『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
2話 「邂逅」
森の中を恭也は地面に這うように跳び、ノエルはその少し後ろで低く飛びながら移動していた。
聖王教会のシャッハより、教会で追っていたレリックを乗せたリニアレールがガジェットによって暴走しており、なのはとフェイト
を含め機動六課もすでに出撃済みとの連絡を受け、現場である山岳部へと向かっている最中であった。
二人は対魔処理が施されたマントを身に纏い、顔は目元まで覆い、口元しか見えないほど深く被っている。
今まではなのは達に接触しないように行動してきたが、今回は同じ現場に出撃するため念の為、との処置だった。
「やはり、なのは達の方が早く着くか……しかし、行かない訳にもいかないしな」
「雫お嬢様は現れるでしょうか?」
「理由は解らないが、レリックに異常に執着しただろう、あの時もそうだった。今回もそうとは限らないけど……仮にあいつには
必要無くても俺達にも必要なものだ」
「はい、わかりました」
「……ところで、体調はどうだ? メンテナンスが出来れば良かったんだが」
「問題ありません、取り込まれたレリックのおかげか時間さえ掛ければベストの状態へと自動的に調整されています。
それに、内燃機関としてもうまく機能しています。それよりも恭也様の方も大丈夫ですか?」
これか、と腰にある小太刀の形をしたデバイスに手を添える。
「問題ない、八景がベースとはいえ少し違うが慣れの問題だ。八景の魂はこいつが引き継いでいるんだ、俺が使いこなさない訳には
いかない……しかし、魔法の方は難しいな、負荷が大きすぎる……ノエルの方はどうだ?」
「組み込まれたデバイス用のチップだけでは無理だったでしょうが、レリックが補助の役割をしてくれていますので、特に問題はあ
りません。ブレードや左手にうまく適合してくれています」
「よかった……ではそろそろスピードを上げるぞ」
はい、とノエルは速度を上げた。
「間に合いそうに無いな」
「はい、先ほどまで空中に編隊を組んでいましたガジェットの反応も無くなっています」
「新人が組み込まれた部隊の初任務にしては手際がいい」
「はい、なのは様が教導しておられるからかと」
「……何度聞いても信じられない話だ」
ふふ、と微笑むノエルに少し驚く恭也。
「ノエル、此方にきてから少し表情が豊かになったな」
「ありがとうございます。しかし、特に意識しているつもりは無いのですが……」
「意識するものでも無いだろう。本当の表情は自然に出てくるものだ」
「一刻も早く雫を取り戻して帰ろう、今のノエルを見ると、きっと忍も喜ぶだろう」
「はい……! 恭也様、前方にガジェットの反応が……約30秒後に接触します」
ノエルの報告と同時に前方の木々の間から数体のガジェットが二人に迫ってくる。
「ガジェット!? 列車のとは別の集団か? しかしこの程度の数ならっ」
ガジェットが前方より現れ、恭也とノエルは勢いそのままにガジェットの集団へと向かって行く。
10体にも満たないガジェットT型は2人にとっては脅威にはならない。
恭也は水平に右腕を振るった。その瞬間先頭に居たガジェットに光を帯びた飛針が数本刺さっており、地面に落下したかと思うと爆
発する。
ガジェットの集団中に飛び込んだ二人はその場で八景とブレードを振るっている。光の筋が周りのガジェットに幾つも走っていく。
2人が腕を振る度に次々と停止していく、数分も経たずうちに全てのガジェットを撃破し終えていた。
現れたガジェットを撃破しても恭也は構えを解かず、丁度右横の奥にある木の方へと顔だけ向ける。
「……出て来い」
「あらぁ、よくわかったわねぇ」
景色が歪んだと思ったら其処から人が浮かび上がってきた。そして、そのすぐ横の木の上からもう1人降り立った。
「……何の用だ」
「本当はあなた達じゃなくて向こうにいる話題の『機動六課様』に用があったんだけどぉ……あなた達の方がおもしろそうだし」
だから来たの、と甘ったるく、人を喰ったようなしゃべり方で話すメガネの少女。
恭也は少女の言葉にピクリと眉をひそめると2人の少女を観察した。
もう1人の少女は灰色のコートを羽織り、長い銀髪と小さめの身体はかつての主治医を思い起こさせる。
こちらの少女は、メガネの少女と違って表情を変えず静かに佇んでいた。
「……」
「チンクちゃん、そっちの男の方をお願いね……私はドクターの命令通り、あのメイドを調べるから」
メガネの少女が眼帯の少女に話しかける。
恭也達の性別とノエルの姿を言い、暗に恭也たちにそんなマントで隠しても無意味だ、と示唆する。
「承知した」
眼帯の少女―チンクは静かに答えると同時に恭也とノエルの間の地面目掛けてナイフ状の物をを投げつける。
それが地面に刺さりチンクが指を鳴らすと同時に小規模の爆発が起こり、咄嗟に2人はお互い逆の方向へと距離をとった。
2人が離れた瞬間、チンクは一直線に恭也へと向かって走りながら、何処からともなくナイフを数本取り出し投げつける。
