『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
1話 「start―はじまり―」
新暦75年4月某日
スバル・ナカジマとティアナ・ランスターの二人は先ほどまで行われていた魔導師ランクの昇格試験を終え、最近まで、二人の間で
張り詰めていた空気が消えたのをお互いが感じ取れていた。
しかし、特別講習と再試験という条件つきとは言え、合格点の保障を得られたのはこれまでの努力の結果だとお互いが確信していた。
慢心は無いが再試験も落とす気は二人とも微塵も存在していなかった。
ティアナは隣を見るとスバルが頬が緩みきっていたのが見え、あきれながら指摘した。
「スバル、ニヤケすぎよ。気持ち悪い」
「キモッ、って当たり前じゃないか、なのはさんに再会できたんだよ。しかも、同じ部隊に誘われるなんて」
夢だったんだよ、と少し興奮しながら話すスバルとは対称的にティアナは落ち着いていた。
「まぁ、私はいいけどね。あのメンバーだと色々学べそうだし……」
執務官であるフェイトが傍にいるのなら学べることは多いはずだし、近道にもなるだろう。
ティアナは執務官になるという夢と共に、スバルとお互いの目標を話し合ったことを思い出した。
「そういえば、ギンガさんに聞いたんだけど……あんた4年前の空港火災の時になのはさんに会ったのよね」
「うん」
スバルはお守り代わりにしているなのはの写真を取り出すと目を細めながら見つめた。
新暦0071年、今から4年前にミッドチルダ北部 臨海第8空港で施設の殆どを焼き尽くすほどの火災が発生した。
大規模な火災だったにもかかわらず負傷者は多数存在したが、死者が0という奇跡的な結果に終わった。
しかし、最大の功労者である3人の魔導師がこの事件の救助に関わっていたことは一部の人間除いて伝わってはいなかった。
後に、この火災がただの火災ではなく『レリック』と呼ばれる遺失物=ロストロギアが原因で起こった火災であることが判明するが、
肝心のレリックが存在せず、管理局も奇跡的に焼失を免れたリストと保管ケースの残留物によって、
先日確保したレリックと照合した結果、レリックが存在した事を証明するに留まった。
しかも発見されたケースの周辺には戦闘の痕跡残っており、高レベルの戦闘が行われていたことが判明した。
管理局は、レリックと正体不明の戦闘を公表できなかった為「原因不明の大火災」を公式見解として処理した。
その日、スバル・ナカジマは姉であるギンガ・ナカジマと共に父の元へ向かう為、空港を訪れていた。
火災は二人がはぐれた時に発生した。
その時スバルとギンガは、それぞれなのはとフェイトによって救助された事になっている。
「それでね、一人で迷っている時に近くのモニュメントが倒れてきて、もう駄目だってそのまま気を失ったみたいで、次に目を覚ま
したら傍になのはさんが立っていて、なのはさんの後ろにはモニュメントが真っ二つに割れていてね、気が付いた私に、『良く頑
張ったね、もう大丈夫だよ』って声を掛けてくれて、私をフィールドで保護した後に天井を打ち破って、そのまま私を抱えて運び
出してくれたんだよ、って聞いてるのティア」
「はいはい、聞いてるわよ。それであんたはあこがれて怪我が治ったら直ぐに訓練校に入ったのよね」
何回も聞いたわよ、と呆れた口調でティアナは、訓練校時代より何度も聞いた話にうんざりしながらも笑顔で答えた。
なのはとフェイト、はやては応接室の窓から見下ろした所にある中庭でスバル・ナカジマとティアナ・ランスターを見つけた。先ほ
どまで試験の結果や、六課への勧誘の話をしていたためか強張った表情をしていたが今は二人とも笑顔が見られた。
「あの二人やったらきっと六課に入ってくれる。そして、欠かせないメンバーになってくれる」
はやては嬉しそうに、そして期待を込めてなのはに話しかけた。
「……うん、そうだね」
いつもと違い低い調子で答えられたため、はやてとフェイトはなのはの顔を心配そうに覗き込んだ。
「どうしたん、なのはちゃん。さっきの事でなんか問題でもあったん?」
「なのは、大丈夫?」
スバル達の昇格試験から二人が退室するまで、変わりは無かったはずだったはずだ、と二人は思い出しながら尋ねた。
「ううん、二人は多分心配ない、大丈夫だよ」
はやての問いになのは笑顔で答えたが失敗したようで、はやては更に心配した顔で見つめた。
たいした事じゃない、となのはは手を振りながら慌てて説明しはじめた。
「……最近、同じ夢を何度も見るの」
普段なら他愛も無い話だが、真剣な顔で話始めたなのはにフェイトとはやては真剣に聞き入った。
「暗い部屋の中でね、人がね戦ってるの。何人かいるんだけど、その内二人が戦っていて暫くしたら二人の内の一人が突然向きを変
えて部屋の中央に浮いてある宝石に手を伸ばしたんだけど、周りにいた一人も飛び出してきて先にそっちが宝石に触れたんだけど、
宝石から光があふれ出すの……」
なのはが話すのを止めた為、はやてはなのはに続きを促した。
「……それで?」
なのはは、はやての期待の篭った眼差しを受けたが残念ながらここで何時も目を覚ますのだ、と答えた。
はやては期待がはずれたのかがっかりしたように見えたが、なのはの次の言葉に目を見開いた。
「でもね、その宝石なんだけどレリックにそっくりなんだ。夢だから細部までって事は言えないけど……」
なのはは、自信が無いのか段々と声が小さくなっていった。
しかし、はやては、そんななのはとは裏腹に真剣な面持ちで尋ねてきた。
「レリックに似てる……なのはちゃん、その夢いつぐらいから見はじめたん?」
「う〜ん、大体4〜5年前からかな。でも最近は見る頻度が多くなってきた。」
フェイトはなのはの4〜5年前、という言葉に覚えがあった。
「4〜5年前って言うとレリックの回収と護送任務の時にガジェットが初めて出現した頃じゃなかったっけ?」
「せやったな、そんでレリックの紛失事件も発生しはじめた頃やった。4年前の空港火災の原因と思われるロストロギアも、レリッ
クの疑いが強かったけど結局見つからずじまいやし……」
あの事件も関係しとるんやろなぁ、とはやてはため息を吐きながらこぼした。
「管理局もレリックを回収してるけど、何者かに先に回収されたのも何件かあったよね。」
フェイトの言葉に雰囲気が重くなったのを感じ、なのはは自分の夢の話から話が広がっていった為、無理に話題を変えようとした。
「で、でも夢と関係してるかわからないし……」
「それでも何回も見てるんだよね?」
しかし、なのはの思いとは裏腹にフェイトは心配そうな眼差しで見つめてきた。
「フェイトちゃん、そんな怖い顔したらアカンよ」
でも、とフェイトは答えたが、はやてはそのまま話し出した。
「うん、フェイトちゃんの心配はもっともや、それでな今度聖王教会のカリムに相談してみよか」
「カリムか……そうだね、カリムなら何かわかるかもしれない」
はやての提案にフェイトは渋々だが納得した。
当人の意思とは無関係に話が進んでしまい、なのはは苦笑いを浮かべながら頼もしい仲間の二人を見つめていた。
しかし、なのはが見ていた夢がこの事件に深く関わってくることになるが、それを知るのはまだ先の話であった。
続く