第104話「Starting Stars」






 空港火災から一年が経った新暦72年……。
 季節は初夏の6月。
 訓練校は、新たに入局した訓練生達が入校の日を迎えていた。

 その内の一つ、第四陸士訓練校でも入校式が行われていた。
「…………試験をクリアし志望を持って本校に入校した諸君らであるからして管理局員武装隊員としての心構えを胸に平和と市民の安全のための力となる決意をしかと持って訓練に励んで欲しい」
 壇上から訓練生に訓示を述べる男。
「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」
「以上! 解散! 1時間後より訓練に入る」
「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」


「ふふ…………」
 笑うフェイト。
「新人さんたち、みんな元気ですね」
「ええ。今年も元気な子達が揃ったわ」
 今年も元気な新入生が揃ったらしい。
「7年前の貴女達に負けず劣らずのやんちゃな子たちもいるわよ」
「はい」
 フェイトとアリシアは、訓練校に来ている。
「まあ、貴女達は、たった3ヶ月の短期プログラムだったけど」
「その節はお世話になりました」
「貴方達に刺激されて、みんなやんちゃになった時は困ったわ」
 刺激されてみんな戦闘狂になったのだ。
「その子達も今では第一線でかつやくしているわ。でも、時々やんちゃが出て始末書を書かされているみたいだけど」
 失敗して始末書を書かされた子もいるようだ。


 その時、ノックの音がする。
「どうぞ」
「失礼しますっ」
 子どもと女性が入室してくる。
「あーどもです。本校、通信士科卒業生シャリオ・フィニーノ執務官補佐でっす! 配置換えになりましたー」
「知っているわよシャーリー。貴女もやんちゃだったから」
 シャーリーもやんちゃだったらしい。
「それに、そちらは……」
「はい! エリオ・モンディアルですっ!」
 敬礼するエリオ。
「きょうは見学の許可は頂きましてありがとうございます!」
「いいえー」
「訓練校のこと、いろいろ勉強させていただきますっ!」
「はい。しっかり勉強していってね」
 エリオに見学許可を出す学長。
「シャーリー、ごめんね。エリオをよろしく」
「はい♪ 勝手知ったる母校ですからー」
 シャーリーにエリオの面倒を頼むフェイト。
「じゃあエリオ、私は学長先生とお話があるから」
「はい。フェイトさんっ」
「シャーリーについて良い子でいてね。帰りは一緒だからねー」
「はいっ!」
「じゃ。行ってきますっ!」
「いってきまーすっ」
「きをつけて」
「かわいい子ね。あの子が例の……?」
「ええ。私が研究施設から保護した子です」
「あの子も将来は局員に?」
「本人は、其の気みたいなんですが」
 エリオは、局員になる気みたいだ。
「私とアリシアでよく考えるよう言ってみます。今日は単に社会勉強ですね」
「しかしあの、やんちゃ娘達の二人が、もう子供の世話をしているとはね。私も老けるわけだわ」
「またまた」
「私たちもだけど、すずかも姉妹を保護しているんです」
「最重要機密指定されている件ね」
「はい」
「親友であるあたし達でも機密に触れるには制限があります」
「当然、その世界に行くことは出来ません」
「その二人も局員に?」
「判りません。なのはの一件もあるので」
「私たちに二人の未来を決める権限はありません」
 フェイトとアリシアにグリューエルとグリュンヒルデの事を決める権限はないのだ。
 入局を決めるのは、すずかなのである。


「そういえば、シャーリーとはいつから?」
「先月です。希望指名で補佐に付けてもらいました。優秀ですからー」
 フェイトは、シャーリーを補佐に付けてもらっていた。
「さて。じゃあそろそろ本題にはいりましょうか。執務官殿の相談ごとは何かしら?」
「はい……」
 フェイトとアリシアは、コーラド学長と本題の相談に入った。


「各員、仮割り当ての部屋へ移動!」
 仮の部屋に移動を指示する教官。
「2人部屋のルームメイトは、当面のコンビパートナーでもある。試験と面接の結果から選ばれた組み合わせだ。円滑に過ごせるよう努力するように!」
 掲示板の前に集まる訓練生たち。

「えーと、あたしは……」
 部屋を確認する訓練生。

「「32号室…………」」

「…………32号室?」
「あ。はいっ! そうです!」
 二人は、ルームメイトになるようだ。
「私、スバル・ナカジマ、12歳です!」
 自己紹介をするスバル。
「今日からルームメイトでコンビですね! よろしくお願いしますっ!」
「正式な班とコンビ分けまでの仮コンビだけどね」
「ティアナ・ランスター、13歳…………。よろしく」
 簡単に挨拶を交わすスバルとティアナ。
「荷物置いて着替えて行こう。準備運動しっかりやりたいから」
「はいっ!」


