『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
15話 「last mission―最終章T―」
聖王のゆりかごは群がる羽虫をもろともせず、その巨体をゆっくりと衛星軌道上へと移動させていく。
羽虫である管理局の魔導師達が、ゆりかごを止めようと躍起になるが、ゆりかごから次々と大量に射出されたガジェットU型の排除
に手を焼き中々取り付けなかった。
そんな中、なのは、ヴィータ、ノエルの三人は高速機動を生かし、ゆりかご内部へと突入を果たしていた。
突入を果たした直後、目的の場所が別々の為、時間を無駄に出来ないと三人はそれぞれ単独行動を取る事となった。
なのはは玉座に居る聖王の遺伝情報を持つ少女の保護。ヴィータは駆動炉の破壊へ。
二人の内、どちらかが達成できればゆりかごは制御を失い、周囲に張られている魔力防壁も解かれるはずである、との見解を示した
はやてはゆりかごの周りで指揮を執っていた。
そのただの戦艦と化したゆりかごに対し衛星軌道の手前で待機しているクロノ提督率いる次元航行部隊の艦隊が主砲で破壊する手筈
になっている。
そして、ノエルは最深部に雫が吸収したレリックの反応を察知したと言い、心配するなのはに問題ありません、と一礼すると瞬く間
にその方へと向かっていった。
なのはとヴィータもすぐさま、それぞれの目標へと向かい速度をあげていく。
なのはは、玉座の間へと通ずる長い直線の通路で襲われる。
その狭く長い通路の先から、通路いっぱいの砲撃がなのはに向かって襲い掛かる。
その砲撃に覚えがあった。Sクラスの威力を持つ物理破壊型の砲撃、それは以前ガジェット掃討中に、はやてを襲ったナンバーズの
一人であるディエチが放った砲撃だった。
飛行速度を落とさず、光に向かって飛んでいく。
こんな所で時間は無駄に出来ない、となのはは一気にケリをつける。限定解除を行ったはのはの前に、いくら強大な破壊力を持つデ
ィエチの砲撃も簡単に押し切られる。自身となのはの魔法にディエチは飲み込まれる。気を失っているディエチの上を通りすぎる瞬
間に、バインドで拘束すると勢いそのまま玉座へと向かう。
一方ノエルはレリックの反応があった場所へと辿り着いていた。
そこは最深部に位置し暗く、そしてだだっ広いその空間に反応の主が居た。
管制室なのだろうか、周りにはゆりかごの内部を映した映像がいくつか流れていた。
その中に、なのはとヴィータの姿も見受けられた。
「へぇ、ノエルだけが来たんだ……父さんは母さんの方に行ったんだね。それで、ノエルは私を殺すの?」
「私は、お嬢様を蝕む寄生虫を駆除させて頂くだけです……それに、貴方も破壊しなければこの船は機能し続けるのでしょう……
“絶望と悲しみを糧とするもの”無限書庫に貴方の事を書いた書物がありました。他に色々と貴方の事を記したものがありました
が、恭也様と私には関係ありません……貴方を破壊するだけです」
「出来るの?」
「破壊します、と言いました…………一つだけ質問があります」
「ふふふっ、いいわ答えてあげる。何?」
「何故奥様を、忍様を攫われたのですか」
「あぁ、あれはドクターが私の体に流れる血に興味を示したからよ。ほっておいたら何されるか分からないもの……だから私みたい
な混ざり物より、純血を紹介したの。お父さんと違ってドゥーエさんの能力で堂々と正規のルートで地球へ行けるからね。
氷はそのままにしたの、溶かしてあげる義理は無いからね。あぁ、そうそう、記録を見せてもらったけど、さくらさんが最後まで
邪魔したみたいよ。血まみれになって倒れてもドゥーエさんの足を掴みながら、忍を離せって何度も何度も……しつこいから思い
っきり蹴飛ばして、壁に激突したら動かなくなったからそのまま帰還したみたいね。生きてるのかしら、さくらさんは…………
それにしても残念だわ。こっちにはお父さんが来ると思ってたのに……今の話をお父さんにしてあげたらなのはさんとは違った悲
しみが味わえると思っていたのに……つまらないわ」
「もう結構です………………恭也様が言った事が解ります。それ以上その体で、その口で喋らないでください。これ以上お嬢様を穢
されるのは我慢なりません。これより、貴方を破壊させていただきます」
そう言うとノエルは少し腰を落とし構えると、腕に付いたブレードに魔力光が帯びる。
鬼気迫るノエルに対し、雫はたじろく事もなく、笑みを絶やさず眺めていた。
「残念、時間切れだわ。私の時間はここまで、これからなのはさんの相手をしなくちゃ……思っていたより早く着いたみたいね。
なのはさんの相手が終わったら、また相手してあげるからこいつらと遊んでてね」
「お待ち――」
ノエルの言葉は遮られる。その場にガジェットが数十体も現れたからだ。
ガジェットW型、若しくはガジェットプロトタイプとでも言うのだろうか、かつてなのはを襲い重傷を負わせたガジェットが何も無
い空間から現れだす。次々と現れるそれに、あっという間に囲まれてしまう。
雫はその様子を嬉しそうに眺めながら転送魔法を発動させ、瞬く間に消えてしまう。
ノエルは雫が持つレリックの反応を割り出すと、その反応は玉座の間に現れていた。
空間に映し出されていた映像を見ると、玉座の間にて腕から血を流すなのはと対峙する雫の姿があった。
同時に、この場に現れたクアットロの姿を視界の端に捕らえた。
