『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』




2話 「encounter―出会い―」










新暦75年5月某日





ミッドチルダ北部「聖王教会」大聖堂の一室、

陽の光が差し込む窓際のテーブルに二人の少女がティータイムを楽しんでいた。

少女の一人がティーカップを置くと目の前でおいしそうに紅茶を飲んでいる少女に話しかけた。




「『機動六課』の設立おめでとう」

「ありがとう、これもカリム達のおかげや」

「はやてが頑張ったからよ、私達はそれの手助けをしただけよ」




はやては気恥ずかしくなり照れながらカップをテーブルへ下ろした。

ふと、この場には居ないが、いつも目の前の少女に付き従っている修道女の事を思い出した。




「そういえば最近、シャッハが『無限書庫』の方に何度も通ってたらしいけど何かあったん?」

「ええ、あそこの司書長がお目当てらしいわ」

「え……嘘っ、ホンマに!?」




予想していなかった答えにはやては目を見開き、紅茶を飲んでいる最中じゃなくてよかった、と心から思った。




「冗談よ、本当は私のお使い……希少種や絶滅種が記された本や古いデバイスについてちょっと調べたくてね。彼、最近アルハザー

 ド関係の新しい説を発表したでしょう? その関係よ」

「そういう事かいな……しかし、つまらんなぁ。せっかく進展の無いなのはちゃんへのええ刺激になりそうやったのに……」




なのはとユーノは自分やフェイトより付き合いが長いのに未だにお互いの関係が、友人以上恋人未満の状態にやきもきしていた。

そんなはやての百面相を楽しそうに見ていたカリムは、その様子を見続けていたかったが近況を尋ねる。




「ところで六課の調子はどう?」

「ずっと新人達はなのはちゃんとフェイトちゃんの訓練漬けやね、確か今日辺りに新人達にデバイスが支給される筈やったんとちゃ

 うかなぁ」












スバルとティアナのBランク昇格試験の再試験より半月程経ち『時空管理局 遺失物管理部 対策部隊』通称『機動六課』は特に問題

も発生せず、滞りなく設立され、様々なことが決められていった。

フォワード部隊である「スターズ」と「ライトニング」分隊の隊長に、なのはとフェイトが任命され、

副隊長としてヴォルケンリッターより、スターズにヴィータ、ライトニングにシグナムの両名が就けられた。

スバルとティアナは、はやての申し出を受け、入隊後スターズへと配属されることになり、ライトニングにはフェイトが任務中に保

護し、養っているエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエが配属された。

設立後、特に事件の発生は無くライトニングとスターズの新人4人組は、なのはとフェイトの指導の元、戦闘訓練が行われ、朝から

日が暮れるまで続けられる訓練だったが、4人とも脱落する事無くついていった。

六課に入隊してから約1ヶ月経過した頃に、4人に新しいデバイスが支給されることになった。

各自デバイスの説明を受けていると、入隊以来初めて聞く『一級警戒態勢』の警報が室内に鳴り響き緊張が走った。

警報から間もなく部屋の2つのモニタに映像が映し出された。

そこにはやての補佐であるグリフィス・ロウランとはやて本人がそれぞれ映し出されていた。




「聖王教会より、機動六課への出動要請が発令されました」

「教会が追っていたレリックが見つかった。でも対象はリニアレールで移動してる、しかも暴走中や、恐らくガジェットが原因やと

 思われる。なのは隊長、フェイト隊長、例の事件もある。もしかしたら事件に遭遇するかもしれんから気ぃつけて。初めての実戦

 やけど新人達、いけるか?」




はやての言葉になのはとフェイトはもちろん、スバルたち4人も元気に答えた。




「「「「はい!」」」」




はやては新人達の迷いの無い返事に、ええ返事やと笑みを浮かべると隊員達へ命令を下した。




「機動六課出撃や!!」










リニアレールの暴走はスバル達4人の新人達によって停められた。

フォワード部隊が現場への到着すると同時に大量のガジェットの飛行タイプが増援として現れた為、なのはとフェイトの両隊長は列

車をスバル達に任せ、飛行タイプへの迎撃を行った。なのはとフェイトは飛行タイプに遅れをとることなく次々と撃墜していった。

一方、列車へと向かったスターズとライトニングの新人達は二手に別れていた。