 スバルは、ティアナを見つめている。
 視線を感じるティアナ。
「なに?」
「あ。いえ、何でもないですっ!」
「あと、立場は対等なんだからいいわよ。丁寧語じゃなくて」
「はい……じゃない。うん」


「ふぇー。広い練習場ですねー―――」
「うん陸戦訓練場だからね」
 エリオとシャーリーは、屋上から演習場を見ていた。
「ここは、陸戦魔導師さんの訓練校なんですよね?」
「そうだよー」
 エリオに応えるシャーリー。
「ほとんどの戦闘魔導師ノスタート地点で、今も一番数が多い空を飛ばずに戦う魔導師たちが学ぶ場所」
 エリオに説明するシャーリー。
「フェイトさんやアリシアさんたちみたいに先天資質でA以上とか、そういう人を除けば飛行訓練はかなり大変だからね」
 空戦魔導師の育成には、時間も費用も掛かる。
 その点で陸戦魔導師の訓練は、安く抑えることが出来るのだ。
「空戦魔導師になる場合でも、陸戦魔導師として訓練や実績をつんでから…………って場合も多いんだよ」
 陸戦経由の空戦魔導師も居るらしい。
「あ。もちろん、どっちが上とか偉いとかってことはないんだよ」
「はい。判ってます」
 エリオにも判っているようだ。
「陸も空も、それぞれの場所で、それぞれに働いていて助け合っているから、この世界を守れるんだって! フェイトさんに教わりました!」
「うん。偉い偉い」
 エリオの頭をなでるシャーリー。
「あ。朝の訓練始まるねー」


「では、1番から順番に訓練用デバイスを選択。ミッド式は片手杖か長杖。近代ベルカ式はボールスピアのみだ」
 訓練教官が言う。
 訓練生は、デバイスを選択していく。

「スバルだっけ。デバイスは?」
「あ。わたしベルカ式で、ちょっと変則だから……」
 スバルのデバイスは、変則のようだ。
「持ち込みで自前なの!」
 スバルのデバイスは、自前みたいだ。
「ローラーブーツとリボルバーナックル!」
 なんと二つのデバイスを持ち込んでいた。
「インテリシステムとかはないんだけど、去年からずっとこれで練習しているの」
「格闘型…………前衛なんだ」
「うん!」
 スバルは、前衛型のようだ。
「ランスターさんは?」
「あたしも自前。ミッド式だけどカートリッジシステム使うから」
 ティアナも自前だった。
「他に自作持込はいないみたいだし、変則同士で組まされたんでしょうね」
 ティアナは、銃型のデバイスだ。
「わ…………銃型! 珍しいね。かっこいい!」
 スバルを睨むティアナ。
「あ。え…………」

「並びましょ」
「う、うん…………」




 ミッドチルダ西部……。
 陸士108部隊隊舎。
 同隊長室。
「そろそろ入学式も終わった時間か」
 時計にめをやる部隊長。
「スバルは、ちゃんとやれてんのかねェ…………」
「そうですね。ちょっと内気な子ですから心配は心配なんですが、あの子なりに頑張って上手くやていると思いますよ」
「だと、いいがな」
「はい。父さん」
「しかし、お前といい、スバルといい、俺ぁ、局員になんぞしたくなかったんだがなァ…………」
「すみません」
 あやまるギンガ。
「でもスバルも、あの時から夢と目標を見つけてくれましたかし、母さんもきっと喜んでくれてると思うんです」
「だと、いいんだがな」
「はい」


 訓練校では、早速訓練が始まっていた。
「次! Bグループ。ラン&シフト!」
 Aグループは終わっているようだ。
「」
障害突破してフラッグの位置で陣形展開。わかってるわよね?
「うんっ!」
「前衛なんでしょ? フォローするから先行して」
「うん!」

「32…………セット!」
 教官が言う。

 スバルは、全力でスタートするつもりのようだ。
「ゴー!」
 そして、全力でスタートを切った。
 その結果は……。
「フラグポイント確保ッ!」

 教官のホイッスルが鳴る。
「え」
「32! 馬鹿者なにをやってる!」
 怒られた。
「安全確認違反! コンビネーション不良! 視野狭窄! 腕立て20回ッ!」
「「はいッ!」」
 早速、罰を受けた。
「足が速いのはわかったから、緊張しないで落ち着いてやんなさい」
「ご…………ごめん…………」
 謝るスバル。
「次は、ちゃんとやってよね」
「はい〜ッ!」


