第二話「王族の庭園」
〜大道寺邸〜
「今宵は、敵襲は無いじゃろう」
「さっちんは、“真祖”に成ったけどロアと戦うには早いかも」
「そうじゃな。徹底的に戦い方を教えておいたほうがいいだろう」
「そんな場所、あるの? 私たちが力を使えば気づかれるぞ」
アルシャードが場所を聞く。
「何処か魔力が満ち溢れ時の流れが違う場所が有ればいいんだけど……」
「あそこなら魔力に満ち溢れ時の流れが違う」
「何処!? 何処!? 何処なの?」
アテネがウォンに聞く。
「王族の庭園じゃ」
「王族の庭園? そんな物、この世に無いわよ」
「其の通りじゃ。だが、王族の庭園は存在しておる」
「じゃあ、何処にあるのよ!!」
「さくら様。王族の庭園を持ってきてください」
さくらに頼むウォン。
頼まれたさくらが持ってきた物は、四角いガラスの枠の中に本物そっくりに作られた城だった。
「之が王族の庭園じゃ」
「其れが、王族の庭園?」
「さくら様が創られた品じゃ。外での1時間が中では1年になる」
「早速中に入ってさっちゃんを鍛えたいんだけど……」
「では、早く終わらせてこっちの世界で休みましょう」
〜王族の庭園〜
其処は、城の中だった。
「さっさと起きろ!! 時間は、限られているんじゃ」
そう言って、さつきを地面に落とす。
「イタぁ!!」
「さっちんには、真祖としての力の使い方を覚えて貰うわ」
アテネがさつきに言う。
「先ず最初に身体の制御から始めるよ」
早速、さつきに真祖としての教育が始まった。
「強化に時間が掛かりすぎ!!」
駄目だしをするアルシャード。
「其れでは、“死徒”にも勝てません」
「酷いよぅ」
「之でも、手加減して差し上げているのです」
手加減しているというアンゼロット。
王族の庭園での特訓は続く。
アテネ達が昼夜を問わず休み無くさつきと戦っている。
其れも、魔力に満ちた王族の庭園だから出来る方法である。
「もっと潤滑に!!」
「このっ!!」
「そんな大振りじゃ敵に当たらんぞ!!」
「いいじゃん。さっちゃん、力押しがあっているみたいだから……」
「パワーを生かす戦闘方法を教えるかの」
さつきに持ち前のパワーを生かす戦闘方法を叩き込む日々が一ヶ月続く。
王族の庭園での特訓が始まって10ヶ月……。
「そろそろ、空想具現化の実技やってみようか!? さっちゃん」
空想具現化の実演をやろうと言うアテネ。
「自分が望むものを創造してみて」
「えぇっと。じゃあ、之」
さつきは、自分が望むものを創造した。
さつきが具現化したのは、鎖だった。
「アテネさん。こんな感じでいいの?」
「空想具現化は、問題なく発動できたようね」
「では、空想具現化を維持した状態で我らと戦ってもらいます」
更に高等戦術に入るというアルシャード。
「無理だよ。アテネさん達でも維持したまま戦うのに慣れていないでしょ」
「私達は、長い時間を掛けて会得したけど、さっちゃんには時間が無いからね」
「早くしないと、知世ちゃんのケーキは私が頂きますわ」
アンゼロットが、知世のケーキでさつきを釣る。
「私の食べたら許さないんだから!!」
「ほらほら、早くしないと全部食べますわ」
そう言いながらケーキを食べるアンゼロット。。
「このっ!!」
「鬼さん、此方!!」
アンゼロットに翻弄されるさつき。
「ケーキ!!」
「ご馳走様」
さつきの分のケーキを食べたアンゼロット。
「私のケーキ……」
涙目になるさつき。
「おいしかったよ」
「……」
「さっちゃん?」
アンゼロットがさつきから溢れる魔力に気づいた。
「アンゼロットさんのばぁかぁっ!!」
さつきかが放った渾身の一撃を受けて吹っ飛ぶアンゼロット。
「やってくれたわね」
アンゼロットからも魔力が膨れ上がる。
