『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
18話 「Moonlight―忍―」
聖王のゆりかごを破壊後から数日、多数いた負傷者も動けるまでに回復した。
聖王の遺伝子を持つ少女は六課に保護され、なのはが監視という名目で保護する事となり、名をヴィヴィオと名付けた。
そして、その間にずっと眠っていた雫が目覚める。
寄生された間も記憶があったらしく、目が覚めたら真っ先になのは達に何度も何度も頭を下げ謝罪していた。
なのは達が雫を許すと、次は5年間の空白をうめるように恭也へと甘え、何をするにも一緒に行動をしており、それをノエルが愛し
そうに眺めていた。
雫に寄生したデバイスが破壊されることにより、トーレを始めとした氷柱へと閉じ込められた者達の氷は解けて開放される事となっ
た。その直後、待機していた局員によって捕まる事となる。
スカリエッティを始め、非協力的なナンバーズはそれぞれ別の時空の監獄へと投獄され、協力的な者達については隔離施設にて矯正
プログラムを受けた後、それぞれの道へと進む事になるがそれはまだ先の話。
寄生したデバイスの被害者は次々と開放されていった……しかし、忍は氷柱は溶ける気配はなく、閉じ込められたままだった。
それは他の者と違い、術式を組んで行われた訳でなく、寄生した時の余波でなったからであろう、と推察された。
それはノエルも分かっていたらしく、レリックを使わずに助け出す方法を見つけたため、その別の方法の手立てを持つ人物が事件の
事後処理に追われており、今日までその処理に掛かっていたためだった。
ある日の夜、官舎のある一室に恭也達やなのは達六課の主要メンバーをはじめ、氷柱の忍と騎士カリムやシャッハ、アコース査察官
も揃っていた。
そして、部屋の扉が左右に開き、そこから2人の人物が入ってくる。
その姿を見て、なのはとフェイトが声を上げる。
「ユーノ君!?」
「お義兄ちゃん!?」
「やぁ、なのは。フェイトやはやても元気そうだね」
「フェイト執務官、今は提督だ」
無限書庫の司書長を勤めるユーノ・スクライアと次元航行部隊の提督であるクロノ・ハラオウンであった。
クロノの手にはなのは達にとって、とても懐かしいものが握られていた。
「あれ? それってもしかして……」
「ん、あぁ、そうだ。かつて『闇の書事件』で使用した『氷結の杖デュランダル』だ」
「もしかして、ノエルさんが言ってた手段って……」
「はい、この杖で奥様の氷を溶かしていただきます…………何か?」
「いや、その疑う訳やないんやけど、そのホンマにその杖で大丈夫なん? だってそれって最近作られた物やろ」
「そこからは僕が説明するよ……クロノは準備を」
「あぁ、わかった」
クロノはデュランダルを手に忍の氷柱の前へと行き、詠唱をはじめた。
なのははクロノが今行っている作業が、結界を張るための詠唱と理解するとユーノへと向き直る。
「ユーノ君?」
「結論から言うと、デュランダルはあの寄生したロストロギアの後継機にあたるんだ……厳密には少し違うけどね」
「えっ!? だってそれって……」
「事実だよ、グレアム元提督にも確認が取れた。提督は『闇の書事件』を解決する為に、当時の最新の技術と機能を注ぎ込んで開発
した。そしてこれを作る為に色々な文献をあさったみたいなんだ。それが無限書庫であり、探したのが元提督の使い魔でもある、
『リーゼロッテ』と『リーゼアリア』の二人だった。二人はたまたま見つけた参考になりそうな物を持ち出したそうだよ。そして
あのロストロギアの氷結能力に目を付けた。その後、デュランダルの開発が終わるとその文献を無造作に棚へと直したみたいなん
だ……その退役した三人しか文献を見ていなかった事から、判明に時間が掛かってしまった」
「グレアムおじさん達が……」
はやては、かつて陰ながら自分を援助してくれた、人のいい笑顔をする老人を思い出す。
「そう、そして知っての通り、その後僕が司書長としてあの書庫の管理を任され整理した訳だ……それから数年後である今年、騎士
カリムよりの使いで依頼があった。『ある特徴をしたロストロギアを記した文献を探して欲しい』とそれがあのデバイスだった。
まぁ、その文献は整理したお陰で数日で見つかることになるんだが調べていく内にデュランダルと似たような武装がある事に気付
いたんだ。それでグレアム元提督へと連絡をとったらこの文献を参考にした、と言っていたよ。ただ、機能を上げるために人工知
能とかを省き、ストレージデバイスにしたそうだ」
「クロノ。元提督はあのロストロギアに問題があるって知っていたの?」
「いや、知らなかったみたいだ。見たのは特性を記しただけの文献で、幸い氷結のみ特性を引継ぎ特化させた為、デュランダルは問
題が起こらなかったようだね。あぁ、一応デュランダルは検査済みだから心配いらないよ」
「ふぅん……せやけど何で、あんなロストロギアを作ったんやろ?」
「あぁ、それは他の文献――製作者の日記に記されていたよ…………あれは元々真っ当な理由で作られたみたいだ」
「理由?」
「うん、製作者――名前は分かってないけど、その人は当時、荒んでいた世界に悲観しあれを作ったらしい。あれは悲しみや怒りや
苦しみ、憎しみと言った『負の感情』を吸収する為に作られた。氷結系の能力が組み込まれた理由は分からないけど、恐らくは感
情を『凍らせる』という意味合いでつけられたんじゃないかなと思う……ちょっと話がそれたね。最初は製作者の意図した通りに
使われた人達は負の感情に囚われなくなった。でも弊害があった。
まずは中毒性、誰だって嫌な事は忘れたいものだけど、当時の人もその例外ではなかった。嫌な事が起きると、すぐにそのデバイ
スを使用されたみたいだね。で、こっちの方が重大なんだけど……その何度も使用された人達は徐々に感情が乏しくなっていった
んだ。ひどい人によっては、まるで人形のようになったそうだよ」
「えっ? なんで」
「感情っていうのは表裏一体なんだよ。悲しみを感じるから喜びを感じ、苦しみがあるから楽しみがある。そして、憎しみを感じる
から愛しさを感じる。当然の事だけど逆もそうだよ。だから、負の感情を無くすっていう事は逆の感情である楽しさや嬉しさと言
った感情も同時に無くすということだったんだ……」
皆一様にユーノの言葉に納得する。
確かにユーノの言うとおりだ、仮に悲しみを感じなければ何が悲しいのか分からなくなり、かつて喜びと感じていたことが普通の事
と、当たり前の事と感じ取ってしまうだろう。
人間、その状態が続くと何時しかそれが普通なのだと感じるようになる。感情もその一つだ。
「でも、それだけじゃ終わらなかった。所詮、人が生み出した技術で人の感情をどうこうするなんて出来なかったんだ。負の感情を
吸収しすぎ還元しきれなくなり、それはやがて暴走し、自立行動を起こし、手当たり次第に負の感情を吸収することになった。
そしてその行為はエスカレートし自らの手で人に負の感情を生み出すようになっていった。その過程で寄生するような特性も生れ
た。そして製作者を含めた危惧した人たちによって、未開の地に封印されたそうだよ」
重苦しい雰囲気。作られた理由を聞いて黙る。
人の為にと作られたのに結果、人を害するものとなってしまった。
その雰囲気に話題を変えようとしたのか突如、フェイトが思い出したように口を開く。
「あっ、恭也さん。恭也さんのデバイスの特性って結局なんだったんですか?」
「えっ? フェイトちゃんあれは強化のデバイスだって言ってたじゃない」
なのはの言う通り、この場にいる恭也達とフェイト以外は、恭也のデバイスの特性を『強化』だと思い込んでいた。
事実、記録上では何度もガジェットの装甲をもろともせず切り裂いていったので誰も不思議には思わなかった。
「違うよ。だってスカリエッティのアジトで、私が特殊なAMFに捕まったのと同じものに捕まったのに恭也さんデバイスの能力を
使っていたから……それにスカリエッティ自身がSランクの魔導師でも閉じ込められたら破壊できないって言ってたし……それを
破壊するなんてどの位の力を秘めているんだろうかなって……」
「えっ!? お兄ちゃん、そのデバイスってSSランク以上の攻撃できるの?」
フェイトがSランクで破壊できないと言ったので、短絡的にSSランク以上と結論づけるが恭也は頭を横に振る。
「違う……まぁ、もう言ってもいいか。逆だ」
「逆?」
「魔力とか物理的な力以外の力か付与されているのを消すんだ」
「ええなぁ、それ。使いこなせたら無敵やんか」
はやては恭也の言葉に素早く反応する。
確かにはやての言う通り、魔導師自身が持つ魔法と併用できればほぼ無敵になる。
少なくとも物理的な攻撃以外の攻撃に関しては無敵になるのだから。
「はやて、そんなに単純な物ではありませんよ」
「カリム、どういう事なん?」
「恭也さんの持つデバイスはデバイスとしては欠陥品なの。そのデバイスを使用すると魔力が通ってある物、バリアジャケットや他
のデバイスも全てに影響して掻き消されるの。しかも使用者本人もその影響下にあり、魔力の使用が不能になるわ。だから教会で
も誰も使わずに倉庫に眠っていたの。幸い、恭也さんは魔力も無いですから。只、バリアジャケットや靴なんか強化を付与した物
はデバイスを使用すると、只の丈夫な服になってしまうの」
「そして、唯一そのデバイスを組み込んだ物だけが、その限りではない」
「そうなんかぁ」
「すみません。じゃあホテル・アグスタで私を助けてくれたあのナイフはどうやったんですか? あれって只のナイフですよね」
「これにはもう一つ機能があってな、任意に他の物にもその能力を付与できる。だが実際は持続時間の短さにあまり実用的ではない
けどな」
「えっと…………あっ! でも、それだとガジェットのシールドをキャンセルするだけですよね……それだとあのナイフだけでガジ
ェットを破壊したって言う事ですか?」
「そうだ、これでもガジェットと長いことやり合っていたしな。装甲に比べて接合部の隙間は脆かったからな」
「エリオ君、知ってた?」
「ううん、全然知らなかった……そんな箇所があったなんて」
恭也とユーノへの質問が一段落すると、クロノがタイミングよく、みんなと声を掛ける。
全員クロノの方へと視線を移すと、氷柱を中心に結界が張られていた。
聞けば封印を解いた時の余波を考え、念の為という事だった。
「準備が整ったぞ…………恭也さん、はじめます」
「頼む」
クロノがデュランダルを眼前に構え、詠唱を開始する。
その足元にミッドチルダ式の魔法陣が展開される。
「悠久なる凍土 凍てつく棺に眠りし者 その永遠の眠りから目覚め その戒めを解かん」
クロノの詠唱が終わると氷柱が光りだす
恭也は無意識の内に一歩一歩を近づいていた。
突如結界内を白いモヤが覆いだす。
驚いた恭也はユーノに問うが、部屋と氷の温度差によるものだろう、との返事に安堵するが内心はまだ穏やかでは無かった。
問題ないとみたのかクロノが結界を解くと、冷気が逃げ場を求め、部屋中の床へと広がっていったがやがて消えていった。
恭也はゆっくりと近づき横たわる忍を確認する。
水気を含んだその姿に、艶っぽさを感じ周りの男性陣はすこし頬を熱くするが、そんな事は恭也にとって関係なく、5年ぶりに触れ
る事ができると、何度も忍の存在を確認するように抱きしめながら撫で続けた。
しばらく恭也が撫で続けていると忍の顔に徐々に生気が戻り、瞼が何度か動いたかと思うとゆっくりと、重そうに瞼を上げる。
忍は最初、眩しさに目を小さく開けては閉じ、開けては閉じと繰り返していたが、徐々に光に慣れ、目の前にいる愛しい者を確認す
ると口を震わせながらゆっくりと動かす。
「 ぅ ゃ」
うまく喋れずに、かすれた声にならない音が口から漏れる。
恭也たちの後ろで、それを確認したはやてに促されたシャマルが、忍を回復させようとクラールヴィントを構えたが遮られた。
シャマルは遮った人物――ノエルを確認すると彼女は頭を振り、手を出すな、と視線で制すと恭也達へと顔を向ける。
はやてとシャマル達が恭也を見ると、恭也は自身の首筋を晒すと抱きしめるように忍の口元へと持っていく所だった。
忍は恭也の意図した事を理解したのか辛そうに、ゆっくり口を開くと、その首筋へと歯を立てる。
忍の口元から一筋の血が滴り落ちたのを確認すると、何人かの息を飲む音とキャロが小さな悲鳴が漏れた。
しかし、それは一瞬の事で皆すぐに目の前の雰囲気に飲み込まれる。
その行為はまるで神聖な儀式のようであり、誰もが声をはさむことを憚られた。
フェイトはスカリエッティがアジトで言っていた言葉を思い出し、その行為の意味を理解する。
やがてその行為も終わりを告げる。忍がゆっくりと口を離すと恭也の首筋から流れる血に気づき、それを舐め取る。
「……おは、よう、恭也……なんだか渋くなったね」
「あぁ、おはよう。お前は綺麗なままだな」
「ふふっ、ありがとう…………雫? どうしたの? こっちにいらっしゃい」
ノエルの後ろで隠れるように見ていた雫は、忍に呼ばれ駆け寄るとその胸の中で泣きながら、お母さんと呼び続けた。
時折、ごめんなさいという言葉が聞こえてきたが、恭也の頷く姿を確認すると大丈夫よ、と頭を撫で続けた。
その姿をノエルが慈愛に満ちた眼差しで見つめており、なのはをはじめ何人かは涙ぐみながらその姿を見つめていた。
窓から差し込む月明かりがスポットライトの様に、ようやく一つに戻った家族を照らし続けていた。
そして、それぞれの未来へと歩みだす――
続く
忍も無事に助け出されて、本当に良かった。うぅぅ、感動の再会。
美姫 「お話もいよいよ最後ね」
ああ。どんなエンドが待っているのかな。
美姫 「気になるラストはこの後すぐ」