『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』














5話 「encounter―出会い2― 後編」










「……さようなら」




ティアナはルーテシアの声がはっきりと聞こえた瞬間、視界の端に影が被さる。

はっと顔を正面に向けるとガリューが拳を振り上げている姿が目に飛び込んできた。




「ティア!!」




ようやく体を起き上がらせたスバルはティアナの名を呼ぶことしか出来なかった。

動け、動け! 動けっ!! 何のために訓練をこなしてきたの! とティアナは今までの嫌というほど繰り返してきた訓練を思い出す。

しかし、悲しいかな幾ら叫んでもガリューの迫り来る右拳をただ見つめる以外の反応は出来なかった。




「おらぁっっ!!」




突如壁が壊れたかと思うと掛け声と共に紅い光に包まれた鉄球がガリューの体に当たり吹き飛ばす。

攻撃の主は静かに舞い降りる。

鉄槌を手に紅いドレスの騎士甲冑を身に纏い、ヴォルケンリッター鉄槌の騎士が降り立つ。




「何とか……間に合ったみてぇだな」

「助……かった?」

「「「ヴィータ副隊長!!」」」




無事とは言わないが四人の安否を確認して、ヴィータはルーテシアと、いつの間にか隣に移動しているガリューを見据える。




「手前ぇ、大人しくしろよっ」




ヴィータが左手を横に振るうと鉄球が五つ表れ、同時に紅い光を帯ていく。

シュワルベフリーゲン。

グラーフアイゼンで幾つもの鉄球を同時に打ち放つ。

鉄球はルーテシア目掛けて飛んでいく、ガリューが自然に庇うように前に立つ。

しかし、ヴィータは鉄球がガリューの目の前に近づくと腕をもう一度振るう。

腕の動きに合わせ球が急降下し地面に目掛けて叩きつける。

土煙が立ち込めお互いの姿を見えなくする。




「今だ!!」




ヴィータが声を上げると煙の向こうから高い少女の返事が聞こえてきた。

ルーテシアは咳き込んだ後、見渡すと氷の槍が無数に自分の周りを囲んでいるのに気づいた。

煙が晴れるとヴィータがガリューを壁に押さえつけながら声を掛ける。




「リィン!」

「はいです!」




ヴィータの声にリィンがルーテシアの体にバインドを絡みつかせた。

ルーテシアは拘束され、ガリューを召還すると大人しくした。

スバル達が集まるとヴィータは指示をだす。




「オメーら動けるか? このまま上へ出て隊長達と合流するぞ。ティアナはそのケースもっていけアタイとリィンはこいつを連れて

く」




ティアナとキャロが何事か話をしていたがヴィータに促され急いで動きだした。








地上へ上がると大量にいたU型は残りわずかとなっていた。

八神はやてが能力の限定解除を行い、広域魔法で一気に撃破した為だった。

SSランクの名は伊達ではなく、凄まじい魔力の光弾を何度も放出しても魔力は尽きることなく掃討した。

上空ではやての光弾が何度も、何度も空を駆け巡っていく。

合流地点に先に着き待機していると、今まで詰問されても黙っていたルーテシアがヴィータを見つめ静かに喋りだす。




「……逮捕はいいけど……いいの、放っといて?」

「何ぃ?」

「……あなたは、また、守れないのね」




ルーテシアの言葉に目を見開く。

白い雪の中、赤い血に染まったなのはと、闇の書と悲しみに飲み込まれるはやてがよぎった。

ヴィータはルーテシアに詰め寄ろうとしたが出来なかった。突如、巨大な光の線が上空を走り、天を切り裂いたからだ。

その光の線は計測するとSランクの物理破壊型の砲撃だった。

その光がはやてを襲う。

はやては最後のU型の集団へと光弾を放つ最中だった。

その背中に向け光が一直線に伸びていく。

はやては発動の瞬間で避けるのに間に合うタイミングでは無かった。せめてもとフィールドを展開するが、Sランクの攻撃には気休

めにしかならなかった。

そして光がはやての小さな体へと直撃する。

直撃と同時にはやての居たところを中心にして黒煙が辺りを包み込んだ。

一瞬何が起きたのか理解できなかった。




「……っ! はやて!! はやてっ!!」

「はやてちゃん!!」




ヴィータとリィンの悲痛な叫びが響く。

守れなかった……また、守れなかった。

そんな思いがヴィータの中を駆け巡る。

