『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
4話 「weather―雨のち晴れ」
機動六課隊舎、その一室に高町なのはは居た。
なのはの前にはモニタがあり、其処には先日の事件でレリックを奪った少女が映し出されている。
少女が逃走した所で映像は終わっていたので巻き戻し、また少女が登場した所から見直した。
なのはは気付いていないがこの行為をかれこれ数時間繰り返していた。
画面の少女が一番大きく映し出された所で画像を止める。
「う〜ん」
「なのは、どうしたの?」
「ひゃぁっ!!」
誰も居なかったはずの、自分一人だけだったはずの部屋、声を掛けらることなど微塵にも思っていなかったなのはは肩をビクつかせ
驚いた。
「!!」
「びっくりしたぁ、二人だったの〜」
「びっくりしたのはコッチだよ、大きな声出すんだから……それで本当にどうしたの?」
フェイトはなのはの声に驚いて縮めていた肩をおろした。
「そやで、エライ辛気臭い顔しとる。かわいい顔が台無しや」
「え……そう?」
二人に指摘され両手で頬を押さえるなのは。
「で、ホンマにどないしたん?」
迷いながらもなのはは話し出す。
「……うん、この子どこかで見た事ある気がするなぁ、って思って……」
「「え、なのは(ちゃん)も!?」」
「「「えっ!」」」
三人が顔を見合わせる。
「そうかぁ、二人もなんか」
「でも、三人ともなんて……偶然、じゃぁないよね」
「どういうこと?」
「「「う〜ん」」」
それぞれ腕を組んだり、目をつぶったり、人差し指を頤にあて考える。
しかし『なぜこの少女に見覚えがあるのか』という今まで悩んでいた問題に『なぜ三人とも見覚えがあるのか』という問題が増え、
ますます疑問が深まった。
「ああぁ〜悩んでもしゃぁない、この事は三人の秘密にして……二人ともちょっとええか?」
これを見て、とキーボードを操作すると映像が映し出された。
「これって、この前のオークションの奴?」
「そや、この時にちょっとゴタゴタして、ティアナが死角からガジェットに襲われたのは報告受けてるやろ?」
「確かナイフが何処からか飛んで来てガジェットを破壊したって聞いたけど……! もしかして、誰の仕業か分かったの?」
「いや、それは調査中……ただその少し前に離れたところで大型の召還反応が確認されたんよ」
「それってV型?」
フェイトは三種類確認されている内一番大きなガジェットを思い出した。
管理局はガジェット・ドローンの通常のタイプを『T型』、飛行タイプを『U型』そして大型を『V型』と分類した。
以前六課では『飛行』や『T型』の二通りの呼び名が混在し、報告書等で混乱したがはやての鶴の一声で『T型』と数字で統一する
ことになった。
「それがちゃうんや、その何倍の大きさを呼べる質量やった……それも問題やけどウチが問題やと思うんはその後や、呼ばれた直後
に反応が消えた」
「術者が術の途中でキャンセルした、とか?」
それともミスとか、となのはは反応が消える可能性のある原因をいくつか挙げた。
「それらも考えられるけど、ほぼ同時に近い場所で強力な魔力が検出されとるんや、これらの事から単純に召喚と同時に殲滅された、
と考えるのが妥当やと思う。詳細は当然の事ながら不明、あまりにも短い時間やったから報告書を作るときにデータを確認するま
で分からんかったらしいんよ。ウチも報告書見るまでは知らんかったし…………二人とも、覚えといて。
この一連の事件やけどな、スカリエッティや例の少女以外にも裏で動いとる奴がおる……まだ、確証はあらへんけど間違いないと
思う。せやから、ガジェットや少女以外に他も出てくるかもしれん……それだけは覚えといて。
……後、この事は新人たちに内緒やで、不安になるだけやし、その代わり二人でフォローしたってな、ウチも出来るだけフォロー
はする」
「うん、了解」
「わかったよ」
ティアナ・ランスターは悩んでいた。厳密には六課へ入隊し初出撃した後から悩んでいた。
『機動六課』設立の為に施された隊長と副隊長に対してのリミッター、その枷を感じさせない動きを出撃や訓練の際に嫌というほど
見せ付けられた。そして、同期の同僚も素質と才能、そして生まれ持ったスキルに満ち溢れている。
なぜ自分は強くないのだろう、なぜ自分は選ばれたのだろう、そして何より、なぜ……自分はここにいるのだろう――
気付けばそんな考えを思うようになっていた。先日のホテルの件でもその思いは強く、ついに表に出てきた結果だった。
日が変わっても思いは変わらず、訓練の後には自主訓練のローテーションを繰り返していた、只でさえ過酷な訓練の後に自主訓練で
体力と共に精神力を奪っていく。そしてその日、いつものなのは対スバルとティアナの模擬戦だったはずなのにその時はいつもと違
った違った。
普段はスバルとティアナの連携はスバルのウィングロードを縦横無尽に張り巡らせ、ティアナの幻術を利用し死角からの一撃必殺を
常とした。その連携はティアナが発案していたが、実際は訓練時からなのはに叩き込まれていた応用であり、なのはの思い描いた連
携をしていた。以前その事をフェイトやはやてに対して、ようやく形になってきた、と嬉しそうに語っていた。
しかし、その日は何処か雰囲気が違った。
