『リリカルなのは StrikerS IF〜tentative title〜』














8話 「reinforcement―襲来―」










新暦75年9月某日




そしてその日は訪れる。

『地上本部公開意見陳述会』が管理局の地上本部で開かれ、なのはとはやては会合に出席し、フェイトをはじめ副隊長とフォワード

陣は建物の周辺と内部の警護を担当していた。

なのは達は、事前にこの日が襲撃日と予測していたが結局有効な対策は立てられず、なのはとはやてへのデバイスを最短で届ける手

段や、様々なパターンの襲撃予想に対しての対策を練るぐらいしか出来なかった。

なのはとはやて、カリムとシャッハは不安を抱え、話の内容はうまく入ってこなかった。時間が経つにつれ会合も終盤となり4人の

緊張は高まっていたが、同時にこのまま何も起こらなければ、という期待も湧いてきた。

しかし、運命は少女たちに容赦なく襲い掛かってくる。

ちょうど体格のいい好戦的な将官が声高に演説を始めたとき、建物全体に僅かな震動が感じられた。

なのは達を除いて多数の局員は、防御壁に自信があったのか特に慌てた様子も無く、このまま問題なく会合が続けられようとした。

その時、会場の明かりがふっと消え、震動も先ほどより大きく感じ始める。

ようやく周りの局員達も事の重大さに気づき、何人かは外部と連絡を取ろうとするが通信障害が起こり連絡が取れなくなっていた。

更に、エネルギー供給も遮断されておりドア一つの開閉にも時間と労力を有する事ととなる。

なのはは最初の震動の時からいち早く外部と連絡を取ろうとしていたが、繋がらないと知るとはやてと共に真っ先に会場を後にした。

既に部屋から脱出したなのはは、同階で警護していたフェイトと合流すると、エレベーターのワイヤーを伝って降りるという荒業を

行っていた。地上階には既にシミュレーション通りにティアナがエレベーターのドアを開け待機していた。

彼女からデバイスを受け取ると素早くバリアジャケットを身に纏い建物から光の如く飛び出して行く。

はやては建物に張り付いていたガジェットを一掃するとその場で指示を行うため残る事になった。

しかし、彼女の耳に入ってくる情報はどれも最悪の物だった。

管理局全体のシステムをハッキングされ対処不能な状況に、さらにガジェットだけではなく大量に大型の虫が市街地に召還され並み

の局員では対応できず、そして地上本部の様々な設備からの爆発と共に火災が発生していた。

その設備の一つには機動六課も含まれていた。

その報告を聞いた時に六課の隊舎で待機していたはずのシャマルとザフィーラからの繋がりが、反応が弱くなっているのに気づいた。







スバル・ナカジマはナンバーズの内の2人と遭遇していた。

エリオとキャロのライトニングの二人とは違い、パートナーであるティアナが会場に居るなのは達にデバイスを届けに行った為、単

独で次々と召還されてくるガジェットを撃破していった。入隊から半年が経ちなのは達のスパルタな特訓に加え、新人では与えられ

ないような実戦をこなしていった。その為スバル達の体力面や技術面、そして精神面にも飛躍的な成長を促す。

その彼女たちにとって最早ガジェットは各々が単独で撃破出来るまでとなっていた。

エリオとキャロは、以前逃げられた紫髪の召喚師の少女に思うところがあるのか、少女の反応がある所へと一目散に向かっていった。

ティアナも召喚虫をいちいち倒すより召喚者を捕まえて止めた方が早い、と言っていたから任せて当初の予定通り局員の手に余るガ

ジェットの破壊に専念する。

ふと上空に桃と金の魔力光が凄まじい勢いで駆け巡りU型を破壊していく。ティアナがなのはとフェイトにデバイスを渡した証拠で

あった。その事を確認すると私も、と力強く呟くと右手のリボルバーナックルのスピナーも力強く回転し、そのまま目の前のガジェ

