『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




14話 「………………war―宣戦布告―」










グリフィス・ロウランが伝えられた内容に皆、言葉を失った。

映像からは未開の森林地帯の地面が広範囲でせり上がってきていた。

地盤深く、何層もの地層の下に巨大なそれは存在した。

『聖王のゆりかご』それはカリム達が所属する『聖王教会』の主神にして古代ベルカの王『聖王』が使用した数キロメートルほどあ

る大型の空中戦艦である。

その姿は雄大で、かつて古代ベルカの空を支配していた。当時においてもロストロギアとして扱われており、聖王が自ら搭乗しなけ

れば機動しないその特徴の為、聖王の没後に地中深くへと封印されていた。そして長い年月の眠りから今目覚めた。

静まり返っていたその場に、突如音が生まれる。備え付けてあったモニタが起動した為だ。

他の施設や聖王教会にも同時に映像が映し出される。

そこに映し出されたのは白衣を着た若い男、その男――ジェイル・スカリエッティがいやらしい笑みを浮かべ喋りだす。




「ごきげんよう、管理局の諸君、そして聖王教会の方々……これが、これこそが君達が忌避しながらも求めていた絶対の力、旧暦の

 時代、一度は世界を席巻し、そして破壊した。古代ベルカの悪夢の叡智、主をその身に乗せ再び世界を破壊と混沌に叩き込む……

 とくとご覧いただこう、悪夢の始まりだ……このゆりかごは衛星軌道上で二つの月の魔力を受けその機能を完全に発揮する。止め

 られるものなら止めてみればいい、折角期限を設けているのだから全力で掛かって来てくれ……そして、自らの無力に嘆き悲しん

 でくれ」




スカリエッティを映し出していた画面が、ゆりかごの内部と思しき映像に切り替わる。

かつて聖王が座っていたであろう、その玉座に一人の少女が居た。いや、少女と呼ぶにはまだ発育しておらず、やっと歩き出しそう

な年の頃、手入れをしていないその金髪は無造作に伸びており、髪の先は纏まっておらずボサボサとバラけていた。その髪の隙間か

ら覗く目は紅と翠のヘテロクロミアで幻想的な雰囲気をかもし出していた。ただし、その瞳に生気は感じられなかった。

小さな手足はベルトで固定され、ぐったりとしていた。暴れたのだろうか拘束してあるベルトと接触している皮膚から血が滲み出て

いた。それらを見る限りこの少女が自らの意思でスカリエッティに協力しているとは思えなかった。

映像が再びスカリエッティへと切り替わる。

先程よりもさらに口元を歪めていた。




「そうそう、思い出した…………実は面白いものを手に入れてね、封印がとても厳重で解くのに一苦労しそうだが……中のサンプル

 の事を思えばどうと言う事は無くてね……見えるかい、聞けばかなりの希少種じゃないか、事が終わればこちらの研究に専念させ

 てさせてもらうとしよう……くっくっくっく」




映像がゆっくりとスカリエッティを横にずらし、スカリエッティの笑い声だけを残しながら、それが映し出された。

突如座っていた恭也が立ち上がる。周りの者達は何事かと恭也を見るが再び画面へと視線を向ける。

しかし隣のなのはだけは見ていた。恭也の握り拳をつくった右手が小刻みに震え、握り拳の隙間から血が滲んでいた事を。

お兄ちゃん、と声を掛けても恭也は画面を見つめたまま目を見開いていた。ふと後ろにいるノエルを見ても同じく画面を見つめたま

ま唇がわなないていた。なのはは再び画面へと視線を戻す。

氷柱だった。氷柱は光に反射して、まばゆく光っていた。光が少し弱められ氷柱の反射も微弱になり透き通り、中が覗かれる。




「――のぶ……」




その小さく呟かれた言葉に、えっとなのはは再び恭也を見るがすぐに画面を食い入る様に見つめる。

月村 忍だった、氷の中の忍は幻想的な美しさをかもしだしていた。なのはも、フェイトも、はやても他の者達もその姿に目を囚わ

れていた。未だに続いていたスカリエッティの笑い声が部屋に響いた所で映像が終了した。

次いでタイミングよくヴェロッサ・アコースから通信が入る。

ヴェロッサは、少し土の付いた白いスーツをはたきながら報告する。




「はやて、スカリエッティの居場所を掴んだ。参ったよ、ゆりかごの近くにあったからね……探ったら中にまだスカリエッティはい

 るみたいだ、すぐにそちらに行くけど取り合えず詳細な場所は今送る」




送られてきた場所は恭也も覚えがあった、以前ヴェロッサと共にスカリエッティのアジトの候補に挙げていた一つだった。

なのはは、はっとなる。居場所が分かればこの場を飛び出して忍を助けに行くのではないか、いくら兄が強いと言っても一人で乗り

込むなんて無謀すぎる。無理矢理にでも止めようと覚悟しながら兄を見る。

