第十話「発動!! 空想具現化マーブル・ファタズム






 
 友枝中学校
「此の僕自らもお姉ちゃんと戦うようになるとは思わなかったよ」
 開戦前には数多の死者が居たが今では其の死者はなく、四天王もアイルトン一人だけになっていた。
「よくも僕の大切な部下達を倒してくれたね。お姉ちゃんには、お釣りが帰ってくる御礼をしてあげるね」
 省吾の体ら魔力が溢れ出る。
「私も、ヤラレた四天王達の復讐を……」
 アイルトンからも魔力が溢れる。
「我らの怨みを何億倍にして返してやる。其の体で地獄以上の苦しみを味わうがいい!!」
 三人の死徒が一斉にさつきへ襲い掛かる。
「行くよぉ!!」
 さつきは、腕を振り回して前進する。
 しかし、標的に命中する事はなかった。
 動作が大きい分、隙も大きい。
「アレ?」
 ふっ飛ばしたはずの死徒の姿はなく背後から羽交い絞めにされた。
「離してよ!!」
「そう言って離すような事はしない。四天王が将に同じ手は通じない」
 アイルトンは、ガッチリさつきを羽交い絞めにしてさつきの動きを封じる。
「アイルットン。しっかり抑えていてよ」
「はい。省吾様!!」
「お姉ちゃん。学習能力が無いんだね」
 クスクス笑う省吾。
「ブリミル。お姉ちゃんが着ている魔術が掛かった服を破り裂いちゃって。其の服さえなければ、お姉ちゃんの防御力を大きく削れると思うから……」
「畏まりました」
 そう言って、ブリミルはさつきの魔術が掛かった服を胸元から破いた。
「きゃぁっ」
「ぐほっ」
 ブリミルは、さつきの魔術が掛かった服を破る事には成功したもののさつきに蹴り飛ばされた。
 蹴り飛ばされたブリミルは顔面から着地、ダイブした。
「自由を奪っているのに足蹴りだけでブリミルをふっとばすなんて凄いね。でも……」
 省吾がさつきを睨み付ける。
「其れも出来ないようにしてあげる」
 そう言って、鋭いパンチをさつきの腹部に打ち込んだ。
 省吾のパンチは、さつきの腹部に深く沈みこんでいる。
「う、ぐぅえっ!!」
「お姉ちゃん如何したの? とっても苦しそうだけど……」
「うっ、くっ……苦しいよう」
「軽く殴っただけなのに」
 省吾は、悪戯っぽく言う。
 省吾は、拳を腹部に突き入れたままの状態を維持している。
「ひ、酷いよう。イキナリ女の子のお腹を殴るなんて……」
 さつきは、涙目になりながら言う。
 口からは、涎が垂れている。
「闘いに酷いもないよ。今度は、もっと強く殴ってあげるから耐えてね」
 省吾は、さつきの腹部に突き入れていた拳を引き抜くと同時に再び深く突き入れた。
 突き入れられた拳が引き抜かれ気が緩んだ瞬間、さっきより強い衝撃が襲ってきた。
「ま、また……」
 省吾は、間隔を置かずにさつきの腹部を殴り続ける。
「ぐっ……」
「まだまだ、之からが本番だよ」
「ガハッ」 
「お姉ちゃん、だんだん防御力が落ちてきているよ。ほら、こんなにも深く入っちゃうよ」
「うぇっ」
「苦しいよね。此の程度じゃ、僕の怒りは収まらないよ」
 省吾は、さつきの体力を奪いダメージを与え続けていく。
「はぁはぁ。一寸疲れちゃったから休憩」 
「これ以上、殴らないで」
 力の無い声でさつきが言う。
「此の程度で僕の気が済むとは思わないでね」
 其れは、さつきを絶望の淵に突き落とすには十分の台詞だった。
「ブリミルも此のお姉ちゃんを痛めつけてあげて」
「はい。省吾様」





「もう、我慢できません!!」
 我慢できないと言うシエル。
「此のままだと弓塚さんは、殺されてしまいます」
 黒鍵を構え戦闘体制に入ろうとするシエル。
「今は、その時じゃないよ」
「今じゃなかったら何時、戦うのですか!? 魔術師!!」
「誰かに見られているから戦えない」
「誰かって……」
「ネロ・カオスの使い魔」
「アルシャード!!」
「はい」
 アルシャードは、ネロの使い魔に一跳びで射程に捕らえた。
「盗み見はさせん!! 塵に返れ!!」
 ネロの使い魔は逃げる間も無く塵にかした。



