第三十三話「襲撃!」
アフリカのジャングルでは、二人の直死が出会っていた。
「邪魔だ! 俺は、その女を殺す」
「式ダメだよ。見ず知らずの人に斬りかかっちゃ」
「止めるなコクトー」
「式、真祖の姫君を敵にするつもり?」
「ふ〜ん。私のことを知っている一般人も居たんだ」
「貴方から、魔術師の匂いがするんだけど気のせい?」
イリヤが聞く。
「していても当然だ! コクトーは、トウコの所で働いているからな」
「って、あんた! あの封印指定の魔術師の居場所を見つけたというの!? 今すぐ教えなさい」
お金が欲しい遠坂。
「封印指定って何なんだ?」
「アンタってやつは!!」
怒る凛。
「アンタ自身が封印指定級のクセにわからないですって!」
「そんな馬鹿放っておいて早く行きましょう」
士朗を無視していこうと言うイリヤ。
置いてけぼりを喰らう士朗。
そしてその夜……。
アルクェイドが空想具現化で出した城で夜を過ごす。
その場で士朗は教育を施される。
肉体的、精神的拷問を加えながら……。
幹也は、凛に燈子の居場所を問い詰められていた。
一般人なのに何故居場所を知っているのかと……。
そして、その過程で信じられない名前が出てきた。
鳴海清隆……。
魔術師にもその名が知れ渡っている男。
神と呼ばれているからだ。
「なんで、物騒な名前が出てくるのよ」
「彼は、燈子さんの客です」
「神と呼ばれるような人が魔術師に頼るなんてね」
「実は、燈子さんから口止めされているんです」
「何を口止めされているわけ?」
「それは、いえません」
「言わないと蜂の巣にするわよ」
「鳴海清隆に弟が居るのは知ってますよね」
「それぐらい知っているわ」
「じゃあ、鳴海清隆の弟がクローン人間だと言うことは?」
「何を言い出すのよ。クローン人間なんてまだ実現できた魔術師もいないのよ」
まだ、クローンを作れる魔術師はいない。
唯一人を除いて……。
本人と寸分たがわぬ人形を作れる蒼崎燈子以外……。
聖堂教会もクローン人間を神の子と認めていない。
吸血鬼と同じ扱いである。
「凛! 今日の食事は何なんですか?」
食いしん坊セイバーが聞く。
どうやらセイバーも同行しているようだ。
「わからないわよ。此処は、真祖の城なんだから……」
「そう言えば真祖の城でした」
「志貴、お腹すいたぁ」
わがまま姫が空腹を訴える。
真祖の威厳は、まったくない。
「なんで、私まで付き合わなければならないの? 本当なら志貴と楽しい時間を過ごせたのに……」
凛たちを睨む。
「私たちが悪いわけ?」
「あんたたちのせいで志貴とのラブラブの時間が無くなったんだから後でキッチリ払ってもらうからね」
ラブラブと言うアルクェイド。
「真祖を惚れさせる人間も居たんだね」
イリヤが言う。
「それより彼方達の眼、普通の眼じゃないよね」
イリヤが志貴と式の目に気づく。
「そのこ達の眼は、『直死』よ」
「ふ〜ん。『直死』ね……。貴女は、魔眼封じを使わなくても大丈夫なの?」
「俺は、自分の意思でコントロールできる」
「それ比べ『真祖の恋人』は、眼鏡での制御も限界に近付いているみたいね」
イリヤ曰く、志貴の限界は近いようだ。
「丁度いい機会だから、眼鏡のお兄ちゃんに魔眼のコントロールの仕方を教えてあげたら? 『直死』のお姉ちゃん」
「俺が? 面倒くさいからイヤだ」
「貴女を送った人に頼まれているんでしょ?」
「確かにトウコに教えてやれって言われたが……」
「魔術師なら契約は完遂しなさい」
「ちっ。仕方ない。教えてやるか……」
渋々教えると言う式。
ブリュンスタッド城の大広間で両儀式による遠野志貴への『直死の魔眼』のコントロールの仕方の教義が行われる。
破壊されても直ぐに修復できるから派手に闘っていいと言ってある。
目を使って相手を斬るのは禁止されている。
直死で斬られたら治しようがないからである。
「お前、体内に何を飼っている?」
式が志貴の中の混沌に気付く。
「気付いたんですか?」
「気付かぬと思ったか? 何時から飼っている?」
「少し前、ネロと戦った時に……」
