた。

パッキィイイイインッ!!

霊剣『十六夜』の刀身は粉々に砕けてしまった。

「己を犠牲にしてまで主を転移させて護るとはな」

柄だけが残った『十六夜』の最期を看取ったアルトは首だけになった久遠へと近寄り、懐から灰色の液体が入った試験管を取り出した。

「お前には砕けた霊剣の代わりになってもらおうか」

その液体を久遠に掛け、右手で抱きかかえた。

「邪魔だ」

左手に持つ『布都御霊』を横に振って怨霊全てを消すと、首里城を後にした。

 

 

あの後、海鳴病院に向かう際に合流したさくら達と共に病院へ向かい、薫の症状や啓吾の容態などを矢沢医師から説明をしてもらい、今は薫の病室に皆集まっていた。

薫が目覚めるまではさくら達の話や啓吾についての話を聴いていた。

薫が目覚めると今度は薫の話を聴いた。

聞かされた話はさざなみ寮生やさくら達に衝撃となった。

一年前、チャリティーコンサート襲来事件で力を弱め、鳴りを潜めていた『龍』が強大な力を身につけて復活したという事実は皆に動揺を与えた。

皆が落ち着けないでいる中、リスティは耕介を病室の外へ連れ出してテレポートで屋上へやってきた。

「どうしたんだ、リスティ?何か問題でもあったのか?」

耕介がそう聞くとリスティは顔を歪めて伝えるか迷うが、大切な人に啓吾のようにはなって欲しくないという思いが勝ち、耕介に告げた。

啓吾の記憶を読んだことにより知ることが出来た、啓吾を傷つけたものの名を。

途中から顔を下に向けて聞いていた耕介が顔を上げた。

そこには自分が知る優しい管理人ではなく、過去に数回しか見たことが無い怒れる鬼神と化した耕介がいた。

「リスティ、このことはさくらちゃん達には内緒にしておくんだ。それから、俺はこれから野暮用で出掛けてくる。夕飯を作らないといけない時間までには帰るから、後は任せた」

「耕介・・・?」

そう言って耕介は病院を後にして、相棒である『御架月』が積んである愛車のBMWに乗って八束神社へと向かった。

神社に着くとそこには赤い戦闘服に身を包んだ銀髪の男が耕介を待っていたかのように立っていた。

「神主の爺さんはどうした?」

耕介が男に聞くと近寄って左目を見せてきた。

目は義眼となっているようでそこには龍の絵が描かれていた。

「聞きたくば俺を倒すことだな、“鬼狂い”!!」

男は後ろに下がると右腕からソードブレイカー、左腕からはガトリングガンと鞭が出てきた。

その様子を見て、相手は自動人形だと気づいた。

「いくぞ、御架月!」

「はい!耕介様」

『御架月』を鞘から抜くと同時に男の目の前までダッシュした。

男は冷静に耕介が懐に侵入しないようガトリングとソードブレイカーで牽制する。

男の射撃は的確に耕介を捕らえ、耕介はそれを紙一重で交わしていく。

そして、何度か刃を交えるがどちらも決定打を出せずに時だけが経っていく。

不意に大木を盾にしていた耕介は男に問いた。

「おい、お前の名前は何ていうんだ?」

突然の質問に驚くも男は大木を迂回しながら答えた。

「我が名はツヴァイ。ツヴァイ・A(アーカライズ)A(アームズ)だ!!」

ツヴァイが耕介だと思っていたものは大量の霊符で形作られたものだった。

ツヴァイが離れる直前に霊符全てが爆発した。

爆風によって身動きが取れなくなったツヴァイに爆風の中から爆焔を纏った刃がツヴァイの右肩に刺さり、そのまま切り裂いた。

「っ!?」

ツヴァイは切り裂いた人物、耕介を確認すると右足で耕介を蹴り飛ばして離れた。

「貴様、何処にいた?」

ツヴァイのもっともな質問に耕介は煤けた顔を霊符4枚ほど持った左手で拭ってから鋭い眼差しを向けて答えた。

「あの霊符の塊の中でお前を待っていただけだ」

「爆心地にいたというか!?」

「霊力で身を包んでいたけどな」

耕介の告白にツヴァイは動揺するが、『龍』のブラックリスト上位に入るだけのことはあると再認識し、自分の状態を確認した。

(チッ!今のままでは特攻しない限り、奴には勝てんとはな)