「如何? 楽しい、ブリミル」
「はい。こんなに殴りごたえのある娘は初めてです」
 さつきの胸元は絶えどなく腹部を殴られて吐いた自らの血で汚れていた。
 さつきが吐いた血は服だけでなく地面も赤く染めていた。
「うぐっぅぅぅぅぅ」
「ブリミル。楽しんでいるところで悪いんだけど、そろそろ、其のお姉ちゃんにトドメを刺したいんだ」
「はい。本当は、もっと痛めつけて遣りたかったんだが省吾様の命令だから後一発で我慢してやる」
 そう言って、ブリミルはさつきの腹部に最後の一発を打ち込んだ。 
 度重なる攻撃で回復力を上回るダメージを受けていた為、さつきは一際大量の血を吐き出した。
「ちぇっ、僕がトドメを刺そうと思ったのに気絶しちゃったよ。此のお姉ちゃん」
 さつきは、度重なる攻撃で気絶してしまった。
 其れが、省吾たちの地獄になるとも知らない。
「申し訳ありません省吾様。小娘を気絶させてしまいました」
「まぁ、いいよ。此のお姉ちゃん、何も知らずに死ねるんだから」



「さっちゃん、気絶しちゃったよ」
「魔術師!! あの時、助けに行かなかったから弓塚さんが気絶したじゃないですか!!」
「アレで良かったんだよ」
 アレで良かったと言うさくら。
「現に弓塚さんは、虫の息です」
「もう直ぐ発動するよ。空想具現化マーブル・ファタズムが」
「弓塚さんに空想具現化マーブル・ファタズムが使えるわけありません。ましって真祖でもないのに空想具現化マーブル・ファタズムが……」
 其処でシエルは、自分が言った事を思い返す。
空想具現化マーブル・ファタズム? 弓塚さんが使えるというのですか!?」
「バカシエル。さくらちゃんは、さっちゃんが空想具現化マーブル・ファタズムを使えると言っているじゃん。一回耳鼻科に行ってきたら?」
「誰がバカですか!! 私は至って健康です。耳鼻科に行く必要はありません」
 シエルは、一呼吸置く。



「じゃあね、お姉ちゃん。楽しかったよ」
 さつきにトドメを刺そうと爪を伸ばす。
「!!」
 省吾の爪がさつきの首を刎ねようとした其の刹那。
 危険を感じて間を取った。
「如何して!? お姉ちゃんは意識を失っているはずなのに」
 意識を失っているはずなのさつきからは絶えどなく魔力が溢れる。
 其の勢いは衰えるどころか益々勢いを増しって行く。
 意識を失っているさつきは、目を金色に変えフラフラと立ち上がる。
「まだ、殴られたりなかったの? いいよ、もっと殴ってあげるね」
 意識を失ったさつきは、右手を前にかざして唱えた。
空想具現化マーブル・ファタズム!!」
 すると地面からチェーンが現れブリミルとアイルトンを引き裂いた。
「ア、アイルトン!! ブリミル」
 省吾は、見ているだけしか出来ない。
 さつきに睨まれて体が動かないのだ。
「如何したんだろう……僕の体が動かない」
 省吾の体は、ガタガタ震えている。
「もう、貴方の部下は居ないよ。如何する?」
「うわぁぁぁぁっ!!」
「さっきまでの元気は何処へ行ったの?」
「く、来るな!! それ以上、近づくなぁ」
 省吾は、完全に怯えている。
 先程までの威勢は何処へやら。
「さっきまでのお礼を返してあげるね」
 其れが、省吾への死刑開始の宣言だった。
「貴方にも私と同じ苦しみを味合わせてあげようか? 貴方に殴られた私のお腹、まだ凄く痛みが残っているんだよ」
「あっちへ行け!! 近寄るな、化け物」
「化け物でもいいよ。だって、貴方は此処で死ぬんだから」

