『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




3話 「雫」










「……じゃぁ、これドクターの所へお願い」




ルーテシアはガリューに荷物を託すとガリューは荷物を両手で大事そうに抱え、そのまま飛び立った。

その姿を二人の人影が見つめていた。




「遅かったか……六課はガジェットの相手だったな、ノエル、今の奴を追えるか?」




うまくいけばスカリエッティの居場所が判るかもしれない、そう考えたがノエルからの返答はあまり良いものではなかった。




「……最善をつくします」




出来ると言わないノエルに、半ば厳しいかと判断した。




「無理はするな、此方だけでも確保してみる」




ノエルを見送った後、恭也はマントで顔を覆い隠すとルーテシア達の前へ静かに、軽やかに姿を現す。

そして、小太刀の切っ先を少女へと向け静かに話しだす。




「すまないが大人しくしてもらう」




ルーテシアは突然現れ、刃を向けられても動じることなくマントの男を観察すると、先日トーレやクアットロから聞いた人物を思い

出した。




「……貴方がトーレが言ってた人?」

「その『トーレ』が誰を指すかは知らないが多分そうだろうな」

「そう」

「もう一度言う……大人しくしてもらう」

「……邪魔、しないで」




ルーテシアのグローブが眩い光を帯びだし、すぐ横に巨大な召還陣が描き出された。

陣からカブトムシのような甲虫が召還された。

呼び出された巨大な甲虫『ジライオウ』は小山の様な大きさで、見た目以上の威圧感を発しており、まさに王の名を冠するにふさわ

しい存在だった。召還と同時にジライオウの頭部にある二つの角の間に光球が出来、小さな球からやがて大きな球へと変わった。

大気中に漂う魔力が急速にジライオウの方へと集まっている。

違う、ふいにルーテシアはジライオウへ向かっていた魔力がジライオウの後方へ流れているのを感じた。




「……何?」




そう呟いた瞬間、落雷が目の前に落ちたような、爆弾が落ちたような大きな音が辺りに鳴り響く。

ジライオウの前後に穴が、文字通りポッカリと大きく開いていた。

その穴から徐々にジライオウが凍りはじめる。



その穴の前に少女が立っていた。

先日ノエルより聞いていた通りだった……四年前の空港火災より大きく成長していた。

髪も長くなり、忍の幼少はこんな感じだったのだろうか、と場違いな考えをしながらも目の前の雫から目を離せなかった。

しかし、以前対峙した時と違う点があった。目の色と表情だった。

四年前の時は『夜の一族』の力の解放状態である、赤い目をしていたが今は茶色掛かった黒い色をしている。

そして、何より以前や先日なのは達の前に現れた時の無表情とは違い、やわらかい、年相応の笑みを浮かべていた。




「お父さん」




恭也は約五年ぶりに雫の言葉の言葉を聴いた。あの時と少し違いハッキリとした発音だった。

感動の親子の再開だった……呪縛が解けたのかと思ったが、事の元凶である禍々しいデバイスを手にしている。




「恭也様! 今の音――っ! 雫お嬢様……」




虫の追跡を諦め恭也の元へ戻ろうとしたが、召喚反応とそれほど間をおかずに発生した轟音を感じ、文字通り跳んで帰ってきた。主

の下へ帰ると氷柱に閉じ込められ、穴を開けた巨大な虫の死骸と恭也、そしてその間に捜し求めていた雫がいた。

しかも五年前の……あの事件の前の時ように愛らしい笑みを浮かべて。




「ノエルも久しぶり」

「お嬢――」




ノエルが近づこうとしたが恭也が遮る。




「……お前は本当に雫か?」

「そうよ、『月村 恭也』と『月村 忍』の娘……『月村 雫』4歳……あぁ違うか9歳だ。で、夜の一族で御神の剣士、名前は

 お母さんが付けてくれて――ってまだ続ける?」




先ほどと変わらず笑みを浮かべたままの雫。

ノエルは恭也と雫を交互に見つめながら戸惑っていた。

ああ、そうかやっぱりお前は――

恭也は少しの間、目をつむっていたが見開くと八景を持ち上げ切っ先を雫へと向けた。




「その体でそれ以上喋るな。覚えているか知らんが、もう一度言う……御神の技を教える時に言った事だ、御神の理を外れることが