スバルとティアナは新しいデバイスとも愛称が良く、順調にガジェットを撃破していった。

しかし、エリオとキャロの前には大型のガジェットが現れ、小型ガジェットより強力なアンチマギリンクフィールド(AMF)によ

り、苦戦を強いられたがキャロの機転、そしてエリオとの連携により大型のガジェットを見事破壊に成功した。

エリオとキャロが大型のガジェットを撃破した頃、スバルとティアナは他の小型ガジェットを全て撃破し列車の制御を回復させてい

た。







飛行型タイプのガジェットを全て撃墜してきたなのはとフェイトは、停止した列車へと降下しスバル達の元に降り立つ。




「ちょっと危なかったけど、全部撃破したみたいだね」

「エリオ、キャロ良く頑張ったね。偉いよ」




フェイトに褒められたエリオとキャロは二人とも照れて少し俯きながらもありがとうございます、と答えている。

その横でなのはは、スバルとティアナの初めての実戦について、いい動きをしていてよかったよ、と述べるとティアナへ向き直った。




「ティアナ、それで肝心のレリックは?」

「今、回収部隊がその車両に入ったところです」




なのはの問いかけにティアナは列車の2両目にあたる車両を指差した。

ティアナが指差した方向を見た瞬間、辺りに爆発音が響いた。見るとレリックのあった車両が炎上し黒煙が立ち上っている。

突如のことに新人4人は呆然とするが、なのはとフェイトはデバイスを構え周囲に注意を払った。




「なのは、上!!」




なのはは、上空を指差すフェイトの指先を目で追っていく。

そこには、とてもその場に相応しくない存在、一人の少女が浮かんでいた。




「えっ、何あれ!?」




スバルが声をあげたが、他の3人も同様に呆然と少女を見上げていた。

なのはとフェイトは、そのままゆっくりと上昇し少女の前へ距離を保ちながら停止した。




「お嬢ちゃん、何をしたのか判ってるの?」




なのはは優しく問いかけながらも、フェイトと共にいつでも攻撃できるようにとレイジングハートとバルディッシュを構えた。なの

はは、近づいてはじめて少女の手にレリックがあるのに気づき、少女が先ほどの列車を破壊した犯人だと確信した。






はやては突然の出来事であったが記録と情報収集の指示をするとモニタを食い入るように見つめた。

そこには少女が映し出されていた。年齢は10歳位、美形と分類されるであろう整った顔は無表情で、目は少し赤みを帯び、少し紫が

かった黒で肩より少し下まで届く髪を無造作にたらしている。

空に浮かび、黒に近い濃い紫色を主体にしたバリアジャケットを身に纏い、その手の中にはレリックが握られているのを除けば何処

にでも居るような少し暗めの少女だった。

もしやこの少女が例の事件の犯人なんだろうか、様々な憶測がはやての頭の中を飛び交うが答えは出てこなかった。




「……」




少女は、なのはの問いに何も答えずそのまま佇んでいた。




「なのは、このままじゃ埒が明かない。少し乱暴だけど拘束するよ」




異様な状況にフェイトは不安を振り払うように、なのはに言うや否や雷の二つ名に相応しく一瞬にして少女の後ろに回り込み、その

まま取り押さえようとした。

しかし、肩を掴みかけた瞬間、少女の姿が消え掴もうとした手が空振り、少女の姿を見失ってしまった。

フェイトは驚きながらなのはを見たが、なのはの視線はフェイトの後方に焦点をあわせていた。




「フェイトちゃん、後ろ……」




なのはの指摘で後ろへと振り向いたフェイトは目を見開いた、先ほどの驚きとは比にならなかった。

少女が先ほどと同じ様子で佇んでいた。しかし、先ほどなのは達と相対していた距離より何十倍もの距離があった。

フェイトは信じられなかった。感覚から『ソニックフォーム』を発動した時とほぼ同じ速度で少女は移動した事になるからである。

少女は無表情のままなのは達を一瞥し、そのまま地上の森の中へ急降下すると行方をくらました。

フェイトはすぐさま追跡しようとしたが、グリフィスから目標の反応を見失った、との報告を受けると口惜しさのせいか拳を握り締

めていた。




「なんなのよ、今の……」




ティアナが小さく呆然と呟いたが、その問いに答えることは誰も出来なかった……











続く









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