『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




6話 「姉妹」










「私は……ドク、ターの為、に……」




恭也との戦闘から離脱したトーレは開発地区のはずれに居た。

恭也とノエルの言葉に動揺し、不覚にもスカリエッティに対する自分の想いも疑ってしまった。

例え一瞬とはいえそれはナンバーズにとってあってはならない事だった。




「……ひと、まずオットーと合流、するか…………オットー聞こえるか。オットー? まさか、空間が遮断されている? いや、他

 の妹達の反応は感じられる……どういう事だ? いや、原因究明より此処を離れるのが先決か」




トーレはいまだに纏まらない気持ちを切り替え走り出す。しかし、恭也の事、ノエルの事、オットーの事、

色々な事がぐるぐると頭をよぎるが明確な回答が出るわけでもなく、振り払うようにただひたすら走り続けた。

移動し始めた直後、視界の端にある建物と建物の隙間から見知った人物が視界に飛び込んでくる。



「……! あれは月村雫とK14!? セインと撤退したと聞いていたが……なぜこんな所に?」




トーレは不審に思いながらも雫達に近づき声をかける。




「月村 雫! 何故貴方がここに居る!? 確かセインと撤退したはずじゃなかったのか?」

「……あぁ、トーレさんか…………セインさんは先に帰ってもらったわ……」




雫は予期せぬ問いかけにゆっくりと顔を声の方へと向ける。

声の主がトーレだとわかると気だるげに話し出す。




「先に? セインが? それで貴方は?」

「私は……そうね、掃除……かしら」

「? 所でオットーを知らないか? こちらの方へ来たはずなんだが通信が効いていないみたいでな」

「……あぁ、それらしき人影なら見たわ」

「! 本当か!?」

「他の任務と思っていたから気には留めなかったけど……見かけた場所でよければ案内しましょうか? 近くだし」

「あぁ、すまないが頼む」




かまわないわ、と言いながらトーレを案内する為に先行した雫は一瞬だが唇の片側を吊り上げて歩き出す。

トーレは後にこの事に悔やむ事となる。

恭也達の言動に動揺し、冷静さを欠いた状況だったとは言え普段とは違う雫の言動には注意すべきだったと。

すこし進んだところで雫に立ち止まった。




「どうした?」

「確かこの辺りよ」




雫の言葉にトーレは辺りをぐるりと見渡すと周りにある建物に近づき物影を覗きはじめた。

しかし、オットーは見つからず、未だに通信が遮断され他の姉妹達とも連絡が取れず徐々に焦りはじめたトーレは大声で探し始める。




「オットー! 聞こえるか!? オットー!!」




近くならば、と念話と肉声の両方で呼びかける。

だがオットーからの返事は無く、周りの建物からの反響だけが空しく木霊した。




「トーレさん、居たわよ」




ちょうどトーレと反対方向に居た雫から声が上がる。

僅かに安堵した表情を浮かべながら雫の指差す方へ近づくトーレ。

半壊している建物の中を指していた為、物影でまだ姿は見えないが近づきながら声をかける。




「オットー、いったいどうしたんだ? 通信がまったく繋が、らな……い……オッ、トー?」




氷がそこにはあった。それは氷柱と言っていい大きさだった。

姉妹達の中でも長身なトーレを更に頭一つ分大きな氷柱だった。

そしてそこには、氷柱の中には少女が、オットーが居た。




「何、だコレは……月村雫! これはどう言う……ぐっ!」




トーレは雫の方へ振り向くと目の前にいつの間にか雫が立っていた。腹部に痛みが走り視線を落すと雫の持つ刃が突き刺さっていた。

視線を腹部から雫へと視線を戻すとそこには笑顔があった。

トーレは今まで雫がこんな笑顔を浮かべることができるのか、と思いもしなかった。

恭也の偽者を作った時も不気味な笑顔があったが、今回の笑顔は一線を画している。

まさに『悪魔の笑顔』か、と痛みに耐えながらも場違いな感想を思い浮かべる自分に気づいた。




「な、ぜ……」

「ふむ、それは今のお前が気にする事ではないな」




雫の口調が変わった。高さが変わった。

まるで壮年の男性のような声だった。

少女の姿からは想像も出来ない声音に驚愕する。




「! お、前は誰、だ。つ、き村し、ずくとは、違うな」




苦悶の表情を浮かべながらも問う。




「さようなら、運がよければ生きてるでしょう」




しかし聞こえてきたのはいつもの口調だった。

雫はデバイスをトーレの腹部からぞんざいに抜き取る。

刃を抜いた瞬間、トーレは支えを失い地に膝を着いた。

それと同時に急激に温度が下がったかと思うと傷から徐々に音を立てながら凍りつき始める。

トーレはオットーにすまない、と謝りながら今一度オットーを見ようと振り向く。

なぜ?

ゆっくりと凍り始め、気温が更にさがり吐息が白く昇りだした。

何故?

足元にはベルカ式ともミッドチルダ式ともとれる見たことの無い魔法陣が展開されるが、今のトーレには全く関係の無い事だった。

何故こんな所に?

魔法陣の文様に沿って徐々に氷柱がゆっくりと形成される。蹲っていた為、既に胸元まで氷柱が出来上がっていた。

先に撤退したはずでは?

