――――――御神流・奥義の裏・三・射抜――――――
恭也の刀が鬼の首の左右の頚動脈を切り裂く。それで最後だった。全員、疲労困憊ながらも、鬼を全滅させたのである。
「はあ、はあ・・・・・い、急いでアルクェイドのところに行かないと。つっ・・・・。」
志貴が駆け出そうとしてよろめき倒れてしまった。志貴は多少の“死ににくい”という特性と常人よりは強い退魔力を持ってはいるが、単純な肉体強度でいえばこの中で一番弱い。その為、鬼のような物理的な破壊力が強い存在の攻撃には対抗力が無く、最もダメージを受けていた。
「その身体じゃ無理だ。みんなのおかげで俺も少し休めたし、他のみんなに任せた方がいい。」
「ああ、その方がいい。それにアルクェイドさんの強さならおそらく大丈夫だろう。」
志貴に手をかしながら言う耕介と恭也。しかし、志貴は反論した。
「休めたっていってもせいぜい15分位じゃないですか。耕介さんだってさっきまで死人みたいでしたよ。それからアルクェイドは確かに強いけど、無敵ってわけじゃないですから。」
アルクェイドは無敵ではない。世間一般では彼女は無敵と言われている。だが、一度志貴に殺されたように、万が一はあるのである。
「外気功って言って体外のエネルギーを取り込む術みたいなものがあるんだ。それを使ってある程度は回復したから。」
それに対し、耕介がそう説明した。しかし、志貴は首を振る。
「いえ、それでも俺、いかないと。なんだか嫌な予感がするんですよ。あなた達を信頼していない訳じゃないけど、自分で助けに行きたいんです。」
そう言って立ち上がろうとする。しかし、その足取りはふらついたままだった。
「・・・・・仕方ない。御架月、頼む。」
「はい、耕介様。」
耕介が溜息をつきながら御架月をよんだ。その姿にそれを知らない志貴とシオンは驚く。
「この刀に憑いた霊の御架月っていうんだ。」
説明しながら志貴に癒しをかけた。光につつまれ、やがて立ち上がる。
「ありがとうございます。大分楽になりました。耕介さんも先輩みたいな事できるんですね?」
「先輩?」
「代行者、シエルの事です。彼女はある任務の時、志貴の学校にもぐりこみ、そのまま所属し続けています。」
シエルが志貴の学校の先輩でないことを知らない耕介たちにシオンが補足する。
「ああ、教会の術にそういうのがあるらしいね。けど、これは俺がやってる訳じゃなくて、御架月がやってるんだ。俺は霊力を供給しているだけ。礼なら御架月に言ってやってくれ。」
「そうなのか。サンキュー。えーと、タメ口でいいか?」
見かけが自分より年下なのでそういう志貴。御架月のほうもそれに特に不満はなさそうだった。
「ええ、かまいませんよ。それより僕の術では怪我をすぐには完全には治せませんし、体力の方は回復できません。くれぐれも無理はしないでくださいね。」
「ああ、わかってる。」
そう答える。だが、そうは言っても彼が無理しないような性格でない事はシオンにはわかっていたし、耕介や恭也、リスティ達もおおよそ見当がついていた。だが、同時に志貴の意思の強さにも気づいていたので、何も言わず、全員でアルクェイドの元に駆け出した。
ズバッシュ
アルクェイドと前鬼が交差する。アルクェイドの左腕がちぎれとび、同時にアルクェイドの右腕が鬼の頭を貫いた。
「グヲオオオオおおおおおおおお!!!!!!!」
消耗からアルクェイドが膝を突く。そんな彼女に後鬼がうなり声を上げて飛び掛ってくる。アルクェイドまでの距離は10メートル足らず、鬼の身体能力なら一瞬の間。しかし。
ズシャ
鬼の左足が何も無いところから生み出された刃によって切り裂かれた。空想具現化、生命に対して直接的な干渉を及ぼす以外ほぼあらゆるものを生み出せるアルクェイドの反則的能力。
ゴトッツ
