第三話「ジュエルシード強奪なの?」
『おはようございます。今朝も海鳴市周辺で発生している連続殺人事件の続報をお伝えします』
この日も殺人事件のニュースがトップで伝えられる。
事件は、海鳴市の周辺自治体にまで広がっている。
『尚、同市周辺では失踪事件も発生しており多数の人が行方不明になっていて関連が調べられています』
失踪者の数は日に日に増える傾向にある。
「これ以上、好きにさせないから」
さつきは、吸血鬼退治を決意する。
私立聖祥大附属小学校
「なのは、今日の午後は何をする?」
アリサがなのはに聞く。
「今日の午後?」
「そう」
「アリサちゃん、帰宅後は外出禁止って昨日言われたばかりじゃ」
「誰でもいいから吸血鬼を倒しなさい!!」
アリサのネガイが叶うのはもう少し先のことである。
テレサの城
「姫様!!」
姫様と呼ぶ執事風の死徒。
「セバスチャンか!?」
「今夜も、お出になられるのですか?」
「わらわのネガイを叶えるには此の青い結晶がもっと必要じゃ」
「しかし姫様、ここ数日襲いすぎたせいで警戒して夜に出歩く人間が減っています」
「ならば、この目とわらわの美貌で誘うまでだ」
「姫様が下等生物に肌をさらすことはもってのほか」
此の夜も勢力を拡大させようとするテレサ。
「姫様は、青い結晶を探されては如何ですか?」
「セバスチャン!! 死者共を指揮し人間を襲え」
「畏まりました。 死者どもよ姫様の命令だ。人間を襲え!! 姫様に力をもたらすのだ」
テレサの城から死者があふれ出る。
此の夜も人間の血を吸う為に……
高町家
「なのは!!」
「ユーノくん」
ジュエルシードの気配を感じて飛び出るなのは。
家を飛び出したなのはは、ジュエルシードの回収に向かう。
回収に向かう先は、自分の通う学校だ。
吸血鬼も狙っている事をなのはとユーノも気づいていない。
私立聖祥大附属小学校
「なのは、結界張ったよ」
ユーノがなのはに言う。
「ジュエルシード……」
なのはは、最後までいうことができない。
突如魔力の気配を感じたからだ。
「其の青い結晶は、わらわの物じゃ!!」
高圧的な言葉を使う女。
「其の青い結晶は、わらわの物。わらわの許しなしに触れる事は許さぬ」
「其れは、危険な物なんです」
「下等生物の分際でわらわに意見をするか!?」
吸血鬼は、殺気を向けて来る。
「なのは、早く封印を……」
「わらわの石に触れぬな!!」
吸血鬼は、なのはの懐に潜り込むとなのはの腹部に鋭いパンチを打ち込んだ。
なのはは、今まで聞いたことのない音を聞いた。
「う゛」
吸血鬼のパンチは、なのはの内臓を激しく揺さぶる。
吸血鬼のパンチは、バリアジャケットの上からなのはの腹部に抉り込むように深々と突き刺さり内臓を破壊していた。
なのはは、今まで聴いたことのない音のした所へ目線を向けた。
なのはの目の入ったのは自分の腹部に激しくめり込んだ吸血鬼の腕だった。
吸血鬼がなのはから拳を引き抜くとなのはは、レイジングハートを落とし両手で腹部を押さえ地面に倒れ苦しむ。
「わらわの邪魔になる者を排除する」
手加減したといってもなのはの内臓は破壊されている。
「うぉえっ」
なのはが、嘔吐した。
夕方に食べたものが吐き出される。
「如何した!? たった一発で終わりか?」
なのはは、両手でお腹を押さえ苦しんでいる。
「立て!! この石を手に入れるのだろう!?」
なのはは、まだ立てない。
不意打ちとも言える一撃。
其れも吸血鬼の力で殴られたのだ。
小学生であるなのはが耐えられる攻撃ではない。
「立てぬのか!?」
テレサが左手でなのはの首を掴んで持ち上げる。
「うぅっ」
「わらわに出会ったのが運のつき。血を吐き、苦しみながら死ね!!」
テレサは、無防備ななのはの腹部にたて続けに拳を叩き込む。
「おぶっ!!」
テレサの強烈なパンチで逆流してくる物を吐き出す前に次の物が逆流してくる。