ツヴァイが特攻しようと構え直そうと後ろに下がったとき、上空から猛スピードで落下してくる物体があった。

その物体はツヴァイの前方に着地すると同時に無数の血塊弾を放ってきた。

「くぅっ!?」

耕介は刀で防ぐがツヴァイの弾丸とは異なり、砕けた破片が襲い掛かってくるために小さな切り傷が多数刻まれた。

血塊弾の嵐が止むと、そこには黒いマントを羽織った赤い瞳の男がいた。

耕介は男と面識は無かったが直感で誰なのか気づいた。

「お前は氷村、遊だな」

男は正解だとばかりに口を歪ませるとツヴァイに向き直ってボディブローを放った。

「ぐはっ!」

耕介は突然の遊の行動に驚き、一瞬構えを解いてしまうが直ぐに構え直した。

「遊様?」

「お前の役目は“鬼狂い”を足止めすることだろうが!役立たずが!!!」

ツヴァイの髪を掴むと顔に膝を入れた。

何度も何度も使えない道具を痛めつける子供じみた行動、自分と命を賭けた相手に対する仕打ちといった遊の行動に耕介は自分の中で何かが弾けるのを感じた。

気づいたときには遊の左頬を全力で殴っていた。

遊はなにが起こったのかわからないといった顔をしていたが、頬の痛みを認識したことで殴られたことに気づく。

「下等生物である人間が吸血鬼の真祖たる俺を殴るとは許しがたい!!」

遊は拳を握るが直ぐに解いた。

「本来なら今すぐ貴様の首を切り飛ばしているところだが、この役立たずを連れ帰らなければならないのでな」

ツヴァイの髪を掴んだまま耕介を指差した。

「覚えておけ、貴様は俺が殺してやる。覚悟しておけ!」

言い終わると同時に遊とツヴァイを魔方陣が包み込み、二人を何処かへ飛ばした。

耕介はふぅ〜と息を吐くとその場に座り込んでしまった。

「どうしました耕介様!?」

「あぁ大きな声を出さなくていいよ、御架月。ただ、霊力の出しすぎで疲れただけだから」

手を振りながら地面に置いた『御架月』に言うと、刀から眼に涙を溜めた御架月が出てきて耕介に縋り付いた。

「すっっっごい、心配したじゃないですか耕介様!!」

「まぁそんなに騒ぐなよ、御架月。それよりも神主の爺さんがどこにいるか探してきてくれないか?」

「わっかりました!!」

御架月は敬礼と直ぐに神主を探しに飛んでいってしまった。

耕介はそれを見送ると『御架月』を鞘に締まって境内に移動した。

どっこいしょっと口に出してから座って待っていると、お堂の屋根から神主を担いだ御架月がやってきた。

「どこから現れてんだよ、御架月」

「仕方ないですよ。屋根に縛られたまま置かれていてはこうするしか方法が無かったんですから」

口を尖らせて抗議してくる御架月を無視して神主を助けると此処に来た目的を話した。

「急で申し訳ないのですが、預けたアレを返してもらいに来ました」

耕介が真剣な眼差しで神主に言うと付いてきなさいと言ってお堂の近くにある大岩へと歩いていった。

大岩に着くとブツブツと呪文らしき言葉を呟いた。

すると大岩が開き、中には下り階段があった。

階段を下りた先には霊符が張られた鎖が雁字搦めに固まって直径3m程の球体となった物体があった。

神主が横にずれて道を譲ると、耕介は球体まで歩いていくと『御架月』を鞘から抜いて袈裟懸けに球体を切った。

しかし、カキィイイイインッという刃金同士のぶつかり合う音が響き、中から一振りの輝く抜き身の刀が姿を現した。

「お見事!」

神主が感嘆の声を上げる中、耕介は『御架月』をしまうと出てきた刀を拾って、その輝きを確かめた。

「耕介殿、確かにお預かりした物はお返ししましたぞ」

「本当はこんな物を必要としない未来が続けばよかったんですがネェ」

苦笑しながら刀を御架月に愛車から持って来させたケースにしまい、それを肩に背負いこんで此処を離れた。

「御武運を」

「有難う御座います。それではこれで」

愛車に乗った耕介は急いで病院へと戻った。

何故なら、遊の足止めという言葉が封印を解く前から頭の中を渦巻いていたからである。

 

 