次は鬼の腕が落ちる。だが、鬼はとまらない。
ザクッ
左足が切り落とされる。だが、その時、すでにアルクェイドは鬼の手が届く位置にあった。地面に倒れこみながら残された片腕が振るわれる。
ブッシュウウウウ
首が飛んだ。・・・・・・・・・・・鬼の首が四肢のうち3つを切断され、狙いが定めやすくなったところで最後に首を切断したのだ。後鬼が崩れ落ちる。そして、その次の瞬間アルクェイドの胸に剣が生えた。
「えっ・・・。」
その剣はアルフレッドの腕に握られていた。アルクェイドが後鬼が倒した瞬間、彼女の後ろに空間転移してきたのだ。
「私の事を失念するとは迂闊ですね。あんな人間にうつつを抜かして弱くなりましたか?」
「!?志貴のこと。志貴を侮辱しないで、殺すわよ。」
アルフレッドの言葉に目を金色にして睨むつけ、身体から剣を抜こうとする。だが剣を抜こうと前に動こうとしても、剣を破壊しようとしてもびくともしなかった。
「無駄ですよ。それほどのダメージを受けたところにこの剣で突き刺されたのですからあなたにほとんど力は残っていないでしょう。この剣は最高クラスの概念武装です。加えて神性が強いものに作用する付加能力があるので吸血衝動を解放してもその影響が濃くなるだけですよ。ま、あなたが本調子で夜ならば砕け散ってしまうでしょうけど、今のあなたを封じるには十分でしょう。」
「くっ。」
アルフレッドのその言葉どおり、アルクェイドから残された力がどんどん抜けていく。概念武装によるダメージなので自然界からの力の供給が追いつかない。
「それでは、あなたを連れ帰させていただきます。あなたは殺しても滅びませんからね。おっと、その前に抵抗されないよう血を吸わせていただきましょう。ここまで弱った今なら私程度のものでもあなたを支配できる。くくっ、蛇や混沌ですら手に入れられなかった真祖の姫君を私が手に入れられるとはね。」
そう言って剣をつかみながら、アルクェイドの首筋に牙を近づける。抵抗しようとするアルクェイド。だが、彼女の身体はすでに貫かれた剣に支えられた状態で自分自身の力では立っていることすらできなかった。
(志貴!!)
心の中で志貴を呼ぶアルクェイド。アルフレッドの牙が彼女に触れる。その瞬間・・・・・、アルフレッドの身体に電撃が走った。
「ぐっ。」
そして次の瞬間、剣を握るアルフレッドの腕が切り裂かれてた。アルクェイドが呼んだ愛しき男の手によって。そのまま支えがなくなり倒れる彼女を彼が支え剣を抜き、投げ捨てる。
「楓陣刃!!」
耕介の攻撃、慌てて空間転移を使ってかわすアルフレッド。そしてすぐ近くの空中に現れた。
「腕が再生しない。これが直死の魔眼の力か!それにしても、まさか、あれほど消耗していながら、あの数の鬼を、しかもこれほど短時間で倒すとは。どうやら・・・・・貴様らをまだ侮っていたようだな。この屈辱、かならず返してくれるぞ!!!」
いつもの嫌味な敬語をやめ、憤怒の表情ではき捨てるアルフレッド。アルクェイドの胸に突き刺さっていた剣をアポートによって引き寄せるとそのまま消えた。
「アルクェイド!!おい!!しっかりしろよ!!」
「あは、志貴、助けてくれてあれがと・・・・・。」
そして、志貴の胸の中でアルクェイドが目を閉じた・・・・・・・・・・・・・・・。
<後書き>
迫力ある悪役が書けないなあ・・・・・・。あ、そういえば今回ちょうど10話ですね。お付き合いいただいてありがとうございます。
(今回は後書き座談会はお休みです。)
アルクェイドがやられるなんて。
美姫 「恐るべし概念武装ね」
まあ、アルクェイドが疲れていたというのもあるんだろうけど。
美姫 「それにしても、凄いわ」
さて、倒れてしまったアルクェイド。
美姫 「次回には元気に復活できるのか」
次回を期待しつつ…。
美姫 「今回はこの辺で〜」