なのはの目からは涙が流れ出る。
「苦しいか!? 苦しいだろう?」
「ごぼっ」
なのはの吐き出すものが赤い液体に変わった。
「なら、もっと苦しませてやろう」
テレサは、之まで以上に力を込めてなのはの腹に拳を叩き込んだ。
なのはの腹から、先ほど聞いた以上の聞いたことのない音が聞こえた。
「ぐぅおぇっ!!」
なのはは、口から大量の血を吐き出した。
「ぐぇっ」
再びなのはは血を吐く。
「一矢報いたら如何だ!?」
なのはは、意識を失っている。
「既に意識もないか……」
意識を失ったなのはの腹を之でもかと言うくらい殴り続けるテレサ。
だが途中で殴るのを止めるテレサ。
「死人を殴ってもつまらぬ」
テレサは、なのはの首を掴んでいた手を離すや、渾身の一撃をなのはの鳩尾に叩き込んだ。
なのはの口から一際大量の血が噴出した。
地面に叩きつけられたなのはの体はピクピク痙攣している。
「この石は、わらわが貰っていく」
吸血鬼は、ジュエルシードを手に取るとその場から消えていった。
「な、なのは大丈夫!?」
だが、なのはから返事が返ってくる事はない。
テレサに何度も殴られたなのはの腹が痙攣している。
「なのは!? なのは!!」
ユーノは、なのはに話し続ける。
「返事をしてよ、なのは!!」
なのはから返事は返ってこない。
なのはの目は硬く閉じられたままだ。
「なのは、目を開けてよ」
なのはの目は開かない。
そして、なのはの腹部が激しく脈打つ。
「うごぉっぇ!!」
口から血を吐き口周りを赤く染める。
「な、なのは?」
血を吐くなのはを心配するユーノ。
「ゆ、ユーノくん、苦しいよ」
そう言うと再び吐血するなのは。
「お、お腹が……がふっ!!」
なのはは、逆流してくる血を吐き出す。
「い、痛いよ……く、苦しいよ」
「なのは、動かないで治療をするから」
「た、助けてよ……がはっ!! さ、寒くて眠いよ……。死にたくないよユーノくん」
出血多量で体温が下がっているなのは。
「なのは、ダメージの状態を調べるからもう少し我慢して」
もう少し我慢してというユーノ。
ユーノは、なのはのダメージを調べる。
なのはの状態を診ているユーノの表情がおもくなる。
「ゆ、ユーノくん!? 私の状態は……かはっ!!」
またも血を吐く。
「なのは、思っている以上に危険な状態だよ」
なのはの様態は危険な状態のようだ。
「少し休めば大丈夫だよ」
「大丈夫じゃ、無いんだよなのは!!」
「そんな事無いよ」
なのはは、正しい思考が出来る状態ではない。
「バリアジャケットを抜いて内臓に凄いダメージを受けていたんだよ。明らかに普通じゃない音が何度もしていたんだよ!!」
なのはの顔は青白くなっている。
「げふっ」
「なのは!!」
なのはは、再び逆流してきた血を吐く。
なのはの顔色がどんどん悪くなっていく。
「レイジングハート、バリアジャケットの解除を」
≪All right.≫
レイジングハートがなのはのバリアジャケットを解除する。
「なのは、今すぐに治療をするから」
ユーノがなのはに治療魔法をかける。
「僕の魔力で直せるかわからないけど、とりあえず……」
ユーノの魔法が効いたのかなのはの呼吸が安定してきたように見える。
「なのは、これ以上は無理だ」
「ユーノくん、ごめん。ジュエルシード奪われちゃった」
「仕方ないよ。急に襲われたんだから」
「少し遅かったみたい」
新たに聞こえる声。
其の声には聞き覚えがあった。
「次は、必ず引き裂いてくれる」
だが、喋り方が違う。
一瞬別人かとユーのは思った。
「其の方らは、何故ここにいる?」
「ジュエルシードを封印しようとしたら吸血鬼に襲われました」
ユーノが事情を説明する。
「なのはが、大きなダメージを受けて僕が治療をしていたのですが、僕の魔力が尽きてもう治せません。貴女の力を貸してください」
ユーノが必死に頼む。
「なのはちゃんが!?」
王族モードからもとのさつきに戻った。
