第二十三話「吹き荒れる魔力の暴風」






 
 衛宮邸
「セイバーは、踏み潰した。次は小娘の番だ!! 我が混沌を殺した数の5倍殴ってやる」
 セイバーは、黒い熊に踏み潰されたままだ。
「其の前にお前を殺す」
「出来る物ならやってみるがいい」
 式はネオ・カオスと対峙する。
 式は、ナイフを構えるとネオ・カオスに斬りかかった。
 ネオ・カオスも混沌を放つ。
 放った混沌を式は解体していく。
 そんな式よりネオ・カオスが早く動いた。
 式の懐に入り込むと式の腹を……着物の帯の部分を思いっきり殴った。
 腹を殴られた式は口から血を吐きならが吹き飛ばされる。
 着物の帯が式の腹のなかでネオ・カオスのパンチのエネルギーが炸裂させた。
「如何した!? 私を殺すのではなかったのか?」
 式が起き上がる気配はない。
 如何やら式は気絶しているようだ。
「ふん。気絶しているか……」
 ネオ・カオスは式をつかむと衛宮邸の鋭い枝の木へ放り投げた。
 意識を失っている式は其のまま枝に串刺しにされた。
 運がいいのか、串刺しになったのは蒼崎燈子が作った義手の部分だった。
「悪運の強いやつだ。アレでは、何もできんだろう」


「さあ、お前たち食事の時間だ!! 腹いっぱい喰らえ!!」
 ネオ・カオスは、体内の混沌たちを放った。
 ネオ・カオスが混沌を放つのと同時に其れは起きた。
 轟音と共に光の柱が天に上がったのだ。
 放たれた混沌たちは何も知らずに光の柱に突っ込む。
 突っ込んだ混沌が次々蒸発していく。
「何が起こったのだ!?」
 衛宮邸の上空には夜なのに暗雲が立ち込めている。
 暗雲から稲妻が走り混沌たちに降り注ぐ。


「何よ、あの魔力……」
「うそでしょ。あの魔力、とても人の器で扱えないわ」
「あの魔力があれば幾らでも魔術が使える」
 さくらの巨大な魔力を感じて喜ぶキャスター。
「何をしているのですか? 今の内に攻撃しなさい、ギルガメッシュ!!」
オレが止めを刺してもいいんだな」
「刺せるのならどうぞ。刺せればの話ですが……」
王の財宝ゲート・オブ・バビロン!!」
 ギルガメッシュが無数の宝具でネオ・カオスに攻撃する。
「ちっ、乖離剣・エアを使うか……」
 ギルガメッシュは切り札を使うようだ。
オレのこの一撃を受けてくたばれ!!」
 ギルガメッシュは、手に乖離剣・エアを持っている。
「エヌマ・エリシュ!!」
 ギルガメッシュは、宝具を開放してネオ・カオスに振り下ろした。
 ネオ・カオスの体がバラバラに吹き飛んだ。



「ガフッ」
 ルヴィアは、いまだに血を吐き続けている。
 生気が凄い勢いでなくなっていっている。
「この娘、もう持ちませんわよ。アルクェイド、貴女がこの娘の寿命を縮めたのですよ」
「私のせいだと言うの?」
「ネオ・カオスにグチャグチャにされた内蔵に止めを刺したのは貴女でしてよ」
「さくら、こいつの時を巻き戻すんや」
 さくらは、巨大な魔力をまとってルヴィアの元に歩み寄る。
 巨大な魔力に空気が揺らいでいる。
 さくらは、時を巻き戻す呪文を唱え始める。
 さくらの膨大な魔力がルヴィアの破壊された内臓の時を巻き戻していく。
 再生されていくといってもルヴィアを襲う激痛は尋常な物ではない。
 声にならない呻き声をあげ苦しむ。


「待っていたぞ!! “クロウの後嗣”を喰らえ」
 復活したネオ・カオスが混沌たちをさくらに襲わせる。
「要らないのなら私が貰うよ」
 ネオ・カオスが放った混沌をさつきが奪い影の中に取り込んでいく。
「一度ならず、二度までも我の混沌を取り込みおったな!?」
 ネオ・カオスは怒りを爆発させる。
「貴様を殺せば、お釣りが帰ってくる」
 ネオ・カオスはさつきを取り込もうと策を練る。
「そして、我は二十七祖入りだ!!」