しかし、煙の中から声が聞こえてくる。




「ブラスターモード起動、限定解除確認! ふぅー、なんとか間に合った。大丈夫はやてちゃん?」

「助かったぁ、ありがとうなのはちゃん。ヴィータもリィンも、うちは大丈夫やからな」




聞こえてくる声と共に煙が風に流されていく、煙の向こうから声の主エース・オブ・エース、高町なのはが姿を現した。

ヴィータとリィンは、はやての無事な姿を確認するとほっと旨を撫で下ろす。

ティアナはルーテシアに今起きたことを聞くため詰め寄る。




「あなた、まだ仲間が居たの!」

「ティアさん、足元!!」




ルーテシアに手を伸ばしかけた所でエリオの声が耳に入ってくる。

足元を見ると地面から人が飛び出してきた。

ありえない、地面から人が通り抜けてくるなんて、そんな思いでいっぱいだった。

浮かび上がってきたのは青い髪をもつ少女―セインだった。セインはティアナの眼前まで迫り交差すると、すれ違いざまにケースを

奪う。スバルはセインを着地の瞬間に捕まえようと詰め寄るが、セインは着地せずそのまま地面へと吸い込まれる。




「くそっ! しまった!!」




ヴィータもあまりにも突飛なことで反応が遅れる。

ヴィータは次にルーテシアを助けに来る、と思いルーテシアの方へ振り向くと、セインが再び地面より浮かび上がりルーテシアを抱

きかかえていた。

ヴィータは沈みゆくセイン達を掴もうと飛び掛ろうとするがそれは出来なかった。

目の前にナイフが刃をヴィータに向け浮いていた。ナイフはそのまま急降下し、吸い込まれるようにヴィータの足元へめがけ落ちる。

いや、落ちると言うには早すぎる速度で飛んでいく。

しかし、幼い体を持ちながらもヴォルケンリッターの先陣を担うヴィータにとっては急な攻撃にも難なく後ろへ跳び逃れる。

ヴィータは着地すると同時に、ルーテシアの方を見るがすでに沈みきっており、キャロより索敵から逃れた、との報告がほぼ同時に

受ける。

ちっ、と舌打ちすると、ナイフの出現と同時に現れた気配が未だに自分の後ろにあるのを感じ取った。




「手前ぇ、どういうつもりだ!!」




ヴィータは振り向きながらグラーフアイゼンを突きつける。振り向きながらもカートリッジをロードするのは忘れなかった。

そこには銀髪の長髪をなびかせ、右目に眼帯をし、コートを羽織り、手にナイフを持った少女―チンクがいた。

コートから覗く青いボディースーツに見覚えがあった、先ほどケースとルーテシアを奪った青髪の少女と同じ服だった。




「その服……さっきの奴の仲間か、まぁいい手前ぇを拘束させて色々と吐いてもうらうぞ」

「ちょっと待ってください!! ヴィータ副隊長」

「ああ!? なんだティアナ、後にしろっ!!」

「すぐ終わりますから……あなた! 『ホテル・アグスタ』で私を助けてくれた人でしょう?」




チンクの持つナイフを見て、以前ガジェットから助けてくれた謎の攻撃を思い出す。

あの時も確かナイフが飛んできたはずだ、忘れるはずがない。

そうなんでしょう、とティアナは問いかけるがチンクはティアナ達を見つめたまま表情を変えず答えなかった。




「後にしろって言ってんだろ!! 状況を考えろ!! 捕まえりゃいつでも聞けんだ! それに、多分コイツはお前の言っていた奴とち

 が――」




ついヴィータはチンクからティアナへ視線をはずしてしまった、ほんの一瞬だった。

しかしチンクはその一瞬で行動に移っていた。

再び視線を戻すとナイフを持っていた右手を振り切った後だった。

先制されヴィータは完全に間をはずされてしまう。

しかし狙ったのはヴィータではなく、チンクとヴィータの間の地面だった。



ドゴオォォン



ナイフが突き刺さるのと同時に小規模ながらも爆発が起きる。

ヴィータは反射的にフィールドを張るが、スバル達は顔を手で覆うことしか出来なかった。




「きゃぁ!!」




突然の爆発によりキャロの声が後ろから聞こえてきたがヴィータはそのまま前を見続けていた。

自然とグラーフアイゼンを握る手に力がこもる。

爆煙が晴れるとそこにチンクの姿はなかった。











ヴィータは目を閉じ頭を落ち着かせる。

落ち着け、私はヴォルケンリッター『鉄槌の騎士』ヴィータだ。

目を見開くとすぐにはやて達に連絡をとる。伝えるべきことは分かっている。