転移した遊達は『龍』極東支部第十三研究所にいた。

「遅かったな」

影から龍とも狼ともとれる異形の仮面を着けた男が遊達の帰還を待っていた。

「フンッ、Dr.機械人(チクタクマン)か」

見るのも汚らわしいとばかりに顔を合わせずに荷物を放り渡した。

「これは手酷くやられているな、まあいい。“龍皇”が玉座でお前の帰りを待っているぞ」

そう伝えるとDr.機械人(チクタクマン)はツヴァイを運んで研究室へと戻っていった。

遊はそれを見届けずにそのまま玉座、司令室へと向かった。

司令室に入るとそこにはアルトと真一郎、玉座に座る新撰組に似た羽織を着た老人がいた。

「おい“龍皇”はどこに行ったんだ、爺?」

老人が答えるよりも先に答えが帰ってきた。

「“ヴァンパイア・ロード”遊よ、俺ならば此処にいるぞ」

遊の後ろから子供を担いだ男が司令室へと入ってきた。

遊は後ろに振り向くと悪態付いた。

「餓鬼一匹手に入れるために御自ら出向くとはな」

「大事な息子を取り戻しに行っただけだ」

よく見るとその子供は志樹だった。

「ほぅ、親馬鹿だとは知らなかったぞ」

「“死器(しき)”は我らの悲願たる反創世記計画(プロジェクト・ネガジェネシス)の要だからな。何かあってからでは遅いというものだ」

先刻まで玉座に座していた老人が遊の肩に腕を回して邪悪な笑みを浮かべて答えた。

「っ!?」

遊は老人に向かって血塊弾を振り向きざまに放つが、老人に触れる前に蒸発して消えた。

それを忌々しく思いながら次弾を放とうとしたが“龍皇”が眼で睨んでいるのを感じて攻撃を止めた。

「刃、悪ふざけが過ぎるぞ」

“龍皇”が‘誠’という字の代わりに‘殺’の字が刺繍された羽織を着た老人に向かっていうと、仕方ないといったジェスチャーで返事をした。

「なぁに、“死器(しき)”を攫った小僧がワシ好みの歴戦の勇士が如き強き者だったのでな。興奮が冷めやらぬのだ」

「しかし、病院にはいなかったぞ」

「それも一興、いずれ再び合間見えるときが楽しみなだけだ」

そんなやり取りを繰り返していたが玉座に着くと“龍皇”は座り、刃は玉座の後ろに回るとそのまま背を預けた。

何時の間にかDr.機械人(チクタクマン)が入り口にひっそりと佇んでおり、ツヴァイは志樹を抱きかかえてアルトの隣に立っている

“龍皇”は目を閉じて瞑想し、それが終わると静かにDr.機械人(チクタクマン)に問いた。

「“D”は揃ったか?」

「計画に必要な数はとうの昔に」

次はアルトに、

「霊剣はどうだ?」

「一応揃いました」

遊に、

「使徒は?」

「充分過ぎるほどだ」

「ならば、決行に移すまでだ」

“龍皇”は立ち上がると床全体に大きなモニターが出現し、そこには大勢の『龍』の構成員が映し出されており、そのまま宣言する。

「諸君!時は来た!!これより我らが理想郷(ユートピア)を手にするため、反創世記計画(プロジェクト・ネガジェネシス)を決行する!!!同士達よ、今が立ち上がる刻なり!!!」

“龍皇”の宣言が終わると同時に多くの歓声が上がった。

そして、自分達に割り当てられた役割を果たすために皆が行動に移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とらいあんぐるハート

Lullaby Of End

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

ご無沙汰してます、骨董品です

資格のための試験で書けなかったり、ノーパソの調子が悪かったりなどの条件が重なり、9月中に書きあがらなかったことを謝罪させてもらいます

どうも、すいませんでした

えぇ〜内容のほうなのですが、拙い文で申し訳ありません

バトルばかりで疲れたと思いますが、これから更に激闘へと進んでいくつもりなので覚悟しといてください

それでは、次回にまたお会いしましょう

シ〜ユ〜アッゲ〜ン





最初からピンチっぽい状況。
美姫 「十六夜に久遠が」
何とか退けた耕介が手にしたものとは。
美姫 「一体、これからどうなるのかしら」
次回が待ち遠しいです。
美姫 「次回も待っていますね〜」
ではでは。



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