「それじゃあ、恭也君、まずはあの男、ルーカスの事について話すわ。」
恭也をこの戦いに関する味方、そして“仲間”として認め、忍達3人をつれ、部屋にもどると、話始めた。
「ルーカスの本名は、ルーカス・ローレンシュタイン、もう一つの名はルーカス・ブリュンスタッド。私の腹違いの弟であり、夜の一族と真祖のハーフよ。」
「「!?」」
その、いきなりの衝撃的な言葉にその場に沈黙が流れた。
「弟・・・ですか?」
恭也がその沈黙を解き尋ねた。するとエリザは意外そうな顔をする。
「・・そっちの方に反応したか。ま、恭也君みたいに裏の事情に詳しくない人ならそうかもね。普通は真祖のハーフって方に驚くんだけど。」
ふふっと、笑って言うエリザ。だが、その笑みは何やら自嘲的なものに見えた。
「そう、彼は私の腹違いの弟。私の父、夜の一族の先代の長にして当時の最高権力者カルタスと真祖の王族の間に出来た子よ。そして、私の父を殺した男でもある。」
「「!!」」
それはつまり、ルーカスは実の父親を殺したということ。その言葉に恭也と忍はまたしても驚きの表情を浮かべる。
「カルタス様はエリザ様にも匹敵する力があったと聞いていますが。」
その時ノエルが疑問を発した。一般的な感性としては息子が父を殺したと言う事に驚くのが当たり前。だが、カルタスがどういう存在なのか知る者ならば、彼を殺したと言うこと自体が驚くべきことなのだ。
「ええ、原初の夜の一族。本当の意味での純潔の夜の一族だった父はもしかしたら今の私よりも強かったかもしれない。少なくとも、生まれ持った“力”という意味では私以上ね。そして、父は当時、夜の一族の全てを統治していた。今のように分割されずにね。」
今のエリザには絶対権力者を持たず、エリザを含めた4人の最高権力者によって分割して統治されている。カルタスが一人で支配していたというのはそれだけ彼が絶対的な力とカリスマを持っていたという証である。
「けど、何故、ルーカスはエリザさんの、・・・・・・そして自分の父親を殺したのですか?」
やや言いづらそう言った恭也の疑問に対して、エリザは数瞬押し黙る。だが、恭也の目をしっかりと見据え、答えた。
「私達が彼の力を恐れ、封印しようとしたからよ。」
「封印?」
忍が疑問の声をあげる。エリザは恭也に目をやって尋ねた。
「真祖の吸血衝動の事に関しては知っているかしら?」
「いえ、あまりよくは・・・・・・。」
質問に対する答えが返ってはこず、突然変わった話題に戸惑いつつも恭也は素直に答える。
「なら、それから話すわ。これはこの話に大きな関りがあることだから、まずは黙って聞いてちょうだい。吸血種と呼ばれるものは実は結構種類がいるんだけど、その中でも有名なのが、私達のような夜の一族と死徒、そして真祖よ。そのうち、夜の一族は血を吸わなくても生きていけるけど吸わなければ体調を保てず、力も落ちていく。死徒の場合は血を吸わなければいきていけない。また、大量に血を吸えば力を蓄えることができ、自分より優れた力を持つものの血を吸う事で進化する事ができる。そして、真祖は血を吸わなくてもいい。いえ、吸ってはいけない。」
(吸血種なのに血を吸ってはいけない?)