「覚悟は、良いですか!?」
魔力の篭ったパンチの打ち合いをする、さつきとアンゼロット。
打ち合うごとに床のタイルが壊れていく。
「私のケーキ返して」
「なら、私からケーキを奪えるくらい強くなりなさい」
「食べちゃえ!!」
さつきが影から放った混沌がアンゼロットに襲い掛かった。
ガブっと混沌の獣がアンゼロットに噛み付いた。
「よくもやってくれましたわね」
「アンゼロット。そこ等へんで止めておきない!!」
「何で止めるのよ!!」
「今回の課題は、何だった?」
「空想具現化を維持した状態での戦闘……」
「そう。さっちゃんは、クリアしたのよ」
「派手に暴れたのう。之は、修理が大変じゃ」
修理が大変だというウォン。
「アンゼロットさん。今日の夕食後のデザート、貴女だけありませんわ」
「何で、私だけ無しなのよ!!」
「貴女がさつきさんのケーキを食べたからですわ」
「誰が何と言おうとデザートは、奪うからね」
「仕方ありませんわね。アンゼロットさん?」
「私に文句を言う気!?」
「今日の夕食、楽しみにしていてくださいね」
知世の微笑を見たアンゼロットは、戦慄した。
戦う術を持たない知世が唯一使える手段。
其れは、食べ物でコントロールする事だった。
其の日の夕食で、アンゼロットは地獄を見た。
彼女の前に並べられた料理の全てが苦手なものばかりだったのだ。
「アンゼロット、食べないの? 食べないのなら私が貰っちゃおう。良いよね、知世?」
「はい。食べてください」
「じゃあ、アンゼロット貰うね。さっちゃんも、食べて!!」
アンゼロットから取り上げた料理をさつきにも勧めるアテネ。
「はい」
アンゼロット以外は、楽しく食事を進める。
「あぁ。美味しかった」
「知世の料理は最高ね」
「では、食後のデザートですわ」
デザートという言葉に反応するアンゼロット。
「デ、デザート!!」
「あぁ、アンゼロットさんは昼にいっぱい食べているから要りませんよね?」
アンゼロットは、ダーク知世の前に黙っている事しかできない。
「うぅぅぅ」
「アンゼロットさん。ご自分で体験して如何でしたか? 凄くつらかったでしょう。今度は、ありませんわ」
そう言って、隠していたデザートをアンゼロットの前に出す。
其れを見たアンゼロットは、目を輝かせる。
「さて、今日は、ゆっくりしましょう」
アテネが、休息宣言をする。
其れは、其の日の訓練の終わりを意味していた。
王族の庭園での時が過ぎ1年がたった。
「さて、王族の庭園での特訓は終わりじゃ。現実世界に戻る時間じゃ」
そう、王族の庭園に居られる時間は1年なのだ。
〜大道寺邸〜
「今宵は、ゆっくりと休もう……死者狩りは、明日からじゃ」
「じゃあ、交代で警戒しようよ」
「そうじゃな……。今、十一時だから3時間毎の交代じゃな」
「始は、私とアンゼロットでするから」
勝手に見張りの順番を決めるアテネ。
「では、ワシとアルシャードが後半じゃ」
「何で、さくらやさっちんにはさせないのですか?」
「主達は、明日も学校だ!! 無理もさせられないだろう……」
「せや、さくら達の分はワイ等がする」
「気に入りませんわ」
「アンゼロットよ。さくら様に無理を言うもんじゃない」
「じゃあ、さつきにも訓練と称して見張りをさせなさい!! そうしたら、さくらと知世が見張りをしないことを許してあげる」
アンゼロットは、あの事を根に持っているようだ。
「その代わり、明日のデザートは大盛りを頂きますわ」
〜友枝町繁華街〜
「死者どもよ。食い尽くせ!! そして、僕にもっと力を」
“死徒”は、街中を行きかう人を死者に襲わせた。
「二十七祖の座、此の僕が頂く……さあ、吸え!! 僕の兵隊を増やすのだ」
「ぐひゃぁ!!」
「化け物だぁ」
グシャッ!!
