「まさか、こんなところに真祖の姫君が現われるとは思いもしませんでしたよ。」

 

先ほどまで恭也達同様怯えていた様子だったアルフレッドは落ち着きをとりもどしたように平然とし、女に向かって語りかけ始めた。

 

「志貴についてきただけだったんだけどね。でも、あなたとは過去に2,3度、顔を合わせたぐらいだけど個人的にも嫌いだったし、やりすぎてるみたいだから、殺してあげるわ。」

 

薄く笑う女。その笑みは妖艶そのもの。その笑みに恭也は背筋が寒くなる感触を感じた。

 

「ふふ、残念ながら私はまだ殺されてやる訳にはいきませんね。」

 

「あら、この状況で逃げられると思ってるの?それともまさか私に勝てるなんて思ってるんじゃないでしょうね?」

 

アルフレッドの言葉に女は呆れたといった表情をする。だが、アルフレッドは平静の笑みを崩さない。

 

「確かに今の私ではどうやってもあなたには敵わないでしょう。しかし、逃げることならできる。」

 

アルフレッドははっきりと断言する。それを見て女は僅かに眉をひそめた。

 

「そう?試してみる?」

 

言って女は飛び出した。その動きはあまりに素早く恭也には離れて見ていててすら消えたようにしか見えない。

 

(捕らえた。)

 

女がそう確信した瞬間、しかし、女の腕は空をきる。

 

「えっ!?」

 

女は思わず驚きの声をあげる。そして彼女は気配を感じ取り真上を見上げた。そしてそこには予想通り、アルフレッドの姿が浮かんでいる。

 

「空間転移!?」

 

「私は錬金術師にして魔術師。真理を求めるものの一人として、その過程で得た芸の一つや二つ持っていますよ。」

 

通常、魔術では空間転移は出来ない。空間に干渉できるのは魔術を極めた先、魔法かそれに近い領域の力なのだ。それが使えるということは彼が魔術師として相当の力を持っている証である。

 

「くっ!!」

 

三下と思っていた相手に引っ掛けさせられた事に女が怒り、歯噛みをする。そして、女が念じた瞬間、アルフレッドがいた空間に刃が生まれる。だが、同時に男が再び消え、数メートル後方に現われる。

 

「空想具現化ですか。こわい、こわい。それではこの場は退散させていただきますよ。」

 

そう言いのこしアルフレッドは完全にその場から消えた。

 

「あんな奴に舐められるなんてね。」

 

そして女は悔しそうな顔をした後、恭也の方に向き合った。

 

「ところで、あなただれ?」

 

目の前の圧倒的な光景に呆気に取られていた恭也だったが、その言葉にはっとなり、反射的に剣を構える。

 

「あなた、私と戦う気?」

 

さきほどのアルフレッドとの件で苛ついている女はやや好戦的になっているように見える。このまま、戦えば間違いなく恭也は死ぬ。そう思った時だった。

 

「待て!!」

 

「耕介さん!?」

 

恭也からの連絡を受けた耕介が御架月を持って現われ、そして剣を構えた。

 

 

 

 

 

「何?あなたも私と戦う気なの?」

 

紅い眼が耕介を射抜く。それだけで、耕介は強烈なプレッシャーを感じ、直接その視線にさらされていない恭也までもほとんど動けなくなってしまう。

 

「・・・・・魔眼か。」

 

それは単なる威圧ではなく、魔力による束縛だった。しかし、耕介はその霊力を集中し、すぐにその束縛を跳ね除ける。それを見てアルクェイドは少し驚いたような表情をして言った。

 

「この程度の魔眼は効かないってことね。それで、私とやる気?」

 

「あんたがこの街でこれ以上血を吸い続けるつもりならな。」

 

耕介の言葉に、しかし、女は眉をひそめ、怒ったような―――今までのように強烈に睨んだ表情ではなく、普通に起こった表情をして言った。

 

「失礼ねえ、私は血なんか吸わないわよ。それはアルフレッドの仕業じゃないの?」

 

突然、雰囲気の大きく変わった女に耕介は呆気にとられつつ、恭也の方にわずかに視線を向ける。そしてその視線に気づいた恭也が答えた。

 

「その人の言ってる事が本当かどうかはわかりませんが、確かにさっきまでもう一体吸血鬼が居て、そいつはアルフレッドって名乗ってました。そしてその人と、そいつは争っていたみたいです。」

 

「そ、そうなのか。じゃあ、君はこの街では血を吸ってないんだね?」

 

完全に信じたわけでは無いが、目の前の女の言葉から嘘は感じられず、そう確認する耕介、しかし、それに対して女は意外な言葉を発した。

 

「違うわよ!!私はこの街で、じゃなくて、どこでも血を吸わないの!!」

 

「血を吸わない?あ、無理やり吸わないって事かい?」

 

人間と敵対する事を恐れて、あるいは敬意を払って、輸血パックや人間の協力者から必要最低限の血を吸わない死徒もそれなりに存在する。耕介は目の前の女がその類なのだろうと思った。しかし、女はそれもまた否定する。

 

「違うってば!!無理やりとかそうじゃなくて、私は人間の血なんて全然吸わないのよ!!」

 

(そんな馬鹿な!!)

 

目の前の女から感じる霊波長は間違いなく吸血鬼特有のものである。血を吸わない吸血鬼などいる訳がない。そうでなければ生きていけないからだ。

 

(ましてや、これほど強大な力を維持するには・・・・・強大?)

 

その時、耕介は唐突にある事に思い当たった。血を吸わなくてもよくて、強大な力を持つ吸血鬼。それに思い当たる存在が一つだけあったのだ。

 

「な、名前を聞かせてもらえるかな?」

 

「人に名前を聞く時は自分から名乗るものだって、志貴が言ってたわよ。」

 

頬を膨らませて、不機嫌そうな感じで言う女。志貴ってだれだろう、と思いながら耕介は素直に名乗った。

 

「あ、すまない。俺は神咲一灯流の槙原耕介だ。」

 

「俺は、御神流、高町・・・・恭也です。」

 

そこで、いつの間にか魔眼の拘束が解けたらしい恭也もよろよろと立ち上がって名前を名乗る。

 

「耕介に、恭也ね。私はアルクェイド・ブリュンスタッドよ。」

 

耕介たちが素直に応じたことに少し機嫌を直したらしく表情を崩した女が答える。その答えに耕介は飛び上がりそうになるぐらい驚いた。

 

「ア、アルクェイド!?も、もしかして、真祖の姫君!?」

 

半ば予想はしていたがとはいえ、あまりのビックネームに驚愕してしまう。恭也の方も真祖の事に関しては一応説明を受けていたので驚いた顔をする。

 

「うん、そうよ。」

 

「そ、そうだったのか。疑ってすまなかった。失礼な事を言ってしまって謝るよ。」

 

目の前の相手から感じる力などから考えても相手が本物の真祖であることに間違いはないだろうと耕介は確信する。そして伝え聞いた話が本当ならば彼女は無闇に人間に危害を加えたりしない存在である。誤解をしていた事に気づいて、耕介は素直に謝った。

 

「んー、ま、謝ってくれたから許してあげる。」

 

と、それに対してアルクェイドの方もあっけらかんとしてあっさりと許した。が、その時、彼女は突然、あっ、といった表情になった。

 

「あっ、いけない、そろそろ志貴達と待ち合わせの時間だ。じゃあ、私、行くわ。じゃあねえ。」

 

「あ、ちょっとまっ・・・。」

 

ちょっと待って、まだ聞きたい事が・・・・、耕介がそう言おうとするが、それよりも速くアルクェイドは高く飛び上がり、去っていってしまった。それを耕介と恭也は見送るしかなかった。しばらくの沈黙、そして二人は顔を見合わせていった。

 

「どうします?耕介さん?」

 

「追いかけるのは無理そうだ・・・。もう今日は何もないだろうから、一旦帰って対策を立て直そう。色々と事情も変わったし、君も少し怪我をしているだろう。」

 

「ええ、たいしたことはないですけど。」

 

恭也がそう答え、二人はその日の見回りを打ち切ることにしたのだった。

   


(後書き)

失敗した!!

いきなりすいません。実はこのシーン改訂前のVerでは那美と久遠が恭也に同行してたんですが、その時に存在意義をほとんど感じなかったので改訂したこのVerでは外す事にしました。ところが、書いてる途中、耕介と恭也だけだとなんていうか、“むさい”事に気づいてしまったんです。アルクもいるにはいるけど、志貴や親しい相手が側いないと彼女の可愛さは発揮されてくれないんですよね・・・・・。これが友情シーンや戦闘シーンなら、燃えるシーンに転嫁することも可能なんですが、そうでない場面だと男率が多いシーンってただひたすらにむさい・・・・。と、言う訳で女の子キャラの重要さを確認したところで次回からはヒロインを一杯だして行こうと思って思ってます。ちなみにこの作品、主人公2人(3人?)のダブル(トリプル)ハーレムものです。


月姫からはまだアルクしか出てきてないね。
美姫 「次に出てくるキャラは誰かしら」
そして、志貴にも出番はあるのか(笑)
美姫 「全ては謎のまま、次回へと〜」
ではでは。





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