「さて、簡単に終わっちゃったらつまらないし、テストにならないから身体強化の魔術は一旦解除しておくわね。その代わり夜の一族の力全快でいかせてもらうから。」
そう言って、魔術による強化を停止させる。彼女の言葉は決して自惚れではない。もし、彼女が強化を持続した状態で戦いを続行すれば、以下に恭也と言えど、一瞬で勝負がついてしまうだろう。そして、エリザが魔術を解除し、その目が紅く染まった瞬間、今度は恭也の方から仕掛けた。
―――――――――――――御神流・奥義の歩法・神速―――――――――――――――
―――――――――――――御神流・奥義の六・薙旋――――――――――――――――
小太刀二刀による4連撃。だが、エリザはそれを円月刀一本で全て払いのけ、さらに返す刃で一撃はなってくる。
「くっ。」
刃を素早くひき、その一撃をなんとか防ぐ。見かけからはとても想像できない重い一撃に恭也は体勢を崩しそうになるが、それを何とか踏ん張り、空いた手で一撃を放つ。
―――――――――――――御神流・奥義の五・雷徹――――――――――――――――
先ほどのように強化でもしない限り完全には回避不能のそのタイミングに対し、何を思ったがエリザは左腕を突き出した。
「йё・・・・・」
同時に呪文を唱え、彼女の手のひらに光の盾が現われる。
パリィィィィィンン
乾いた音がして恭也の小太刀が同時に砕け散る。そして、両者は同時に跳び引き間合いを取った。砕けた小太刀を捨て、新しい小太刀を抜く恭也。
「危なかったわ。もし、さっきの小太刀がただの鉄の塊じゃなくて、概念武装か魔剣だったりしたら、こっちも無傷じゃすまなかったかもね。」
余裕の表情で言うエリザ。そして、恭也は構えを取る。もはや、これしか勝ち目のある手はないと決意し放つその技。御神流の極地。
―――――――――――――御神流・斬式奥義の極み・閃――――――――――――――
恭也がその技を放った瞬間、両者の間にあった間合いが消えた。エリザの表情にこの戦い、始めての驚愕が浮かぶ。
――――――――――――――ルーン・セレブレイド――――――――――――――――
エリザもまた奥義を放つ。両者の刀がぶつかりあい、そして互いに破砕しあう。だが、それでは終わりではなかった。恭也が新しい刀を抜刀し、さらなる技を放つ。
―――――――――――――御神流・突式奥義の極み・真――――――――――――――
閃と対になる“突き”の技の極地、真(まこと)、御神流の歴史上“閃”よりもなお使い手の少なかったもう一つの極地。だが、恭也がそれを放ったその瞬間、エリザの右腕につけた腕輪の真ん中の赤い珠が光り、エリザを守る光の壁が現われた。恭也の刃はその壁に触れ、そして砕けた。
「・・・・・・・・ここまでね。」
互いに武器を失った状態に――――――と言っても恭也にはまだ予備の刀がまだ3本あるし、エリザにも魔術があったが――――――なった状態でエリザがそう宣言した。
「まさか、2つ目の切り札まで使う事になるとはね。」
右腕の腕輪をなでる。この腕輪は彼女自身が作成した魔具で呪文を省略し、3つまで魔術を使用することができる。1つ目の強化も先ほどの防御魔術もそのおかげで即座に展開できたという訳である。
「しかし、まさか、武術を極めた先に魔法の領域にまでたどりつくなんて・・・・。」
エリザは呆れたと言わんばかりの態度を取る。恭也の“閃”は空間を圧縮し、間合いを縮め、インパクトの瞬間それを解放する事でその力を何倍にも増幅するというとてつも無い技へと昇華していた。“真”の方はいまだ魔法の領域には無いが、“閃”と対の技である以上こちらもいずれたどり着くかもしれない。恭也自身はそれらを特に意識していないのだろうが、それがまたエリザには腹のたつことである。なんせ、魔術師の端くれとして500年近く研鑽し、今だ、たどりつけていない魔法の領域に断片とはいえ恭也は20歳以下でたどり着いてしまったのだから。
「それで、俺は合格ですか?それとも・・・」
恭也が自分のエリザの御めがねにかかったかどうか確認する。それに対してエリザは渋い顔をして答えた。
「あれだけの力を見せられて合格にしない訳にはいかない・・・・・っと言いたい所だけど、最後に一つだけ確認させてもらうわ。」
そう言ってエリザは手を恭也に向かって斜めに突き出す。その行動にその真意がはかれず、恭也は反射的に警戒の構えを取った。
「別に警戒はしなくてもいいわ。私はあなたに危害を加えるつもりは無いから。それより。最後に私が出したあれねえ、一度使うと数日間魔力を蓄積させないといけないんだけど、その代わりその防御力はランクA++の宝具・・・、あっ、あなたは魔術にあまり詳しくないんだったわね。そうね、近代兵器で言えば、小型の核ミサイルの直撃にも耐えるだけの防御力があるのよ。」
「なっ!!」
そのあまりに規模の大きな話に恭也は目の前の女性の凄さを改めて実感し、驚愕の声をあげる。そしてエリザは続けていった。
