第一話「真祖創生」
〜夜の三咲町〜
一人の少女が、短い人の生を終えた。
人の生を終えた少女は、動いていた。
「遠野くん!?」
「同類か!?」
コートを着た男が聞いてきた。
「誰!?」
「成りたてか? 娘、何時血を吸われた!!」
「さっき、遠野くんを探していて気づいたら此の体に……」
「面白い。血を吸われて直ぐに成るとは……。では、ろくに知識を持っては居るまい」
「叔父さんは、誰?」
「我は、二十七祖が十位“混沌”と呼ばれる者だ。お前に我の持つ知識と力の一部を与える」
そう言って、コートを着た男から出た黒い塊が弓塚の影に飛び込んだ。
「蛇の娘よ。暫く何処かで大人しくしておれ!! 此の町は、間もなく我の狩場となる」
そう言うと“混沌”は、夜闇に消えていった。
「何処かって、何処に隠れよう……」
さつきは、夜の街をさ迷う。
身を潜める場所を探す為に……。
「此処、何処だろう。私の住んでいる町とも違うみたい」
さつきは、彷徨っている内に知らない土地に来ていたようだ。
さつきは、気づいていない。
自分がある場所へ誘導されているという事を……。
〜友枝町ペンギン公園〜
「さくら様、準備は宜しいですか!?」
ウォンが、さくらに聞いた。
さくらは、知世作のピンクを基調としたクロウ・リードのマントを纏っていた。
さくらの使い魔、ケルベロスと月は真の姿でさくらの側に控えている。
「さくらちゃん、ガンバですわ」
知世は、カメラを片手に撮影をしている。
「さくら!! 儀式は、めっちゃ魔力食で。“死徒”は、真祖の姉ちゃん達が抑えてくれると言っても空間閉鎖にも魔力が要るけいな」
「さくら様、“死徒”が公園に入りました。空間閉鎖を……」
如何やら、人払いの術は発動させているようだ。
其処へ、何も知らないさつきがやって来た。
だが、さつきの中の混沌たちが気づいた。
「体が動かない……」
「悪いけど、貴女の自由を奪わせてもらったから」
「誰!?」
「私は、アテネ・クライシス・ブリュンスタッド。“真祖”と呼ばれる吸血鬼よ」
「“真祖”!? 私に、何か用でもあるの」
「用が在るから貴女の自由を奪ったの。用が無かったら人払いや空間閉鎖なんて面倒な事しないわ」
「丁度、お腹がすいていたから、貴女の血を頂戴」
「舐めんじゃないわよ!! あんたにあげる血はないわ」
アテネは、空想具現化で出した鎖でさつきを締め上げる。
「何するの?」
鎖を引きちぎろうと足掻くさつき。
「儀式を始めましょう、さくら様」
儀式を始めようというウォン。
「アテネ殿、其の“死徒”に血を一滴飲ませてください」
儀式の指示を出すウォン。
「あんたに血を飲ませるのは嫌なんだけど……」
アテネは血を飲ませるのは嫌なようだ。
「言っておくけど真祖の血は、猛毒だから儀式が終わるまで落ちないでよね」
アテネは、さつきの元に行って自分の爪で手首を裂いてさつきに血を一滴飲ませた。
「さくら様、私は口を出しません。貴女自身の力で“真祖創生”を行ってください」
「うん」
「では、はじめてください」
「星の精霊達よ」
さくらが、呪文を紡ぎ始めると西洋と東洋複合の魔方陣が現れ巨大な魔力が溢れ始めた。
〜三咲町〜
「!!」
コートの男は、巨大な魔力に気づいた。
「此の魔力、真祖の姫君ではない。先程の死徒でもない。誰だ!?」
コートの男は、気配のする方角を見た。
「近いな……。真祖の姫君を食す前に我が力としてくれよう」
一方、同じ三咲町の別の場所でも……。
「此の気配……」
黒衣に黒鍵を持った女性が気づいた。
「“死徒”では無いようですが、魔術師だったら厄介です。介入できないように釘を差して置きましょう」
そう言って、女性も魔力の気配がする方へ向かった。
〜友枝町ペンギン公園〜
「今、此処に新たなる“真祖”を創らん!! “死徒”弓塚さつきを新たな“真祖”となせ」
長い詠唱の末、魔術が発動した。
呪文の効果でさつきは、光に包まれている。
唯の光ではない。
月の力を帯びた光だ。
「お疲れ様でした、さくら様」
「さくら、お疲れ!!」
「さくら様!! 儀式は、終わりましたが、彼の体が“真祖”として安定するまでもう暫く掛かります」
「さくらちゃん、お疲れ様ですわ」
そう言って、知世はクーラーボックスからドリンクを取り出す。
「やっと見つけました!!」
