『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




4話 「暗雲」










「雫ちゃん、本当ぉに、手伝わなくていいのぉ?」

「いいわ、ドクターや貴方の手が加わると何されるか分からないもの」




雫は後ろからクアットロに話しかけられたが、振り向くことなく素っ気なく答え、黙々と身の丈程の大きさのカプセルの前で作業を

続けている。




「こりゃまた手厳しいっすねぇ、仲間じゃないっすか」




作業を続けたいのに、そんな雫の思いを無視するかのように、この部屋には稼動中のナンバーズが揃っていた。




「……貴方達とは仲間になった覚えは無いですよ、ただ利用しあうだけの関係……ドクターが私を利用する変わりに、私は貴方達の

 施設や資材を使わせて貰うだけ、基本的に邪魔するつもりはないわ」




雫はカプセルの横でいくつかのデータを打ち込みながら淡々と答える。




「よく言う、ルーお嬢様の邪魔をしたくせに」




そんな態度に赤毛で勝気な少女―ノーヴェが詰め寄る。

ノーヴェは雫がルーテシアを邪魔した事を持ち出して詰め寄る。



 ・・・・
「基本的によ、よく聴いてなさいよ、怪我してないんだからいいじゃない、っとこれで完成」




突っかかって来るノーヴェを軽くいなすと最後のボタンを押した。

ボタンが押されたのと同時にカプセルが開き始める。

ゴポッ、と音を立てて粘度のある不透明な溶液が流れ出し、近くに居た数人は避けるように下がりだした。

訝しい表情を浮かべていたナンバーズをよそにカプセルの中からは溶液が流れ続けていく、溶液が流れ尽くし覗き込むと人間が横た

わっていた。中に居たのは一人の男性だった。男性の顔を確認するとナンバーズの中から驚きの声が上がる。




「こ、これは……」

「あの時の男?……しかし」




チンクとトーレは先日接触した正体不明の男がそこに居た。

しかし、二人は会った時と若干年齢が若く見えたため訝しんだ。




「持ち主の記憶が一番色濃く残っている姿か……」




ざわめく外野をよそに雫は小さく呟く。

ナンバーズの少女達は雫の呟きを聞き、意味不明な言葉にみな不思議そうな顔をしていた。




「雫嬢、何故この男が?」




チンクが辛酸を嘗めさせられた相手と同じ顔を持つ男を見て問う。




「ああ、この前の戦闘で血を手に入れたから作ってみたの、時間が無いから皮だけだけど」

「皮?」

「ええ、中身は廃棄されていた機人を利用しただけ、と言っても自我がある訳じゃないわ、命令どおりに動く只のお人形よ」




雫は男の顔を愛しそうに撫で続けていた。




「何故こんなものを?」

「だって向こうにはノエルがいるのに、こっちは私だけだもの……」




不公平じゃない、とこんな場所でなければ見惚れそうな笑顔で楽しそうに答えた。




「ノエル?」




聞きなれない名に誰の事、と水色の髪を持つ少女―セインが尋ねる。

雫はその問いに対し、作業が終わったせいか先ほどとは違い、機嫌良く饒舌に答え始めた。




「一緒にいた女の方の名前よ、会ったんでしょう?」

「お前、あの二人とどんな関係なんだよ」

「追跡者と逃亡者」

「だれも状況なんて聞いてねぇよ!!」




ルーテシアの件が手伝い、雫に対し喧嘩腰で突っかかるノーヴェに対し雫は楽しそうに笑う。




「冗談よ冗談、女性は家の侍女長で母が修復し造り上げたアンドロイドよ」

「ドクターも女の方にいたくご執心だったが……純粋なアンドロイドなのだろう? 興味を引くとも思えないが……」




トーレが先日見たノエルを思い出し不思議そうに呟く。




「それは『アルハザードの遺産』の一つだからですわ、しかも作られた理由が『人を導く為』その為に余計な感情は最低限に設定さ

 れてますけど。……最もぉ、文献だけで確証はありませんけど」




他の姉妹も考え込んでいたが一人輪から一歩引いていたクアットロが会話に加わる。