ットへと向かって叩き込む。

スバルはガジェットを順調に撃破していく。

その彼女の前方よりありえない物が目に飛び込んできた。

それはスバルが良く知っていて、そして知らない物だった。

光状の帯が自分めがけて向かってくる。

それはまさしくスバルが使う『ウィングロード』に違いなかった。そして同時に初めて見る物でもあった。

『ウィングロード』を使うのは二人だけ、自分ともう一人、姉のギンガだけのはず……しかも姉は父の元で働いているはずだった。

何より姉の魔力光とは違い目の前に迫る道は黄色の魔力光で形成されていた。そしてそれを操るのはナンバーズの9を冠する赤髪の

少女、『破壊する突撃者』ノーヴェ。

そしてもう一人、身の丈ほどの板状の『ライディングボード』を乗りこなしている同じく赤い髪の少女、11を冠し自在にボードで

空を支配する『守護する滑空者』ウェンディであった。

お互いが一定の距離を保ち、止まるとそれぞれ腰を少し落とし構えをとる。




「あいつじゃねぇのか。くそっ」

「ノーヴェ〜、クア姉が言ってたじゃねぇっすかぁ……作戦が終了する頃に現れるだろうって」




スバルは目の前の少女達が何を言っているのか分からなかった。しかし、同時に分かっていた事があった。青いボディスーツ……前

回現れた地中を行き来する少女、そしてなのはの兄、と呼ばれる人が着ていたものとおなじだった。結局あの後は詳しい事は聞けな

かったけど事情を知らないスバル達は隊長達の大好きな人が、事情が分からないが敵になった、という認識だった。

その者たちと同じスーツを着ているという事は彼女達も敵だろう、と。

そして、もう一つスバルは気づく。
       ・・
彼女達は自分と同じ、だと。




「お前達は何でこんな事をする!!」




スバルが問答無用にノーヴェ達に問いかける。

ノーヴェは何を言っているんだとばかりに鼻で笑うとスバルを見据える。




「はんっ! そんなのこれから捕まるお前に言う必要なんて無ぇだろ」

「そうっすよねぇ、あなた一人じゃどうせあたしらには勝てねぇっすから抵抗なんて無駄っすよ。ドクターは結局解体(バラ)すん

 でしょうけど、出来れば無傷で持って帰りたいんで大人しくしてくれないっすかぁ」




飄々とした様子でウェンディが話す。

スバルは二人の話の内容を何度も頭に反復させる。

やはりコイツ等は……先日の青髪の少女――セインを見た時から引っ掛かっていた疑問が確信に変わりスバルは二人を睨みつける。

管理局の入局する前に父から聞かされていた自分と姉の出自が思い出される。




「お前達……やっぱり戦闘機人!!」

「へぇ、気づいてたのか……なら説明は尚更いらねぇな、生みの親が呼んでるんだ来てもらうぜ『タイプゼロ』!」

「うるさいっ! その名で呼ぶな! 私はスバル! ゲンヤ・ナカジマとクイント・ナカジマの娘、スバル・ナカジマだ!」




ノーヴェはスバルの触れてはいけない部分に触れてしまった。

スバルの目の色が金色へと変わる。

マッハキャリバーのマフラーから煙が出たかと思うと、高速でその体を滑らせノーヴェ達へと向かっていく。

同時にカートリッジのロードが終わるとリボルバーナックルのスピナーの回転数が跳ね上がる。

先ほどのガジェットを相手にしていた時より更に早く、そして力強くうねりをあげ回転する。

そして手前にいたノーヴェに肉薄するとそのまま力任せに拳を叩き込む。

予想外の速さにノーヴェはシールドを展開できず、両腕で直接防ぐ事しか反応できなかった。

そしてノーヴェはそのまま壁へと叩きつけられる。




「ノーヴェ!?」

「つっ、大丈夫だ。くそっ」




ノーヴェはその言葉とは裏腹に内心は苛立っていた。

なんとか腕で防いだが、完全に破壊された腕を伝わり、体の内部の至る所に支障をきたす損傷が自覚できていた。

ノーヴェの元に駆け寄ったウェンディはノーヴェの酷い有様に身を震わせる。

任務を遂行できないのは悔しいが捕まる訳にはいかない……ウェンディはノーヴェをライディングボードに乗せようとスバルを見や

りタイミングを見計らうがスバルは泰然とノーヴェ達に近づいてくる。

そしていよいよノーヴェの近くまで来たとき、途端にスバルの体が視界から消えた。横へと吹き飛ばされた為だった。

スバル、とちょうどやって来たティアナが呼びかけた瞬間、目の前に飛び込んできたのは吹き飛ぶスバルの姿に驚く。

一方何が起こったのか理解できなかったノーヴェ達に声を掛ける人影があった。

濃い紫色のバリアジャケットを着た少女と、ナンバーズと同じ青いボディスーツを着た男性がそこに居た。




「手酷くやられたわね」

「あんたっすかぁ。助かったぁ」

「テメェに助けられるとはな」

「……早く行きなさい、作戦は遂行されたわ。すでにルーテシアちゃんも機動六課に管理されてレリックを確保したし、貴方達の他

 の姉妹もすでに撤退を開始したわ。ここは任せて行きなさい」

「お言葉に甘えるっすよ」




言うや否やノーヴェをライディングボードに乗せ、自身もボードに乗ると高速でその場から離脱していく。

少女はノーヴェ達が撤退するのを確認するとスバルとスバルの元へ駆け寄って行ったティアナを見る。

そして、と呟きながら視線を横へずらすと、なのはとフェイトが空から降り立つ所だった。

気づけば空一面に居たガジェットの姿は無くなっており、遠くの方で幾つか戦闘の音が聞こえているだけだった。




「お久しぶり……って言うほどでもないわね。どう、迷いは無くなった?」

「…………お兄ちゃん」




なのははこの場所に着いたときから少女の横にいる人物から視線を外せなかった。

なのはに呼ばれた男は何も反応せず、そのまま微動だにせず少女の横に控えていた。

不安げな表情を浮かべていたが、ふいにクロノの言葉が思い出され、目を閉じる。そして目をカッ、と見開く。その瞳は力強く、迷

いは無かった。

デバイスを強く握り直すと少女に向け構える。




「今度こそ、お兄ちゃんを返してもらうから」

「ふふふ、じゃぁ貴方が相手しなさい」




少女にそう言われ男は静かに頷く。

それと同時に男は、腰に下げていた二刀の小太刀を鞘から抜き構えたかと思うと、体がふっとブレ、次の瞬間にはなのはの目の前で

刀を振り上げていた。

なのはは咄嗟にシールドを張る。振り下ろされた刀と掲げたレイジングハートに張られたシールドが衝突する。

衝突の衝撃か二人を中心に土ぼこりが周囲へ拡散する。

力の差か、なのはの方が徐々に押され始めた為、横へ逸らすと同時に上空へと逃れようと昇り出す。

この時なのはは失敗を犯した。空へ逃れる為にと相手を見ずに昇った事だった。少し昇った所で地上へと視線を移すと男の姿がどこ

にも無かった。見渡すとスバルとティアナ、少し離れてフェイト、そして更に離れた所に少女が居た。少女と目が合うと少女のにや

けた顔がひどく気に入らなかった。

そして気づく、不意に影が過ぎり振り向くと、自分のすぐ後ろに刀を振り降ろす男の姿があった。

なのははそのまま地面へと叩きつけられ、地面へと少しめり込んだ。しかし、バリアジャケットから発生しているバリアと咄嗟に自

分と刀の間へと入れたデバイスがなのはを致命傷から守る。

致命傷は無いものの痛みに苦悶の表情を浮かべながらレイジングハートに安否を尋ねる。問題ない、とデバイスからの返事に安堵し

ながら立ち上がる。




「なのは!!」




フェイトはなのはへと近づこうとしたが出来なかった。

いつの間にか少女が自分の横まで移動し、首元に刀を突きつけていたからだった。




「ダメよ、邪魔しちゃぁ……あなたはここでゆっくりとお友達がやられるのを見ていなさい。そこの貴方達もよ」




少女の声になんとか援護しようとしていたティアナとスバルも、フェイトの首から滲みでた血を見て動きを止める

笑みを浮かべていた少女は、刃を伝って来たフェイトの血を舌で舐め取る。おいしい、と呟くと歯痒い表情を浮かべる二人を見て満

足そうにさらに笑みを強くした。

なのはと男の相性は最悪だった。片や近接戦闘主体の剣士、方や射撃型魔導師、当然なのはは接近戦が不利だった。

なのはもその事を分かって間合いを取ろうと離れようとするが、上へ逃れようとしても横へ逃れようとしても、離れた瞬間に背後へ

と回り込まれてしまう。なのはは男が横はともかく上への移動は飛んでいるのではなく跳んでいるのだと理解した。

しかし、理解した所でどうにもならなかった、“跳ぶ”には限界があるため一定以上の距離まで離れればいいだけの問題だった。

初速が違いすぎたのだ。なのはは一定の距離を取ろうと魔法で牽制しながら空へ飛ぼうとするが、男は難なく回避しながらなのはの

背後へと回り込み叩き落とす。

過去にシグナムと模擬戦を行った事があった。結果は引き分けに終わったが、続ければなのはの負けだった。模擬戦、と言う事もあ

るが、シグナムは騎士としての生真面目さ、実直さ、という性格が働いた為、なのはの攻撃に正面から付き合っていた。そして何よ

り当時は能力限定をつけておらず、魔力にも余裕があった。

解除すれば倒せるだろう、しかし、今この場になのは達の限定解除を行える者はおらず、今の限定されたままで対応せねばならなか

った。

幾度か試みるがその度に叩き落されてしまう。次第になのはの体力も落ちていき動きが鈍っていく。

バリアジャケットのお陰で全て致命傷にはなっていなかったが、それが仇となりダメージがその体に蓄積されていった。

そしてなんとか立ち上がったが足が震えていた。




「もういいわ……前の方がましだったわ。やっぱりまだ迷ってたみたいね。貴方の力なら簡単に打開できたのにね。でもその機会も

 う無いわ」




少女の言葉が終わるや否や男は無防備ななのはめがけて刀を振り下ろした。

なのはは遠くでフェイトやスバル達のなのはを呼ぶ声が聞こえてくる。

振り下ろされた刃が眼前へと近づいてくる。

ふと海鳴で兄達と過ごしていた事が思い出される。次いで魔法との出会い、海上でのフェイトとの対立、雪の中リィンフォースを送

った事が……そして最後に管理局に入ってから今までの事が思い出される。




「ごめんね、おにいちゃん……元に戻せなくて」




フェイトが、スバルが、ティアナが、そしてなのはが諦め、皆一様に固く目を閉じる。

その時、風に乗ってなのは達の耳に声が届く。

声が聞こえたかと思うと、なのはから一番離れていたスバルとティアナの横を突風が後ろから前へと駆け抜けていく。

ティアナのツインテールが前へと流され、横に居たスバルは突然の風に驚きの声を上げていた。






それはこの場において異質な存在だった。

その服装はとても戦闘を行うのに適した物では無かった。白いエプロンドレスを身に纏ったその装いは一般にメイド服と呼ばれる物

だった。さらには右腕にはその装いに不釣合いな無骨な刃が魔力光に覆われており、その刃で男の攻撃を軽々と受け止めていた。

そのメイド服を着た薄紫の髪を持つ女性が、なのはを左腕に抱えている。

そして、その女性はなのはを抱えたまま口を開く。




「ご無事ですか なのは様」

「……え、ノエ、ルさん?」

「はい」




なのはの問いに笑顔で答える月村家の侍女長、ノエル・綺堂・エーアリヒカイトがそこに居た。










続く




ピンチピンチ。
美姫 「そこに颯爽と現れたメイドさん」
いやー、どうなるんだろうか。
戦場に咲く一輪の華。次回が、次回が〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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