第二話「吸血鬼事件発生なの?」







『おはようございます。昨夜から今朝までの間に海鳴市街地に熊が出没しました』
 ニュースキャスターがニュース原稿を読み上げる。
『熊が出没したと見られる現場には道路に無数の傷が出来ていました。現場を呼んでみましょう……』
 現場の映像に切り替わる。
「物騒な事件が発生したな……」
「恭也は、今夜から見回りをするつもり?」
「あぁ。忍が巻き込まれたら大変だからな」
「恭也ったら私のことを其処まで心配してくれるんだ」
「事件が解決するまで暫く夜の相手は出来ないぞ!!」
 すずかの前で堂々と言う恭也。
「恭也様!! すずかお嬢様の居る前でその様な会話は……」
 すずかは顔を真っ赤にしている。
 其処へさつきが起きてきた。
「おはようございます弓塚様!! 昨夜はお休みになられましたか?」
「はっはい」
「朝食の用意が出来ております」
 さつきは、月村家の食堂に案内される。
 食堂には恭也と忍と妹のすずかが待っていた。
「すずか、お客様にあいさつを」
「はじめまして月村すずかです。えぇっと……」
「弓塚さつき・ブリュンスタッドです」
「日本人ですよね」
「一応は……」
 さつきは、説明に困る。
「すずか、さつきさんは私たちと同じ吸血鬼よ。私たち夜の一族とは違うけど」
 すずかも夜の一族と呼ばれる吸血鬼だ。
「熊が出た場所って、すずかお嬢様の通学路でしたね」
「うん」
「アリサお嬢様の方にも連絡はしておきました」
 熊、出没の情報はアリサの家の方もつかんでいた。
 道路の損傷が酷く通行止めになっているようだ。

『熊のニュースに変わりまして先ほど発見された変死体についてお伝えします』
 今度は変死体のニュースのようだ。
『発見された変死体の首には何かに噛まれ体中の血液がなくなっていたとのことです』
「……」
(この世界に私の世界の死徒が居るのなら処理しないといけないね)
 さつきは調査する事を決意する。



 私立聖祥大附属小学校
「なのは、熊が出た事聞いた?」
 アリサがなのはに聞いた。
「ふぇ?」
 間が抜けた返事をするなのは。
「あんた、今朝のニュース見たの!?」
「見ていない」
「すずかは、見たんでしょ」
「見たけど……」
 教室では、熊の話題で持ちきりだった。
「すずか、あんた家にお客を泊めたんだって」
「お姉ちゃんが泊めたんだって」
「パパから聞いたんだけど海鳴銀行が大騒ぎしているんだって」
「大騒ぎ!?」
「何でも10億の口座を開設したって」
「10億の口座って凄いね」
 10億と聞いてもあまり驚かないアリサとすずか。
 唯一人、なのはだけが驚いていた。
「10億!!」
 驚きのあまり大声を上げるなのは。
「なのはちゃん、声が大きいよ」
「ごめん、ごめん」
「其れで口座を作ったの高校生くらいの女の人なんだって」
「昨日の夜、銀行の人が来ていたみたいだったけど」
「どうせすずかのことだから本を読んでいたんでしょ」
 すずかは、本の虫らしい。
「アリサちゃん、高校生くらいの人なら家にいるよ」
「じゃあ、今日の午後はすずかの家に行くこと決定ね」
 この日は、午前中授業らしい。
「なのは、ユーノをつれて来なさい」
「うん、わかった。連れて行くよ」
 ユーノを連れて行くとが決定したなのは。



 月村邸
「なのはお嬢様!!」
 ノエルが迎えに出る。
「なのは、遅い!!」
 既にアリサは来ているようだ。
「なのは、ユーノをつれて来たでしょうね」
 アリサがなのはに詰め寄る。
「ちゃんと連れてきたよ」
「なのはちゃんは、何を飲みますか?」
 ファリンがなのはに聞いた。
「アリサちゃんたちと同じ物をおねがいします」
「直ぐに用意します」
 部屋を出て行こうとして。
「はわわわっ」
 ビターンと何もない所でこけるファリン。
 通称ドジメイド。
 何故、何もない所でコケルのか判らない。
 別部屋でファリンがこける音を聞いてさつきは、ファリンの起源がドジだと思ったとか。

 ジュースを持ってきたファリンは再びコケ、なのはにジュースをぶちまけた。
 なのはは、頭からジュースをかぶっていた。
 ファリンがぶちまけたジュースはテーブルの上にもこぼれていた。
「なのは、大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
「はわわわっ。す、すみません!!」
 ファリンは、なのはに謝る。
「ファリン、タオルと雑巾となのはちゃんの着替えを」
「はっはい」
 そして、またまたこけるファリン。
 ノエルは諸手続きの為、居ないようだ。