しかし、なのはの心配とは裏腹に恭也は静かに佇んでいただけだった。

なのはは、冷静な恭也に返って心配になり伺うように尋ねる。




「お兄……ちゃん?」

「……何だ」

「あの、しっ、忍さんってドイツに居たはずじゃ……それに『希少種』って」

「そうだな、さくらさんとエリザさんに頼んだんだが…………恐らく雫の記憶から忍の情報を引き出して、スカリエッティに言った

 んだろう。あの忍に化けた奴が寸分違わない姿で化けていたから最悪のケースも考えていたがな…………希少云々については俺の

 口からは言えん」

「え、あの、それでその……」




大丈夫かと尋ねようとしたが、どちらにしても恭也にとって答えづらい事に気付き言いよどむ。

そんななのはを見て気にするな、と頭の上に手を乗せる。




「少し、外で煙草を吸ってくる……方針が決まったら教えてくれ」

「え、うん。わかった」

「恭也様……」

「ノエルは状況と装備の確認を……」

「……はい、分かりました」




深々と頭を下げるノエルを後に、恭也は建物の外へ向かって歩きだしそのまま外へと出て行った。

スバルをはじめ数人の局員も恭也の冷静すぎる態度に再び憤りを感じ始める。特にスバルは家族の、特に今は亡き母親に対しての思

い入れが強い為、尚のこと恭也の態度が許せなく思えてしまう。

スバルと同じ想いだったのか、一人の若い男性職員が口を滑らせてしまう。




「自分の妻が連れ去れたのになんて奴だ……」




自らの上官の家族だということも忘れたのか、そうだ、と数人が同意し頷き合う。先ほどの話で恭也から伺わされた非常さ、冷酷さ

がその者達に、そう思わせるには十分だった。

なのはが思わず否定の言葉を紡ごうと口を開きかけたその時、ノエルの射抜く様な鋭い視線と静かで高く、そして重みが感じられる

声が響く。

   


「恭也様への侮辱は許しません。今回は見逃しますが次は無いとお思いください……それに、恭也様が一番悲しんで居られます」

「で、でもよ……」

「不器用なのです、あのお方は…………それに、恭也様は煙草を嗜んでおられません」




えっ、と幾人の口から漏れる。

なのは達は恭也の出て行ったドアを見るが既に出て行った後だった。

そのドアを見つめる局員達の後ろで、ノエルは目を伏せていた。

翌朝、局員の一人がこの官舎の裏手にある木の数本が綺麗に両断されているのを発見するが、先日の襲撃事件が頭をよぎり、ナンバ

ーズかガジェットが犯人であろうと報告されるが理由が分からず、謎を残しながらもそのまま多数ある報告の海へと沈む事となる。












一夜明け、事態は慌しく動き出す。

まず『次元航行部隊艦船アースラ』を六課の臨時本部として使用することとなった。

件の聖王のゆりかごは、起動直後のせいか理由は不明だが未だにミッドの上空をゆっくりと衛星軌道へ向け、上昇している所だった。

ヴェロッサの報告により、ゆりかごにはスカリエッティはおらず、アジトにまだいると思われていた。その為、部隊を二手に分ける

事となった。聖王のゆりかごには、なのは、はやて、ヴィータを始め大部隊で挑む事ととなり、市街に再び現れたナンバーズとガジ

ェットの相手にはシグナムとスバル達4人を主体に迎撃し、スカリエッティの確保には少数精鋭ということでフェイト、シャッハ、

ヴェロッサがアジトに潜り込む事となった。

恭也とノエルも分かれて行動を取る事となった。恭也はフェイト達と共にスカリエッティの逮捕と忍の救助、ノエルはなのはと共に

ゆりかごへと乗り込むメンバーへと加わった。

どちらにいるか分からない雫に対しては、その場の判断という曖昧な意見に落ち着いた。一先ず聖王のゆりかごを止めなければなら

ないため、その論議に時間を取られるわけにはいかなかったからだ。

ノエルに飛べるのか、という疑問が上がったが体内のレリックの魔力によってそれくらいは可能だ、と簡単に答えられた。

なのはは恭也を探していた。辺りを探していると忙しく走り回っている局員の邪魔にならないように、壁際に並んで佇む恭也とノエ

ルが話し合っていた。

最後の確認をするため二人へと近づいていく。




「――して、かまわない」

「しかし、それではっ…………いえ、わかりました。恭也様……お気をつけください」

「分かった。あぁ、なのは、丁度良かった。話がある」

「えっ、何? お兄ちゃん」




兄の雰囲気に何時もと違うものを感じ取る。












そして舞台の最終章の幕が上がる――













続く



いよいよラストバトルとなるのか。
美姫 「物凄くワクワクするわね」
ああ。どうなるのかな、何があるのかな。
美姫 「次回も楽しみにしてます」
待っています。



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