其の声と共に黒鍵が飛んできた。
「大人しく、其の死徒を渡しなさい!!」
威圧的に言う黒衣の女性。
「死徒は、塵にします」
「貴女の目は、節穴!?」
「誰が節穴ですか? 其の死徒から感じられる気配は……」
黒衣の女性は、戸惑う。
感じられる気配が、“死徒”では無いからだ。
「アレ!?」
「分かった!? 代行者!! 其の娘は、“真祖”よ!! “真祖”!!」
「何言っているのですか!! “死徒”が“真祖”に成れるわけありません。絶対に成る事ができないのです」
「でも、此の事実は変わらないわよ」
「其れでも潰せる時に吸血鬼は潰します。当然、貴女達もです」
「埋葬機関の人間に何を言っても無駄じゃ。此処は、力で黙らせるしかない」
「せやな。融通の利かん姉ちゃんには、此処がどんな場所か教えたらんやあかんようや」
ケルベロスが、代行者に言う。
「其れはいいですが、此の町を吸血鬼を匿った町として地図上から消して差し上げます」
「我々は成り立ての死徒を匿い、ある儀式を行いました」
「まさか!!」
「今日、ロアに吸血され“死徒”に成った娘です」
「ありえません!! 血を吸われてすぐに死徒に成れるわけがありません!!」
「じゃが、事実は事実じゃ」
「ロアの子と分かった以上、見逃すわけには行きません!!」
その時、光の中から声がした。
「其の声、シエル先輩?」
「えっ、弓塚さん」
シエルが、驚きの声を上げる。
光の中から弓塚さつきが姿を現した。
「儀式は、成功じゃ。さくら様」
ウォンに言われて姿を現すさくら。
「えっ。其の女の子が儀式を行ったというのですか!?」
「さくら様が、“真祖創生”を行ったのです」
「さくらは、凄いんだぞ!! クロウ・リードや侑子より魔力が強いんだから」
「侑子って、“次元の魔女”ですか!?」
「それ以外に誰が居るの?」
「あのボッタクリの底なしが!?」
『聞こえたわよ』
何処からか声がした。
『誰が、ボッタクリの底なしの酒樽よ!!』
「久しぶりだな侑子」
『ウォン、久しぶりね』
「侑子、元気!?」
『貴女は、代わらないわね』
「私は、“真祖”だから」
「“真祖”は、アルクェイド以外居ないはずです」
『知らなかったの? アルクェイド以外に“真祖”が残っていたのに』
「アルクェイド以外の“真祖”が生き残っているなどありえません」
『アルクェイドが暴走した時に城に居なかったとしたら如何?』
「そんな事、信じられません」
「侑子が言っている事は事実よ。私達、その時城に居なくて難を逃れたの」
「なんなら、証拠を見せてあげましょうか? 代行者!!」
証拠を見せるというアルシャード。
「“次元の魔女”が嘘を言うとも思えません。貴女達が“真祖”であると信じてあげます」
「じゃあ、此の娘の事、見逃してくれる?」
「弓塚さんの方は、見逃してあげます。ですが、其の魔術師は、見逃すわけには行きません。協会に通報させていただきます」
さくらの事を協会に通報すると言うシエル。
「通報しても意味無いわよ」
「意味がないかは、やってみないと分かりません」
「ゼル爺が圧力を掛けけ揉み消すと言っても!?」
「ゼル爺って“魔導元帥”ですか?」
「他に誰が居ると言うのよ。今、侑子の所に居るんでしょ」
『えぇ。今、一緒に飲んでいたところよ』
「彼は、平行世界へ行っているはずでは」
『代行者よ!! 一寸、用があって戻ってきただけじゃ』
「用とは何なのですか?」
『古い知人に会う為じゃ。前世の名をクロウ・リードと言ったかの』
「クロウ・リードって、あのクロウ・リードですか」
クロウ・リードの名は、教会にまで知れ渡って居るようだ。
『あぁ。あのクロウ・リードじゃ』
ゼルレッチは言い切る。
「ゼルレッチよ暫く魔女の所に居るのじゃろう」
『いや、明日にでも倫敦へ戻る。見ようと思った儀式も終わってしまったからな』
如何やら、真祖創生を見ようとしていたらしい。
(エリオルが旨く時間を稼いでくれたようだな)
「魔女よ近いうちに会いに行くが良いか?」
『えぇ。昔みたいに飲みましょう。昔話をしながら』
そう言うと侑子との通信は切れた。
「代行者よ。如何する?」
「彼が後ろに居るのでは、諦めざるをえません」
「シエル。さくらちゃんに手を出したら、私達だけじゃなく“黒の吸血姫”達も敵に回すことになるわよ」
