第五話「伽藍の堂」






 
 〜伽藍の堂
「橙子さん。今日は、帰りますよ」
「あぁ。気をつけて帰れよ」
「コクトー、早くしろ」
 コクトーと呼ぶ女性。
「急かさないでくれ式」
 式と共に伽藍の堂を出ようとする幹也。
「お前ら、帰る前に言っておくことがある」
「何だ!? トーコ!!」
「最近起こっている猟奇殺人の事は知っているな」
 三咲町と友枝町で起こっている猟奇殺人事件のことを知っているかと聞く橙子。
「体中の血が無くなっていたり、バラバラにされた遺体が見つかった事件ですね」
「もう、調べていたのか?」
「はい」
「悪い事は言わん。黒桐、此の件から手を引け!!」
 幹也に手を引けという橙子。
「式も聞け。この事件を起こしているのは、吸血鬼だ」
「吸血鬼?」
 殺人衝動が騒ぐ式。
「唯の吸血鬼じゃない。死徒二十七祖クラスの吸血鬼が起こしている事件だ。いくら式でも殺す前に殺されるぞ」
「えぇっと。被害者の数は、二つの町を合わせて300人です。その内警察関係者は……」
「それ以上は言うな!! その資料を寄越せ」
 幹也が集めた資料を奪い取る橙子。
 資料を見る橙子の手が止まる。
「アルクェイド・ブリュンスタッドが殺されたぁ。如何言う事だ黒桐」
「そのアルクェイドとか言う人を殺したのは遠野志貴と言う人で……」
「遠野といえば、事件の起きている三咲町の管理をしているはず」
「遠野槙久の後をついで長女の遠野秋葉が管理しているはずです」
「お前は、何処まで調べた?」
「此処最近の出来事は全て調べました」
 全てを調べたと言う幹也。
「詳しい話は、明日聞く。そろそろ魔が活動を始める時間だ」
「それじゃ、また明日」
「それじゃあ、寄り道せんと帰れよ」

 黒桐と式が帰った後、タバコに火をつけ吸う橙子。
 その顔は、表の顔ではなく裏の顔……魔術師としての顔だ。
「はぁ。式が首を突っ込まなければ良いが」
 橙子は、式の性格が気がかりのようだ。



 〜伽藍の堂のある町
「コクトー。俺は、介入するぞ」
「式。橙子さんが首を突っ込むなと言っていただろ」
「俺は、介入する。今まで殺せなかった分、沢山殺せるからな」
 死者が沢山いるから存分に殺せるという式。
「式。もう少し情報を集めるまで大人しくしていて欲しいのだけど」
「情報など要らん。唯、殺せればいい」
「今日は、帰ろう」
 二人は、両義の屋敷へ歩いて帰る途中だ。
「コクトー。先に帰ってろ」
「式、何処へ行くんだ?」
「決まっているだろ。吸血鬼を殺しに行く」
 三咲町と友枝町の吸血鬼を殺しに行くと言い出す。
 こうなったら黒桐でも式を抑えられない。
「貴方達に動かれると困るのよね」
「誰だ!?」
 式が声の主に聞いた。
「わたし? 私は、アテネ・クライシス・ブリュンスタッド。真祖と呼ばれる吸血鬼よ」
「お前が犯人か?」
「貴方達が介入しようとしている場所の犯人じゃないわ」
「久々に殺しがいのある奴だ」
 式は、魔眼を発動させナイフを構える。
「貴女の目、直死の魔眼ね」
 アテネの言葉に驚く式。
 だが、直ぐに平静を取り戻す。
「俺の目の事を知っているのか?」
「折角、吸血鬼退治に行こうとしている所で悪いんだけど、貴方達の雇い主のところに連れて行ってくれない?」
「断る」
 アテネの頼みを断る式。
「何も、イキナリ断らなくてもいいだろう」
「俺は、その女を殺したいだけだ」
 既にアテネを殺す気満々の式。
「じゃあ直接、貴方達の雇い主に出てきてもらって説得してもらおうかな」
「式。大人しく彼女の言う事を聞いたほうがいいよ」
「コクトーが其処まで言うのなら仕方ない」
 黒桐の説得にアテネを殺すことを諦める。 