あれから襲撃は無かった。なのはは不信に思いながらも勢いに任せ玉座の間に突入する。
玉座には映像で見た通り少女の姿とその少し前にメガネを掛けマントを羽織った女性、ナンバーズのWを冠するクアットロがそこに
佇んでいた。
その姿を確認するとレイジングハートをクアットロへ向け構える。
「はじめまして、機動六課の『エース・オブ・エース』高町なのはさん。聖王のゆりかごへようこそ、こちらに居られますのが聖王
陛下であられます……と言っても見ため通り知能は幼いのですけど。折角、培養が成功しましたので、もう少し時間がありました
ら体が成長していてくれて色々と出来ましたのに……残念ですわ」
「その子を開放しなさい。そしてこの聖王のゆりかごを破壊します」
「ふふっ、怖い怖い。でも貴方の相手はこれよ……懐かしいでしょう」
そう言って現れたのはノエルの所に現れたガジェットと同型のガジェットであった。そのガジェットが次々と現れる。
形は少し違っていたが、かつて自分を落とした物と同型であると分かった。
ミッドの医療技術により傷跡は無くなったが、体は憶えているのか頭に鈍痛が走る。
あの時とは違う、となのはは自らに檄を飛ばすと、冷静にアクセルシューターで確実に破壊していく。
次々と倒されるガジェットを見てもクアットロは表情を変えず笑顔のまま眺めていた。そして攻撃を避けながら倒していくなのはに
声をかける。
「あら、思ったより堪えないのね、残念だわぁ」
そんなクアットロの声が耳に入ってい来るが無視し続々と現れるガジェットを次々を倒していく。
クアットロも反応を期待していなかったのかそのまま喋り出す。
「今から8年ほど前、とある遺跡に――」
「?」
なのははクアットロの突然の昔語りに訝しむがその手を止める事は無かった。
『8年前』『遺跡』その単語に覚えがあった。しかし、このガジェットがスカリエッティに関係しているのならあの時の事件は彼ら
が関わっていたのは明白だった。今更その事を語ってどうだというのだ。そう思いながらガジェットを倒す。
その間も語りは続いていく。
「こうして、少女は重傷を負いながらもドクターの実験機を退ける事に成功するのでした…………しかし、話に続きがありました」
なのはは初めてクアットロに声に反応し、彼女の顔を見る。
クアットロはそんななのはの反応に満足したのか、笑みを浮かべるとそのまま続ける。
「少女は敵を撃破する事には成功しましたが、その時の攻撃の衝撃によって次元に穴が発生しました」
憶えている。
自分が放った一撃が敵の攻撃とぶつかり余波で敵を撃破したが、衝撃によって次元の穴ができ、その穴にロストロギアが落ちて行っ
た。この後自分は――
「少女はそのまま意識を失い、病院へと運ばれ入院し、命を取り留めました。そしてリハビリの結果、再び空を舞う事が出来たので
した」
それも憶えている。
医者にはもう飛べない可能性もある、とも言われたが苦しみながらリハビリで前線へと戻る事が出来た。
「では…………次元の穴へと落ちたロストロギアは、一体どこへ行ったのでしょう? そのロストロギアは虚数空間を渡り偶然か必
然か時空を越えて出口へと辿り着きました。そこは今から7年ほど前に管理外世界に数多ある惑星の一つ、そしてその惑星の中に
幾つかある大陸の一つのとある国へと辿り着きます」
まさか。
なのはの動きが僅かながらキレがなくなっていく。しかし、それでもガジェットを倒すには十分だった。
「その国の名は『ブンデスレプブリィク・ドイッチュラント』……そこに住んでいたある家族の下へと辿り着きました。そして、そ
の家族には一人娘が居りました――」
言わないで、それ以上喋らないで……
なのははそんな事を思いながら手を、体を動かし続ける。だが、最初に比べると格段に精度を落としていた。危うく攻撃を喰らいそ
うになったり、魔法を外す回数も増えてきた。
そんななのはの顔は苦しそうに顔を歪めていた。
「そして、ロストロギアはその娘を宿主として寄生しました…………ふふふっ、分かりやすく教えてあげますわぁ。管理外世界とは
第97管理外世界、惑星の名前は『地球』、先ほど言いました国の名前は貴方の母国語ではこう呼ばれます『ドイツ連邦共和国』
そして、その悲劇の家族の名前は『月村家』……ロストロギアに寄生された、とぉってもかわいそうな娘の名前は『月村 雫』」
なのはの動きが完全に止まり、遂に攻撃をくらってしまう。
すぐに我に返ると飛行し、一気にガジェット達から距離を取る。
なのはが左手で右腕を抑える。その手の隙間から血が滲み出していた。
「ふふっ、貴方のせいで大好きなお兄さんの家族を滅茶苦茶にしましたの…………あぁ、かわいそうな月村恭也さん。ふふふふっ」
「違うっ!」
「そうおっしゃるのなら、その言葉、当事者の一人に言ってくださいねぇ。私は別の用事がありますので……」
「えっ」
クアットロの横に転送魔法が展開されたかと思うと一人の少女が現れた。
そして同時にクアットロも転送魔法を展開し空間を跳躍する。
「こんにちは、なのはお姉ちゃん」
そこには可愛らしい口調とは裏腹に、歪んだ笑みを浮かべた雫が刀を構えていた。
続く
おお、なのはの前に雫が。
美姫 「果たして、なのはは戦えるの」
とっても気になるところで次回に。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます!