『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




19話 「The future―エピローグ―」










結論から言うと雫は管理局に捕まる事はなかった。

管理局の記録上には『スカリエッティ一味に異世界から拉致された家族』として記録される事となり、雫も『スカリエッティの被害

者』として扱われることとなった。

そして、その被害者の一人で、救助された月村 忍は驚異的な回復力を見せ、数日で起き上がれるようになった。

それが夜の一族の血の力によるものだと知るの者はごく一部の人間しかいなかったが、それは検査に発覚した事実に比べるととても

些細な問題だった。

忍の中に、新たな命が宿っている事が明らかになったからだ。

妊娠した当の本人はさほど驚くことはなく、告知された時はやっぱりと納得していた。

しかし本人と違い、その一報を聞いた面々は皆驚き、祝福の言葉を掛けた。

あとで判明するが、忍が5年もの間、氷の中で生き続けられた要因の一つにこの幼い命も少なからず手伝っていた。

幼い命とはいえ、夜の一族特有の生命力の強さが備わっており、お腹の中で忍を支えていた。この事は忍本人から仮死状態の時に何

度もお腹の中から声が聞こえた。との証言がありシャマルを始め医療班のスタッフは首をかしげていたが、そういうことがあっても

いいじゃない、と忍本人が言ったこともあり悪い事ではなかった為、論議にはなったが特に大きな問題にはならなかった。

兎も角、忍の体力が戻るまでミッドチルダで療養することになった為、恭也達『月村家』はしばらくの間留まる事となった。

その間、恭也はフェイトやシグナム、シャッハらと何度も模擬戦を行うことになり、一日中繰り返されるそれを見たヴィータが、バ

トルマニアめ、と呆れながらぼやいていたが、そのメンバーにエリオが加わる事となり、その規模を大きくしていった。

雫は年が近いせいかキャロと仲良くなり、スバルやティアともよく行動し、共に町へ出かけショッピングを楽しんでいた。

なのははヴィヴィオを引き取り、ミッドの自宅にて世界の事、そして家族の事、自分の事を教えていった。後に名実共に親子となる

が、それはもう少し後の話である。










数週間後、恭也達は地球へと帰る為、管理局が管理しているゲートのある施設へと集まっていた。ただヴォルケンリッターの面々だ

けは部下だけを残すのは不味い、との判断で隊舎に残る事となった。

いつでも会える、と意外とあっさりとした別れの挨拶だった。

本来なら忍は1週間ほど前に全快しており、その時に帰る。という話もでたが忍本人が嫌だ、とごねた為に本日まで先延ばしとなっ

ていた。理由を聞くと、恭也達だけこの世界を見て回ってズルイ、私も観光したい、との事だった。

確かに忍は療養中で良くても敷地内の庭程度しか出歩けなかった。

その為1週間を掛けてなのはやフェイト、はやて達が日替わりで朝から晩まで案内する事となった。その際、帰ってくる度に疲れ果

てた顔を浮かべた案内役達に比べ、連日行動した筈の忍は平気な顔を浮かべていた為、さすがは夜の一族、と違う意味で一目を置か

れる事となる。

そして今日、恭也達はドイツにある月村家へと繋がれたゲートの前に立つと振り向く。




「ありがとう、皆のお陰で無事に忍と雫を取り戻す事が出来た。礼を言う」

「はははっ、もう、お兄ちゃん。それ何度目? だいぶ聞いたよ」

「そうか? いや、改めて言う。本当に感謝している。ありがとう」




そう言うと恭也は再び頭を下げると、遅れて彼の後ろに居た忍達も頭を下げる。

その姿を見てなのはやフェイト達はこちらこそ、と笑顔でえ答えていた。

恭也が顔を上げると集まったそれぞれの顔を確認していく。




「カリムさん、シャッハさん。ありがとうございました。俺とノエルを助けていただいたばかりではなく、その後の手助けまでして

 いただいて……」

「いえ、こちらこそ…………貴方方に聖王の加護があらんことを」

「恭也さん達もお元気で」




少し涙目のカリムと晴れたような笑顔のシャッハに頷き返すと次にその横を見る。




「クロノ、ヴェロッサ、ユーノ。ありがとう、君達のフォローが無ければとても戦い抜く事なんて出来なかった」

「恭也さんなら僕らの手助けが無くても成し遂げた気がする」

「くくっ、確かに……こっちこそありがとう。内偵を手伝って貰ったりしたからね。今後の内偵の参考にさせて頂くよ」

「はははっ、こちらも貴重な資料とかに会えましたから」