レリックのケース強奪と重要参考人の逃走、言い訳することなく、自分の責任だ、新人達は良くやった、彼女達に非は無い、と伝え

る。
 



「あのぉ〜、ヴィータ副隊長……ちょっとよろしいですか?」

「なんだ、今報告中だぞ!!」

「聞いてください! 実は……あのケース空なんです、地上に上がる前にレリックだけ取り出してキャロの頭に……ほらっ」




ティアナはキャロの帽子を取ると中から幻術で花に変えられたレリックがあった。




「……はは、オメーら」




思いもよらない新人達の行動に驚きながらも感嘆した。




「ヴィータちゃん」




なのはとはやてが一緒にヴィータの元に降り立つ、フェイトとシグナムも近づいてくるのが見えた。

ヴィータははやての所々汚れてはいるものの、怪我が無い事を確認するとなのはへティアナ達の手柄を報告する。




「隊長さっきの報告だけどな、一部修正だ。レリックは確保ってな」




この通り、と手にある幻術が解かれた赤い結晶――レリックを見せる。

こいつ等のおかげだ、と後ろに控えていたティアナ達へと振り向いた。








水が空を舞う。

陽の光を浴びキラキラと赤く舞う。

絶え間なく赤い噴水がキラキラと空を舞う。

その噴水はヴィータの右手から、右腕の断面からだった。

その水は陽を浴びて赤くなっていたのではなく、ヴィータの血の色だった。




「……え?」




誰も何が起きたか分かっていなかった。

当人であるヴィータでさえ何が起きたのか理解できなかった。

しかし、すぐに痛みが現実として襲ってくる。



「う、ぅあああああああああああっ!!」

「「「ヴィータ(ちゃん)」」」

「キャロ! 応急処置しといて!……シャマル! シャマル、聞こえるか!? ヴィータがっ! はよぅ来て!!」




キャロによってなんとか血止めだけでも、と治療が続けられる。




「ふふふ」




その時、なのは達に笑い声が、風に乗って耳に届いてくる。

声の主が其処に居た。

あのリニアレール事件に現れた少女だった。

少女はあの時と同じ姿で立っていた。

しかし、あの時と二つだけ違う所があった。

その左手にはヴィータの右手に握られたレリックと右手に柄に雪の結晶を象った装飾を持つ刀のデバイスが一振り、そしてなにより

違ったのは表情だった。あの時は無表情だったが今回は笑みを浮かべていた。




「ふふふっ、やっぱりあっちは偽物だったんだ……でも私の目は誤魔化せないよ」

「……あなたを殺人未遂の現行犯で逮捕します」




ヴィータに付いているはやての代わりになのはが伝える。




「やってみたら? ああ、取り合えずいらないから返すねコレ」




少女はそう言いながら切り取ったヴィータの右腕をなのは達へと投げる。




「貴様ぁ!!」




シグナムがレヴァンティンを振りかざしながら少女との間を一瞬にして詰める。

以前、主より見つけ次第拘束しろ、と命を受けていたがそんな考えは吹き飛んでしまった。

なにより足が、腕が、体が動いていた。

捉えた、反応出来ていない少女にそう確信する。

レヴァンティンを振り下ろそうとした瞬間にシグナムは横からの衝撃に吹き飛ばされる。




「がっ!!」

「シグナム!!」




フェイトはシグナムの元へと駆け寄る。




「ありがとう」

「……」




そこには男が立っていた。

少女の声に再び少女の方を見ると、その横に一人の男が立っていた。

いつの間に、スバル達は男がいつ現れたのか分からなかった。

状況から、現れた男がシグナムを攻撃したのは明らかだった。

スバル達は新たな乱入者にそれぞれデバイスを構え警戒する。しかし、そんな中なのはの声が聞こえてくる。




「あ、あぁ、な、何で……?」




スバルはなのはから聞いた事が無い動揺した声が聞こえなのはを見る。そこには、信じられないものを見たような目で男性を見詰め

ているなのはが居た。気付くとはやてとフェイト、ヴィータ、リィンフォースUも目を見開き呆然と男性を見詰めていた。

そしてなのはの口が開かれ、言葉が紡がれる。










「……お、兄ちゃん」







そこには高町なのはの兄――高町恭也が立っていた。











続く








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