第三十話「宴」






 
「姫様!!」 
 リィゾが言う。
「どうした!?」
「見えられたようです」
「もうか……?」
「はい」
「予定では明日ではなかったのか?」
「如何やら、急に予定が入ったようです」
「予定とは何だ!?」
「倫敦に行くそうです」
「ちっ……ゼルレッチめ」
 舌打ちするアルトルージュ。
「決めた!」
「なにを決められたのですか?」
「わらわも倫敦へ参る。爺の陰謀に加わろうと思う」
 加わって何をしようと言うのだアルトルージュ。
「倫敦に面白い所はないはずでは?」
「ちょっと、爺の弟子候補を……」
「姫様、まさか、時計塔に……」
「その通りじゃ、さくらたちも行く予定らしい」
「もしあのメンツを見たら時計塔は混乱に陥りますぞ」
「それを見て楽しみたいのだろう……爺は……」
「今回は、何人犠牲者が出るか……」 
 怖い事を言うリィゾ。
「リィゾ、準備をするがよい」
「しかし、姫様!! 姫様が乗り込まれなくてもよいのでは?」
「退屈だからな、少しは楽しまないと」
「お帰りになって早々に出かけられるのですか?」
「ロアの憂さを変わりに晴らさせてもらう」
 アルトルージュは、時計塔で憂さ晴らしをするつもりのようだ。
「この話は後じゃ!! 先ずは客を案内いたせ」
「はい」



 倫敦。
 時計塔。
「罰掃除中に暴れる奴が何処に居る?」
 凛とルヴィアは、またゼルレッチに怒られていた。
「懲罰房にブチ込まれたいのか!?」
「懲罰房……」
 時計塔の学生にとって懲罰房行きはもっとも惨めなのだ。
 一度入ったら一生付き纏う不名誉な罰なのだ。
「懲罰房に入りたいのなら入れてやるぞ!?」
「い、嫌ですわ」
「わ、私もよ」
「凛、貴女がお入りなさい? 其れが世の中の為ですわ」
「そう言う、貴女が入りなさい!!」
「止めんか!! 二人とも本当にブチ込むぞ!!」
 ゼルレッチの雷が落ちる。
「お前達、除籍と懲罰房、どっちがいい?」
「どっちも嫌ですわ」
「どっちか、好きなほうを選べ!!」
 二人には選択権がない。
 急には選べない二人。
「では、わしが選んでやろう……」
 ゼルレッチが選んでやるという。
「さて、どっちにしてやろうかな? 懲罰房に入れても喧嘩するだろう……」
 二人の新たな処罰を考えるゼルレッチ。
「さぁ、選べ!!」
「なんとかならないんですか? 大師父!?」
「助けてやらんでもない……ただし」
「ただし?」
「ある者たちと戦って勝てたら不問に処してやる」
「誰と戦えば宜しいですの?」
「それは当日まで教えん!!」