「“黒の吸血姫”って、アルトルージュまでも見方にしているのですか!?」
さくらの呆れた親交関係に驚くシエル。
「吸血鬼が来たよ」
「えっ!!」
「今宵は、上質の栄養が補給できる」
「ネロ・カオス!! 貴方まで来ていたのですか!?」
「来ていたとは、愚問だ!! 代行者」
「此の娘の中に居る混沌は、あんたの?」
アテネが、ネロに聞いた。
「如何にも。成りたてだったから我が知識と力を与えただけだ!!」
「彼女に力を与えたのは、失敗ではないのですか? ネロ・カオス!!」
「かも知れないな……。規格外のポテンシャルを持っていたか……蛇の娘よ。我が倒れし後の第10位はお前が次ぐがよい」
「何を言っているのですか? 弓塚さんに混沌を制御できるわけ……」
「制御って、こう言う事!?」
さつきが影から混沌を出して言う。
「なっ。弓塚さん。貴女は何処まで規格外の才能の持ち主なんですか!?」
「そう言われても……」
「弓塚さん。貴女が、ロアの依りしろだったら最悪の事態になっていたでしょう」
「ネロ、あんたは此れから如何する?」
「興が削がれた。真祖の姫君を取り込むのは、日を改めるとしよう」
「ネロ!! 何処へ行くですか!?」
シエルの言葉を無視して去るネロ。
去ったネロを追いかけるシエル。
「では、車を呼びますから私の家に帰りましょう」
そう言って、迎えの車を呼ぶ知世。
少しすると知世のボディガードがやって来た。
「お嬢様、お迎えに上がりました」
迎えの車は、普通の車ではない。
大人数が乗れるリムジンだ。
リムジンに乗り込んで一行は、ペンギン公園から去った。
其の様子を密かに見つめている者がいた。
「あのお姉ちゃん成りたてなんだ。近いうちに遊んであげようかな?」
そう呟く少年。
「遊んであげる前に手勢を増やして力を蓄えないといけないけど、代行者がいるんじゃ無茶も出来ないな」
其の少年の目は、赤く光っていた。
ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜。今回もケロちゃんにおまかせのコーナーの始まりや」
元気にはじめるケルベロス。
「今回は、シナリオ中に出てきた“真祖創生”について説明するで」
「ケロちゃん。其れは、如何いうものなんですか?」
「“真祖創生”ちゅうんは、ワイの前の主クロウ・リードが編み上げた魔法級の秘術なんや」
「魔法級なんですか」
「何せ、使える者が居らんかった術や。例え儀式の手順と呪文を知っとっても魔力が足りん」
「じゃあ何故、クロウさんはご自分で使わなかったのですか?」
「使わなかったんやない。使えなかったんや。その時は、術を使う候補が居らんかったからな」
「じゃあ、クロウには、術を使えるだけの魔力が無かったんだ」
「アホぬかせ!! クロウは、当時最高の魔術師や」
「クロウなら強引に術を使えたんじゃないの」
「クロウが、理を捻じ曲げるような事をすると思うか?」
「確かにクロウは、しないわね」
「おっと話を元に戻すで。そもそも“真祖創生”ちゅうんは、その昔、真祖の姫さんがプッツンして狂ったパワーバランスを戻す為に編み出したんや。編み出しは良かったが、抑止力になりうる死徒が居らんかった。 術を創ったクロウは、一度も使うことなくこの世を去ってしもうたんや。色々あったが、今回初めて使われたんや。流石は、さくら。クロウが作り出した秘術を誰の力も借りずにやってのけたんや。いや、さくら自身と言ったほうがええかもしれんな。さくらの性格からすると多分、二度と使われる事はあらへんからしっかりと目に焼き付けたか?」
「ケロちゃん。そろそろ時間ですわ」
「もっと話したい事や説明したい事が沢山あったのに。次回も楽しみにまっててな。ほな!!」
さつき、不幸なのかどうなのか。
美姫 「ネロから力を分けられた上に真祖になっちゃったものね」
まあ、そのお蔭もあって、シエルから見逃してもらえたみたいだし。
美姫 「さくらの方も通報されずに済みそうね」
とは言え、あんな大掛かりな術を行使したからな。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
気になる続きは……。
美姫 「この後、連続してすぐ!」
それじゃあ、また後ほど〜。