 ズンっとさつきが放った拳が省吾の腹部に突き刺さった。
 省吾の体は耐え切れずにくの字に折れ曲がっている。
「ガハッ」
「如何したの? 苦しいの?」
「まだ、ぜ、ぜんぜんっ。く、苦しくないよ……」
 其の割りにとっても苦しそうな表情をする。
「じゃぁ、全力で行くよ」
 再び省吾の腹部を殴るさつき。
 全力で殴った為、内臓が破裂した感触が伝わる。
「ゴボッ」
 省吾は、大量の血を吐いて地面に倒れてもがき苦しむ。
「うぅっ」
 省吾は、腹部を量で抱えて呻き声を上げる。
 時折、逆流してくる血を吐き出す。
「ぼ、僕は……と、とんでも……ない……お、お姉ちゃんにて、手を出しちゃったの、かな?」
「自分で味わってみた感想は如何?」
 さつきは、省吾に聞く。
「い、痛いよう。苦しくて動けない」
「凄く苦しいでしょう。私がどれだけ苦しんだか理解できた?」
 省吾は、内臓の損傷を治そうと魔力を注ぎ込む。
「ま、魔力が底をついちゃった。お、お姉ちゃんに殴られたお腹の傷、完全に治せないや」
 さつきから受けたダメージは予想以上で省吾の魔力が空になってしまった。
「其のまま放っておいてもいいけど、楽に死ぬのと苦しみながら死ぬのとどっちがいい?」
「ど、どっちも嫌だ!! ぼ、僕は、体力を回復させてお姉ちゃんを必ず殺すんだ」
 生への執念を抱く省吾。
「私も早く休みたいから、そろそろ終わりにするね」
「早く、逃げないと……」
 逃げようと這いずる省吾。
「死ぬ前に言い残す事ある? あるのなら聞いてあげるよ」
 言い残す事を聞くと言うさつき。
「お姉ちゃんは、何なの? 何故、空想具現化マーブル・ファタズムが使えるの?」
「私が、真祖に成ったから使えるんだよ」
「遊び相手を間違ったみたいだ……。真祖に喧嘩売ったんじゃ勝てないや」
「言いたい事は、其れだけよね。それじゃあ、終わりにするよ」
 さつきは、終わりにすると言う。
「えぇっと……。星の息吹よ!!」
 地面から現れたチェーンの束が省吾を磔にする。
「肉片も残さないんだから」
 磔にした省吾をさつきは、爪で粉々に引き裂いた。
 引き裂かれた省吾は、塵となって消滅した。
「はうぅぅぅっ。疲れたよう」
 心身ともに疲れ果てたさつきは地面にしゃがみこんだ。
「さっちゃん、お疲れ」
 労をねぎらうアテネ。
「あ、アテネさん」
「たった一人で城を落とすとは思いませんでしたよ。弓塚さん」
 シエルも驚いている。
「さて、後始末を如何すかじゃな」
 戦闘の後は、ひどい有様だった。
 グランウドには地割れがあり、校舎は一部が倒壊している。
 とても魔術で直せる状態ではない。
「仕方ありません。吸血鬼が居た痕跡は、私が消した上で浄化しておきます」
「そうして置いてくれ」
「さて、仕事に取り掛かりますか」
 そう言ってシエルは、浄化作業に入った。
「では、撤収準備をするかの」
 撤収準備を始めるウォン。
「さっちゃん。歩ける?」
「駄目です。足に力が入らないや。其れにお腹も痛い」
「当たり前じゃ!! 内臓破裂を起こした状態で暴れたから、余計に傷ついて当たり前じゃわい」
「さっちゃんなら、一晩休めば全快よ」
「そ、そうかなぁ?」
「其れは、私が保証するわ」
「では、今日は休みましょう。いい映像も撮れましたし」
 知世は、満足そうな顔で言った。
「さくら様、明日は三咲町のほうへ行きます」
 明日は、三咲町へ行くようだ。
 既に時計は、深夜の0時を指そうとしていた。


 
 三咲町
「如何やら省吾は、蛇の娘に敗れたか」
 ネロは、使い魔を通じて結果を知っているようだ。
「ヤツは、二十七祖の器ではなかったようだな」
 肩には大型の鳥がとまっている。
「明日は、真祖の姫君を取り込んでやる。精々、体力を回復させておくんだな」
 ネロ・カオスは、夜の闇に消えていった。





 ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜ケロちゃんにおまかせのコーナーの時間や」
「それにしてもさつきはん不幸なヤツやなぁ」
「私って、そんなに不幸なのかなぁ」
 暗いオーラを纏ったさつきが言う。
「救いようのない位不幸やな」
 ドーンと落ち込むさつき。 
「前回に続いてまたお腹を殴られとったしな。しかも腕の半分近くまで深々とめりこんどったし」
「酷いよぅ。凄く痛くって苦しかったんだから。おまけに酷い吐き気が襲ってきて気持ち悪いんだから」
 さつきは、此処で吐こうとする。
「此処で吐くな!! あっちで吐いてや」
 慌てふためくケルベロス。
 さつきが他所で吐いているのを見てため息をつく。
「ふぅ。一時は、如何なるか心配したわ。それにしてもさつきはん、あの状態でよう死徒を倒したなぁ。普通は、動けへんのに如何なっているんや!? 体が真祖に成ってるから少々無茶できるか? 今度、さついはんに聞いとってやるわ」
 そうこう言っている内に終了の時間がやってくる。
「おっと、もう終いの時間か。もっと紹介したろうと思ったのに不幸なキャラやな。ほな!!」



さつき、真祖としての力を完全にコントロールできているようだな。
美姫 「みたいよね。とんでもない強さだったわ」
まあ、何はともあれ一つの事件は解決な訳だ。
美姫 「次は三咲町へと行くみたいね」
ここで誰と出会うのだろうか。
美姫 「それでは、この辺で」
ではでは。



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