「はあああ!!!」

 

シエルが鬼の上方に舞い上がり、そのまま口の隙間から黒鍵を差し込む。

 

「グヲオオオオオオ!!!!!!!!」

 

喉に剣を突き刺され、鬼は潰れた悲鳴をあげる。そして・・・・・・

 

「これで終わりです。」

 

黒鍵が燃えた。体内の酸素を焼き尽くされそのまま鬼は絶命した。そして、鬼は人の姿になり、そのままその姿も灰になって消えていく。

 

「・・・・・・・。」

 

その哀れな姿を無言で見送るシエルは無言のままごく自然な動作で黒鍵を投げた。

 

ビシュ

 

黒鍵が彼女が今立つ場所の近くの茂みの中から生えた木に突き刺さる。そしてそのまま静かに声を放つ。

 

「そこに隠れているのはわかっています。でてきなさい。」

 

数秒の沈黙、そして茂みの中から男が出てくる。

 

「ま、待った!!俺は何も関係ないんだ。」

 

男はそう言って両手をあげる。だが、シエルは男を睨み続けた。

 

「そうですか、なら・・・・。」

 

シエルは魔眼を使う。そして、男はそれに抵抗した。

 

「目の前で化け物が争っているというのに逃げもせず、魔眼もきかない。これでも、無関係だと、唯の一般人だと言い張りますか。」

 

「うっ。」

 

男はしまったと言った表情を見せた後、首を振って一息つくと真剣な顔になって言った。

 

「ふぅー。確かに俺は普通の人間じゃない。君が倒した鬼と同じ一族の血をひくものだよ。けど、そいつと違って俺は自分の中の鬼を制御できる。人を殺したりなんかしない。」

 

男の言葉を聞いてシエルはその意味を解釈する。そして言った。

 

「鬼を制御・・・・なるほど、あなた混血ですか。先ほどの鬼は反転衝動に飲まれたということですね。しかし、それならば、今後あなたの子孫に同じように暴走する者が現われる事もあるのではないですか。」

 

「・・・・・・確かにその可能性はある。けど、その危険性を抑える方法はあるんだ。それに知り合いの退魔士の人がそれを抑える術が完成しそうだって言ってくれた。それでももし駄目なら、その時は俺が、俺が死んだ後なら、俺の一族が片をつける。」

 

それは殺すという事。その覚悟を男は述べる。だが、シエルはそれで引かなかった。

 

「反転衝動を抑える術?そんなものは聞いた事がありません、そもそも本能による反転衝動を術で抑える事などできる筈がない。そんな嘘で言い逃れをする気ですか?それにそれが出来なければあなたがたで片をつけるといいましたが、もし、その“鬼”があなた達の手に負えないほど強大なものだったらどうするのですか。」

 

「・・・・・・・・。」

 

その言葉に男は何も言えなくなる。そして、シエルは黒鍵を構えた。

 

「未来への禍根を断つため、今、ここであなたを処断します。」

 

「・・・・・俺は死ぬわけにはいかない。俺には待ってくれてる人達がいるんだ。」

 

そして、シエルと男との戦いが始まった。

 

 

 

 

「あなたは何者ですか?」

 

薫が油断なく構えながら鬼をあっさり殺した少女に問いかける。見た目は小柄、年は少なくとも20歳には届いていないだろう。だが、強い。そして、人間ではない。おそらくは、今さっきまで戦っていたのと同種の“鬼”。

 

「私はあなたが戦っていた鬼と同じ一族です。一族の責任としてこの鬼を殺しにきました。」

 

「では、あなた自身は危険は無いと?」

 

「はい。」

 

その鬼の少女の答えを聞いた後、薫は感情を殺した声で言った。

 

「・・・・悪いけど、ウチはそれを馬鹿正直に信用する訳にはいかん。」

 

「なら、私を切りますか?そのつもりなら、私も容赦はしません。」

 

少女から殺気があふれ出す。それを感じ取って薫も構えを取り霊力を高める。そして、少女の姿が掻き消えた。

 

「楓陣刃!!」

 

同時に薫が霊波を放つ。目には捉えられぬその速度も十六夜のサポートを受けた霊感は捉えていた。しかし、少女はそれを飛んでかわし、空中から飛び抱える。

 

「くっ。」

 

薫はそれを身をひねってかわす。地面に着地した少女はそのまま爪を振るってくる。

 

キィィィン

 

霊力で肉体を最大強化した薫はその爪を十六夜で受けとめ、そのままその勢いを利用して後方に飛び、着地するとしゃがみこんで迎撃の構えを取った。さらに追撃を仕掛けてくる少女に対し、仕掛ける。

 

「散華!!」

 

無尽流・蓮華に当たる一灯流のその技は数十発の霊力波を同時に放つ。流石にそれは回避しきれず、飲まれ、吹き飛ばされる少女。だが、しかし、服こそぼろぼろになり、全身傷だらけになってはいるが、少女は立ち上がってきた。

 

(強い!!)