「ウガァァァッ!!」
 ルヴィアは、激しい激痛に叫び声をあげている。
 激痛で暴れるルヴィアは両腕、両足を真祖に押さえられていた。
 医学の知識があるアンゼロットがルヴィアの状態を診ている。
 アルクェイドとさつきは戦闘中だ。


「我が“クロウの後嗣”を喰うのを邪魔する気か!?」
「あんたじゃ喰う前に殺されるわよ」
「我は999だ!! 簡単には殺されん」
「其の割りにさっちんに混沌を奪われたじゃん」
「誰も出来なかった偉業、真祖の姫君をこの場で殺してくれる!!」
「言ったからには、覚悟は出来ているんでしょうね?」
 アルクェイドがネオ・カオスに処刑宣告を言い渡す。
 アルクェイドによるネオ・カオスの処刑ショーが始まる。
 アルクェイドは、爪でネオ・カオスの体を引き裂いていく。
 引き裂かれた肉片が辺りに散らばり混沌と化す。
「貴方、ネロより弱いわね」
 其れは、アルクェイドの力が志貴に殺される前の状態に戻っているからだ。
「流石は、真祖の姫君。凄まじい攻撃力だ!! だが……」
 アルクェイドが解体した混沌がアルクェイドに絡みつく。
「この程度で私の自由を奪えると思わないでよね」
 そう言って混沌を引き剥がす。
「ヤハリ、貴様の孫に奪われた混沌が痛い。奪われさえしなければ貴様を取り込めた筈だ!!」
「どの道、あんたは此処で消えるんだから」
「我は消えぬ。貴様らを皆殺しにして聖杯を手にし今以上の力を手に入れるのだ」
「あんたの願いがかなう事はないわ。だって冬木の聖杯は壊れているんだから。昔、何処かの馬鹿がインチキをしたから……」
 アルクェイドの言葉がイリヤの胸に突き刺さる。
「では、我が聖杯を手にしても……」 
「ネガイが叶うことはありません」
「ネガイが適わぬ聖杯など要らぬ!! 聖杯の器の娘も殺して喰らうってくれる」
 ネオ・カオスは、怒りを爆発させる。
「貴様らを喰らった後、この国の人間を皆殺しにしてくれる」
 ネオ・カオスは、標的を見定めている。
「一番目障りな“クロウの後嗣”から始末してやる」
「さっきはよくもやってくれたな!!」
 背後の声に振り返るネオ・カオス。
 すると何もなかったように式が立っていた。
「貴様、木に磔にされていたのに何故……」
 式は、無言でネオ・カオスの右腕を切り落とした。
 切り落とされた腕を再生させようとするネオ・カオス。
「何故だ!! 唯の小娘に斬られた腕が再生しない」


 ライダーを支えに立っていた桜も……。
「お腹の痛みが消えた」
 さくらの魔術は、ダメージを受けた者全員に作用しているようだ。
「くすっ」
「サクラ?」
「ライダー、あの吸血鬼にお礼をするよ」
 黒桜が降臨した。


「うっ……」
「シ、シロウ」
「俺は……」
「シロウ、生き返ったのですか?」
「セイバー、俺は今までどうなっていたんだ!?」
 出来事を話すセイバー。
「士郎、後であの娘にお礼を言わないとね」
「遠坂!?」
「話は、後。衛宮くんも戦いなさい!!」
 さくらの術によって戦闘不能者が続々復活する。
 唯一人、ダメージがも大きいルヴィアだけが復帰にいたっていない。
 だが大分苦しみ方がやわらいできた。