 あれば容赦はしない、全力をもって相手をする、と」

「記憶にあるよ、それにしても娘にソレ向けるんだ……でも、ごめんねまだまだ遊び足りないの。だから、また今度ね」




雫は刀を向けられても変わらずに笑顔で話し続けていたが、しゃべり終えた途端に姿が消え、直後、恭也の背後に現れる。

恭也は振り向きざまに刃を返し、峰で薙ごうとしたが振り切る前に背中を斬りつけられる。

雫はしゃがみ込む恭也を見下ろしながら話しかける。




「あははっ、驚いた? 私がもう使えるとは思っていなかったでしょう? 大丈夫よお母さんと違って凍らないようにしたから。

 あぁ、そうそう、それとお母さんの事だけど、今年いっぱいが限度だから気をつけた方がいいよ………………もぅいい所なのに。

 お呼びが掛かったから帰るね、続きはまた今度……ノエルも、レリックちゃんと持っててね。今度会ったら渡してもらうから」




じゃあね、と言いながら一足飛びで後方の森へと姿をくらました。

ノエルは弾かれたように恭也へ近づいた。大丈夫、この傷なら数日で治る、そう思いながら恭也を抱き起こした。

抱き起こしながらノエルはルーテシアがいつの間にか姿が見えないのに気づいた。











ノエルに応急処置を施してもらい、痛みも和らぎ行動に支障をきたさない程度にまで落ち着いた。

本格的に治療するためにと部屋へと戻る途中であった。




「……ホテルの方はどうなった?」

「あらかた片付いたようですが……どうかされましたか?」

「少しなのはの顔を見たくなった……かまわないだろうか?」

「恭也様……」




初めて刀を交えたのは6年前――ミッドに飛ばされる1年前だった……あの時は御神を教えていたとはいえ剣術とは呼べず、振り回

していただけだった。

四年前の空港火災の時は、まともに刃を交わす事はなく、崩れ落ちる瓦礫に紛れて逃げられてしまった。思い起こせばあの時も御神

の技を一度だけだが使っていた。

そして今回……確かに技を一通りを教え終えたときにせがまれ、奥義の話は一通り話したが、実際見せた事は数えるほどしかなかっ

た。それを再現させたのは素質なのか、夜の一族としての『血』なのか、アイツのせいなのか、又は全てなのかは分からないが、先

ほど雫が使ったのは紛れも無く『奥義の歩法 神速』に間違いなかった。




「ああ……そうか、あの三人はホテルの中だったな……」




そんな事まで忘れていたのか、と自嘲気味に呟き、木々の間から見えるホテルを見ながら思い出していた。




「……恭也様、まだこの付近には掃討中とはいえガジェットが数体いるようです。問題ないとは思われますが、お戻りになりません

 と……」




ノエルの言葉と共に爆音が響いてくる、決して遠くは無い距離だった。




「……そうだな、戻ろう」




二人は来た道を戻ろうと踵をかえした……がその時、右の方から少女の声が遠くから響いてき、声の方へ顔を向ける。

ヴィータの声だ。恭也は紅い少女を思い出す。




「  いい!!  前達   にさがってろ!!」




目を凝らす、木々を縫って奥、さらに奥、そこに声の主とは別の少女が居た。

オレンジに近い金髪のツインテールの少女――たしか資料ではティアナ・ランスターといったか――が俯いている、遠くからでも落

ち込みが見て取れた。そしてその背後よりガジェットが近づいていた。

まさか気付いていないのか、恭也は左手に力を込めるとその手に握られていた八景が淡い光を帯び始める、光は体をつたい手に持つ

飛針まで伝わりきる。恭也は右腕を振るうのと同時に、また少女の声が途切れ途切れに聞こえてきた。




「ティ   しろ!!」




飛針は木々の間を縫って飛んでいく、飛針はあっけないほど容易くガジェットの一番薄い装甲へと刺さり、破壊した。




「恭也様、これ以上この場に留まりますと彼女達は兎も角、ヴィータ様がお気づきになります…………なにより傷の手当てをいたし

 ませんと……」

「……わかった、行こう」




恭也とノエルはその場を離れていった。












続く







▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る