『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
9話 「Again―再会―」
ノエルは受け止めた刀を見やると力任せに押しやる。
男はノエルの方が力が上と判断し、その反動を利用して跳ぶと、少女から数メートル後方へと移動した。
なのはは何が起きているのか理解できなかった。
何故ノエルさんが此処にいるの?
何故お兄ちゃんを攻撃するの?
その答えは直ぐにやってくる。
突然の出来事に半ば呆然としていたフェイトは、自身に突きつけられていた刃が急に引かれたのに気づく。
刃を突きつけていた少女が一足飛びで離れ、男と並び立つ。
フェイトは緊張の糸が切れた為か、膝から崩れるように倒れそうになるが、横から伸びてきた手が体を支える。
「大丈夫か? フェイト」
「きゃっ! えっ、えっ? きょう、やさん!? ……なんで」
最後に会った時の姿より少し渋みを増した顔が其処にあった。
恭也が二人いるという状況についていけず、混乱するフェイトをよそに久しぶりだな、と声をかけるとゆっくりと地面へ座らせる。
フェイトは心なしか顔に赤みが帯び、頬に熱がこもるが未だに頭がうまく回っておらず自らの状況を未だに理解できていなかった。
スバルは見ていた。少女が離れた瞬間、なのはさんの兄と呼ばれていた人物より、少し年季が入った顔立ちの男性がフェイト隊長を
刀で塞がっていない左腕で脇に抱え上げたのを、恐らく右手に持つ抜き身の刃は少女を切り付けた為だろう。
その証拠に男性と並び立つ少女のバリアジャケットの袖口に切れ込みが走っていた。
少女は袖口を一瞥すると口がゆっくりと開く。
「へぇ、早かったね。もう少しドゥーエさん相手に手こずるかと思っていたのに………………………………ねぇ 」
「えっ」
ティアナの声が上がる。
今、この少女はいったい何を言ったのだ。
最後の方が、うまく聞き取れなかった。
ティアナは自身の勘が、重大な事を言ったはずだ、と告げる。
「何度も言わせるな………………喋るな、それ以上その顔で、その口で、その声で、その体で喋るな」
有無を言わせない恭也の言葉は、先ほどフェイトに掛けた言葉と違い怒気をはらんでいた。
スバルは言葉を向けられていないのに、恭也の言葉の節々から感じられる殺気に軽く身震いする。
そして恭也は刀を構える。
切っ先を少女へと向け、刀を構える。
「ふふふふ、駄目よ。ここは私のステージじゃ無いわ。それに………………まだまだ良質な絶望を喰らい足りん」
それは突然だった、恭也の言葉にも堪える事無く答えていた少女の声が、喋り方が変わった。
なのは達は周りを見渡すが誰も居なかった。信じられないが、その声は少女から発せられた物だった。ノエルに支えられていたなの
はは少女の持つ刀状のデバイスの変化に気づく。柄にあしらっていた雪の結晶の模様の中心部が割れ、目玉が覗いていた。
その瞳と目が合う。
「今度こそその体、その心を………………娘を、雫を返してもらう!!」
「えっ……雫……ちゃん?」
なのはとフェイトは恭也が呼んだ名に覚えがあった。数年前に恭也とその妻の忍から何度も聞いた名だ。
月村 恭也と妻である忍との間に出来た娘の名、それが『月村 雫』だった。
確かにどことなく忍の面影があった。この時初めてフェイトは何故、なのはやはやて達だけ少女を見た時に面識が会るように感じら
れた理由が分かった。
「慌てるな、言ったであろう。ここは我の舞台では無いと……貴様が出てきた以上こいつに使い道は無くなったな。折角あの女の甘
美な絶望をうまく引き出し喰らっておったのに、邪魔しおって」
「これ以上妹を、なのはを傷つけないでもらおう…………あれでも繊細でな」
「くっくっく、しかし、これ以上ここに居ても意味がないのでな……今回は引かせてもらう」
「逃がすと思うか?」
「使い道がない、と言ったがあったな。コイツと遊んでおれ、この娘の記憶を元に作り上げた。勝てはせんだろうが時間稼ぎにはな
るだろう」
そう言うと佇んでいた男が恭也へと刃を向ける。
恭也は男の方へ一瞥するが少女はその一瞬を逃さなかった。
少女の足元に魔法陣が展開され紋様にそって光の粒子が立ち昇っていく。
恭也は相手が何をするのか気づき素早く袖口から飛針を取り出すと投げつける。しかし、魔法の展開の方が一瞬早く、光の粒子が包
んだかと思うと瞬く間に少女の姿が消え去ってしまった。
転送魔法、誰かがそう呟いたのが恭也の耳に届く。
男は、なのはの時と同じように恭也の背後に周り攻撃しようとした。初動のため、右足に力を込める。
だが次の瞬間、男は不思議な光景を見ることとなる。
視界は恭也を捕らえ逃すまい、と凝視していた。
しかし、急に視界一面に空が広がったかと思うと、次の瞬間には大地が近づいてきたかと思うと暗闇に包まれた。
ティアナとスバルからひっ、と軽い悲鳴が聞こえてきた。
彼女達の足元へボールが転がっていた。男の頭部だった。断面からは肉片の隙間に骨や血管に混じりコードが覗いていた。
次いで、どさっ、と音が聞こえそちらを見るとそこには頭の持ち主が横たわっていた。
なのはを絶望の闇へと落とすだけの為に作られた男は、ここで短い人生に幕を下ろす。
驚くスバル達と違い、なのはとフェイトは恭也の姿を瞬きせずにずっと見つめていた。
何故、あの偽者を本物だと思っていたのだろう、瞳に写る恭也を見ると偽者の動作一つ一つが稚拙で粗悪な物に感じられる。
一方恭也の動作は、腕の振り、足運び、どれを取ってもしなやかで大胆に、かつ繊細に、その動きは一片の無駄も感じられず、同じ
剣士でもあるシグナムに、悠久の記憶と経験と技量を持つ彼女に勝るとも劣らない美しさ、雄大さを感じ取れる。
そして恭也が小太刀を薙いだ状態から納刀している姿があった。
威風堂々、その姿からは、まさにその言葉が自然と浮かんできた。
「……雫」
恭也は雫の消えた所を見つめて居た。すでに日が傾きかけ、その黄金の光が恭也の背中を照らしていた。
数秒だったのか数十分だったのか恭也はそのまま立ち尽くしていた。周りもその雰囲気に飲まれ、誰もが時間を忘れ見つめ、声を掛
けるのを忘れていた。しかし、その空間は終わりを告げる。恭也がふいに振り向いた為だった。
そして振り向いた視線の先に居るなのはと目があう。
なのはは、待ち望んでいた姿を見ると自然と目が滲んでくる。
目に涙があふれ見え辛くなり恭也の姿が滲み、涙を堪えようとするが、とめどなく溢れてくる。
恭也は今にも泣きそうな妹の姿を見て、まだまだあの頃のままだな、と一人ごちる。
なのはは、ノエルの支えを振り払い、軽く片足を引きずりながら恭也の胸へ顔を埋めた。
恭也はなのはの頭に手を乗せると、昔よくしていたようにやさしく、ゆっくりと撫でる。
「久しぶりだな……なのは」
頭に乗せられた手と声に涙がいっそう増え、耐えていたダムは決壊し溢れ出すと同時に声を荒げた。
黄昏の中、なのはの泣き声が辺りに響いていた。
続く
偽者だったか。
美姫 「しかも、雫」
うーん、一体本当に何が起こっているんだ。
美姫 「とっても気になるわね」
ああ。次回が、次回が〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます!