「神殺し?どういう意味なんだ?」

 

志貴はシオンの言った言葉の意味を解すことができず問い返した。

 

「言葉そのままです。神咲は今からおよそ360年前3柱の神を殺しているです。」

 

その答えに志貴は唖然とした。人が神を殺す、そんなことがありえるなど信じられる話ではない。だが、シオンの目に冗談を言っているような様子はないし、そもそも彼女はそう言った性格ではない。

 

「そんなこと人間にできるのか?それとも神咲ってのは、遠野みたいに人外の血が混じった一族だとか。」

 

「志貴みたいに直視の魔眼をもっていたとか?」

 

志貴とアルクェイドがそれぞれ自分の予想を言う。しかし、シオンはいずれに対しても首を振った。

 

「いいえ、神殺しを為したのは純粋な人間だそうです。仮にその情報に誤りがあり、神を討ったのが人外の血が混じったものだったとしても神はそんなことだけで倒せるものではありません。直視の魔眼を持っていたという可能性もおそらくは薄いでしょう。なぜなら滅ぼしたうち、2柱の神は完全に消滅させられましたが、もう1柱の神は封印という手段で倒されたからです。直視の魔眼ではそんな事はできないでしょう?」

 

最後の台詞は志貴に対する確認。それに対して彼は首を縦に振る。その時アルクェイドが再び発言した。

 

「何かの間違いなんじゃない?神殺しなんて逸話は結構転がってるけどみんな嘘や間違いとかおおげさに伝わってるのばっかりじゃない。」

 

確かにそうだと、志貴も思った。実際、一般人にとっては単なる妖魔が神の使いのように見えることもあり、それを倒したものが神殺しの英雄として称えられたというような逸話などいくつもあるのだ。しかし、シオンはこれを否定する。

 

「確かに当初はそう思われていましたし、今もその可能性も完全には否定できません。しかし、ある人物の存在がこの話は強い信憑性を持たせているのです。その人物とは、漂白の退魔士“雨月”、いかなる組織にも所属せず、その二つ名のとおり、漂うように世界を移り歩く存在。こと、戦闘力に限定するなら、最強の魔法使い宝石のゼルレッチにすら匹敵すると言われ、表裏を含めた全ての組織から恐れられています。それは教会や協会、国家クラスですら例外ではありません。」

 

そこでシオンは一度言葉をきる。志貴はスケールの大きな話に感嘆するが、根本的な謎が解けていない事に気付き尋ねる。

 

「なんか、凄い人だな、けど、それが神咲の神殺しに対してどうして証明になるんだ?」

 

「はい、雨月が使う技が“神咲”の技なのです。また、雨月はかっての代行者、シエルと同じように呪いによって縛られた不死の存在なのですが、その呪いが先ほどの話にでた神咲が封滅した神と関りがあるようなのです。あるいは彼こそが神殺しを為した、神咲なのかもしれません。」

 

「なるほど・・・・・。」

 

「凄いんだねえ。」

 

シオンの説明で納得した顔になる志貴とアルクェイド。だが、それとは対照的にシオンの顔はさらに険しくなった。その表情を見て二人は目をぱちくりさせる。そして彼女が口を開く。

 

「現在、雨月は神咲と交流を断ち、神咲本家では神を封滅したその技は失伝していると言われています。しかし、もしそれが本当でないとしたら、その使い手が今もいるとしたら、通常の生命と比べ、遥かに概念に近い神を殺せる技は、つまり、志貴の直視の魔眼に匹敵するかもしれない。だとしたら、神咲の退魔士は・・・・・・・・・・・・真祖すら殺しうるかもしれないということです。」

 

シオンが付け加えたその言葉に志貴は絶句した。

 

 

 

 

 

 

恭也が死徒と交戦したその翌日の昼過ぎ、恭也は今後のことを耕介と話し合う為にさざなみ寮を訪れていた。

 

 

 

「怪我の方は大丈夫かい?」

 

恭也を居間に通し、座らせた状態でまずは昨日の戦闘で受けた怪我について耕介が尋ね、恭也が笑顔で、もっともそれほど大きく表情を変えている訳ではないが、答える。

 

「ええ、母がうるさく言うのでここに来る前に一度フィリス先生のところで見てもらってきたんですがどこもたいしたことは無いそうです。膝に多少負担がかかっているらしいですが、耕介さんたちのおかげで最近は良好ですし、特に問題はないとのことです。」

 

「そうかい、それは良かった。ほっとしたよ。」

 

恭也は1年ほど前から御架月の力を借りた耕介や那美の癒しや、フィリスの治療を受けてきている。そのおかげで膝の怪我はかなり良くなり、それ以外の部分も以前よりも快調に

なってきている。

 

「それで、これからの事ですが。」

 

そこで恭也が真剣な表情になって言った。耕介も神妙な顔つきになる。前日、耕介は戦闘で負傷した恭也を高町家に送り、その道中で大体の事情は聞いている。まだまだ不明な部分が多いにも関らず、現時点で判明している部分だけみてとっても予想を遥かに超えて厄介な事態となっているのだ。

 

「ああ、この街で吸血行為を行なっていた可能性が最も高いアルフレッドは予想よりもかなり強力な死徒な上、空間転移まで使えるとなると恭也君をおとりにするという作戦はもう使えない。それに今の所、敵ではなさそうだが、真祖の姫君までこの街にきているとなると、正直、俺達だけでは手に余る。そう思って薫と葉弓さんに応援に頼むつもりだ。」

 

「薫さんと・・・・・葉弓さん、確か真鳴流という流派の当代でしたよね?それは頼もしいですが、確か二人は別件で動けないって事だったのでは?」

 

恭也が首を傾げる。前日、耕介はそう説明し、だからこそ恭也に強力を要請したのである。それを考えれば恭也の疑問は当然だった。

 

「ああ、だが、真祖の姫君がでてくる何てなった以上、何が起こるかわからない。だから、出来る限りこちらを優先する事になった。とはいえ、彼女達が今、受け持っている仕事を放って置く訳には行かない。引継ぎをするか、あるいは手早く片付けてしてしまうか。どちらにしても、早くて3日、長くて一週間位はかかるそうだ。」

 

「一週間ですが・・・・・・。」

 

恭也が難しい顔をする。この事件がおきてから10日、耕介の話では既に被害は100単位にも及んでいるとの話である。この上、更に一週間もたてば被害は増大する。耕介はそんな恭也の気持ちを読み取ったように口を開いた。

 

「君の気持ちはわかる。だが、アルフレッドならまだしも真祖と対立する事になった場合、俺と恭也君だけでは勝つことは愚か、立ち向かうすら難しい。」

 

「・・・・・・・。」

 

耕介の言葉に恭也は押し黙うつむく。その手は強く握り締められ、血が滲み出しそうなほどだった。無謀な事を使用とするのは勇気ではなく、単に愚かなだけであり、それはプロとしては絶対にやってはいけないことであり、無論、恭也もそれは理解している。だが、得体の知れない存在がこの街で、好き勝手し、家族や親しいものに危害が及ぶかもしれないという状況を黙認し続けるというのは心情的には耐え難いものであるのも事実なのだ。

 

「とはいえ、俺もそれまで指を銜えて黙っているという訳じゃない。幸い真祖、アルクェイドさんは俺達に敵対するつもりは無いようだし、アルフレッドだけなら空間転移で逃げられるのをどうにかすれば十分に勝算はある。ただ、今までより多少、慎重に行動する必要がある異常、多少消極的にならざる得ないが・・・・。」

 

そんな恭也に対し、耕介は前半は慰め、誤解を解くように、後半は少し悔しそうにそう答える。

 

「・・・・そうですね。すいません・・・・わがままな事を言ってしまって。」

 

頷き、そして頭を下げる恭也。

 

「いや、俺だって気持ちは同じなんだ。とにかく、今は、今出来ることをやるしか・・・・。」

 

耕介がそう言って、恭也の頭を上げさせようとする。その時だった。

 

 

ピンポーン

 

 

寮のチャイムが鳴った。

 

「あ、すまない。ちょっと出てくる。」

 

そう言って耕介が立ち上がり、玄関に移動する。そしてドアを開けた耕介は硬直した。

 

「やっほー。」

 

そこにいたのはそんな風に軽く声をかけてくる金髪の女性。真祖の姫君、アルクェイド・ブリュンスタッドだったのである。

 

 

 

 

 


(後書き)

ごめんなさい!!予告していたところまで行きませんでした。2作品キャラの本格的な交流は次話からになります。次はなるべく早く投稿します。

 

 


ご対面は次回以降みたいですね。
美姫 「まあ神殺しの説明があったから仕方がないわよ」
次回、再会した三人はどんな話をするのだろうか。
美姫 「期待に胸を膨らませつつ…」
まったね〜〜。
美姫 「じゃ〜ね〜」





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