ウィングロードとリボルバーナックルでスバルが前衛、クロスファイアシュートでティアナが後方支援の連携、ここまでは同じだっ
た。だが、突っ込んできたスバルは幻術ではなく敵の前面に姿をさらけ出しながら突っ込むという、射撃魔法主体の相手には無謀す
ぎる軌道だった。スバルが相手を押さえ込み、ティアナがクロスミラージュの銃口から魔力で精製したダガーを発生させ死角から斬
りつける。それは、ティアナなりに強くなるために考え抜いた作戦だった。
もう誰も傷つけたくないから……だから強くなりたい――ティアナの溜め込んでいた感情を吐露した言葉も、なのはは淡々と頭冷や
そう、と切って捨てる。なのはが人差し指をティアナに向けると指先に魔力を集中し発動する。
スバルも止めようとするがいつの間にかバインドをかけられていた。模擬戦の度に使われた攻撃魔法、その光弾が無防備なティアナ
に吸い込まれるように着弾する。ティアナはそのまま気絶し、その日の模擬戦は終了となった。
波乱の模擬戦が終わり、そのままその日の訓練は中止となり各々自主訓練でその日を潰した。
その夜、ヴィータとシグナムは六課の本部隊舎の廊下から窓の外から見える訓練場を見つめていた。
暫く眺めていたが、そのままその場に居るわけにもいかず徐にシグナムへ話しかける。
「なのはは?」
「さっき、テスタロッサと外へ行った」
「そーか、こっちもさっきシャマルからティアナが目ぇ覚ましたって連絡があった。これから部屋に連れて来るみてぇだ。その時に
アイツの事、話そーと思うんだ……構わないよな?」
ヴィータはシグナムに伺う、自分でもシグナムに聞く事では無い、と分かっていた。
しかし、話さなければならない事だろう、と思っている。
「私に聞く事ではないだろう……と言いたい所だがテスタロッサより、なのはには私が話するからそちらは任せる、との事だ。お前
の好きにしたらいい、私はこういう事が苦手だ……そろそろ集まっている頃だろう、部屋へ行こう」
シグナムは指で頬を少し掻くとヴィータの背中を押し、部屋へと促し共に歩き始めた。
その部屋にはスバルとエリオ、キャロ、そしてシャマルと共に来たティアナが既に座っていた。
目立った外傷が無いのはシャマルの腕と、なによりなのはが加減した結果だった。
シグナムとヴィータは席に着くなり話し出した。
それは一人の少女の話――
ミッドチルダとは違う、第97管理外世界に数多ある惑星の一つ現地名『地球』その魔法のない世界で生まれ育った少女――
高町なのはは魔法と出会った。
魔法との出会いから正規の訓練を受けた訳でもなく魔力の強さと曲げない信念だけで『ジュエルシード事件』『闇の書事件』等を片
付けた。しかし、代償があった。当時10歳にも満たず、当然体が出来上がっていないままその状況を続け疲労は確実に溜まり、入
局して二年後に限界を迎えた。
降りしきる雪の中、先時代の遺跡調査、そこにヴィータを含めた部隊でなのはは調査に向かい、封印されたロストロギアを回収しよ
うとしたその時に正体不明の敵に襲われ、攻撃をかわす時に動きを鈍らせてしまった。結果避けれず致命傷を負ったなのはは、空を
翔るための羽をもがれながらも更に攻撃を仕掛けてきた敵に対し残る力を振り絞り、渾身の一撃を放った。
なのはの一撃が敵の攻撃とぶつかり余波で敵を撃破したが、衝撃が空間に干渉し小さな次元の穴を発生させ其処にロストロギアが落
ちて行った。敵は撃退できたがなのははその場に崩れ落ち、すぐに病院へ運ばれ緊急入院となった。
血の滲むような、という言葉では言い表せない過酷なリハビリ……それを長い間かけ再び空を翔ることが出来た。
そして、教導官になってからは隊員に無茶な行動をしないように、させなくても済むような教導を心がけた。
事実、『高町なのはの子供達』と呼ばれる教え子達は、他の教導官を師事した隊員とは任務の達成率はもとより生還率もず
ば抜けていた。
シグナムは問う、それは誰のための、本当に無茶を……命を掛け、信念を貫き通すに値する場面だったのか、と。
なのはの過去と想いを知り、シグナムの言葉がティアナだけでは無くスバル達にも重く圧し掛かる。
ヴィータの話が終わった後、思うことが有ったのかそれぞれ別々に退室していき、ティアナが自分一人になったと気付いた時、なの
はが部屋に入ってくる。
なのははティアナに自分の想い、訓練の意義、六課へ誘った理由、そしてティアナの強さを優しく語り掛ける。
なのはが自分達の事を、どれだけ考えていてくれたか初めて気づき、自然と涙が流れてきた。
なんて自分勝手だったんだろう、周りの環境に焦り、夢が遠のいていく感じがした。
結果、自分だけの強さを求めた……結局この人に付いて行くのが一番の近道だった、ティアナは自分が悩んでいた理由に気づいた。
ティアナの涙が更に溢れ出すと、なのはは頭を抱え込むと胸へ寄せる。
部屋にはティアナの泣き声が大きく響きわたっていた。
部屋の外では、心配したスバルたちが部屋の壁にもたれ掛りながら、部屋から聞こえてきた泣き声に耳を傾けていた。
続く
なのはルートという事で。
美姫 「ティアナはこれで立ち直れるかな」
どうなるかな。
美姫 「うーん、楽しみね」
うんうん。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ。
美姫 「それでは、また後でね〜」