『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
1話 「始動」
ミッドチルダ首都にある居住区のとあるマンション一室、家具が一式揃えられているものの、まるでショールームの様に生活感が感
じられないが、確かにそこには一組の男女が存在していた。
メイド服を着た女性は男性がいるベットの傍に控えており、男性は手の中にある資料に目を通していた。
女性は男性が目の前の資料に意識が向いていないことを感じ取った。
「……やさま、きょうや様、恭也様」
大丈夫ですか、と尋ねながら眼球の瞳孔が細かく大きく、小さくなる。内蔵されたセンサーが主人の状態を素早く計測する。
先程までの情事のせいか体温脈拍等が若干、普段の値を超えていたが、問題ないと判断しながらも心配そうに訊ねる。
「ああ、すまないノエル。少し昔を思い出していた……続きを頼む」
恭也は先程までノエルから受けていた報告を促す。
「はい、カリム様より以前から教えていただいておりました『機動六課』が数日後に正式に発足される模様です」
「メンバーに変更は?」
「いえ、予定通り主な方はなのは様、フェイト様、はやてさま、それとヴォルケンリッターの方々です」
「……そうか」
恭也はもう何年も映像でしか見ていない妹と、その友人の少女達を思い出した。
「しかし、補充のための新人が数人配属されていますが、その中にスバル・ナカジマ様の名前がありました」
どこかで聞いたような気がする、と恭也は思い出そうとしたが、どうしても思い出せず降参、とノエルを見た。
「恭也様が4年前に空港火災で助けた少女です。もっともスバル様はあの時なのは様に助けられたと思い込んでおられるようです
が……」
「実際助けたのは、なのはだから間違っていないさ。俺は彼女に向かって倒れた像を斬っただけだ」
「恭也様がそう仰られるのでしたら……しかし、よろしいのですか?」
「なのは達の事か?」
「はい、この件に関わっているようですが」
「なのはは……大丈夫だろう。もう大人だ、それに少々の危険で辞めないさ、それに今更言っても聞かないだろう。
あれは昔から頑固な所があったからな」
ノエルの心配そうな問いに、前例があるしな、と恭也は8年前のなのはが大怪我を負った時の事を思い出した。
この事件についてはミッドチルダに来て、初めて知る事になる。
当時、海鳴には長期の任務に出ている為に連絡がつかない、とはやてから教えられていた。
その時は、そういう物かと納得していたが、そのすぐ後に忌々しいあの事件が起こった為うやむやになっていた。
「血は争えませんね」
「む」
恭也は自身が父である士郎を亡くしてから、自業自得ともいえる膝の負傷を負ったことを思い出す。
幼い頃、父を亡くし、自分が皆を守らなければ、と自身を追い込んだ結果だった。
そしてノエルはこの主人とその妻である忍が絆を深めた出来事があったのを思い出す。
その時、当時学生だった恭也はかなりの無茶をし、忍とノエルを守った事があった。
その後も数々のボディガード等の危険な仕事をこなしていった、無傷で帰ってくる事は少なく、傷の程度に差はあるが傷を負わない
日は少なかった。ノエルの言葉に恭也は苦笑いを浮かべたが、ノエルの表情は先ほどと変わっていなかった。
「どうした? まだ何か心配ごとか」
「差し出がましいことは承知の上ですが、なのは様達に私達の事をお知らせしなくてもよろしいのでしょうか」
「裏方のほうがいいさ、情報はカリムさんから入ってくるし、単独行動の方が動きやすい……クロノが言っていた例の件もある……
何より、これは俺達家族の問題なんだ」
ノエルは恭也の言葉に頷くがしかし、と不安を打ち明ける。
「はやて様がカリム様の行動を少し疑っておられるようですが」
恭也はレンととても気が合った少女を思い出す。とても仲が良く姉妹のといっても差し支えない程だった。
そのはやては、なのはとフェイトと一緒に赤ん坊だった雫をあやしていたことがあった。
「……最後に会ったのは、なのはと一緒に雫が生まれたのを見に来た時だったな。そういえばあの子はあの頃から思慮深い面があっ
たな」
「どうなさいますか?」
「ふむ、いずれはバレる事だろうが……予定通り裏方に徹する。カリムさんには悪いがもう少し道化を演じてもらうとしよう。」
「……恭也様」
「そんな顔をしないでくれ……ともかくカリムさんにも言ったが当面はヴェロッサと共に情報収集を行う事にする」
「わかりました」
恭也は立ち上がり、教会から支給された黒いコートをノエルから受け取ると袖を通しながら部屋を出て行った。
「さぁ、ノエル行くぞ」
「はい、恭也様」
続く