「何をした!?」
「俺はお前の腕を殺しただけだ!!」
「何故、この私が貴様らに殺されなければならない」
「ネロが志貴を苦しめて殺そうとしたように、貴方も其の娘を痛めつけてから殺そうとしたからそうなるのよ。まあ、一番の敗因はさくらちゃんが魔力の封印を解くのを黙ってみていた事ね」
「“クロウの後嗣”の力に目がくらんだ我の負けのようだ」
「貴方は楽に逝かせない」
 ネオ・カオスの前には行動可能なメンバーが居た。
「私のお腹を殴ったお礼も返してあげないとね」
 黒桜がネオ・カオスに詰め寄る。
「わ、私が後退だと!!」
 ドンと何かにぶつかる。
オレに触れるな!!」
 ギルガメッシュにぶつかったようだ。
 ネオ・カオスは、目が据わった面々に囲まれている。
「シロウの恨み……」
「サクラが味わった苦しみ」
 冬木の面々に袋叩きにされるネオ・カオス。
「うぎゃぁっ!!」
 ボロ雑巾のように成ろうが攻撃は止まない。
「このままでは不味い……混沌を集めて密度を高めねば」
「集めようとしても無駄よ。混沌の残骸はさっちゃんが回収したから」
「真祖が混沌を使い魔にするなど聞いたことがないぞ」
「文句ならあの世でネロ・カオスに言いなさい。さっちんに混沌を与えコントロールの仕方を教えたのはネロだから……」
「私の怒りはまだ収まらないから」
 黒桜がネオ・カオスに詰め寄る。
「待て、アレは……」
 黒桜に怯えて別方向に後退するネオ・カオス。
 そして再び誰かに触れる。
 背後から感じる巨大な魔力にネオ・カオスは、ゆっくり振り返った。
 振り返った先に居たのは……。
「“クロウの後嗣”……いや“星の魔女”」
「貴方に逃げ場ないよ」
 そう言って魔力の放出量を増やすさくら。
 一瞬で放出量が膨れ上がったさくらの魔力に触れたネオ・カオスの体が崩れていく。
「二十七祖の椅子欲しさに“星の魔女”に手を出したのは失敗だったか……」
 ネオ・カオスの体は勢いを増して崩れていく。
 既にネオ・カオスの姿は残っていない。
 そんな中、最後の混沌……黒い蛇が式へ襲い掛かる。
「之が答えでござる」
 式は黒い蛇の線を切った。
 斬られた黒い蛇はボロボロに崩れ消えた。
 其れと同時にネオ・カオスの気配が完全に消えた。
 包囲していた面々は目が点になっている。
「今、変な言葉を言わなかったか? 俺」


「何とかなったな。俺の家で……」
 士郎の家は再び跡形もなくなっていた。
 さくらの巨大すぎる魔力の暴風とギルガメッシュの乖離剣・エアで跡形もなくなっていたのだ。
「ギルガメッシュ、ランサー、帰りますよ。この事を第七司祭に報告しなければなりません」
 カレンは報告の為、教会に帰るという。
「ギルガメシュにランサー、報告が終わった後の覚悟はいいですか?」
 如何やらギルガメッシュとランサーにはカレンのお仕置きが待っているようだ。
「お兄ちゃん!! 私も帰るね」
 イリヤはバーサーカーを引きつれ帰っていく。
「私も帰らせていただきます。アヴェンジャー帰りますよ」
「もう、終わったのか?」
「貴方が寝ている間に全て終わりました」
 バゼットに首根っこを掴まれて引きずられるアヴェンジャー。
「それじゃあ、私も帰りますね先輩」
 ライダーと共に桜も帰っていく。
「宗一郎様、私たちも帰りましょう」
 キャスターと宗一郎も帰っていく。
 冬木のメンバーで残っているのは遠坂と士郎だけだ。
「俺も帰っていいのか?」
「はい。帰られて結構です」
「この時間だと電車は動いていないな」
 既に終電の時間を過ぎていた。
「トウコからの伝言だ!! 其の女を何時になったら連れてくるだと言っていたぞ」
「ロアの一件が済んだら連れて行くと伝えといて」
「わかった。トウコに伝えておいてやる」
「では、貴女の雇い主の所に送って差し上げましょう」
 式を送るというエリオル。
「さくらさん、お願いします」
 さくらは、転送の呪文を唱え式を伽藍の堂へ送った。



