第十二話「ネロ・カオスとの戦い 前編」
自然公園
「貴方には此の爪だけで充分よ」
そんなアルクェイドにネロ・カオスは混沌の獣を数体襲わせる。
放たれた獣を爪だけで次々引き裂いていくアルクェイド。
解体ショーが終わると一気にネロとの間合いを詰める。
「ぬぅ」
迫り来るアルクェイドにネロは、人食い鮫を放った。
其の鮫も引き裂いて王手をかけるアルクェイド。
「終わりよ。ネロ・カオス」
そう言って爪で一刃、ネロ・カオスを二つにした。
アルクェイドの周りには、解体した獣達とネロが横たわっている。
その時アルクェイドの膝から力が抜ける。
「は―――っ。は―――っ」
アルクェイドは、大きく肩で息をする。
「まさか……な。其れほどの衰弱をして尚、其の戦闘能力か」
真っ二つにされたネロ・カオスの片方が起き上がってくる。
「流石は真祖達が用意した処刑人……。曰く―――「白い吸血姫には関わるな」か。同胞達の忠告は正しかったとみえる」
「そうなっても生きているなんてね。だけど……あなたが使役する程度の使い魔では何匹だろうと、私を殺せないわ。ましてや、そんな状態で私に勝てるとでも思ってないでしょうね」
「……使い魔? 今の貴様にはその様にしかみえないのか」
アルクェイドに問うネロ・カオス。
「貴様の相手をしたのはあくまで私自身だ」
混沌たちも自分だと言うネロ。
「本来の貴様なら一目で気づいたはずだ。その金色の眼を凝らしてよく視るがいい」
アルクェイドに眼を凝らしてみろとネロは言う。
「見えるであろう。我が体内に内包された六百素以上の獣達の混沌が―――」
同じ公園内……。
「アルクちゃん、相当弱っているみたいね」
アテネたちは、ネロとアルクェイドの戦いを見ている。
「さっちゃん。今のネロが如何見える?」
聞かれたさつきは、目を金色にしてネロを見据える。
「六百以上の混沌が見えるよ」
「さっちゃんには見えたようね。さくらちゃんにも聞くけど、さくらちゃんも見えた?」
さくらにも聞いてみるアテネ。
「さつきさんは、ネロから混沌の一部を貰ったんでしょ」
「はい」
「アテネさん。混沌の数は六百五十素で合っていますよね」
「うん。正解!! アルクちゃん、アレが見えないくらい弱っているみたいね」
「少し喝を入れてあげないといけないようですわ」
「アテネよアルクェイドに手を貸すか? 其れとも貸さないのか?」
「もう少し様子を見てから決めるわ」
もう少し様子を見ると言うアテネ。
アルクェイドが解体したネロの片割れが突如動き出す。
「アルクェイド!!」
動いた塊を再び解体するアルクェイド。
解体された塊は、無数の蛇に変わってアルクェイドにまとわりつく。
「我が体内の混沌は気に入ったかな? 真祖の姫君よ」
アルクェイドは、混沌の海の中から動く事ができない。
「例え貴様が万全であったとしても、其れを破壊する事は叶わぬ」
「くっ」
「我が分身のうち五百もの結束で練り上げた「創生の土」をな……」
「アルクちゃん、アレが見えないくらい弱っているみたいね」
「アルクェイドは、何故ああまで弱っている。以前のアレなら簡単に倒せているだろうに……」
アルシャードもアルクェイドの異常に気づく。
「其れは、あの男の子に殺されたから弱っているの」
「アルクェイドを殺す? 唯の人間に殺せるわけがなかろう」
「ふうぅん。そう言うことだったんだ」
「アテネ。何がふうぅん何だ!?」
「あの子のメガネ、アレは魔眼殺しよ。何か強力な魔眼を持っていないとかけたりしないわよ」
「魔眼殺し……アルクェイドを殺した……」
アルシャードは、一つの答えに行き着いた。
「“直死の魔眼”!!」
「“直死の魔眼”なら私たち真祖をも殺せますわね。あの者が持つ眼が神話に出てくる物とは限りませんわ」
「神話に出てくる眼ならあの者は、この世に残ってはおれまい」
三咲町内
「吸血鬼の城がある友枝町とか言うところへ行ったけど既に誰かに倒されているし」
「之だから、遠坂凛は……」
「何か言った!? ルヴィア」
「貴女では、頼りないと言ったのです」
「頼りないのは貴女も同じじゃない」
「そんな事を言っても宜しいのですか? 荷物整理に手間取って飛行機に乗り遅れそうなのを助けたのは誰でしたか」
ルヴィアにそう言われては、反論できない遠坂凛。
「吸血鬼は、何処へいるのよ」
半ば、ブチキレ寸前の凛。
「此処は、貴女の国なんでしょ。其れなのに吸血鬼の居場所も分からないなんて情けないですわ」
ネロ・カオスの居場所が分からず喧嘩をする二人。
此の二人がネロの戦闘している場所に辿り着くまでもう少しの時間を要するのである。
自然公園
「貴様が現世に受肉されて以来、幾人の同胞が葬られ、幾人の先達が貴様を葬ろうとし、その逆の運命を打ち付けられたか……。だが其れも今宵終わる。何人も成し得なかった偉業……此のネロ・カオスが成し遂げる」
混沌の塊はアルクェイドを少しずつ飲み込んでいく。
