『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
5話 「encounter―出会い2― 前編」
新暦75年8月某日
『そのままその通路をまっすぐ、あと五百メートルほどでガジェットとアンノウンの反応があった場所です』
ミッドチルダの地下開発区画、スバルとティアナ、エリオとキャロは風の様に駆けて抜けて行く。
時折通信機から聞こえてくるオペレーターの案内を聞きながら疾走する。
周りを見渡せば『開発』とは名ばかりで、半ば放棄され途中で中止された建造物や、所々に機械や道具が無造作に置かれて
いた。
話は少し遡る、訓練の繰り返しとその間をぬっての出動、その繰り返しが何度も続き新人達は肉体的、精神的にも疲労がたまってい
た。見かねたはやては新人達に一日だけとはいえ休暇を与えることにした。ただし、緊急時の為にデバイスと通信機の携帯が義務付
けられた。一日と条件付きとはいえ久しぶりの休日に喜び、スバルとティアナは市街地にショッピングへ、フェイトに心配されつつ
も、エリオとキャロは本人達は気づかぬまま某局員が仕組んだデートプランをこなしていた。
スバル達は買い物を楽しんだ後、休憩を取ろうと今ミッドで女性に人気のあるデザート専門店へと向かったが、やはり順番待ちとな
っていた。張り切るスバルと対照的にティアナは貴重な時間を、と思いつつも誘惑に勝てず数十分並ぶことにした。
後1組で自分たちの番になる、という所で聞きたくなかった音が聞こえてきた。カバンの中にある通信機のコール音だ。
ティアナは最初ケーキが、と呟いていたが直ぐに気持ちを切り替え集合場所へと向かった。
スバルはあの一件以来ティアナは変わった、と日が経つにつれ分かり、気づくと自然に少し頬が緩んでしまう。
スバルの視線に気づき何よ、と尋ねたがスバルは嬉しそうに別に、と答えると集合場所が見えてくる。
既にエリオ達も到着しているのに気づき、向こうもスバル達に気づいたようだった。
「ねぇティア」
何、とスバルの方を見ずに前を見据え答える。
「やっぱり上で大量のU型が市街地に接近してるのって今回のと関係あるのかな?」
「……多分ね、さっき本部から連絡あったけど実体と幻影が混じってるみたい……恐らく足止めでしょうね」
「足止め……ですか?」
「ええ、私達の中で空飛べるのはアンタのフリードだけだしね。対処できないでしょう」
「でも何で知ってるんでしょう?」
「前にリニアレールの事件があったでしょう? あの時もU型が出てきたけど相手したのは隊長達だし……知っててもおかしくない
わ」
「じゃぁ、足止めって事はこっちが本命ですか!?」
「多分……でもヴィータ副隊長が先行でこっちに来てくれるみたいだから」
「ティア、私達で出来るのかな?」
「……私達はあくまで現状の維持よ、ガジェットは兎も角アンノウンに手を出すとどんな結果になるか分からないわ。
とりあえずヴィータ副隊長が来るまで持ちこたえるわよ ……みんなそろそろ着くわ、お喋りはおしまい、注意して!」
オペレータの指示通りの位置にガジェットT型とV型が数体いた。
そこは何かのホールを造るためだったのか、とても広く所々に円柱が立ち並び、部屋の奥は薄暗く壁があるのか道があるのかも分か
らなかった。ガジェットは未だ気付いていないのかティアナ達に背を向け、ゆっくりと前進していた。
ティアナは気づかれる前に撃墜する、と迅速に指示を出す。
スバルとエリオがカードリッジをロードするとお互いの一撃必殺でガジェットに肉薄する、AMFが働いていたがそれを打ち破るだ
けの威力がそれぞれにあった。
V型が撃破されるとT型が一斉に反応したがその瞬間に橙色と桃色の光球それぞれ左右に分かれていたT型を襲い機体を貫く。強く
なってる、それぞれ共通に思い、感じた事だった。
ガジェットを倒したものの肝心のアンノウンの反応の主が見当たらず、それぞれ辺りを見渡した。
キャロ・ル・ルシエは自分の目を疑った。
女の子がそこに居た。
なぜこんな所に同じ年位の女の子が、自分がこんな所にいるのだから、と思考が混乱しうまくまとまらない。
しかし、少女の手に持たれていた物が目に留まると解きかけた構えを止め再び構えたまま、少女を見据えティアナへ声をかけた。
「ティア……さん、あそこ見てください」
