『リリカルなのは StrikerS ＩＦ～tentative title～』
第８話 「強襲」
カリム・グラシアは周りが混乱している中、三歩引いて後ろに控えているシャッハ・ヌエラと共に廊下を歩いていた。
予期されていたスカリエッティ一味の襲来、それに対し結局大した対策を立てることが出来ず、今の事態を招いてしまった。
悔やむカリムは下唇を軽くかむとシャッハと共に、先ほどなのは達が出た扉から出ると歩き出す。
一先ず教会へ連絡を取ろうとしたが未だに通信妨害が解けておらず、冷静に考えようと空いている部屋を探す。
カリムは誰かに呼ばれたような気がし、振り向くとそこには遠くから小走りで向かってくる女性職員の姿を捉えることが出来た。
見知らぬ職員に呼び止められ、訝しげに思いながらも相手は『騎士カリム』の事は知っているのだろう、と思い彼女の用件を聞く事
にした。
その職員は長身に部類されながらもショートカットで子犬のような愛らしで誰からも好かれる雰囲気を滲み出していた。
そんな彼女にカリムは微笑みながら促す。
「外部からの方々に関しまして、安全と確認をかねまして部屋を用意いたしましたのでそちらで一時待機して頂くように、との命令
が出ました。私がお二人をご案内いたします。どうぞこちらです」
わかりました、と答えると女性職員に先導され後ろを着いて行く
「こちらの部屋です」
そう言って案内された部屋は暗くカリムとシャッハが促されて先にはいり暗い中、辺りを見回していると明かりが付く。
資料室と入口のプレートに掲げられていたが、誰がどう見てもただの倉庫だった。
最近は使った跡がなく至る所に埃がかぶっていた。
シャッハは訝しく思い職員の方へと振り向く。
「本当にこの部屋なのですか？ 他の方々は？」
「いいえ、間違っていませんよ。それにそんな事気になんてなりませんよ………………どうせ死ぬんだから」
女性は口調が変わった途端に姿に変化が訪れる。短かった髪が腰の上の辺りまで伸び、女性職員の制服が青いボディスーツへと変わ
る。その首元にはⅡの数字が刻まれていた。Ⅱ――ドゥーエはその右手の指先には特殊な爪――ピアッシングネイルをカチカチと鳴
らせながらカリム達へと近づく。
その姿にシャッハはカリムを庇うように前に立ち身構える。
デバイスが無いといえ、カリムを守護するのは自分の役目だ、と常に言い聞かせていた事だ。
「あなた、スカリエッティの！」
「ええ、そうよ。でも貴方は知ったところで何も出来ない……一人は実戦ではなんにも役に立たないレアスキル持ちの騎士様。もう
一人は多少強くてもデバイスのないシスター……そんな貴方達に何ができるの」
事実その通りで、シャッハはカリムを後ろに庇いながらゆっくりと決して広くない部屋の奥へ退いていく。
そんな二人を見ながらドゥーエは唇を歪めながらゆっくりと追い詰めていく。
「さぁ、大人しくして頂戴……」
「くっ、デバイスさえあれば」
「手間を掛けさせないで……他にも幾つか別の人たちの所にも行かないとダメだから」
「！ 私達以外の方々も亡き者にするつもりですか!?」
「何驚いているの？ 当然でしょう。幾ら強い兵士が居てもその部隊の長が居なければ、その兵士は動きようが無いわ……それが組
織っていうものよ」
心外だ、と言わんばかりの表情でカリムに問い返す。
確かに管理局に対し甚大な被害を与えるには、今を持ってしかないだろう。それだけの条件がそろっていた。
そしてドゥーエは爪を顔の横へと持ってくるように構える。
「今しかないのよ、主要な人物を暗殺し管理局にダメージを与え――」
「そうだな、俺でもそうする」
ドゥーエは自身の言葉を遮る声、いない筈の第三者の声に驚き振り向くと、入口の扉を背に立つ二つの人影があった。
ドアはロックした筈だ、ドゥーエはそう思いながらドアを見るがＬＯＣＫと赤く表示されており、破壊された形跡は無かった。
信じられない事だが彼らは最初から部屋にいたことになる。
「誰っ！」
「恭也さん！」
「泳がせて正解だったな、やはりお前が管理局の情報を流していた奴だな」
恭也は小太刀を下に向けたままゆっくりとドゥーエに近づく。
ドゥーエは恭也と呼ばれる男の名と顔に記憶があった。
「っ！ そう、貴方が『月村 恭也』ね……月村 雫の報告書通りね……難儀なものね、魔法も知らなかった異界の住人が娘を助け
るためとはいえミッドまで追いかけてくるなんて。それにしてもどうして私に目をつけたの、ヘマをした覚えは無いのだけど」
「気配が、気配お前だけ無かった一女性職員が気殺をするのは不自然すぎるな……後、訂正だ。助けるのは雫だけでは無いんでな」
「っ…………ふふふふっ、そう言えばその、助けるもう一人ってこんな顔だったわね…………………………ねぇ、恭也？」
しくじった、という表情を浮かべ、途端に急に笑い出したかと思うと、ドゥーエの顔が、体が再び変化する。
髪の色が濃い紫色になり、服装もボディスーツから白いワンピースへと変わっていた。
恭也とノエル、二人の記憶に寸分違わぬ姿だった。
「お、くさま？」
ノエルの呆然とした声の先にはもう一人の主である『月村 忍』がそこに居た。
