『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』
7話 「feeling―予言―」
新暦75年8月某日
帰還したその夜、はやては部屋に一人で各自の報告書に目を通していた。
今日は色んな事が起こった。幸いヴィータの切断された腕は、すぐに来てくれたシャマルによって傷跡も無く綺麗に回復した。
せやけど、まさかミッドで恭也さんと出会う事になるとは……しかも敵やなんて。
でも、あの恭也さん……なんやちょっと――
はやてが思考の海へと深く深く潜りかけたその時、部屋へフェイトが入ってき、はやては海面へと顔をだした。
そういえば帰還した際、フェイトより話があると持ちかけられたのを思い出す。
「なのはちゃんは?」
「今眠ったところ」
「で、話って?」
「アルフに頼んで地球のドイツにいるはずの恭也さんの様子を調べて貰ったんだけど……」
「せやけど?」
「結論から言うと消息不明……ドイツに行ってからは美由希さん達も会ってないみたい……数年前も帰るって連絡があったのに急に
帰れなくなった、って言われてから連絡が来なくなったって……で、美由希さん達も心配だから連絡取ろうとしても連絡先が分か
らないから、奥さんの忍さんの親戚に聞いたらしいんだけど、毎回『長期の仕事が入ってる』とか『元気でやってる』とか『まだ
まだ新婚気分で邪魔されたくないんじゃないかな』とかでね、おかしいとは思っているみたいだけど海外だしね、調べようがない
みたい。で、アルフに直接現地に飛んで貰ったんだ。幸いドイツに引っ越した時に来た手紙から住所は分かってたからね。住所も
合ってたし、大きなお屋敷だったから何日か外で様子を伺っていたんだけど、不在みたいだったんでちょっと忍び込んで貰ったん
だ」
「ちょっ、忍びって、フェイトちゃん!?」
「ちゃんと隠匿と人払いを施させたから大丈夫だよ」
「そう言う意味とちゃうんやけどなぁ……まぁええか、で?」
「目茶苦茶に荒らされてた……ただの泥棒って訳でも無かったみたい、貴金属の類は取られてなかったらしいの。でも、一つだけ気
になる事を言っていたの」
「何? 気になる事って」
「部屋の一つに大きくてだだっ広い倉庫のような部屋があったらしいんだけど、そこには床に見たことの無い魔法陣やら何かの儀式
をした痕跡があったの、そして異様な魔力が残っていたみたい」
「魔力か……関係あるんかな?」
「どうかした?」
「フェイトちゃんは気づいてたんかな、あの恭也さん、若うなかった? 元々若作りな顔立ちやったけど……最後にあってから大体
5〜6年は経ってるから30歳は超えてたはずやし……おかしない?」
「! そっか、最後にあった時の印象しか覚えてなかったから不思議に思わなかったけど確かに若いかもしれない。
っと言うことは……あの人は恭也さんじゃない?」
「かもしれへん、でもそれやと説明がつかへん事がある。あの構えや。あの構えは恭也さんにそっくりやった……私でも気づいたん
やからフェイトちゃんも気づいとったんやろ? 姿形は幻術魔法で変えれても、しぐさなんかは真似できるもんや無い」
一時期とは言え、手ほどきを受けていたフェイトには何度も見続けていた構えだった。
多分シグナムも私以上に気づいていたはずだ。
フェイトは訓練ではなく頻繁に勝負をしていたシグナムを思い出す。
「……本物と思うつもりはあらへんけど、可能性が無いとも言えん」
「でも、そうだとすると今後は戦い辛くなるね、本物か偽物か判断出来ないと無闇に攻撃できないし……だからと言って、あの少女
を攻撃するとなのはの時みたいに間に入ってくる可能性もあるし……やっぱり抑えこむしかないのかな?」
「せやな、抑えこむとしても、あの男の技量が仮に恭也さん並やとしたら、ウチらで対抗できんのはシグナムぐらいか……多分シャ
ッハも対抗できるやろうけど、所属がちゃうしなぁ……明日教会に行った時に一応声掛けてみるか」
「そうだね……あの子また来るような事も言ってたし、早めに言っておいた方が良いと思う……明日は確かなのはも一緒に行くんだ
よね」
「そうや、クロノ提督も来るからその時に今回の報告と今後について…………それに機動六課についても」
翌日、なのは達3人は聖王教会の一室に通された。以前はやてがカリムと歓談した部屋だった。
部屋にはすでに教会の騎士であるカリム・グラシアとフェイトの兄で次元航行隊提督にして『クラウディア』の艦長であるクロノ・
ハラオウンの両名が座っていたクロノから語られる『機動六課』の設立理由……表向きのレリックを始めとするロストロギアの対策
と独立性の高い部隊の試験運用、勿論これらの理由もあるが別の理由が存在した。
もう一つ裏の理由をカリムから語られた、何故ならカリムの持つ能力が関係しているからであった。『プロフェーティン・シュリフ
テン』一種の予知能力で数年先まで予知が可能な能力。しかし、古代ベルカ語からの翻訳など様々な条件の為、的中率としてはあま
り高くない。が、内容によっては無視できない物も存在する。
そこで話は最初に戻り六課の設立理由がこのカリムの能力に関係していた。ある日カリムによって予言が読まれた。