 同日。
 アルトルージュの城。
「よく参った。宴は明日じゃ、今日はゆっくりするがよい」
 アルトルージュが歓迎の弁を言う。 
「此処を自分の家だと思ってよい」
 自分の家と思って良いと言うアルトルージュ。
「さっちんは初めてでしょう!? アルトちゃんの城は……?」
「はい」
「そう言えば、さつきは初めてじゃったな……わらわが自ら案内してやろう」
 自ら案内をするというアルトルージュ。
「リィゾ!! 儀式の用意を頼む」
「畏まりました姫様!!」
 儀式の用意を頼まれるリッゾ。
「それで、いつ行うのですか?」
「奴等への嫌味も込めて25日に行う」
「彼らにとっては重要な日ですな……」
「だから、彼らにとって最も神聖な日に行うのじゃ」
「あの娘を迎え入れるおつもりですか?」
「そうじゃ。新たにブリュンスタッドの名を授ける」
「確か、ブリュンスタッド城を具現化出来るものが条件だったのでは?」
「さつきは、具現化できるぞ」
「真祖に成ったばかりなのでしょう?」
「ある意味、化け物じゃ!! さつきは……」
「戦ってみても宜しいですか?」
「オマエを失いたくない」
「心配してくださるのですか?」
「さつきは、『クロウの魔法』もつかえる」
「悪い冗談を言わないでください」
「冗談ではない。事実じゃ」
「その様子だとまだあるようですな」
「流石リィゾ!!」
「やはりあるのですか」
「さくらが渡した妙な物を使っていた」
「妙な物とは、何なのですか?」
「異世界の品とか言っておった」
「この事は秘密にしておいた方が良さそうですな」
「知ったら協会の連中が欲しがるだろうな……」
「欲しがった所で奪えないでしょう」
「さつきに手を出すことは我等を敵に回すのと同じじゃ」
「命を捨ててまで我等と戦おうという馬鹿は居りますまい」
「居るのなら見てみたいぞ!! な、リィゾ、フィナ!!」
「はい」
「本当に馬鹿が居るかな?」
「居るとしたら爺に踊らされた奴等だけじゃろう」
 ゼルレッチに踊らされるのは凛とルヴィアぐらいだ。
 あの二人の場合、問題を起こして厄介ごとを押し付けられているのだが……。
「あの二人でしたら近々、旅に出されますよ」
「誰じゃ!?」
「私ですよ」
「なんじゃ、そなたか」
 エリオルもやって来たようだ。
「宴は明日じゃ」
「其れは知っています。それよりも今度、倫敦で遊びませんか?」
「われを誘って居るのか?」
「倫敦に行くのですか?」
「行ってやってもよい。わらわも行こうと思って居った所じゃ」
「姫様!!」
「では、26日に行きましょう」
 リィゾを無視して日程を勝手に決めたエリオル。
「そなたも今宵はゆるりとするがよい!! リィゾ、エリオルを部屋に案内せよ!!」
「畏まりました」
 エリオルを客間に案内するリィゾ。

「あまり姫様を城の外に引っ張り出さないで頂きたい」
「私より、アルトルージュさんの方が強いですよ」
「それは、今の話だろう……昔は、姫様と互角に張り合った奴の言う台詞か?」
「昔は昔。今は今ですよ」
「最強の魔術師でなくなっても性格は変わりませんな」
「『最強』……いいえ。『最凶』の二つ名はさくらさんが継ぎましたから……」
「確かにさくら殿は『最凶の魔術師』かもしれんな……」
「さくらさんに魔力で勝てる者は居ないでしょう……。これからも二つ名が増えるでしょうね」
「貴方は何を考えておられるのか?」
「ちょっと面白いことを考えているだけですよ」
「その面白いことに姫様を巻き込まないで頂きたい」
「その割には乗る気でしたよ」


「リィゾ、しけた顔をしてどうしたの?」
「姫様が……」
 リィゾがフィナに言う。
「姫様、乗り気なんだ」
「『乗り気なんだ』じゃない!! 姫様、今度はよりによって時計塔に行くつもりなんだ」
「行かせればいいじゃん」
「フィナ、それでも護衛役の言う台詞か!?」
「プライミッツは、どう思っているのかな?」
「プライミッツは、姫様の決めたことに絶対に従うじゃろう」
「確かにプライミッツは姫様以外従わないからな」





 その頃、冬木市では……。
「サクラどうしたのですか?」
 桜は手紙を読んでいた。
 何故か眉間に血管が浮いている。
「ね、姉さん……」
 桜から黒いオーラが立ち上る。
「ライダー、倫敦へ先輩と共に行かなくてはならなくなりました」
「また、何かあったのですね」
「姉さん、大乱闘したんです」
「桜も大変ですね」
「もともと、冬休みの間は行く予定だったの」
「私も付いていきましょう」
「ライダー、準備を急いで」
「はい」