「その混沌を出せ! 俺が殺してやる」
「あぁ、今出したら志貴が死ぬから……」
志貴の腹は、まだ完治していない。
まだ、内蔵にダメージが残っているのである。
ネロから受けたダメージで痛んでいる所にさつきの殺人パンチを腹に受けたのだ。
その為、混沌の残骸を臓器の代用にいていた。
「お前には、無駄な動きが多い! そんなんでは、俺には100年たっても勝てん」
志貴を評価する式。
「実戦経験の差を考えてほしいな」
実戦経験の差を考えてほしいという志貴。
「知るか! お前だって実戦経験はあるだろう?」
「あると言ってもネロとロアだけなんだけど……」
「二人殺しただけでも十分だ! そう言う訳で続けるぞ!!」
式による特訓が続けられる。
翌日も『時の魔女』探しが続く。
夜な夜な志貴は式に痛めつけられる。
実戦訓練でボロボロになる。
直死同士の戦いは常に死と隣り合わせである。
一寸線に触れただけでその部分が死んでしまうのだ。
『時の魔女』が居るとされるポイントまでまだ1000キロもある。
何日も何十キロと歩く日々が続く。
歩くだけの日々……。
そして志貴は、夜になると式に戦闘訓練をつけてもらう。
疲労が蓄積している志貴は、バランスを崩し式を押し倒してしまう。
黒桐幹也が見ている目の前で式の胸を着物の上から揉んでしまった。
着物の上からでも其の柔らかさを手に感じた志貴は、あわてる。
「おい! 何時まで俺の胸を触っていやがる!?」
だが、志貴はすぐには動けない。
「さっさと退きやがれ!!」
志貴は、式の胸を揉んだ状態のまま気絶していた。
口からは血が溢れている。
痛んでいる内臓が無茶をしたせいで再び痛んだようだ。
「楽しむんなら人の見ていないところでしてよね」
「これのどこが楽しんでいると言うのだ?」
志貴の下から這い出る式。
「はいはい。明日も強行軍なんだから……」
明日も強行軍のようだ。
其の頃、倫敦では……。
「あいつら、あと何日でたどり着けますかね?」
「後1週間は無理かもしれんの」
「それに、アルトルージュと契約した彼が向かいましたから……」
アルトルージュと契約し吸血鬼になったラインハルトがアフリカに向かった。
「ほう。奴がな……」
「彼、あの二人に相当恨みを持っていましたから」
ラインハルトが死に掛けたのは年に100回を越える。
3日に一回のペースだ。
恐らく、時計塔で死に掛けた回数が多いのは彼だけだろう。
彼以外にも死に掛けた人間は大勢居る。
だが彼は群を抜いて圧倒的に多いのだ。
普通に歩いていてもガンドの打ち合いに巻き込まれるのだ。
遠坂とルヴィアのガンドは凶悪なので呪いの効果も強い。
その呪いの効果がラインハルトを死の淵に陥れたのである。
死の淵を彷徨うたびにラインハルトの性格は歪んでいった。
そして終に限界を超えたのだ。
『血と契約の支配者』の時計塔来訪を彼は大いに喜び狂喜した。
それと世界最凶の魔術師も来た事で彼の自信は完全に撃ち砕かれた。
世界最凶の魔力を持っている上、クロウの後嗣ときた。
自信を無くさないほうがおかしい。
事実多くの生徒が恐怖していてのだ。
はるか雲の上の存在に……。
絶対に詰めることの出来ない差を思い知らされたのである。
可愛いなりをしているが真祖をも縛る魔力を持っているのだ。
可の英雄王も恐怖せしめたと言うことを知るのは限られた当事者以外ない。
そして当の英雄王は……。
「なにをしているんですか!? 遊んでいないで仕事をしなさい」
「何で我が雑種にこき使われねばならぬのだ!?」
ギルガメッシュはカレンにこき使われていた。
当然、青タイツもである。
「誰が『青タイツ』だ!!」
「貴方以外に誰が居るのです? ランサー」
「貴様に相応しい名ではないか……」
ランサーとギルガメッシュに一触触発の空気が漂う。
「犬の分際でいい度胸ですね。今夜のご飯はお預けにしましょう」
「ま、待て! サボっていたのはギルガメッシュだろうが!!」
「貴方も同罪です。よって、夜寝ずに書類を処理して置いてください。サボったら分かっていますね?」