「どうしたのノエル？ そんな顔して……あとで診てあげるからそこで大人しくしてなさい」
ノエルは自身のメモリーにある忍と全く同じ声、同じ動作をする眼前の人物を『月村 忍』と判断してしまう。しかし、地球にいる
筈、しかも絶対にこちらの世界には来れない。矛盾する思考に意識を手放す。
ドゥーエは停止したノエルを嬉しそうに確認すると、恭也の前まで移動し両手を広げ抱きしめる。
「恭也、帰ろう…………一緒に、ね」
そう言いながら恭也の背に回されていた白い手が変化する。
ピアッシングネイルを再び出すと抱きしめたまま恭也の心臓めがけて突き刺す。
「ぐぅっ……な、んで」
そう言いながら崩れ落ちるのは恭也ではなくドゥーエだった。
「あな、たは自、分の妻、を……傷つ、けら――」
「……お前は忍じゃない」
恭也は足元に横たわるドゥーエを一瞥するとシャッハを見やると捕まえていてくれ、と言いながら前方に突き出していた柄を元に戻
した。よく見るとドゥーエのスーツの腹部が妙な皺があった。八景の柄がドゥーエの鳩尾へと叩き込まれた為だ。
カリムとシャッハに怪我が無い事を確認するとノエルの元へと近づく。
「ノエル、起きろ」
恭也の言葉に反応したのか、自己修復が終わったのかノエルの瞳に光が戻る。
ノエルはあたりを見回し、シャッハがドゥーエに幾重にバインドを掛けているのを見ると自分が意識を無くしてから何が起きたのか
正確に理解する。
「申し訳ありません、恭也様……あれは奥様とは違いましたのに」
「気にするな、俺も甘さが抜けていない…………それより急ごう、予想以上に時間を取られた」
はい、と頷くノエルを見やるとカリム達へと振り向くと頭を下げる。
「すみません、危険な目に会わせてしまって」
「顔を上げてください、それに助けて頂いてありがとうございます。さぁ、急いでください、時間がないのでしょう」
「すみません、行くぞノエル」
再び謝った恭也に苦笑いしながらも、ノエルと共に部屋を出て行く後姿に胸のまえで手を組むと主神へ祈りを捧げていた。
「お二人にご加護を……」
会場である建物を囲み封じ込めていたガジェット達はすでにはやてにより排除されていた。
恭也達が建物の外へと出ると、そのはやてがバリアジャケットを身に纏い、リィンフォースⅡと共に恭也達を見据えていた。
あれは怒っているな、と恭也は苦笑いを浮かべそうになったが、引き締めるとはやての元へと近づく。
はやては近づくなり恭也の頬へと右手で平手打ちをする。恭也は避けれたが甘んじて受け止める。
「カリムの言ったとおりやったね……取り合えずウチはこれで我慢する。大体の事はきいたけど、後で詳しい事、ちゃんんと聞かせ
てもらうから。せやないと、なのはちゃん等は納得せえへんで」
「ちゃんと説明してもらいますからねっ」
リィンが空中で両手を腰にあて、憤慨している様がはやてと違い微笑ましくみえた。
その為、恭也は自然と指であごを撫で、あやすとリィンの目尻が下がる。が、すぐにリィンははっとなって現状を思い出す。
「だっ、騙されませんからね。これでも怒ってるんですよ！」
「すまなかったな…………はやて、ヴェロッサからの連絡でシャマルさん達は無事、との事だ」
そう言いながら指が離されるとリィンは少し寂しそうな顔を浮かべる。
何時までもこうしていたかったがそうも言ってられなかった。
はやては、恭也の言葉に息を漏らして安堵する。
「ほら、いつまでじゃれおうてんの、早ぅなのはちゃんの所に行ったげて………………恭也さん、これ以上なのはちゃんを泣かせた
ら承知せえへんからな」
「あぁ、分かってる。行こうノエル」
「はい、恭也様」
そう言うと瞬く間に走り去り、その背中が徐々に小さくなっていく。
「頼むで、恭也さん……」
恭也達がその場所に近づいた時にはすでにノーヴェ達が撤退した後だった。
残りのナンバーズの一部はシグナムとヴィータが戦っていたが、そのナンバーズ達も間もなく撤退するだろう。
ノエルが並走しながら周りの状況を把握していく。
「恭也様、前方５００メートル先に６つ反応があります。この反応はなのは様、フェイト様、スバル様、ティアナ様、そして雫様と
恭也様の偽者です………後３００メートル、あそこです」
ノエルの言葉どおりに前方に人影が見えてくる。
恭也は一瞬で状況を把握する。なのはと自身の偽者が戦い、フェイトが雫に抑えられ、スバルは負傷し、ティアナはスバルの介抱、
当然ノエルも把握しており、恭也は支持を出す。
「まだ気付かれていないな……なのはを頼む、ノエルは雫が相手だと辛いだろう。俺はフェイトを助ける」
「申し訳ありません。お願いいたします」
「あぁ、任せろ」
そう言うとギアを変えた様に更に加速する。
手前にいるなのはを助けるためノエルが先に飛び込むのを確認する。
フェイトを助けるため更に神速を発動させる。
神速の世界に入る直前に恭也の耳には、なのはの呆然とノエルを呼ぶ声が聞こえた。
続く
急ぎなのはたちの元へ！
美姫 「いよいよ物語は交差するのね」
異なるっているかのように見えた物語が、一つに！
ああ、早く早く次を～。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。