 

薫は冷や汗がこぼれる。今のところ有利にすすめられているものの、少女は今まで薫が戦った中でも最強クラスの強敵である。パワーや耐久力こそ劣るものの、スピードは先ほどの鬼を大きく上回り、また戦い方も上手い。例えば、先ほどの鬼なら単純に上に交わしていたものを斜めにとんで隙を小さくして攻撃をつなげてくる。

 

(今のウチの霊力で勝てるか!?)

 

先ほどの鬼との戦いで薫はかなり消耗している。霊力が尽き、身体強化が出来なくなればその瞬間に殺されるだろう。

 

(けど、ウチは負けるわけにはいかん。)

 

神咲一灯流当代としても、神咲薫個人としても彼女には負けられない理由が、死ねない理由がある。だから、薫は十六夜を構えた。

 

 

 

 

 

「はあ、はあ。」

 

「もう、諦めてくれないか。俺は戦いたくないんだ。」

 

シエルと男の戦いは男が僅かに有利に進んでいた。男は幾つかの傷を受けてはいるが、その傷は浅い。それに対し、シエルは2箇所ほどだが深い傷があり、また、それ以上に連戦による消耗が激しかった。

 

「何を言うかと思えば。あなたの言う事など聞く耳持ちません。」

 

そう言って黒鍵を構えなおした。

 

・・・・そうか、仕方ない。楓ちゃんのことも心配だ。・・・・・・・本気でいく!!

 

呟くようにそして最後だけはっきりと通る声でそう言うと男の身体が大きく膨れ上がり、さきほどシエルが戦っていた鬼に良く似た姿になった。だが、似ているのは姿だけ。そこから感じる圧倒的なまでの存在感はまるで別物。そのプレッシャーは吸血衝動を解放した夜のアルクェイドにすら匹敵する。

 

「なっ・・・・・これは。」

 

「ワルイガ・・・・シバラクノアイダ、ビョウインデネテモラウ。」

 

驚愕するシエル。そして、男は声帯の変わったその身体でそう言うと、次の瞬間、その巨体ごと消えた。

 

ズガン

 

「ぐふっ・・・・・。」

 

鬼の拳がシエルの腹にめり込む。内臓が破裂する。

 

ゴキッツ

 

その巨大な腕に頭部が叩きつけられる。首の骨がきしむ音がして、その瞬間、シエルの意識は断ち切られた。

 

 

 

 

 

「神気発祥・・・・・神咲一灯流、奥義、烈波水流刃」

 

十六夜を霊力が包む。その霊力がまるで水の流れのように剣を伝って高速で動いている。これは水の流れと性質を模した技。“吸血鬼は流水を渡れない”と言う。これは、水は霊力と癒着しやすいからであり、また、自然界の精霊は“流れ”というものに敏感で無意識に引きずられるからである。心霊現象が水辺でよく観測されるのもこの為だ。故に、この技は精霊に近い性質を持つ妖魔に付加効力を与える。ただ、この場合鬼はその類ではない。しかし、それを差し引いてもその切れ味はダイヤモンドをも切り裂くほどであり、例え鋼鉄以上の強度を持った鬼が相手でもその刃は相手を切り裂く。

 

スッ

 

少女が爪を引いた構えを取る。張り詰める緊張。だが、そこに乱入者が現われた。

 

ズシィィィィン

 

さきほどシエルを倒した鬼がその場に着地する。その圧倒的な威圧感にさきほどのシエルと同じように驚愕し、絶望感に愕然とする薫。その時鬼が口を開き予想外な事を言った。

 

「マッテクレ・・・・。ソノワザ、コウスケさんのシリアイジャナイノカ?」

 

「!?耕介さんを知っちょるのですか!?」

 

鬼から語られた予想外名前に薫は思わず素になって驚く。そして、その反応を見て鬼もほっとしたような様子を見せ言った。

 

「アア、コウスケさんに、キイテクレ。オレタチはテキジャナイ。」

 

 

 

 

 