ティアナは静かにキャロの視線の方をみるとそこに少女が居た。
薄紫の長い髪を持ち、額には何かの意匠をあしらった紋章が描かれていた。
そしてその手には以前みたレリックが収められていたケースが握られていた。
「スバルとエリオは彼女の左右に展開、その後私が声を掛けるまでその場で待機、場合によってはあのケースを確保、キャロは周囲
の警戒」
いいわね、とティアナは念話で支持を出すとスバルとエリオはすぐさま少女の左右へと移動し始める。
ティアナはスバル達が移動したのを確認すると少女から十分に距離をとったところに躍り出た。
「そこのあなた! 立ち止まってゆっくりと此方を向きなさい!」
大きな声が部屋に響き渡り、反響が返ってくる。
少女――ルーテシアは立ち止まりゆっくりとティアナの方へと向いた。
「私は時空管理局古代遺物管理部 機動六課ティアナ・ランスター二等陸士です。その手にあるケースをゆっくり下に置きなさい。
それは危険な物なの、子供が……一般人が持ってていいものではないわ」
ルーテシアは自分に銃口を向けるティアナを見るが、また前を見て歩き出した。
「スバルはケースを、エリオは彼女の拘束、一気に詰めるわよ! いいわね!」
「でもティア、まだ子供だよ、それにヴィータ副隊長が来るまで維持する、って言ってたじゃない」
念話で支持を出すティアナ、その支持に容赦は無く戸惑うスバル。
「状況を考えなさいっ、こんな所に子供がいる時点でおかしいでしょっ! 何よりレリックを持ってる可能性があるのよ。
この前の会議で八神部隊長が言ってたでしょう、レリックがあった場合それを狙ってあのときの少女が出てくるかもしれないって、
この場はケースと少女を確保して、早く隊長達と合流するわよ」
確かに子供がこんな所にいるのは怪しかったが、流石に手荒な真似をするのは憚られた。
それでもレリックを所持している可能性が高いからと戸惑いながらも頷いた。
「よし、行くわよ」
念話での会話を終え行動に移ろうとしたその時キャロの声が響く。
「エリオ君!!」
「えっ?」
キャロの言葉にティアナはエリオが居る方を見るが、エリオはおらず近くの柱へと叩き付けられていた。
エリオが居た場所にいつの間にか別の人影が存在した。
戸惑うスバル達を尻目にルーテシアはその人影へと声を掛ける。
「ガリュー、おいで」
初めて聞く少女の声、静かで見た目通りの大人しそうな声だった。
ガリューと呼ばれた人影は、虫を人型に模したような姿で首には主人の髪の色に似たスカーフを巻いていた。
「私とスバルで足止めするわ!! キャロはエリオの所へ、それとヴィータ副隊長へ連絡!」
言うや否やそれぞれ迅速にもてる限りの速度で行動に移った。
キャロは何が起きているのか理解出来なかった。
エリオの元へ辿り着き、安否を確認し、ヴィータへ連絡しようと現状の再確認の為スバル達の方へ振り向いた。
そこにはスバルとティアナが佇んでいるルーテシアをよそに辺りをキョロキョロと見渡していた。
何で、そんな考えがよぎるが突如スバルの後ろの景色が歪んだと思うと人影が浮かび上がってきた。ガリューだった。
スバルは後ろの気配を感じ取ったのか前方に跳んでから振り向くが、振り向いた瞬間ガリューの拳が眼前に迫っていた。
シールドを張る間もなく、腕でガードしようとするが、ガリューの拳はその腕を縫ってスバルの体へと吸い込まれていく。
スバルの体は速球を投げたように一直線にキャロ達の一つ隣の柱へと叩きつけられる。
「スバルっ!!」
ティアナの悲痛な声が響くが、ガリューはティアナの声をよそに再び姿を消し始めていた。
完全に姿が消えティアナは先ほどのスバルとエリオの光景を思い出し身震いする。
背後を取られまい、と近くにある柱に背をつけて辺りを警戒する。
見渡せばエリオがキャロに支えられよろめきながらも立ち上がろうとしており、スバルも柱の瓦礫から這出ようとするのが
目に映る。無事だったのか、と胸を撫で下ろすがガリューが見当たらない。ふと横を見るとルーテシアの姿が目に留まった。
すると彼女の口元が開かれ紡がれる
「……さようなら」
彼女の声がはっきりと聞こえた瞬間、視界の端に影が被さる。
はっと顔を正面に向けるとガリューが拳を振り上げている姿が目に飛び込んできた。
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