カレンには、逆らえないギルガメッシュとランサーであった。
其の頃、メシアンでは……。
「アーパー吸血鬼も居ないから安心してカレーを食べれます」
シエルは、メシアンでカレーを堪能していた。
既に超特盛を10皿も平らげている。
当に底なしの胃袋だ。
「誰が底なしの胃袋です!?」
誰も居ない方に向かって言うシエル。
だって、超特盛カレーを10皿も食べているじゃない。
「これでも私は小食です」
その後、シエルは店が営業継続不能になるまでカレーを食べた。
そして、アフリカの内陸では……。
「待っていろ、トオサカ、エーデルフェルト!!」
ラインハルトは、密林を高速で移動する。
太陽の光が届かないため、昼でも動けるのだ。
吸血鬼の脚力で一気に距離を詰めていく。
彼は、重大なことを忘れていた。
真相の姫と直死の魔眼を持つものが居るということを……。
目的に執着し重要な情報を忘れていたのだ。
「犯してやる。あの二人だけは犯して、血を吸ってやる」
ラインハルトに狙われているとも知らない本人たちは……。
ジャングルの中を移動していた。
襲って来るジャングルの猛獣達と戦いながら……。
猛獣たちとの戦闘による時間のロスは目的への到着の遅れを意味しラインハルトによる襲撃確率が高まるのだ。
「式、殺しちゃダメだよ」
「何故だ!? 殺せばいいだろう?」
猛獣たちを殺そうとする式。
猛獣たちによって彼らは足止めを食らっていた。
このままでは夜になってしまう。
ここには、アルクェイドが城を具現化出来るスペースがない。
野宿をしなければならない。
猛毒を持つ蛇が居るところに……。
その状況は、ラインハルトには好都合だ。
城の中に居られてのでは手出しが出来ない。
だが野宿だと幾らでも手出しが出来る。
血を吸った猛獣達を送り込むことも出来るのだ。
そして今戦っている猛獣達も実はラインハルトが送り込んだ吸血猛獣なのだ。
そんな事も知らないため幹也は式を止めようとするのだ。
「こいつらは普通の猛獣じゃない」
「とりあえず片っ端からぶっ殺すわ」
凛とルヴィアはマシンガンガンドで吸血猛獣を撃ち抜いていく。
その程度では、完全には殺せない。
次々復活しては襲い続けてくる。
「なんなの? こいつら! 倒してもキリがないわ」
「バーサーカー!!」
「■■■■■■■■■!!」
イリヤがバーサーカーに命じる。
バーサーカーが、吸血猛獣をミンチにしていく。
不幸なことにミンチにしても復活してくる。
吸血鬼の血が猛獣達を不死性の強い化け物へと変えていた。
力を取り戻したアルクェイドが居ても苦戦をするほどだ。
その上、吸血鬼化したラインハルトが接近してきている。
時間が経てば経つほどラインハルトが有利な状況になる。
吸血鬼は夜目が利くのだ。
普通の人間なら夜の闇で何かが動いても見ることは出来ない。
だが、幸運なことにネオ・カオスと戦って死に掛けた際、ネロの混沌で治療されている凛とルヴィア。
普通の人間より少しだけ夜目が利き寿命が数十年長いだけである。
それでも、不利なことには変わりない。
そして、日暮れの時が確実に迫ってくる。
「疲れたから、志貴、後お願い」
アルクェイドはやる気がなくなったようだ。
志貴に丸投げして休む。
体力が無限大の真祖が情けない話である。
そして、もう一人……。
こっちは、まったくの戦力外だ。
戦闘能力0である。
戦闘能力0であるが為、足手まといになる。
「貴方は戦力外なんだから、どこかでじっとしていなさい」
「敵だらけの中、どこでじっとしろっと?」
幹也の隠れられる場所は、どこにもない。
常に逃げ回らないとならない。
なぜなら、逃げ回る場所全てが戦場だからである。
何度も凛とルヴィアが撃ったガンドの流れ弾が直撃したりしている。
ガンドが直撃しているのに何故、無事なのか分からない。
彼は、片目を潰された過去がある。
現に彼の片目は完全に光を失っている。
片目しかないハンデは大きい。
普通ならよけられるものにも激突していた。
コクトー、邪魔をするな!!