「今から使う魔術はそれと同等の魔力を使用するわ。そしてあなたがこの先戦う相手の中にはこれと同等かそれ以上の力を使うものもいるかもしれない。これを見てあなたが怖気づかなければそれで合格。」
その話を聞いて恭也は流石に息をのむ。そして今まで、戦いを静観していた忍が叫んだ。
「エリザ!!いくらなんでもふざけすぎよ!!」
忍の訴えは当然といえる、覚悟を確かめる為だけに、ミサイルを遥かに超える力を持った魔術を使うなどあまりに非常識すぎる話だ。
「・・・・ふざけてなんかいないわ。それに単なる度胸試しって訳じゃないわ。裏の世界にはこんな事が出来るものがいるって事を教えたいのよ。知っていると知らない、それだけでも戦いの勝率、生還率はまるで違うもの。」
エリザの言う事は事実である。どんな強大な力でもそれを知っていれば対抗策はある。その力を相手が使う前に倒すなどというのもその一つだろう。ここで、その存在があるとしるだけでも、恭也にとってはこの上なく有益な事である。
「それじゃあ、いくわ。覚悟はいい?よく見ているのよ。」
「はい。」
恭也がエリザをはっきりと見据え答える。それを見てエリザは微かに笑った。
「ちょ、ちょっと、エリザ、恭也・・。」
詰め寄ろうとするエリザをクラリスが羽交い絞めにして止める。そしてエリザは魔力を集中させ、そして呪文を唱えた。
「これが私の3つ目の切り札よ……..“ж”」
その言葉と共に、腕輪の最後の紅い珠が光り、そして“力”が貫かれた。
ズグオオオオオオオオオオオオオオオ
恭也の後ろには森があった。そのうち幅10メートル、奥行き30メートルほどに渡って消し飛んでいた。
ペタン
その光景を見て忍が尻餅を突く。恭也もその光景に動けないでいる。
「どう、これでも逃げる気にはならない。」
「・・はい。俺は戦います。それが御神の剣ですから。」
だが、恭也ははっきりと頷いた。
「・・・そう。なら、合格よ。クラリス、あの刀を持ってきて。」
恭也の答えを聞くとエリザはクラリスに命じて何かを取ってこさせた。それは二本の小太刀だった。
「これはかなり強力な魔剣よ。しかも、2本を共鳴させる事で威力をさらに増大できる。これをあなたに譲るわ。」
「・・・・せっかくですが、貴重なものなのでしょう。受け取る訳には・・・。」
ぱっと見でもその刀が名刀である事はわかる。おまけに魔剣となれば貴重な品であろう事はその手の知識に疎い恭也でも想像に難くなかった。故に断ろうとするが、エリザはそれを強引にさえぎる。
「味方の戦力が上がるなら安いものよ。使い手も無いまま倉庫に眠らせといても仕方がないしね。そういう訳だから、うけとりなさい!!」
「・・・・・わかりました。ありがたく使わせてもらいます。」
その言葉に恭也が折れ、刀を受け取る。それはまるで手に吸い付くようになじんだ。
「うん、いい感じね。あ、銘は無いからかってにつけてね。」
エリザがそう付け加える。こうして恭也は新たなる力を手に入れた。
(後書き)
わー、えりざ、つおーい。自分で書いてて思わずひらがなになってしまいました。うーん、流石にやりすぎたかも(汗)もしかしたら後で改訂するかもしれません。
あと、恭也の新しい刀の名前を募集します。いいアイディアがあったらよろしくお願いします。
エリザ、強いね〜。
美姫 「強いわね。でも、負けるわけにはいかないわ!」
こらこらこら。
と、それよりも、刀の名前を募集だって。
美姫 「そうね。これは!と思った名前が浮んだ方は、掲示板へレッツゴ〜」
見事、採用された方には、その名前が作中の恭也の刀の名前として使われると言う特典が!
美姫 「それって、特典じゃないんじゃ?」
そうか?まあ、それは兎も角、鳴弦(めいげん)とかどう?
美姫 「ああ、邪気を払う呪いで、弓の弦を鳴らす事よね」
そうそう。二本の刀を共鳴させて、邪を払うということで。
美姫 「でも、弦ってのは…。弓じゃないし」
うぅー。それもそうか。
美姫 「私は、夜叉とかが良い。北方を守護する鬼神」
おお、お前にはぴったりの名だな。他にも、修羅とか羅刹とか……。
あ、あはははは。じょ、冗談だよ、冗談。
美姫 「そう?冗談だったんだ。それもそうよね〜。もし、本気と言ってたら……(にっこり)」
ハハハハハ、バ、バカナ、ソンナコトアルハズナイダロウ。
ダカラ、ネガイシマス。ソノサッキヲオサエテクダサイ。
美姫 「ふんっ。と、まあ、皆さんも何かあれば、掲示板までどんどん送ってくださいね」
締め切りは……。えっと、柿の種さんがストップって言うまで?
美姫 「もしくは、その剣の名が出てくるまでね」
さて、他にどんなのが出てくるかな〜。
美姫 「兎も角、更なる力を手に入れた恭也。次回はどんな展開が待っているのかしら」
用事が済んだとばかりに、忍が恭也を押し倒すのか。
美姫 「それはそれで、ちょっと見てみたいかも」
そんなこんなと勝手に想像を膨らませつつ、次回を待てぇぃ!