『古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇り、
なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、それを先駆けに数多の海を守る法の船もくだけ落ちる』
予言は『ロストロギアがきっかけに起こる事件によって、管理局地上本部の壊滅と管理局システムの崩壊』そう解釈され非公式なが
ら『伝説の三提督』も後見として就いた。とても無視できない内容、そしてなのは達にはロストロギアに心当たりがあった。
レリック―数年前から現れた強大な魔力を秘めた赤い結晶、多数存在が確認され不可解な部分が多く未だに解析中のロストロギアで
ある。
4〜5年程前から発見され、現在まで幾つもの存在が確認された。そして同時期に発生した強奪事件……この数年の決して短くない
出来事がすべて繋がっている。
なのはとフェイトはこの数年、関わってきたレリックがこんな大仰なことになっていたとは微塵も思ってもいなかった。
フェイトの頭にナンバーズ――青いボディースーツの少女達の首にある数字から、先日の件以降そう呼ばれる事になった――の少女
達がよぎった。
「じゃあ、あの少女達がそんな大それた事を……それに」
「あぁ、そうや。恭也さん……のニセモンも関わってる可能性もあるって事や」
「……」
なのはは未だに昨日のショックが残っているのか起きてから挨拶ぐらいしか言葉を発せず、座ってからもずっと俯き加減のままだっ
た。
「はやて、報告にあったナンバーズとは別の謎の少女と恭也さんの偽者についてだがコチラと教会で調査する」
「じゃぁウチらは?」
「また来る、と言っていたのだろう。その少女は、なら襲撃を迎え撃つ準備をしてくれ」
「え? でもクロノ、いつ襲撃があるか分からないよ?」
「フェイト、大体の目処はついたんだ『地上本部公開意見陳述会』……騎士カリムや教会からも何人か出席する予定だ」
「っ! 六課が、管理局が一番手薄になる!?」
「そうよ、防犯上の理由でデバイスは勿論の事、武器の類は会場に持ち込めない……上位ランク者が何人居てもデバイスが無ければ
満足に戦えない」
「騎士カリムの言う通りだ、各部署の高官が集まる。奴らの襲撃には持って来いの条件だ。
僕は他の任務で出席出来ないが警戒するように手配しておくし、教会も対策を立てる予定だ……
しかし、現場での頼みの綱は君達だと言うことを覚えておいてほしい」
はやてはクロノとカリムの話に軽くため息をついた。現状の管理局、機動六課、自分たちの事、それらを考えると致し方ないことだ
った。
「なんや後手に回ってるなぁ」
「仕方がないさ、でも現在敵のアジトの位置を調査中だ……ヴェロッサと協力者とで行っている」
「ロッサが? でももう協力者って誰なん?」
「あー、そのなんだ……騎士カリムが雇ったんだ、今は臨時ながら教会の所属となってる」
クロノにしては歯切れの悪い言葉に疑問が残りながらも、はやては先ほど報告の際に依頼した人物かと思い尋ねた。
「シャッハ?……じゃないみたいやし、言われへんの?」
「ちょっとな……まぁ近いうちに会えるさ」
「ふぅん、なんか企んどるなぁ。シャッハもずっと無限書庫に出入りしてるみたいやし、まぁええわ、時期が来たらちゃんと話して
や………………よし、そろそろ行こうか? こっちも対策練らんとあかんしな、時間もそんなにあらへんし」
「うん、そうだね」
そう言うとそれぞれ立ち上がる。
なのはは結局しゃべることなくゆっくりと立ちあがるとそのまま部屋を出ようとした。
その背中にクロノが声を掛ける。
「なのは、恭也さんを信じるんだ。フェイトもはやても恭也さんを信じている。
なのはが、僕らの中で一番長く過ごして来た君が信じてあげないでどうするんだ!」
「…………ぅん……そう、だね。うん、私が信じないと……ありがとうクロノ君」
クロノの言葉に幾分か顔に生気が戻り、表情にも笑顔を浮かべながら、はやて達に続き部屋を後にした。
部屋を出たなのは達はそのまま出口までの廊下を歩いていた。
フェイトとはやての目からも、なのはを取り巻く雰囲気が明るくなったのを感じる。後でクロノに感謝しなければ、と同時に思った。
今のなのはなら話しても大丈夫だろう、と判断しはやてはきりだした。
「二人ともごめんな……機動六課の事、予言の事黙ってて」
「いいよ、私もフェイトちゃんも納得して此処にいるんだから」
「そうだよ、それにはやてだってなのはの教導隊の件や私の執務官の時だって色々手助けしてくれたでしょ。だから今度は私達がは
やてを手助けする番」
「ウチは二人に助けてもろた、命を救ってもろた……だからそんなん当たり前や」
「ひどいな、はやては私達に恩を感じて助けてくれてるの?」
「ちゃう、ウチは二人を大事な親友やと思ってる、困ってたら助けるんは当然や……恩とかそんなん関係ない」
「わかってるよ、私達も同じ気持ちだよ」
「友達ってそういうものだと思うよ」
「……二人とも……ありがとうな」
はやては自分を恥じ、そして二人に感謝しながら涙を浮かべていた。
続く