 伽藍の堂
 燈子は事務所の机でタバコを吸っていた。
「全く“クロウの後嗣”は、あきれて物言えん。冬木から此処まで届く魔力の気配。一体何をやったんだ!!」
 遠く離れた冬木の地から発せられたさくらの魔力をまたも感じていたのだ。
「トウコ!!」
「式か!? 早かったなって言うかどうやって結界内に現れた?」
「“クロウの後嗣”が俺を此処に飛ばした」
「式、伝言は伝えただろうな?」
「ちゃんと伝えておいてやったぞ」
「其れで、返答は」
「ロアの一件が済んだらくるそうだ」
 式は壊れた義手を燈子の前に置く。
「式、之は?」
「吸血鬼に腹を殴られた後、投げ飛ばされて枝に刺さった」
「式、着物を脱いで見せてみろ!!」
「トウコ、俺に脱げというのか?」
「状態によっては治療が必要だろう」
「必要ない!! “クロウの後嗣”の術でダメージも消えている」
「式!! 帰って寝ろ!!」
 式に帰って休めという燈子。
「壊れた義手に変わる新しいのを作ってやる」
「約束だぞ」
「時間は掛かるがいいか?」
「其れより性能が良くなるのならな……」
 式は、自分のアパートに帰っていった。



 衛宮邸
「衛宮くん、今夜寝る所がないでしょう。私の家に来る!?」
「遠坂の家に?」
「衛宮くんは野宿するというの?」
「其れは……」
「遠坂、ルヴィアは如何するんだ!? 何時までもあそこに寝かせておくわけにもいかないわね」
 不本意だが遠坂はルヴィアを自分の家に寝かせる事にした。
「アーチャ、ルヴィアを抱いてきて」
 アーチャによって抱きかえられるルヴィア。

「さくらさん、私はイギリスに戻ります。ロアの事はおまかせしました」
「エリオル君、もう帰るの?」
「はい。あの人が私のことを探し回る前に戻ります。近い内にまた逢えますよ。其れに毎日でも話せます」
「さくらちゃん、まったね」 
「今度は貴方に勝ちます」
「何でも掛かって来いスッピー!!」
 エリオルは転移魔術を使ってイギリスに帰っていった。
「さくらちゃん。私たちも帰ろう」
「うん」
 そう言うと、さくらも真祖たちと共に冬木の地から去っていった。


 冬木の地を恐怖に陥れた吸血鬼ネオ・カオスは消滅した。
 ネオ・カオスによる犠牲者の数は数千人にのぼるらしい。
 警察も失踪者として捜索するも一人も発見できなかったと後に発表された。



 ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜ケロちゃんにおまかせのコーナーの時間やで」
「めっちゃ強かったネオ・カオスをやっと倒せたなぁ。いやぁ、よかったよかった」
「何がよかったのですか?」
「スッピー、イギリスに帰ったんとちゃうんか?」
「このコーナーの為に態々、イギリスから来ているんです」
「スッピー、起こってへんか?」
「別に起こってなど居ません」
「若しかして戦闘に出番がなかったせいか」
「そう言う貴方も出番がなかったではありませんか」
「確かに描写は無かったかもしれんが、ちゃんとさくらを守とったわ」
「証拠を見せてください」
「証拠などあるかい」
「証拠を見せられないのなら守ったとは言えませんね」
「きいぃー。スッピー、喰らえ!!」
 ケルベロスがスピネルに火炎放射をお見舞いする。
「之が証拠や!!」
「やってくれましたね」
 スピネルは黒こげだ。
 眉をピクピクさせながら言う。
「そろそろ、終いの時間や。ほな!!」
 慌てて逃げるケルベロス。
「お返しですよ」
 スピネルがお返しの炎をケルベロスにおみまいした。
 其処には煙が燻る真っ黒なケルベロスの姿があった。
「では、次回もお楽しみに」



ネオ・カオス、粘ったけれどやっぱり駄目だったか。
美姫 「流石に相手が悪かったという所かしら」
さくらを除いても結構、厄介な連中だったしな。
美姫 「何はともあれ、一つの事件は解決ね」
だな。それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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