「一寸見せて」
さつきが、なのはの腹部に手を当て中の様子を調べる。
「貴方の魔力が尽きても当然よ。此の娘、内臓が幾つか破裂しているし、内出血もしているよ」
「内臓出血だって!!」
「でも、痛みは感じないよ」
「其の杖が痛覚を遮断したんでしょ?」
≪Yes.≫
レイジングハートがなのはの痛覚を麻痺させているようだ。
「荒療治になるけどいくよ!!」
さつきは、復元呪詛と同じ効果を持つ魔術をなのはの腹部にかけ始めた。
復元されていく内臓に気持ち悪さをなのはは覚える。
「き、気持ち悪い」
「がまんするんだなのは」
なのはを励まし続けるユーノ。
なのはの痛んだ内臓がどんどん修復されていく。
「一寸大変かな」
なのはのダメージは想像以上に大きいようだ。
「本当は混沌は使いたくはないんだけど……」
なのはの治療に混沌を使おうか迷うさつき。
「がふっ」
なのはは、まだ血を吐く。
あまり時間が残されていない。
迷っている時間は無いと判断したさつき。
「なのはちゃんにちゃんと寄生してよね」
さつきは、自らの使い魔の一部をなのはの治療に使う。
治療に使われた混沌がなのはの破壊された臓器に変わっていく。
「なのは、もう少しの辛抱だ!!」
「ふうっ。治療終わり!!」
なのはの治療が終わったようだ。
治療が始まって数分足らずで完了したようだ。
「なのは!?」
「ユーノくん?」
「なのは、今日は帰ってゆっくり休もう」
「何で、さつきさんが此処に!?」
「私は、此処に来た吸血鬼を退治に来たんだけど逃げられたみたい」
さつきは、吸血鬼を退治に来たようだ。
「無理なお願いかもしれませんが、あの吸血鬼からジュエルシードを取り戻すのに力を貸してください!! お礼は出来ませんがお願いします」
「私からもお願いします」
なのはとユーノはさつきに力を貸してほしいと頼む。
「私の出す条件を飲むなら力を貸してあげる」
「あのっ、条件って……」
「吸血鬼に出会ったら戦わずに逃げる事!! さっきみたいに苦しい思いはしたくないでしょう?」
さつきが条件を出す。
「此の条件が飲めないのなら強力はしないよ」
「其の条件を飲みます。ですから力を貸してください」
「其の条件は飲めません」
「じゃあ、さっきよりもっと苦しい思いをしてみる!?」
「其れでも飲めません!!」
「今度は、血を吐くだけじゃ済まないわよ」
次は血を吐くだけじゃ済まないと言うさつき。
さつきは、なのはの目を見て決意は変わらないと思った。
「形だけでもいいから約束してくれない?」
「ふぇ」
緊張が切れたのか間抜けな声を出すなのは。
「最初から無条件で協力するつもりだったのよ」
さつきは、最初から無条件で協力するつもりだったようだ。
「貴女達は今日は帰って休みなさい!! 体力も魔力も使い果たしているでしょ。死者は、私が狩るから」
さつきの言葉を受けて家に帰るなのは。
腹部にまだダメージが残っているのか足取りは重い。
なのはの部屋
「疲れたよ」
なのはは、ベットに倒れこんだ。
ベットに倒れこむなり眠りに着いた。
そして翌朝。
「なのは、朝だよ。そろそろ起きなきゃ」
ユーノはなのはの寝る布団の上で声をかける。
「今日は日曜だし、もう一寸お寝坊させて!!」
なのはは、まだ起きない。
引き続きユーノが声をかける。
するとなのはが寝返りをうった。
仰向けになると胸元からレイジングハートを取り出した。
≪Confirmation≫
レイジングハートが今までに回収したジュエルシードを出した。
「はぁ」
なのはは、ため息をつく。
「なのは、今日はとりあえずゆっくり休んだほうがいいよ」
「でも……」
「もう、3つも集めてもらったんだから。少しは休まないと持たないよ。昨日、吸血鬼に内臓破裂するまでお腹を殴られたじゃない」
ユーノは、話を続ける。
「さつきさんが居なかったら死んでいてもおかしくない位のダメージを受けていたんだよ。其れに今日は、約束があるんでしょ」
