第三十一話「時計塔パニック」
その日、時計塔は異様な空気に包まれていた。
その空気は、どんどん重くなっていく。
時計塔の生徒達は、これから怒る恐怖を知らない。
ただ二人だけを除いて……。
時計塔の主席候補二人だ。
そう。遠坂とルヴィアだ。
「あの二人、さっきから顔色が悪いけど……」
「また問題起こして絞られたんだろ」
生徒達はケラケラ笑う。
「今度は震え出した」
「風邪でもひいているのか?」
「うつされてたまるか!」
「あなた達、五月蝿いですわ。少しは静かになさい」
「ルヴィアに何時もの元気が無いぞ」
この時、ルヴィアには情報がリークされていたのだ。
そのリークした人物はゼルレッチなのだ。
講義の時間が近付くにつれ元気が無くなっていく。
講義の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「ただ今より講義を始める」
講師がやってきた。
「今日は、講義をする予定だったが実技をおこうなう。元帥閣下が見学なされる。無礼が無いように気をつけるように……。特にミス・トオサカとミス・エーデルフェルト」
名指しで注意する講師。
二人に釘を刺すのが目的のようだ。
この二人が暴れたら講堂が崩壊しかねない。
まだ、前回の崩壊の修復も終わっていないのだ。
「元帥が?」
「そこ! 無駄話をするな!」
無駄話するなという教官。
「全員整列!!」
全員を整列させる教官。
カツカツという足音が近付いてくる。
大講堂にゼルレッチが入ってくる。
ゆっくりと講壇に登る。
「諸君、今日は我が時計塔に客人が見えている。そこの問題児二名は知っていると思うが、世界最凶クラスの者達じゃ」
ざわざわとざわめく講堂内。
講堂内にさくら達が入ってくる。
入ってくるアルクェイドたちを見て学生達は震えだす。
裏のビックネームだから仕方ないことだ。
「ブリュンスタッド姉妹が喧嘩したら終わりよ!」
「帰らせて!!」
泣き叫んで帰りたがる学生も居る。
「俺たち撒きこまれて殺されるんだ……」
「静かにせんか!!」
ゼルレッチが一喝する。
「既に力の差がわかったであろう……お前たちに本当の化け物の力をその肌で感じるが良い。お前たちでも、この二つ名は聞いたことはあるだろう……『クロウの後嗣』の名を……」
「『クロウの後嗣』? 誰?」
「どうせど田舎の魔術師じゃないの?」
ど田舎の魔術師と見下す学生達。
「あの子達、本当のことを知ったら震えるわね」
真実を知っているアルクェイド達。
「それに、さつきのことも知ったらどうなるかな?」
さくらとさつきをダシにしようとするブリュンスタッド姉妹。
「さて、そこの問題児! この者たちと戦ってもらおうか?」
「大師父! それだけは勘弁してください!」
「そうですわ! そう言う元帥が戦ってくださいまし」
「ん? ワシは遠慮させてもう……」
戦いから逃げるゼルレッチ。
「コレは命令じゃ! 戦わなければ除籍の上、管理者の任を解くぞ」
ゼルレッチは、無理矢理戦わせようと仕向ける。
「大師父……戦い以外の道は……」
「無いの……死にたくなかった早く戦うことじゃ」
遠坂とルヴィアに戦えと言うゼルレッチ。
「ど田舎者を袋にしてしまえ!」
「どこの馬の骨とも分からない奴等なんか時計塔から追い出せ!!」
「さくらちゃん、あいつらに次元の違いを見せ付けてやりな」
次元の違いを見せ付けるよう言うアルクェイド。
「星の力を秘めし鍵よ」
さくらが呪文を唱え始めると巨大な魔力が溢れ始めた。
「なんなんだ!? この巨大な魔力は……」
「ありえん!! こんな化け物が居てたまるか」
「助けて!!」
「家に帰りたい」
学生が桁外れの魔力に恐怖する。
「この程度で怖がっていたら身体が持たないわよ」
「そうじゃぞ。さくらは、此れでも魔力を抑えておる。完全開放した時の恐怖に打ちひさがれるがよい」
「魔力完全開放!!」
短縮コマンドで魔力を完全開放するさくら。
巨大な魔力が更に巨大になる。
「うぅぅぅぅぅっ!!」
あまりに巨大な魔力に涙を流す学生。
金縛りにあった様に動くことが出来ない者。
恐怖のあまりに失神する者。
自信を喪失するものが多数居た。
「勝てない……」