傷口からの凍結も既に下半身は凍りつき、首から顎にかけて凍結し、氷柱も頭部付近まで出来上がる。




「何、故 ここ――」




動揺のためか、凍結のためかトーレはたどたどしく喋りだした。

しかし、最後まで言葉を発することが出来ず、氷柱が完成し閉じ込められてしまう。

目を見開き、驚愕の表情を浮かべたままだった。

その視線はオットーの氷柱に焦点を合わせておらず通り越す。

視線の先には同じく氷柱があった。

氷柱の中にはセインが腕を伸ばした状態で凍っていた。



その建物は異質だった。

晴れた日の中、周りの建物と見た目は同じだが一足中へ踏み入れると他とは違っていた。

氷原のまっただ中に入ると同じような感覚になるのだろうか。

生命の活動を拒むその場所には三つの氷柱があり、その中にはそれぞれ少女と女性が居た。

その氷柱の前に雫とK14がたたずんでいた。

寒さを感じていないのか氷柱をじっと見つめていたが突然、踵を返すと悠然と歩き出し建物から出る。すると雫達が建物から出てく

るのを待っていたかのように入口が氷で塞がっていく。

雫は完全に塞がったのを確認するとその場から立ち去った。









薄暗い回廊、雫とK14が歩いていると後ろから声が掛かる




「おい、セインはどうした!?」




振り返ると声を掛けた主のノーヴェを先頭にチンク、薄紫色の長髪をした少女―セッテとディエチが居た。

ノーヴェは目を吊り上げ今にも掴みかかみそうな雰囲気で詰め寄る。

しかし苛立つのを隠そうとしないノーヴェとは対照的に雫はしれっとした態度だった。




「セインさんなら先に帰ったはずよ」

「帰ってきてないから聞いてるんだろ! くそっ、トーレ姉達も帰ってこないし……」

「落ち着けノーヴェ。しかし雫嬢、姉上達が帰還していないのも事実だ、何か知らないか?」

「……父さんと戦ったんでしょ? なら負けたんでしょ」

「トーレ姉が簡単にやられるもんか!!」

「落ち着けと言ってるだろう。確かにあの男の動きは異様だったが、それでも姉上が負けると思えないが?」

「貴方達は父さんの事を知らないから……父さんは目的の為なら、自分の信念を貫く為なら不要な感情を捨てられるわ。

 例えその相手が、敵が女子供や血縁者でも、そして娘でさえも例外なく刃を向けてくる……そういう人。

 私や貴方達の方が総合的な能力は上でしょうけど……負けるとは言わないけど勝てる気はしないわ」

「何故だ?」

「経験の差よ、父さんは小さな頃から色々な状況で刀を振っていたわ。その経験からくる洞察力、観察力、狡猾さ等はデータで計れ

 るものでもないはずよ。貴方達はもちろん現役の管理局員でもその点では適わないでしょう。それと気になるのがガジェットのA

 MFを難なく貫いていた事……殆どは『徹』で倒していたけど飛針で倒した物に関しては『徹』だけじゃ説明がつかないし飛針で

 『徹』を再現出来るなんて記憶に見当たらないし……」




最後の方は自問自答になり声が小さくなりはじめ、まわりは聞き取りづらくなった。

しかし、チンクは話の内容に気になる言葉を耳にし、没頭し始めた雫へと問いかける。




「雫嬢、『徹』というのはもしや……」

「えぇそうよ、貴方が一度父さんにやられた技よ。『徹』は……そうね、簡単に説明すると『表面に衝撃を伝えず内側から破壊する