「しょうがないだろう。片方しか目が見えないんだから……」
「だったらトーコに頼んで目を造ってもらえ!!」
「作ってくれるかなぁ?」
「なんなら俺が脅して造らせる」
脅すと言う式。
「無駄口叩いている余裕はなくなったわよ」
終に主役の登場である。
木の上に金髪に白いマントのラインハルトが立っていた。
「あんた、偉そうに木の上に立っていないで降りてきたら?」
「余に指図するな!! 軟弱な真祖に用はない。早々に立ち去るが良い!!」
「アルトルージュと契約しないと戦えない奴に言われたくはないわ」
「余が用のあるのは、そこの女二人だけだ!!」
ラインハルトは、凛とルヴィアを指差していった。
憎悪の目で睨む。
「お前達二人のせいで何度死に掛けたか分かるか!!」
「あんたが死んでも誰も気にしないわよ」
その言葉がいけなかったようだ。
「先ずは、トオサカリン!! 貴様からだ!!」
ラインハルトの姿が消える。
「しまっ……」
次の瞬間、凛の腹にはラインハルトの右拳が深々とめり込んでいた。
「う゛っ」
苦しくても倒れることも出来ない。
なぜなら、ラインハルトに生えた二本の尾によって両腕の自由を奪われたからだ。
「苦しいか? 余が死に掛けた苦しみは、こんなものではないぞ」
再び凛の腹を殴る。
凛の口から胃液が吹き出る。
「もっと苦しめ!! 余が味わった苦しみ以上の苦痛を感じながら死ぬが良い!!」
さらに凛を殴り続ける。
しかも、凛の腹部のみをだ。
度重なる攻撃に凛は血を吐いた。
それも一度ではない。何度もだ。
数え切れないぐらい腹部を殴られた凛は動かなくなった。
「ふん。つまらぬ」
殴り飽きたのか凛を投げ捨てる。
「次のターゲットは、貴様だ!! エーデルフェルト」
次にターゲットにされたのはルヴィアだった。
ルヴィアは、不意をつかれた。
次の瞬間、ルヴィアの腹部に深々と拳がめり込んでいた。
「う゛っ」
その衝撃で胸元が弾け巨大な胸が揺れた。
胃の中身が口の中に逆流してくる。
「はっはっはっはっはっはっ」
手加減の無い全力のパンチがルヴィアの腹に休みなく叩き込まれる。
一発一発が深々とめり込み胸が揺れ続ける。
「どうした!? かかってこないのか? 真祖」
「あんたの相手をする余裕なんてないわよ」
アルクェイド達は吸血猛獣達の相手だけで精一杯だった。
「では、余はこの女で楽しむぞ」
ラインハルトはルヴィアの腹を殴る続ける。
度重なる攻撃で既にルヴィアの腹をどす黒く変色していた。
ルヴィアの口から吐き出されるのは完全に血だけだ。
「死ぬほど苦しいか? 苦しいだろう……。今度は、気持ちよくしてやろうか?」
そう言ってルヴィアの胸を揉み始めた。
ルヴィアで楽しみ始めるラインハルト。
その一方でアルクェイド達は苦戦を続けていた。
だが、志貴と式は直死の魔眼を駆使して戦う。
式は、順調に吸血猛獣を倒していくが志貴は、魔眼の制御が出来ないため思うように倒せない。
「くそっう……」
突如、志貴を貧血が襲う。
それは、致命的な隙でもあった。
志貴は、吸血猛獣に噛み付かれ地面に背中を踏みつかれた。
これでは、逃げることは出来ない。
志貴、絶体絶命の危機!
遠坂凛は戦闘不能。
ルヴィアも戦闘不能の上、ラインハルトに胸を揉まれつづけている。
黒桐幹也は、完全に戦力外である。
果たしてラインハルトと吸血猛獣を倒し『時の魔女』の元へたどり着くことが出来るのか?
ケロちゃん&アルトルージュにおまかせ
「こにゃにゃちわ〜ケロちゃん&アルトルージュにお任せのコーナーの時間やで!」
「それにしてもごつう久しぶりやな」
「それは、そうとRPGなるものはどうなった!?」
「作るのが大変やから企画が立ち消えたそうや」
「それはよかった。そなた暴れずにすむからな」
「ワイの活躍の場がひとつ消えたんやで!!」
「なら、この話の中で暴れるがよい」
「こうなったら本編で暴れまくったる」
「また、勝手に暴れるとおやつお預けになるぞ」
「それだけはいやや」
ケルベロスでからかうアルトルージュ。
「それにしてもラインハルトとか言うやつごっつうパワーアップしとるなぁ。真祖の姫さんたち苦戦しとるで」
「妾が力を与えたからな」
「力を与えるにも程があるで。赤い悪魔と乳のでかい姉ちゃん死にかけとるやんか」
「そろそろ終いの時間じゃ」
「なっ」
「次回も楽しみにしているがよい」
式が志貴の魔眼を鍛えながら移動か。
美姫 「悪いタイミングでラインハルトが登場したわね」
ついていないな、確かに。結構、ピンチになっているみたいだけれど。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
それではこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」