「何の騒ぎ!?」
 ファリンのドジの連続にさつきが様子を見に来た。
「さつき様、御用があれば私が……」
 再びバランスを崩してこけそうになるファリン。
「貴女達、夜人気の無い所に行ったら危ないよ」
「私たちが、人気の居ない所に行くと思う!?」
 アリサは、人気の無い所に行かないという。
「って、言うか、貴女誰?」
 アリサがさつきに聞く。
「私?」
「そうよ。貴女の名前を言いなさい!!」
 命令口調のアリサ。
「弓塚さつき・ブリュンスタッドよ」
「聞いたこと無い名前ね……」
 アリサも聞いたことが無い名前だった。
「ブリュンスタッド!? 10億の口座開いたと言うのは貴女?」
 イキナリ答えにたどり着くアリサ。
「もう、知れ渡っているんだ」
「私たち、お金持ちの情報網を舐めないでよね」
 お金持ちは、独自の情報網を持っているようだ。
「そう言えば、海鳴銀行の株価がストップ高になっていたね」
「ねえねえ、ストップ高って何!?」
 経済に疎いなのはが聞く。
 アリサがなのはに説明するが、なのはは全く理解できない。
「経済の話をしてもなのはには理解できなかったみたいね」
「難しいよ、アリサちゃん」
「ブリュンスタッドさんは?」
「問題ないよ」
 さつきは、真祖としての教育や色々受けている。
 無論、経済学も学んでいた。
「この場で理解できていないのは、なのは、あんただけよ」
 なのはがアリサの標的にされる。

 其の間にもファリンのドジが繰り返されていた。
 片付けているのか、散らかしているのかわからない。



 海鳴市繁華街
「この世界には聖堂教会もなければ真祖も居ない。次元の魔女に支払った対価は大きかったが、お釣りがかえってくる」
 謎の人物は、路地裏で血を吸っていた。
 足元には十数人が転がっていた。
「血を吸うだけではつまらんな……死者を作ってこの町を城にこの世界を支配してやる」
 この吸血鬼、鼻息が荒い。
「最初の手下を作るか……」
 吸血鬼は息を潜めて獲物がくるのを待つ。
 そして其処へ運の悪い人間がやってきた。
 吸血鬼は、運の悪い人間の血を吸う。
「女か……しかも極上の女。この女を最初の手下にしよう」
 吸血鬼は、女に自らの血を送り込んで手下にしてしまった。
 吸血鬼と血を吸われた女は夜の海鳴市を次の獲物を求めて彷徨う。




 月村邸
『今朝、海鳴市中心部繁華街の路地裏で複数の遺体が発見されました』
 テレビからニュースが流れている。
『発見された遺体には塾帰りと見られる小学生くらいの遺体も含まれているそうです』
 すずかもニュースに見入る。
『発見された遺体からは昨日発見された遺体と同様に体の血液が無くなっていたとのことです』
 テレビの字幕に、“怪事件!? 血液の無い遺体発見!!”と打たれている。
『尚、海鳴銀行の女性行員が一人昨夜から行方不明になっているとの情報もあり警察で捜査が進められています』
 テレビは繰り返し変死体発見のニュースを伝えている。


 私立聖祥大附属小学校
「熊の次は、変死体ってどうなっているのよ!!」
 アリサは、何故か機嫌が悪い。
「まさかとは思うけど、すずか、あんたの所に泊まっている人が犯人じゃないの?」
「昨夜は、部屋から出ていないって言ってたよ」
「じゃあブリュンスタッドさんじゃなければ誰が犯人なのよ」
「若しかして吸血鬼が犯人なんじゃ」
「なのは、この世界に吸血鬼が居るわけないじゃん」
「そうよ、なのはちゃん」 
「この世界に吸血鬼は居ないの!! わかった!?」
「だって……」
「返事は?」
 アリサは、なのはに吸血鬼が居ない事を認めるよう言った。
「なのは、吸血鬼は居ない。復唱する!!」
「吸血鬼は居ない」
 なのはに吸血は居ない事を認めさせるアリサ。
 なのはに認めさせたことが翌日には覆る事になろうとはこの時、アリサは思ってもいなかった。


 廃ビル
「一晩で集めたにしては上出来だ」
 吸血鬼は一晩でどのくらいか手下を作ったようだ。
「今夜もお前は、俺と此処で力を蓄えれろ!!」
 吸血鬼は、女に言った。
「後数日あればお前は俺と同じ死徒になれる。死徒に成れば、この世界での二十七祖の二位だ」
 女は、スーツじゃなくドレスを着せられている。
「さあ、お前たち血を吸いに行け!!」
 吸血鬼は死者たちに命令する。
「このクリスト・バドル様に多くの力をもたらせ!!」
 吸血鬼の名は、クリスト・バドルと言うらしい。




 翌日もテレビのニュースは変死体発見のニュースが取り上げられていた。
 新聞も吸血鬼殺人事件と一面で伝えていた。



 私立聖祥大附属小学校
「アリサちゃん、吸血鬼いたでしょ」
 ニュースを見たなのはがアリサに言う。
「まだいると決まった分けじゃないわ」
「アリサちゃん、まだ信じないの?」 
「すずかまでいると言うんじゃないでしょうね」
 吸血鬼の噂は学校中に広まっていた。
 何処へ行っても吸血鬼の話がアリサの耳に入ってくるのだ。
「何よ!! 何処へ行っても吸血鬼、吸血鬼って……」
 アリサは、不機嫌だ。