 『技』よ」

「技、か……どおりで魔力が感じられなかったのか。ならあの一瞬で現れた移動方法も――」

「それも技よ、『奥義之歩法 神速』と呼ばれているわ。まっ、超高速移動と思ってくれていいわ」




チンクは以前、恭也にやられた時の事を思い出していた。

一瞬で真横に現れ、なおかつシールドを物ともせずに攻撃してきた事はチンクにとっては未だに理由が分かっていなかった。

それでも納得できない部分があったのか、チンクが口を開きかけたその時ノーヴェが割り込んで来る。




「そんな事はどうでもいいんだよっ!! トーレ姉達の事が先だろっ! チンク姉も一緒になって……」




話が別の方向に入りかけたがノーヴェが苛立ちながら割り込むとチンクはすまない、と謝る。




「ノーヴェちゃん、それなら今度の作戦の時に問いただせばよろしいんじゃないかしら」




声がする方を見ればクアットロが雫達の一団へと近づいて来た。

クア姉、と誰かが呟くのが聞こえる。




「ドクターから次の指示がありましたわ、管理局に対して直接しかけます」

「えっ何時!? 何時!?」

「ノーヴェちゃん焦らないの……今度開かれる『地上本部公開意見陳述会』その時に合わせて地上本部と機動六課の襲撃しますわ。

 まず地上本部に襲撃し混乱と機能に壊滅的なダメージを与え、そしてその間に機動六課でレリックの確保。そしてぇもう一つ……

 前回の戦闘でセインちゃんの記録にあったこの少女の捕獲、それが今度の作戦ですわ」




クアットロの説明によりハチマキをした少女――スバルが映し出される。




「なんでコイツなんか捕まえるんだ?」

「ドクターが仰るにはアレは『タイプゼロ』……私達の試作品ですわ。どういう経緯で管理局に居たのか分かりませんけどぉ、ドク

 ターがご所望ですので……」

「分かった。しかし、管理局の襲撃が作戦の主とするならあの二人が来るとは限らないのではないか?」

「チンクちゃんの心配も最もだけど恐らく大丈夫ですわ。調べましたらあの二人、聖王教会の所属になっていましたから陳述会を襲

 撃したら嫌でも出てくるでしょう。教会の関係者も数人ほど陳述会への参加者のリストに入っていましたから……作戦時間から考

 えますと大体こちらの作戦が終了する位にやってくるはず……その時にトーレ姉様の事を聞けばよろしいですわ」

「あのアンドロイドはどうするの?」

「余裕があれば確保いたしますけどぉ……あくまでメインはレリックの確保ですわ。それに予定外に人手が不足しましたし、時間的

 に考えて今回は無理でしょう……でも、私としましては確保してほしい所ですけど」

「何かあったっすか?」

「折角ルーお嬢様が密売されようとしていた聖王の『聖遺物』を取ってきて下さって、遺伝子を取り出すまでは成功しましたのに、

 そこから培養がうまくいかないの。だから、いつ完成するかわからない物より完成した物があるとありがたいのですけど……」

「クア姉、任せてくれ絶対にトーレ姉様のことを問い詰めて、あのメイドもハチマキも捕まえてきてやる!」




決意を固めるノーヴェと頷くチンク達、雫はその様子を離れて見つめその口は少し歪めていた。














続く







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