死者達に蹂躙される人たち。
または、死者に血を吸われ死者の仲間になる人が相次ぐ。
「いいぞ!! もっと暴れろ!!」
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
「ちっ。之までか……」
パトカーの音に撤退を決める死徒。
「今宵は、之までだ!! 散れ!!」
親に命じられて散り散りに去る死者達。
死者たちが去った直後に到着する警察。
「之は……」
警官の一人が見たのは、バラバラに引き裂かれた死体が転がる地獄絵図だった。
「友枝駅前にて殺人事件発生!!」
無線で本部へ報告する警官。
「現場には、バラバラ死体及び体中の血液が無い変死体が多数あり!! 三咲町にて発生中の事件と関係があるものと思われます」
「状況を報告しろ!!」
「はっ!! 現場の状況は、三咲町の事件と酷似しています」
「三咲町か……三咲町の資料を」
三咲町の事件資料を見る警部。
彼が、この事件の指揮官らしい。
「警部!! 夜間の為、鑑識は不能です。如何しますか!?」
「お前らは、指示されなければ、何も出来ないのか!!」
「現場保全をしたいのですが、広範囲にわたっていますので……」
そう言って、地図を見せる警官。
「明日の朝は、ここら一帯混乱は避けられないな。よし、現場一帯を封鎖しろ」
「はい」
規制線を張るため警官が走っていく。
「とんでもない事件が、此の町でも起きたものだ」
之が、友枝町を恐怖に陥れる吸血鬼事件の幕開けであった。
ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜。今回も張り切ってケロちゃんにおまかせのコーナーをやるで」
おなじみの台詞を言うケルベロス。
「其れにしてもさっちゃん、とんでもない逸材やな。ワイもビックリや」
さつきの逸脱ぶりを語るケルベロス。
「何しろ、空想具現化も使えるからな。いや〜恐れ入ったわ」
「真祖に成るだけでも凄いんでしょ」
「そうや。真祖に成るだけでも凄い事なんや」
「おほほほほ。さくらちゃんと一緒にさつきさんの可愛らしさも撮影しなくては」
「おい、知世。まだ、コーナー終わっていなで」
「おほほほほ」
「おい、聞いとるか!? 知世!!」
「おほほほほ」
「駄目や、聞いてへん。既に自分の世界に逝ってしもうとる」
知世は、コーナーの事を忘れて自分の世界に逝ってしまっている。
「知世が自分の世界に逝ってしもうたから此処からはワイ一人で盛り上げていくで」
ケルベロスが話を戻す。
「今回出てきた王族の庭園は、さくらが創った物なんや。外の世界での一時間が一年になるんや。一年やで!! 一年もあればゲームがやりたい放題なんや」
ゲームがやりたい放題だというケルベロス。
「唯、問題があるんや。そう、電力や。電気がないとゲームが出来へんのんや」
当然、電気が無いとゲーム機は動かないのである。
「しかぁし。王族の庭園には、発電設備がちゃあんとある。せやからゲームが出来るんや。ゲームの話は、置いといて本題の説明にもどるで」
本題の説明に戻るというケルベロス。
「王族の庭園は、魔術師や成り立ての死徒には最適の環境なんや。しかも年をとらへん。死徒は、力を蓄える事が出来る。便利かつ危険なアイテムでもあるんや」
王族の庭園の利点と欠点を説明する。
「そろそろ、終了や。今回は此処までや。次回も楽しみにしててな。ほななぁ!!」