その後、鬼の男、柏木耕一は鬼の姿を解いて人の姿に戻り、鬼の少女、柏木楓も戦闘体勢を解いた。そして薫は耕一の言う事を確認するためにさざなみ寮に電話を入れた。もちろん、耕一達に対する警戒はしたまま。

 

『はい、もしもし、さざなみ寮ですけど。』

 

「あ、耕介さん、ウチです。薫です。」

 

薫はまだ、油断できない状況なのに何故か耕介の声を聞いてしまうとそれだけでほっとしてしまう自分を自覚した。

 

「あのー、柏木耕一と言う人、いえ鬼を知っていますか?」

 

それを抑え尋ねる薫。答えはすぐ返ってきた。

 

『あ、耕一君。うん、俺の友達だよ。・・・・・・あ、あれ、言ってなかったっけ?』

 

返事の途中、耕介はまずいことに気付き声がどもった。

 

「聞いてません!!」

 

その答えに対し、薫は電話口で大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

耕介が耕一と出会ったのは1年ほど前、仕事とは別の私用で訪れた先の土地で耕介は耕一やその従姉妹達と出会った。その後色々あって、お互いの素性を知り、争いなどもしたが、耕介は耕一達に危険が無いことを理解し、そして、耕一の方も耕介がどういう人間かを理解し、友人となった。だが、その後、耕介は耕一が現在危険の無い魔の血をひく一族であることを神咲に伝えることをうっかり忘れてしまっていたのである。

 

 

 

 

 

「どうも、申し訳なかとです。」

 

薫が耕一達に頭を下げる。

 

「いや、気にしないでください。それに楓ちゃん、もっとちゃんと説明しないと。」

 

「でも・・・・・。」

 

「いいから!!」

 

耕一に強く言われ、楓が俯く。前世の記憶を受け継いでいる性か、彼女にはその行動に少し過激な所がある。極端にいえば、敵=殲滅という思考だ。正当防衛といえる行為ではあるし、相手を極力殺さないようにする意識はあるが、それでも現在の日本における社会道徳、また、揉め事を避けるべき、混血の家系としてもやや問題のある思考ではある。

 

「それに・・・・遠縁とはいえ、俺の一族が迷惑をかけたからね・・・・・。」

 

耕一の声が暗くなる。この町で起きた事件はかなり昔に別れた柏木の分家が引き起こしたものだった。それにより、多くの人が殺された。このすぐ近くパトカーの残骸の中にも警官の死体がある。

 

「・・・・・後はウチが処理します。耕一さん達はもう行ってください。」

 

薫にはそれに対し、かける言葉を持たない。その事で彼等を責めるのも責めないのも無責任だ。

 

「ありがとう・・・・。あ、それから、この場所にも救急車を呼んでおいてくれませんか。一応手加減はしたんですけど、ちょっとばかり大怪我を・・・あの、同業者の方かなんかだと思うんですけど。」

 

耕一の話を聞いて薫はそれがシエルの事だとすぐにピンとくる。それも含めて自分が承ることを承知した。

 

「わかりました。それもやっておきます。」

 

「ああ、ありがとう。それじゃあ。」

 

「・・・・それでは。」

 

そして、二人は立ち去って行った。薫は耕一達の事を上手くぼかし、警察に報告をし、さらに、その後、鬼に誘拐された女性達の居場所を突き止め保護、事件を締結させた。そして、シエルは病院に運ばれ2週間ほど入院し、魔眼で記憶処理した後、退院して行った。その後、薫と会い耕一達の事を聞きにきた、その時、耕一達に対し危険性は無いと主張した薫に対し、シエルは甘いと言ったがそれ以上何か言う事もすることもなく立ち去った。そして3ヶ月後、彼女等は別の事件で再会することになる。

                           →黒き月と白き月本編に続く

 


(後書き)

ふぅー、思ったより長くなって疲れました。ところで、次の更新は何がいいでしょう?希望があれば、優先して投稿します。

 

@     黒き月と白き月本編

A     黒き月と白き月外伝

B     とらハ的聖杯戦争

C     宝くじで100万円当たったら




残る一つは痕とのクロスだったね。
美姫 「そうね。所で、四つのうち希望は?」
うーん。どれも良いな〜。
Cとかも良いな。あ、でも、@も凄く気になっているんだよな。
美姫 「で、Bも気になってるんでしょう。そして、外伝もまだあるのなら読みたいと」
あ、あはははは……。
一番、気になっているので言えば、@だな。
美姫 「そういう事らしいです〜」
それじゃあ、また次回で〜。
美姫 「ばいば〜い」



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