「『忘れられし都』か……しかし、アルハザードとはいえ只のアンドロイドなのだろう古い技術の塊ではないのか?」

「確かに本体はそうですけど、ドクターの興味は中枢のブラックボックスですわ」

「ブラックボックス?」




セインは首をかしげながらクアットロの説明を待つ。




「ええ、現在殆どのデバイスにAIが搭載されてるでしょう、あのアンドロイドはその大元……とはいかなくても大元に近い存在の

 可能性が高いの」

「それは…………すごいのは分かる。だが、AIなど今更ドクターが希求に値する存在か?」




チンクは腕を組みながら問う。




「だって、私たちを含めた戦闘機人の雛形なんですもの。ドクターもアレの文献を見てから機人の開発に着手したと仰られましたし

 アレが作られていなければ私たちは生まれて来なかったんですの、そこに興味が沸いてもおかしくは無いでしょう。

 もっともぉそれだけじゃないないわ、本命がありますの。えっとぉ……ウェンディちゃぁん『ロストロギア』とは?」




以外な事実に驚いていたが、急に話を振られてウェンディはあたふたと慌てる。




「えっ、えぇっと、大昔の文明の遺産……でよかったっすかぁ?」




上目遣いで伺う、あきらかに単純すぎる答えにクアットロから駄目出しが来るかと身構えていた。

しかし、攻撃は意外な方向からやってきた。




「省略しすぎだ馬鹿者、少しはデータの蓄積をしておけ、正確には『過去に何らかの原因で滅んだ世界で造られた遺産の総称』だ。

 今の技術では到達出来ていない高度な技術で造られた物が殆だな、使い方次第では世界はおろか次元すら崩壊させかねない危険な

 物も在る」




ウェンディが端折った説明にトーレが補足をする。

トーレの説明に満足したクアットロは次に、と他の姉妹を見渡す。




「さすがトーレ姉さま、それじゃぁ……今度はディエチちゃぁん、ロストロギアは『何時の時代の物』を指すでしょう?」

「えっと、特定……できないんじゃないのかな」

「そのとぉり、判明しているもので『一番最近の物の年代』と『一番古い物の年代』を比べても天と地ほどの開きがあるの。

 そしてぇ、判明している中ではアルハザードの年代が一番古く、その技術は以降全てのロストロギアに通ずると言われています

 の。そもそもぉ、それぞれロストロギアは各次元で独自の文明によって作られた物、と思われてました。

 でも、最近『アルハザードが各次元に干渉し影響を与え、文明の促進を促した』と発表され今までの常識が覆されました。

 と言うことはあのアンドロイドは現存する一番古い技術になり、全てのロストロギアに干渉できる可能性が考えられたの。

 現に幾つものレリックを取り込んで力を引き出していましたし――」

「訳わかんねぇ」




ノーヴェが愚痴るように呟くが、その声はしっかりとクアットロに聞こえていた。




「お、馬、鹿、さん……ロストロギアに干渉でき能力を使えるってことは、当然古代ベルカの遺産も使えるという事。それは――」

「『聖王のゆりかご』も例外ではない」

「その通り、もちろん当初の予定通り聖王の遺伝情報を持つ素体の製作も行いますけどぉ…………分かった?」

「わかったけど、なんでそんな存在が魔法も無い世界でメイドなんかやってんだよ」

「雫嬢?」




もっともな疑問だ、とチンクは雫の名を呼び問う。




「ノエルは元々母の一族に、いつの頃からか『遺失物』として伝わっていたわ。誰も手が付けれなかったのを母が確か私と同じ年の

 頃に修復したらしいの」

「嘘っ、信じられないっすよ! 魔法も無い次元の住人がロストロギアの修復なんて……」

「純粋なアンドロイドだったから、修復できたのかもしれないわねぇ。外側は殆ど特別な素材を使っている訳では無いみたいだから

 まぁ、違う次元に居たのは何らかの理由で次元を飛ばされたんでしょうけど……その事は私達には重要な事ではないわぁ」

「そうっすよねぇ、で、男の方との関係は?」