「ネロ、貴方そんな体で此の力……」
「私において形骸の欠損など意味のない問題だ。私は六百六十六の‘獣’の因子と同数の命の混濁に過ぎない。即ち……」
ネロは、自らの頭を砕いた。
「半身を断とうが、此の首を潰そうが意味はない」
混沌の塊から完全なネロが復活する。
「元よりカタチのないモノ達だ。殺されたところで私の中に戻れば再び混濁の一つとして蘇生する」
砕かれた方のネロが混濁に戻っていく。
「ああぁっ!」
「私は一にして六六六……。滅ぼすつもりであるならば、一瞬で六百六十六の命を滅ぼすつもりでなくてはな」
「まずいわね。あのままだとアルクちゃんは、吸収されちゃう」
戦況分析を行うアテネ。
「じゃあ、私の固有結界で助けようか?」
「幾らさっちゃんの固有結界“枯渇庭園”でも分が悪いわね」
「確かに“枯渇庭園”ならネロの使い魔共を倒す事が出来るでしょう。ですが、六百六十六もの数を枯らす前にネロに囚われるでしょうね」
「しゃあない。さくら助けてやるんや!!」
「うん。混沌達を焼き尽くし腐食させよ!! ファイアリー、ミスト」
さくらが唱えると実体化したファイアリーとミスとがネロへ襲い掛かった。
三咲町内
「今、魔力の気配が……」
「えぇ」
二人は、さくらが解放した魔力の気配を感じた。
「ルヴィア、場所は分かったわね」
「当然です」
二人は、気配のしたほうへ急いだ。
自然公園
「くそっ」
志貴は、足にまとわりつく混沌から脱出できない。
そんな志貴へさくらが放ったファイアリーとミストが迫る。
「今度は、なんなんだ!?」
慌てふためく志貴。
そんな志貴を他所にファイアリーとミストは、混沌を腐食させ焼き尽くしていく。
「むっ!! 何をした」
「私は、何もしてないわよ。って言う前に何も出来ないわ」
「確かに弱りきった貴様には何も出来まい。一体誰が我が混沌を消しているのだ!!」
ネロは、周囲を観察する。
「あの魔術は、まさか……。クロウ・リードが居るのか? いや、クロウ・リードは死んだと聞いている。何故、クロウカードが発動している!?」
ネロは、クロウ・リードとクロウカードの事を知っているようだ。
「そうか、後継者居るのか。後継者? あの娘が後継者だったのか」
「何独り言を言っているの?」
「貴様は気づいていないのか? 此の巨大な魔力反応に……」
ネロが言う巨大な魔力反応に遅れてアルクェイドも気づく。
「此の魔力反応って死徒?」
「死徒では、ない。人間の小娘だ」
「ありえないわ。人が持つ事の出来る魔力量を逸脱している」
「くっくっくっくっくっ。流石クロウの後嗣、我が混沌たちが消されても不思議ではない」
「クロウの後嗣? 誰? 私は聞いた事がないわ」
「ずっと城で眠っていた貴様が知らないのも仕方ない。我も此の地に来るまで知らなかったのだ」
ネロですら気づいていなかったようだ。
「まあ、その話は如何でもいいわ」
クロウの後嗣の話を打ち切って元に戻す。
「不可能だわ! 何の着色もしていない存在概念をヒトの器に大量に内包すれば間違いなく貴方自身が消失する!」
「如何にも。我々はもはや個に在らず群体に近い。何れは‘ネロ’と言う名も無意味な知性のない塊に成り下がるだろう……。だが……其れでも構わん」
(今……私の中には‘何になるか分からないモノ’が渦巻いている。之はまさに原初の秩序……。その先に一体何が待つのか、私は‘私’が尽きる前に其れを知りたい―――)
「其れだけを追い求めてきたのだ」
混沌でアルクェイドを攻撃するネロ。
「貴様ほどの意識体を取り込むのは骨が折れそうだ。其れも喜悦の一つだ」
ネロは、背後に獣を放つ。
さくらによって開放された志貴に対処する為だ。
「此のまま‘私’の一部になってもらうぞ」
ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜。ケロちゃんにおまかせのコーナーの始まりやでぇ」
「真祖の姫さん、爪だけで十分と言っていた割りに簡単にネロに捕まってたな」
本編を思い返すケルベロス。
「あの兄ちゃん、直死の魔眼を持っている割に使いこなせてへん。ワイの主であるさくらみたいにならんと宝の持ち腐れや!!」
志貴のことを素人と言う。
「罰を受けた姉ちゃん達も近くに来ているようや。ますます、混戦になりそうな気配がビンビン感じてくるわ」
波乱の予感を漂わせる。
「それにしてもネロのおっさん何処でさつきはんに渡した分の混沌を回復させたんやろうか? まさかと思うが、猛獣園で補充したんか」
「おっと、もう終いの時間や。次回も楽しみにしといてや。ほな!!」
ネロとアルクェイドの戦い。
美姫 「こちらは原作に近いわね」
だな。さくらが途中で乱入したけれど。
美姫 「うーん、凛たちも向かっているみたいだし、どんな風に事態が収束するのかしら」
気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」