先ほどと違い、今度は確実に恭也を狙っていた。
恭也も殺気を感じ取り、チンクがこちらを本気で狙っているのに気づいていた。
先ほどの爆発が頭をよぎる。八景で弾くのをためらい避けるが、避けた瞬間チンクが指を鳴らす音が聞こえてきた。
投げられたナイフの全てが爆発し、少し離れたガジェットの残骸も巻き込み燃え上がった。
チンクは狙い通りに相手が避けた瞬間を狙ってナイフを爆発させた。
あっけない、チンクはそう思いながら立ち昇る炎と黒煙を見つめた。
ノエルはクアットロは恭也達と離れた所で対峙している。
しかし、対峙しながらも二人は動こうとせずお互いを注意しながらも恭也達の攻防を見ていた。
チンクの攻撃によって恭也をしとめたと確信したクアットロは黒煙からノエルへと視線を戻す。
「あらぁ、あっけないのねぇ。心配しないで、あなたは破壊しないで連れて―――えっ!?」
クアットロがノエルに話かけたが、視界の端に映ったありえない現実に驚きの声を上げる。
その視線の先には、先ほどまでチンクが立っていた場所に恭也が右腕を振り切った状態で立っていた。
クアットロが恭也に気づいた瞬間、彼女の横にある木が突如折れた。見るとそこにはチンクが折れた木や葉に埋もれていた。
恭也の攻撃にやられたのだろうか、彼女の優れた解析能力でも恭也の攻撃を捉えることが出来なかった。
「うそぉ、信じられない」
クアットロが一歩後ずさった途端、首元にブレードを突きつけたノエルが真横に居た。
そのブレードは魔力の光を帯びブレード本来以上の破壊力を持っていた。
「あら、大ピンチぃ」
この状況でも口調が変わらないクアットロだったが、ノエルは無視しブレードを突きつけたまま後ろに回り拘束しようとした。
しかし、恭也の声がその場に響く。
「ノエル!! 離れろ!!」
恭也の声に反応し一足飛びで後ろに下がると、さっきまで居た場所に土煙が立ち昇った。
土煙は恭也達からクアットロを完全に遮る。
二人は武器を構えたまま土煙が晴れるのを待っていたが、ほぼ同時に元に戻した。
「……ノエル」
「恭也様……残念ながら逃げられました。センサーの範囲外です」
ノエルの言葉に視線を戻すと土煙が晴れた場所には、少し地面がえぐれているだけで先ほどまで居たクアットロは居なかった。
次いでチンクが吹き飛ばされた折れた木の方を見ても、先ほどまで木の間から見えていたチンクもいつの間にか居なくなっていた。
森のはずれで、何もないはずの所から3人の人影が浮かび上がってきた。
「ありがとうございます、トーレ姉さまぁ。チンクちゃんが吹っ飛ばされたすぐ後に連絡が無ければ危なかったですわぁ」
あんな態度はとれませんでしたわ、と長身の女性に話しかけた。
トーレと呼ばれた女性は両足の太ももと足首の部分に展開していた光の羽を消しながら、未だにしゃがんでいる2人に向き直った。
「馬鹿者、遊びすぎだ。ドクターの言いつけ通りちゃんとデータを取れたんだろうな?」
「ええ、もちろんですとも。やはり女の方は私達の遠い親戚……みたいな物でしたわ。しかし、あちらは完全に機械ベースでしたけ
ど。それとぉ、接触して判りましたけど彼女の中にレリックがいくつか融合されてましたわぁ」
「……ナンバーは判ったか?」
「いいえ、判りませんでしたわ
クアットロの報告にトーレは少し顔を歪めたが、すぐに引き締めチンクの方に顔を向けた。
「そうか……それよりチンク、油断したな、お前らしくない」
「……言い訳はしない。でもあのタイミングなら完璧に捉えていた……それなのに気づいたら吹き飛ばされていた」
シールドを張っていたのに、チンクはそう言いながら恭也に攻撃された瞬間を思い出していた。
「……クアットロ、あの男が転移魔法を使った形跡は?」
「いいえ、ありませんわ。ついでに女の方も使っていませんでしたわ。それに、転移魔法はおろか肉体強化等の補助魔法すら使われ
ていません」
「何者だあの二人は? ドクターは女の方にしか興味が湧かなかったみたいだが……クアットロ、あの2人の情報を集めておいてく
れ」
「はぁい、わかりましたぁ」
クアットロ達が撤退した後に二人は頭に被っていたマントを取り顔を外気にさらけ出した。
それとほぼ同時にシャッハよりノエルに連絡が入ってくる。
「恭也様、シャッハ様からですが……なのは様たちが列車の暴走を止めるのに成功したとの事です。……しかし、レリックを回収し
ようとした時に『謎の少女』が現れ、レリックを奪っていったようです」
「……そうか」
「送られてきました映像を確認いたしましたが……ほぼ間違いなく雫お嬢様かと思われます。
最後に会った4年前から現在の姿をシミュレートしました結果、93%の結果がでました」
「……そうか」
2人は実際に経った時間よりとても長い時間、その場に立ち尽くしていたように感じられた。
恭也はノエルに顔を向ける。
「戻ろう、すまないがシャッハさんには連絡しておいてくれ」
「……はい承知いたしました」
続く