「俺たちの力では勝てない……」
「あの二人、死んだんじゃない?」
「あぁ、死んだな……」
「目障りな、主席候補が消えてくれるといいな」
遠坂とルヴィアが死ぬのを期待する学生。
遠坂とルヴィアが半吸血鬼化していることに気付いている学生は居ない。
遠坂とルヴィアを半吸血鬼化させたのがさつきだという事を知るものは居ない。
「さて、戦いを始めよ!!」
ゴングを鳴らすゼルレッチ。
「遠坂、貴女から逝きなさい!!」
遠坂から殺されろと言うルヴィア。
「そう言う貴女から逝きなさいよルヴィア」
ここでも喧嘩を始める二人。
「かかって来ないのならコッチから行くよ? 闘、力!」
闘と力を使うさくら。
魔力のみならず直接戦闘力も向上するさくら。
「加減はするけど死なないでね」
二人の視界からさくらの姿が消える。
次の瞬間、さくらの姿はルヴィアの懐にあった。
ルヴィアの鳩尾に強烈なパンチを叩き込んだ。
一瞬の事に防御も出来ずに鳩尾に強烈なパンチを受け入れてしまった。
「ごぽっ!!」
強烈なパンチに胸が揺れ胃液を吐いた。
両手で腹を抱え膝を折って苦しむ。
「る、ルヴィア?」
「よそ見している暇は無いよ?」
「え?」
遠坂の顔を力いっぱい殴る。
殴られた遠坂は重力に逆らって真横へ吹っ飛ぶ。
頭から壁にたたきつけられる。
叩き付けられた壁が粉々に砕ける。
「おい、一瞬だぜ!?」
「ああの二人、死んだんじゃねえか?」
「エーデルフェルト、血ぃ吐いてたし……」
「今度は、魔術を使うから……」
新たなさくらカードを選ぶ。
選んだカードは、5枚だ。
五大元素……五行思想の頂点のカードだ。
凶悪な魔力が講堂内を荒れ狂う。
「時計塔の終わりだ……」
「いや、この世の終わりよ」
恐怖に震える学生を見て笑うゼルレッチ。
「さて、問題児二名は……」
遠坂とルヴィアの様子を伺う。
エーデルフェルトの娘は、いまだに血を吐いているか……。
遠坂の方は……。
「ふん。既にヴァルハラへ旅立ったか……」
「勝手に殺すな!!」
ゼルレッチの言葉に怒る遠坂。
なぜか、混沌を放っていた。
「おい! 見たか?」
「見た見た」
「トオサカの身体から変な動物が出てきた瞬間」
「元帥の司令でヴァルハラへ逝き掛けたって話、本当らしいぜ」
「それに、アレ、幻想種じゃ……」
「まさか、ネロ・カオスを倒して使い魔にしたとでも……?」
「倒せるわけ無いだろう? 相手は、死徒二十七祖だったんだろ」
「じゃあ、目の前に居るのは……?」
「五月蝿い!!」
ガンドを放つ凛。
それは、凄まじい連射速度だ。
まさにガトリングガンドだ。
「うぎゃあ!!」
「俺たちを撃つな!」
そんな学生にガトリングガンドを撃つ凛。
「如何やら死にたい見たいね……」
凄まじい殺気を放つ凛。
「さっさとヴァルハラへ逝けぇ!!」
学生とバトルを始める凛。
遠坂の凶悪なガンドで学生、講師に怪我人が続出する。
「最早、手がつけられないな……」
「じい。対価を払う気はある?」
「なんじゃ、アルクェイド! ワシに対価を払えというのか?」
「対価を払えば、さくらちゃんがなんとかしてくれるわよ」
「やむえぬな……このままでは時計塔が消滅してしまう」
「そう言うわけだから、さくらちゃん、お願いね」
アルクェイドに頼まれるさくら。
「それ以上暴れると……」
「暴れると如何するの?」
「私の最凶の魔法を体験して貰うよ」
「やってもらおうじゃない」
さくらを挑発する凛。
「貴女は、この破壊された物を元の状態に戻せる?」
「私を誰だと思っているの?」
「じゃあ、貴女が今殺した人を生き返らせることは?」
「死んだ人を生き返らせる事が出来るわけないじゃない」
「貴女は出来ないんだ」
「そう言う貴女は出来るの?」
「どんな事をしても死んだ人を生き返らせることは出来ないよ。でも……」
「でも?」
「時を巻き戻すことはできるよ」
「時を巻き戻すって……」
さくらは、何も答えずに時を巻き戻す。
逆回転で破壊された時計塔の施設が修復されていく。
凛が殺した学生の時も巻き戻る。
「この対価は、貴女に払ってもらうよ」
凛に対価を払ってもらうと言うさくら。
「なんで、わたしが対価を払わないといけない訳? 払わないわよ、私は……」