その説明に恭也が疑問を覚える。その疑問はエリザの続く説明ですぐに氷解する。
「真祖には血を必要としないにも関らず強い吸血衝動があるの。それは、力の一部を使ってまでしなければ抑えられないほど強い。そして、一度でも血を吸えばその吸血衝動は増大し、押さえが利かなくなる。人間にして見れば強い麻薬に手をだすようなものね。だから、真祖は全力で戦う事ができない。けど、ルーカスは自然界から供給されるエネルギーこそ普通より弱かったけど、それ以外は真祖と同等、いえ、並の真祖を上回る程の力を持っていた。にも関らず彼は吸血衝動がごく弱く、血を吸っても吸血衝動が増したりする事もなかった。だから、彼はその力を制限無く使うことができ、それはあまりに驚異だった・・・。」
そこで、エリザは一旦言葉をきった。その表情に僅かに影がみえる。
「だから、私達は彼に呪いをかけ、その力を制御したの。その際の時彼の抵抗で父は死んだわ。」
「呪い・・・・一体どんな?」
呪いというのは1年前までそう言ったオカルト的事と全く関わりの無かった恭也にはピンとこない事であったが、とりあえずその呪いがどんなものであったのか気になり尋ねてみた。エリザはそれに答える。
「ええ、自然界とのリンクを完全に遮断して、さらに血が吸えなくなる呪いをかけたの。自然界からのエネルギー供給が受けられない状態では半分夜の一族であるルーカスは血を吸わなければ力を維持できない。彼の魂と結びついたその呪いは彼の力が落ちた時はその効力が弱まるから血を吸う事もできるけど、それはかなり力が落ちている時だから普段は3割程度、最大でも5割弱、本来の力から見ればその程度の力しか彼は使えない。」
その言葉に恭也は驚愕する。つまり、耕介と戦った時、ルーカスは半分以下の力しか使えなかったと言う事である。耕介の方も多少消耗していたとはいえ、耕介の強さを知る恭也としてはそれはあまりに大きな驚愕だった。
「彼は父の遺言で殺されはしなかった。けど、封印をかけられてなお危険視されていた彼は少しでも問題を起こせば始末されかねない状態だった。彼は知っていたにもかかわらず、揉め事を犯した。おそらく彼には何か相当大きな目的があって、相応の準備をしていると思う。今はダメージを受けているとはいえ油断は全くできないでしょうね。」
エリザの言葉に納得する。確かにあらゆる意味で油断は出来ないであろう。無意識に刀に手が伸びる。
「私の知る事情はこれで全てよ。私はこの事について夜の一族内の会議で話し合わなければならないからすぐに助っ人にはむかえないけど代わりにこのクラリスをあなた達と一緒に行かせるわ。彼女は私の秘書で魔術師としての弟子でもある。そして組織としての左腕よ。十分に戦力になるわ。」
そう言ってクラリスを推薦する。だが、クラリスは否定の意を示した。
「エリザ様。差し出がましいようですが、それではエリザ様が無防備になってしまわれます。一族の中にはエリザ様を疎ましく思われている方もいますし、そうでなくてもエリザ様は多くの死徒や魔術師から狙われております。お一人になるのは危険かと。」
「あ、それは大丈夫。ブリッドとルーク君が明日帰ってくるって連絡があったから。」
そう言って、“右腕”と協力者の名前を挙げる。
「ブリッドですか・・・・。ルーク様は確かに頼りになりますが、ブリッドは。」
だが、彼女は渋い顔をした。いい加減な所のあるブリッドと生真面目な正確のクラリスは性格上の問題などからあまり相性が良くないのだ。加えて、“右腕”として自分よりも重視された立場にあるブリッドへの嫉妬、不満もある。
「大丈夫よ。彼はいざとやる時はちゃんとやってくれる人だし。ルーク君がいれば、例え、宝石や白姫、漂白がでてこようとなんとかなるしね。」
そう言って、パタパタと手をふる。クラリスはそんな主に渋々引き下がる。
「あ、それでだけどね。忍、これ見てくれる?」
すると、エリザはふと何かを思い出したような表情を見せると、空中からレポート用紙の束を取り出した。
「何これ・・・?・・・・!!!これって!!」
その紙を受け取り、目を通すと忍は驚愕の表情を浮かべた。
「そう、ノエルのパワーアップ案よ。」
それに対し、エリザはにやりと笑って答えた。
(後書き)
次回はここまで先延ばしにしてしまったノエルのパワーアップ話です。それから、
おおー。今明かされる驚愕の事実。
美姫 「ルーカスがエリザの異母弟!!」
そして、次回はノエルがパワーアップ。
きっとドリルとオッ○イミサイルだ。間違いない!
美姫 「アンタ、パワーアップって言うとそればっかりね」
いや、他にも目からビー…
美姫 「それも前に言ったって」
ぐぬぬ。
美姫 「はいはい、馬鹿な事は言ってないの。多分、対吸血鬼用に魔術的な改造だと思うな、私は」
つまり、強力な概念武装を取り付けると?
美姫 「他には霊にも攻撃できるようにとか」
なるほど〜。まあ、実際にどんなパワーアップをするのかは次回を楽しみに待つとしよう。
美姫 「そうね。それじゃあ、また次回を楽しみに待ってますね」
ではでは〜。