にこやかな笑顔を浮かべた三人に別れを告げると次の人物達へと顔を向ける。




「ナカジマ、ランスター、エリオ、ルシエ。あまり関わる事はなかったが感謝する。君達が居たから、なのは達が存分に戦う事がで

 きた。この先、君達はそれぞれの道を進むだろうが、なのは達をこれからも助けてやってくれ」

「はいっ それと空港での事、ありがとうございます。恭也さんは違うって言ってましたけど……確かに、救助してくれたのは恭也

 さんが言われた通りなのはさんですけど……けど、命を救ってくれたのは恭也さんですからっ」

「私も、ありがとうございました。あの時ガジェットにやられていたら命だけじゃなく、未来も夢も消える所でした」

「恭也さん、僕、訓練続けます。だから今度会ったときにはきっと恭也さんに勝てるようになります」

「はい……ぐすっ、雫ちゃんもまたね」




若者達の固い決意を宿した瞳を確認し、満足そうに頷くとその横へ視線をずらす。




「はやて……あまりシグナム達に迷惑を掛けるなよ」

「って、なんでウチだけ感謝の言葉とちゃうんよ!」

「君らには今更だろう」

「せやけど…………でも」

「ありがとう。それとなのはの事、頼むな」

「っ、当たり前や親友やで。恭也さんも子供生まれたら教えてな。一番に見に行くから」




あぁ、と頷くとはやてのすぐ横にいたフェイトを見る。フェイトの目が涙目になっていたのに気付くと、知らず知らずの内にたじろ

んでしまう。恭也はどうもこの子の涙に弱いな、と再確認をする。




「フェイト、あまり過去を背負い込むなよ。君は自分が思っているより周りから求められている。そして、愛されている」

「はい、今回の事でよく分かりました……」

「今度、みんなで遊びに来てくれ。歓迎する」

「はい! 必ず行きます」




楽しみにしている、とフェイトに答えると最後になのはを見やる。




「なのは、深く言うつもりはないが、あまり無理はするなよ」

「お兄ちゃんと一緒でお父さんの血が流れてるからね。遺伝じゃないかな」

「それでもだ、ここは兄の言う事を聞いておけ…………まだ、本調子では無いんだろう」

「なんだ、わかってたんだ」

「あまり兄を舐めるな。見れば分かる……帰還した日から魔法を使うのが辛いのだろう」

「はははっ、やっぱりお兄ちゃんは凄いや。うん、あの時の反動でね。少しだけ辛いかな」

「……そうか。すまない。雫の、いや俺たちの為に無理をさせてしまって」

「いいよ、私が好きでやった事だから」

「……そうか。遺伝で思い出したが今度、暇が出来たら一緒に海鳴へ帰ろうか。父さんにも長いこと会っていないしな」

「うん、そうだね。お花供えないと……休みが取れたら連絡するね」

「あぁ」




恭也は再び皆を見渡し、ありがとうと頭をさげるとそれに続き、忍達も頭を下げた。

そして、またな、という言葉と共に踵を返すと雫の手を握りながらゲートの奥へと消えていった。

こうして、月村家の波乱に満ちたミッドチルダでの5年間は終わりを告げる。









恭也達が気が付くと、そこは懐かしい我が家の庭だった。

そこには、事前になのはから連絡を受けていたエリザとさくら、ノエルの妹にあたる3人のメイドが待っていた。

5年も経っていたとは思えない程に変わりはなく、まるで長期の旅行から帰ってきたかの様だった。

恭也は、あのミッドチルダでの出来事は夢だったのだろうか、そう錯覚しそうになる……だが、成長した雫とさくらの所々に巻かれ

た痛々しい包帯姿が夢では無いと告げていた。

気付くと、忍と雫がエリザとさくらに抱きつかれていた。

恭也はその姿を目じりが少し下がるのを自覚しながら眺めていた。

長かったな。とこの場所で始まった事を思い出し、遠くを見つめていると、ふと何時の間にか抜け出した雫が手を握って恭也の方を

見上げているのに気づく。

恭也は雫の顔を見つめると『ある事』を思い出し、約束を果たそうと口を開く。




「雫、今度の休みに遊園地に行くか」




雫は恭也の突然の言葉に驚いた顔をしたが、思い出したのかすぐに花が咲いたような満面の笑みを浮かべて頷き返した。




「うん!」























――高町 なのはの日記より――




新暦76年4月某日


先日、機動六課が試験運用の期間を終え、解散した。

気付けばお兄ちゃんが、無事に地球へと帰ってから半年ほど経っていた。

あの『J・S事件』以降、大規模な事件は起こらず、機動六課は開店休業中でたまに他部署からの要請に対応するだけとなった。

私としてはヴィータちゃんと共にスバル達に教える事が沢山あったため、とてもありがたかった。おかげで伝えたい事は全て伝えら