対価を払わないという凛。
「払えないなら、分割でも良いよ」
「分割でも払わないわよ」
断固支払いを拒否する凛。
「貴女、払わないと後で大変なことになるわよ」
「そんなこと知ったことじゃないわ」
なにが何でも踏み倒すつもりのようだ。
「そう……支払う気は無いんだ」
さくらから更に凶悪な魔力があふれ出る。
「いくら魔力を大きくしても怖くないわよ」
「じゃあ、貴女に払う気にさせてあげる」
「何をしても怖くないわ」
「冬木を地図上から消すといっても?」
「私の土地を……!」
土地を消すと言われて慌てる凛。
「どう? 払う?」
「払う! 払うから、私の土地を消すのだけは止めて!!」
「あの、トオサカの慌てぶり見たか?」
「アベレージワンの形無しだな……」
遠坂をいびるネタが出来たことを喜ぶ学生。
「さて、騒動も落ちつたことだし如何しようかの?」
遠坂とルヴィアの処分を考えるゼルレッチ。
「遠坂、エーデルフェルト! お前たちに厳罰を与える!」
「終に除籍か?」
「二人を除籍にしてくれ!」
「お前たちの処分は、ある人物を探すことじゃ!」
「誰を探せば……」
「探す人物のは、分からぬが二つ名はわかっておる……。お前たち二人は『時の魔女』を探し出して此処へつれて来い!」
ゼルレッチが二人に指令を発す。
「『時の魔女』は、何処に居るのですか?」
「わしにも分からぬ。ずっと探しているのじゃがな……」
「期限は何時までですの?」
「そうじゃの、見つけるまでは時計塔に戻ることを禁ずる。その間、お前たちは除籍扱いじゃ。時計塔の魔術師の強力は得られぬからな」
時計塔の支援は受けられないようだ。
「大師父、準備は?」
「そんな時間は、ない。サッサと逝かんか!」
「「はっはい!!」」
慌てて『時の魔女』探しに出る凛とルヴィアであった。
ケロちゃん&アルトルージュにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜ケロちゃん&アルトルージュにおまかせのコーナーの時間やで」
「妾の名を気安く呼ぶなぬいぐるみ!」
「殺るか?」
「相手になってやろう」
交戦寸前のケルベロスとアルトルージュ。
「そのほうを殺すのはいつでも出きる。今は仕事に戻るとしよう」
「そうやな……時計塔の連中の怯え方は尋常や無かったな〜」
「当然であろう。世界最凶のメンバーを前に正気を保てる者などおるまい」
「ワイの主は、最凶を通り越して超弩級の最凶やから」
「現代の魔術師は情けないのう……あの程度の魔力に当てられた程度で気絶するとは……」
「無茶言うなや。あのガキ共とは次元が違うんや」
「あの二人に以前恐怖を植え付けておいて正解でしわ」
「遠坂の小娘も、結局、対価払う言うたし……」
「あの二人『時の魔女』見つけられるかしら」
「無理やろうな……見つけるまでに何度も死ぬやろう」
「死なせてやればよかろう……」
「図太い性格しとるさかい、死ぬかわからへんわ」
「そのほう、あの二人のことをどう思う?」
呼ばれた時計塔の学生Sは震えている。
「……………………」
「どうした? 答えぬのか? 答えぬのなら血を吸うぞ!」
「脅しても、コイツしゃべらへんって! コイツ気絶してるがな」
「しかないな……お前、何か言うが良い」
別の学生にしゃべろと言うアルトルージュ。
「あの二人には死んでほしい。はっきり言って迷惑なんだ、喧嘩に巻き込まれて何度死に掛けたか……」
「妾と契約を結ぶか?」
「結ぶ! あの二人を圧倒する力が欲しい」
そう言ってアルトルージュと契約を結ぶ学生R。
「そなたの名は?」
「ラインハルト・フォン・ローエングラム」
「ラインハルトか……」
「首を洗って待っていろ! トオサカ、エーデルフェルト!」
力を得て興奮するラインハルト。
「そろそろ、終いの時間や」
「次回も楽しみにしているが良い!」
死人が出たようなんだけれど。
美姫 「これってゼルレッチに原因があるような」
まあ、結局は二人に厳罰が下る形になったけれど。
美姫 「人探し、しかも時の魔女という事しか教えられずに」
果たして無事に探し出せるのか。
美姫 「それじゃあ、この辺で」
ではでは。