 藤村邸
 衛宮邸が全壊して再建中の為、雷画の進めもあり士郎は厄介になっている。
 そんな士郎の所にも倫敦からの手紙が届いていた。
「遠坂の奴……」
「シロウ、凛がどうかしたのですか?」
「ルヴィアと大喧嘩をして懲罰房に入れられた」
「シロウ、手に持っているのは?」
「航空チケットだ! この飛行機に乗って来いって……」
「それで、飛行機の時間は?」
「今日の便だ」
「では、時間がないのでは」
「そうなんだ、急いで準備しないと……」
「士郎! セイバーちゃんと旅行に行くなんて、お姉ちゃん許しません」
 プンプンする大河。
「大河、士郎も自分で考えることが出来るとしだ」
「士郎が、セイバーちゃんと『あんなこと』や『こんなこと』をしないか心配なんだもん」
「おいっ!」
「へいっ」
 雷画が組員を呼ぶ。
「士郎、飛行機の時間は何時なんだ?」
「今日の午後の便だけど……」
「おい、空港まで送って行ってやれ」
 側つきの組員に言う雷画。






 同日 アルトルージュの城。
「姫様、月夜を見ておられるのですか?」
「うむ。夜風に当たっておる」
「宴は、まだ続いております。主催者が宴の席居ませんと」
「わかった。戻ろう」
 宴に戻るアルトルージュ。

 そして宴の席では……。
「たこ焼きは、ないんかぁ」
「たこやき〜♪」
 ケルベロスとスッピーがたこ焼き戦争を勃発させようとしていた。
「ケロちゃん、日本に帰ったら好きなだけ焼いて差し上げますわ」
「本当か? 知世!」
「はい。ですから今は我慢してください」
「約束やで知世」
 たこ焼きが食いたいケルベロス。
「わたしもですよ、エリオル」
「イギリスに戻ったら作ってあげましょう」
「本当ですね?」
「はい」


「之にて宴を終了する」
 宴の終了を宣言するアルトルージュ。
「明日は、倫敦へ乗り準備をします」
 既に日付が変わっているが翌日の事だ。
「夜が明けたら、倫敦での陰謀を話し合う」
「爺が何を考えているかわからないわ」
「彼は、我々を呼んで何かをしようとしているようです」
「エリオルは、結果を知っておるのであろう」
「もう、休むとしましょう。詳しくは明日おはなしします」
 宴で疲れた面々は休みに就いた。



 ケロちゃんにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜ケロちゃんにおまかせのコーナーの時間やで」
「今回から超カッコいいワイ、ケルベロスと……」
「妾がお送りする」
「それじゃあアカンねん!」
「何故じゃ?」
「もう一回やり直すで」
「司会はケルベロスことケロちゃんと……」
「アルトルージュがお送りする」
「装いも新たに黒の姫さんをレギュラーに据えた一回目行って見ようか」
 背後のセットが一瞬で変わる。
 今までと違ったのは、タイトルが『ケロちゃん&アルトルージュにおまかせ!』になっていた。
 ケロちゃん&アルトルージュにおまかせ
「装いも新たにこのコーナーもパワーアップしたで〜」
「妾が加わった事でぬいぐるみの時の10倍パワーアップする」
「誰がニグルミや!!」
「そなた以外に居らぬであろう?」
「なにおう?」
 真の姿に戻るケルベロス。
「言い忘れておった」
「何をや!?」
「さくらが、真の姿になって暴れるの禁止って言って居ったぞ」
「さ、さくらが?」
「暴れたら、おやつ没収とな……」
「それだけは、堪忍して」
「ならば、真面目に司会をするがよい」
「ちゃんとやるがな……」
「早くするがよい。時間がなくなるぞ」
「あ゛っ、時間が……」
「今回のは、さくらにつけといてもらう」
「ワイのおやつが……」
「五月蝿い縫いぐるみは無視して、今回は此処までじゃ」



今度の舞台はロンドンか。
美姫 「どちらにせよ、また大事になりそうな感じね」
だよな。特に問題が起こらなければ良いけれど。
美姫 「どうかしらね〜」
それでは、今回はこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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