れたと思う。

そして解散後、スバル達に卒業試験と称して隊長と副隊長を相手に模擬戦を行った。

今まで教えた事、実戦で学んだ事、そして、お兄ちゃん達から感じ取り学んだ事。それぞれが今までの事を生かせていたと思う。

結果的に私達が勝ったけど、危ない所も幾つかあった。うかうかしていられないなと思いつつも嬉しかった。

私達が教えてきた事は、彼女達にちゃんと伝わっていたようだ。





あれから皆の後の事をを少しだけ語ろうと思う。


はやてちゃんは、色々な部署からの指揮官として、誘いが幾つもあったけど全部断ったみたいだ。

聞けば、六課の指揮で自分の未熟さを知り、もう一度現場からやり直したい、との事だった。私やフェイトちゃんはそうは思わなか

ったけど、本人が言うのであれば仕方が無い。

ヴォルケンリッターの面々も一緒について行くそうだ。一時、ヴィータちゃんを教導官に誘ったけどやっぱり、はやてちゃんの所が

いいみたいだ。少し残念。


フェイトちゃんは執務官として次元航行部隊へと戻るのが決まっている。

そうそう、後でも記すが、ティアナが執務官補佐としてフェイトちゃんの補佐に就くそうだ。

フェイトちゃんの被保護者であるエリオとキャロは自然保護隊に入隊、キャロと共に竜騎士として密猟者の摘発や自然保護業務に従

事するそうだ。六課の解散する前にフェイトちゃんが学校に通わないか、と誘ったみたいだけど断ったみたい。

それを聞いた時、フェイトちゃんは寂しそうにしていたが、どこか嬉しそうにもしていた。シグナムさんが言うには、やっと子離れ

と親離れが出来たか、とからかっていた。

エリオとキャロは、あの事件で敵対した召喚術師であるルーテシアと今でも交流を続けているようだ。

あの戦いで通じる所があったらしい。


先にも少し書いたが、ティアナは執務官補佐の試験を合格し、六課解散と共にフェイトちゃんの下で実地訓練を行うのが決まってい

る。フェイトちゃんの話ではすぐにでも執務官になれるだろう、との事だった。

あの夜に語った事が彼女の糧になれば、と思う。


スバルはかつてより希望していた特別救助隊からのスカウトを受けた。長年コンビを組んでいたティアナと別れるのが寂しそうだっ

たが、それぞれの夢へと歩む事を決心した。

そういえば、六課の解散前には良く、ナンバーズ達の矯正施設へティアナと共に顔を出して何人かと気が合ったらしいが今はどうな

ったのだろうか……少し興味がある。


そしてヴィヴィオ、あの子も私によくなつくようになった。ママと慕ってくれている。

あの子の笑顔を見るとこっちも笑みがこぼれる。。嬉しさがこみ上げてくる。お兄ちゃんや忍さんも、雫ちゃんを見るとそうなるの

だろうか。今度、正式に私の養子にならないか、と言うつもりだ。


六課解散する直前に、「J・S事件」に関わった皆で地球のお兄ちゃんの所へ遊びに行った。

着いた時はお兄ちゃんと雫ちゃんが庭で訓練をし、それを忍さんはノエルさんが入れた紅茶を飲みながら楽しそうに眺めていた。

忍さんのお腹はだいぶ大きくなり、予定日までもう少しだそうだ。

子供が生まれたらまた見に行くつもりだ。




そして私は――









「あっ、もうこんな時間だ」




なのははそう言いながら日記を閉じ、横に置いてある待機モードのレイジングハートを持つと部屋の外へと向かって歩き出す。

敷地内にある平坦な埋立地へと向かうためだ。そこはかつて、六課創設時にスバル達の訓練を行った場所でもあった。

今、そこには入局間もなく、そしてミッドチルダと管理局の将来を担う優秀な新人達がなのはの到着を待っていた。

そう、なのは六課の解散後、元の戦技教導官として現場に残り、新人達の指導を行う道を選んだ。昇進の話もあったが自分にはこれ

があっている、と言って断った。

なのはは隊舎の外へ出た瞬間、眩い日の光が目に飛び込み手をかざして日を遮る。




「さぁ、今日も頑張って行こう」




明るい日差しの中、清々しい風を感じながら訓練場への道を一歩一歩と力強く踏み出していった。













終わり



まずは、完結おめでとうございます。
美姫 「お疲れ様でした」
無事に事件も解決し、ハッピーエンド。
皆もそれぞれの日常へと戻っていき、本当に良かったです。
美姫 「最後まで楽しませてもらいました。改めて、ここにお礼を申し上げます」
それでは、この辺で。
美姫 「それでは」



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