「……今までの話の流れで想像付いてたと思ったけど……まぁいいわ、あの人は私の父親。ついでに機動六課の『高町なのは』の兄

 よ、他の隊長や副隊長とも面識はあるわ」

「まて、ではお前と高町なのはとの関係は……」




雫の答えに聞き逃せない名称がいくつも上がりトーレは慌てて問いただした。




「ええ、叔母と姪の関係よ。と言っても赤ん坊の時から会っていないけど――そうそう、今度貴方達に同行させて貰う事にしたから

 宜しくね。」

「聞いてねぇぞ、どういうつもりだ!!」

「ただの挨拶よ、あの人たちにこの人形を見せた時の反応が楽しみだわ……そうだ、あなたの名前は『K14』にしましょう。嬉し

 いでしょう? 父さんが裏の世界での呼び名よ」




ふふふ、と再び人形の顔を撫でながら静かに笑い出した。

その様子にナンバーズ達は声を掛ける事が出来ず、ただ眺めるているだけだった。













「あの子なんか不気味で、ちょっと怖いっすよ」

「連れて来たのはクアットロだったな」

「ええ、以前のリニアレールでの件がありましたでしょう。ドクターとウーノ姉さまが六課の記録をしていましたのにあの子が乱入

 して来ましたでしょう?」

「私も後で見させて貰ったが……映像の時と連れて来た時と雰囲気がかなり違っていて驚いたが……何か知ってるのか?」

「いいえぇ、私も接触した時にはえらく様子が違ってまして人違いかと思いましたもの」

「……そうか、お前がそう言うならそうなんだろう」

「でも、親と戦うなんて……ルーお嬢様がこの事聞いたら悲しむよね」

「ディエチ……それぞれに境涯というのがある、雫嬢しかり、管理局しかり、ルーお嬢様も、むろん我々にもだ。立場が変われば物

 の見方も、在り方も変わる」

「そうよぉ、チンクちゃんの言う通りよ、私達はドクターから与えられた任務をこなすだけ」

「……うん」

「……さぁ、もう少しすると残りの妹達が目を覚ます、それまでに我々でデータの収集を行う。あくまで収集が目的だからな、先日

 の様な失態を犯すなよ」




クアットロとチンク、と軽くにらみながら名指しする。




「トーレ姉さまったら、分かってますわよ」

「承知している」

「よし、各自準備を怠るなよ、準備が出来次第出発するぞ」




稼動してから初めての管理局との戦闘になる。蓄積されたデータ、繰り返された訓練それらの結果を示す時がついにやってきた。

トーレの言葉をうけ、各々準備の為その場を解散していく。












先ほど雫が居た部屋よりもはるかに大きくな部屋、そこにはカプセルがいくつも並んでいた。

よく見ると中に人がいるものと空のものがカプセルの番号順に置かれていた。

その部屋に三人の人影が見えた。




「クアットロ、他の姉妹達の様子はどう?」

「ええ、問題ありません」

「そう、雫お嬢さんとの関係は?」




ウーノは先日ドクターの命令でクアットロが迎えにいった少女を思い出した。




「少しノーヴェちゃんが先日のルーお嬢様の事で突っかかってます……もっともノーヴェちゃんの一方通行で雫ちゃんにかわされて

 ますわ」

「そう……あの子は少し頑固だから」

「ふむ、気にする事もないだろう、好きにさせておきたまえ」

「よろしいのですか?」

「ああ、データの蓄積にもつながるだろうしね、最終的にどうなるかとても興味深い」




クククっ、と笑うスカリエッティ。




「それでわ、そろそろ行って参りますわぁ」

「ええ、気をつけてね……ドゥーエに『月村 恭也』について管理局に記録がないのか探させているから、データがあれば何か情報

 が入ってくると思うわ」

「わかりました、ドゥーエ姉様によろしく伝えてくださいね」




踵を返し歩き出すクアットロ、その後ろではスカリエッティの笑い声がいつの間にか大きくなり、部屋に響いていた。










続く







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