 〜伽藍の堂
「まったく黒桐の奴、とんでもない事まで調べおって」
 黒桐の情報収集能力に呆れる橙子。
「あのぅ。橙子さん?」
「何だ。帰ったんじゃなかったのか?」
「帰る途中で、此方の人に絡まれまして」
「アレほど、関わるなと言っただろ。まぁ、関わってしまったのなら仕方ない」
「貴女が、此の子達の雇い主?」
「雇い主といえば、雇い主だな」
「此の子達、吸血鬼退治に行こうとしていたわよ」
「貴女は、人じゃないわね」
「トーコ。そいつは、吸血鬼だ!! 真祖とかほざいていた」 
「真祖は、アルクェイド以外に存在しないんだぞ」
「なんなら証拠見せてあげようか?」
「いやいい。其れより話しがあるのだろう」
「折角、ネロとロアを消せる盤面が出来上がったのに盤面を乱すような事をしないでくれない?」
 アテネは、盤面を乱すなと言う。
「其の盤面を指したのは、誰なのか」
「こんな盤面を指せるのは、“クロウ・リード”クラスの魔術師しか居ないじゃない」
「クロウ・リードだと!! クロウ・リードは死んだと聞いているが」
「クロウは、随分前に死んでいるわよ。でも、生まれ変わりはいるけどね」
「其の話は、私も聞き及んでいます」
 クロウ・リードの事は、知っていると言う橙子。
「生前は、占い師としても名を馳せていたと」
「そう。だから、介入しないで欲しいのよ」
「二人には吸血鬼事件には介入させない。之で良いのか?」
「介入しないでくれればね」
「さて、此の問題は終わりだ。今度は、私から言わせて貰うぞ」
 今度は、橙子から話があると言った。
「数日前、何をした!?」
 イキナリ確信を聞く橙子。
「私のいる場所でもはっきりと分かるレベルの魔力放出量だったぞ。結界越しでもな……」
「此処で感知できるレベルの放出量だったんだ。可也抑え気味だったのに……」
「ヤハリ、何かやっていたか。何をしていたか話す気は無いのだろう」
「簡単に話すと思う?」
「思わないな。アレだけの魔力を持っている魔術師は、そうはいない。いや、私はアレだけの魔力を持った魔術師を知らない」
 アレだけの魔力を持った魔術師を知らないという橙子。
「あの魔力量は、人が持つには大きすぎる。だが、“死徒”とも感じが違った」
「エリオルからも話すなと言われているけど、如何しようかな?」
「聞いたことの無い名だが魔術師か?」
「エリオルは、クロウの生まれ変わりと言っていたけど……」
「クロウの生まれ変わりがいるだと!! クロウは、既に死んだと記憶しているが」
「エリオル、クロウが死んだ時のことを話しくれないから」
「そうか、アレはクロウが編んだ秘術か……」
「似ているけど違うよ。アレは、さくらがやったんだから」
「さくら? 若しかして“クロウの後嗣”か」
「正解!!」
「“クロウの後嗣”なら、頷けるな。いや、“クロウの後嗣”だとしても魔力が大きすぎる」
「“クロウの後嗣”の二つ名を知っている割に他の二つ名は知らないんだ」
「他の二つ名は、聞いたことが無い。耳に入ってくるのは、“クロウの後嗣”だけだ」
 橙子でもさくらの二つ名を知らないようだ。
「知っているのは、ごく少数の関係者だけだから」 
 さくらの二つ名を知っているのは、ごく少数の関係者だけだというアテネ。
「アレほどの魔力。代行者や死徒にも気づかれたでしょう」
「“弓”とネロに感づかれたけど、追い返したわ」
(まあ、儀式が終わった後だったけどね)
「二十七祖の十位か、奴まで来ていたのか」
「ネロは、アルクちゃんを追って来たみたいだけど、カレー星人は“蛇”が目的よ」
「ネロにロア。これまた大物が来ているな。それよりカレー星人は誰のことだ?」
「カレー好きの代行者は、一人しか居ないじゃない」
「第七司祭か……」
「それ以外にも死徒がうろうろしているのよ。なかなか、逃げ足が速い奴で仕留められないのよね」
「其れなら城を探せば良いだろ」
「城と思しき場所をしらみつぶしに探しているけど見つからないのよ。三咲町には、作ってないはずだけど……」
 三咲町を城にしているのは“アカシャの蛇”なのだ。
「もう一度、言うけど此の二人にしっかり首輪をつけておいてよ」
「今度、“クロウの後嗣”を連れて来い!! 鮮花にも紹介したいから」
「其の鮮花って子、魔術師なの?」
「あぁ。私の弟子だ」
「じゃあね」
 アテネは、橙子の事務所を去った。
 アテネの気配が去るのを確認して式が聞いた。
「トーコ。如何する?」
「此の件に関しては、一切手を出すな。良いか? お前が過去に倒した連中とは次元が違うんだ」
「分かった。だが、帰り道で出会ったら殺すからな」
「帰り道で出会った時だけ、許そう」
「それじゃぁ橙子さん、また明日」
「黒桐、遅刻するんじゃないぞ!! 式、寝坊したらたたき起こしてやれ」
 如何やら、黒桐には遅刻癖があるらしい。



 〜友枝町
「今日も、勢力を拡大させようかな」
 省吾が勢力拡大を考える。
「折角手に入れた城から出る危険を冒す必要はないね。そうだ、廃工場に待機させている死者共を動かそう」
 廃工場の死者を動かすという省吾。
 この日も、省吾の軍勢によって新たな死者が増えたのだった。



 ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜。今回も張り切っていくで」
 決まり文句を言うケルベロス。
「皆は、知っとるか? 今回、登場した式の小娘が『PS2版 MELTY BLOOD Actress Again 』に参戦するんや。もちろんワイもプレイするで」
 ケルベロスは、ゲーム好きである。
「話を元に戻すで。式の姉ちゃん、物騒な目を持ってたんやな。其れに加え根からの殺人衝動を持っとたとは……危険人物や。アテネの姉さんが人形師に釘を刺させたのは正解見たいや」
 式の事を危険人物というケルベロス。
「いやぁ〜釘を刺して正解やった。邪魔されたら予定が狂うってしまうからな」
「言われたとおり、人形師に釘を刺させてきたよ」
「とりあえず、之で邪魔はせんやろう」
「あの二人が介入してきたら人形師に責任をとって貰うから」
「でも、責任とらんかったらゼルレッチを差し向ければええだけのことや」
「そうは言ってもゼル爺は、簡単には動かないわよ」
「動かなければエリオルに動かさせるだけや!!」
「其れはいいけど、そろそろ時間よ」
「もう時間か? 残念や。今回は、之で終わりや」
「それじゃあ、次回も読んでね」
「ほな!!」



二つの町でそれぞれに起こる事件。
美姫 「当然、真相を知る者もいるわよね」
にしても、あの情報収集力は凄いな、いや、本当に。
美姫 「でも、式が大人しくしているかしらね」
うーん、それも怪しい所だよな。それに、やっぱりさくらの魔力は感知されていたみたいだな。
美姫 「みたいね。次回は一体、どうなるのかしら」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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