「そうだね。今日は、ジュエルシード探しはお休みって事で」
「うん」
「ユーノ、今日の約束なんだけど」
「如何したの?」
「吸血鬼事件の為に翠屋FCの試合は中止になったの」
この日予定されていたサッカーの試合は吸血鬼事件の為に中止になったのだ。
「じゃあ今日は昨日受けたダメージの回復に当てるべきだ」
今日はダメージの回復に当てるべきと言うユーノ。
「そうするよ。まだ少しお腹が痛いから」
なのはは、まだ腹部にダメージが残っているようだ。
この日も、猟奇殺人事件が新聞とテレビを騒がせていた。
姿の見えない殺人鬼など様々な情報が飛び交う。
犯人につながる情報が無い為、海鳴警察署も情報提供を求める広告を新聞各紙に掲載しているが有力情報は得るにいたっていない。
深夜に活動する人が大幅に減っているから当然である。
そして被害者の多くが残業帰りのビジネスマンや夜遊びをしている若者だ。
「さつき様、昨夜も夜遅くにお戻りでしたけど何処へ行かれてたのですか?」
ノエールがさつきに聞いた。
「吸血鬼狩り」
「恭也も見回りしてたはずだけど出会わなかった?」
「いいえ。出会いませんでしたよ」
さつきは、恭也と出会わなかったという。
「本当は、あまり出歩きたくは無いんですけど。私の世界から来た吸血鬼が起こしている事件なら私が解決しないといけません」
「さつきさんの世界の吸血鬼は親と言われる吸血鬼が血を吸った人間に自らの血を送り込むことで生まれるんでしたね」
「はい。吸血鬼に成れる人となれない人が居るんです。血を吸われた人は、死者と呼ばれ、親の吸血鬼の手下にされるんです。吸血種の才能がある人が食屍鬼から始まって死体などを経て死徒と飛ばれる吸血鬼になります。極まれにポテンシャルの高い人は数日で死徒に成ってしまいます」
さつきは、町で事件を起こしているのが死徒と呼ばれる吸血鬼だと告げた。
「吸血鬼くらい恭也でも倒せるわ」
「死徒を甘く見ては駄目です」
「甘く見てはいないわ」
「人を簡単に殺すことが出来るんですよ。トマトみたいにグチャッと……」
『昨夜も新たな犠牲者が出た模様です』
また犠牲者が出たようだ。
『目撃者の話では、青く輝く石を持った女とのことで、海鳴市周辺に非常線を張り犯人の行方を探すとのことです』
さつきは、青い石に思い当たる節があった。
其れはジュエルシードのことだった。
『たった今入ってきた情報です。海鳴市の私立聖祥大附属小学校のグランドから大量の血痕が発見されました』
すずかの通っている学校ってことで緊張感が高まる。
『発見された血液の量から此処で何らかの犯行が行われた可能性が高いと見られます。被害者の安否が気になるところです』
ニュースは、どのチャンネルも殺人事件の事を伝えている。
私立聖祥大附属小学校のニュースは途中で流れなくなった。
学校の経営者がイメージダウンを懸念してニュースを買収したようだ。
「今日のすずかお嬢様たちの予定、中止になったんですよね」
「町の治安が悪いのではしょうがないでしょうね」
一刻も早く吸血鬼を倒そうと決意するさつきであった。
次回予告
なのは「続く猟奇殺人事件!!」
なのは「そんな中、すずかちゃんが何者かに連れ去られちゃった」
なのは「すずかちゃんを連れ去ったのは誰!?」
さつき「なのはちゃん、戦える?」
ユーノ「無理は禁物だよ、なのは」
なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫の奏でる物語〜』第四話『月村すずか誘拐なの!?』」
吸血鬼に襲われたな。
美姫 「しかも、徹底的にやられちゃったわね」
さつきが居なかったら危ない所だったみたいだし。
美姫 「これはジュエルシード集めも大変になってきたわね」
本当に。しかも次回はすずかが攫われるみたいだし。
美姫 「無事に解決するのかしら」
ではでは。