「アリサちゃん、まだ機嫌が悪いの?」
 すずかがアリサに聞く。
「何処へ行っても吸血鬼、吸血鬼って言葉が耳に入ってくるんだから当たり前じゃない」
「アリサちゃん、吸血鬼まだいないと言うの?」
「当たり前よ!! 本当に吸血鬼がいたら海鳴の町は吸血鬼だらけになっているわよ」
「でもアリサちゃん。テレビや新聞で吸血鬼襲来と騒ぎ始めているよ」
「実際にこの目で見たら信じてあげてもいいわ」
 アリサはこの日の夜、塾帰りに其の目で見ることになるとは思ってもいなかった。


 廃ビル
「昨夜、拾った此の青い石の使い方がわからぬ」
 クリスト・バドルが拾ったのはジュエルシードだ。
「俺にもっと力を……」
 その時、青い石が発動した。
 クリスト・バドルに、ジュエルシードの魔力が流れ込む。
「力だ!! 俺が求めていた力だ!! 力がみなぎって来る」
 クリスト・バドルは喜んでいる。
「之で、元の世界と行き来出来れば俺は二つの世界で二十七祖になれる」
 二つの世界で二十七祖になる野望を持っているようだ。
「第三位の我が子は、其の女に産ませるとしよう」
 此の世界での序列を決めるバドル。
「此の世界での一位はそなたではない」  
「何だと!? 親の俺に逆らうのか?」
「貴様の支配はから既に脱しておる」
 女の口調が高圧的な話し方に変わっている。
 女は、クリスト・バドルの胸を貫いた。
「がふっ」
 クリスト・バドルは、口から血を吐く。
「貴様の血を吸ったのは失敗だったか……」
「まだ話せるか!? 心臓を打ち抜いたというのに」
「うがぁはっ」
 再び血を吐く。
「其の青い結晶は、わらわがありがたく頂く」
 女がクリスト・バドルのジュエルシードに手を伸ばす。
「や、やめろぉ」
 女は無視してジュエルシードを取り出すとクリスト・バドルは灰になって消えた。
「此の結晶は、願いを叶えてくれるようだ。探せばもっとあるかもな……」
 そう言うと女はジュエルシードを胸の谷間にしまった。
「あやつの死者共を始末してわらわの手下を増やすか」
 女は、直ぐに行動に出た。
 クリスト・バドルの死者を始末する為に……。
「わらわには、支配者にふさわしい名が必要だな」
 支配者に相応しい名を考える女。
「どうせ、此の世界には真祖の王族は居ないのだからブリュンスタッドの性を名乗るとしよう……」
 ブリュンスタッドの性を名乗ると決めた女。
「テレサ・ブリュンスタッドと名乗ろう」
 テレサ・ブリュンスタッドと名乗る事を決めた女。
 彼女は、此の世界に本物のブリュンスタッドの性を持つ真祖が居る事を知らない。
「此の部屋にはわらわの玉座がいるな」
 玉座が必要と言うテレサ。
「其の前に家臣を作らねばならぬな……」
 テレサは、家臣を作る為に夜の街へ出て行った。


 バニングス家の車内
「夜なのに吸血鬼なんていないじゃん」
 なのはとすずかはアリサの家の車に乗せてもらっている。
「まだ夜になったばかりじゃない?」
 海鳴市は夜になったばかりだ。
 車が赤信号で停車している時、其れはいた。
「あ、アリサちゃん。あ、あれ……」
 すずかは、其れを見ていた。
「何よ、すずか!!」
「きゅっ、きゅっ」
「“きゅっ”が如何したのよ!!」
「アリサちゃん、吸血鬼……」
「吸血鬼がいるわけ……」
 すずかが指差した方向を見るアリサ。
 アリサが見たのはイリヤに血を吸われている人の姿だった。
(ユーノくん!?)
((なのは、何があったの?))
(ユーノくん、吸血鬼が……)
((なのは、吸血鬼が如何したって))
(だから、吸血鬼が出たんだって)
((何だって!? 場所は?))
(車だから通り過ぎちゃったよ)
「なのはちゃん!?」
「ふぇっ」
「なのはちゃん大丈夫!?」
 なのはの心配するすずか。
「なのは、吸血鬼を見て怖かったんでしょ」
「アリサちゃん、吸血鬼の事、信じるの?」
「此の目で見たんだら信じるわよ」
 やっと信じる気になったアリサ。



 之が海鳴市周辺を恐怖に陥れる連続大量失踪事件の幕開けだった。


 次回予告

 なのは「海鳴市周辺で失踪事件が多発!?」

 なのは「吸血鬼とジュエルシード、どっちを優先させればいいの?」

 なんは「ジュエルシードを封印しようと思ったら吸血鬼に横取りされちゃったよ」

 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第三話『ジュエルシード強奪なの?』」


異世界から来た吸血鬼はあっさりと倒れたけれど。
美姫 「新たな吸血鬼の誕生ね」
これから事件も広がっていきそうだし。
美姫 「なのはも忙しくなるかもね」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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