「次は、垂直飛越。これは、カンタンでしょ? 相手を押し上げてて…………」
「上から引っ張り上げてもらう!」
「そう。アンタを先行させるの心配だから、あたしが先ね」
 ティアナが先に上がるようだ。
「届かないと、ぶつかって痛いんだから、しっかり勢いをつけて…………。しっかり上まで飛ばせてよ」
「うんっ!」
 返事をするスバル。
「いち。にーの…………さんっ!」
 勢いをつけて放り上げる。
 だが、勢いをつけすぎだった。
 ティアナは、あらぬ方向に飛んでいった。
 空を飛べないから、叩きつけられたら大けがでは済まない。
 初日から入院の危機にさらされたティアナ。
 だが、スバルは、ティアナが叩きつけられる前にキャッチした。
「ご…………ごめんなさい。大丈夫ッ!?」

「32〜ッ!! 訓練中断!! 一度引っ込めッ!」
 初日から教官の雷が落ちた。
「は、はいっ!」
 この日の訓練からされた二人。



「あれ、楽しそうですっ」
 楽しそうと言うエリオ。
「うーん。エリオは、マネしちゃダメだよー。フェイトさんとアリシアさんが泣いちゃうから」


「昨年の空港火災、公にはされていませんが原因は古代遺物ロストロギアです」
 空港火災の原因は、古代遺物ロストロギアのようだ。
「密輸品として運び込まれたものが爆発したと見られます」
 フェイト、アリシア、コーラド学長の前には空間モニターが開かれている。
「そして、その古代遺物ロストロギアに付随するように現れる機械兵器があります」
 説明をするフェイト。
古代遺物ロストロギアに付随することから『ガジェット』あるいは『ドローン』と仮称していますが、これらは一機ずつでAMFを展開する機能を保有しています。そしてどこからどうやって現れるのか、進出鬼没に古代遺物ロストロギアに群がって確保しようとする」
 モニターには、件の機械兵器が写されている。
「これらが多数出現すれば、局員たちは各地でAMF状況下での戦闘を強いられます。お伺いしたいのは、そういった状況下に対応できる魔導師を育成するとして、かかる時間と『卒業』の期待値についてなんです」
「なるほどね。でも確実に時間はかかるし卒業期待値もあまり高くないわよ」
 期待値は、高くないようだ。
「それに適正のある精鋭を揃えて短期集中での訓練なら、わたしの古巣の方…………今は貴女達の親友がいる本局の戦技教導隊に依頼すべきだと思う」
「そっちでも動いてはいるんですが、将来を見越しての準備をしたいんです…………。数年計画で」
「それは、また。それにしても難しいわよ」
 難しい顔をするコーラド学長。
「新暦になって質量兵器の使用が原則として禁じられて以来、兵器も戦力もほとんどが純粋魔力だよりだもの」
 管理局では、質量兵器の使用が禁止されている。
「まぁせっかく来てくれたんだから、もう少し詰めた話をしましょうか」
「はい」
「ついでに貴女達の最近の話も」
「はい…………」
 その後、フェイトとアリシアは、色々と話をした。
 無論、秘匿しなければならないこと以外……。

「その空港火災の時、盗難事件も発生しています」
 空港火災の最中、盗難事件も発生していた。
「その盗難事件の犯人は、モリアーティ教授です」
「その事件は、知っているわ」
 盗難事件の犯人も捕まっていないのだ。
「本局のホームズ提督が捜査を続けられているそうね」
「はい」
 ホームズが、モリアーティの事件を担当していることは公開されている。
「そう言えば、貴女達の友達も所属しているよね」
「はい」
「でも、他の未解決事件が回されて大変みたいです」
 ホームズの部隊は、人手が足りないらしい。
 万年人手不足管理局において、その際たる部隊がホームズの部隊だ。
 そのホームズの部隊でも例外扱いなのが、さつき、すずかだった。
「すずかは、固有戦力込みでの例外扱いです」
「それに、学生魔導師ですから……」
 すずかは、学生魔導師を続けているようだ。



 そして、さつきは……。
「ユミヅカ二尉!! 総員配置に就きました」
 現地の魔導師が報告する。
「メイン以外の出入り口を封鎖せよ」
「メイン以外の出入り口を封鎖!!」
 質量兵器が禁止されている為、爆薬で出入り口を塞ぐことが出来ないのだ。
 人力で岩を崩し出入り口を塞ぐ。
 崩すのも一苦労である。
 タイミングを合わせて出入り口を塞がないと逃げられてしまうからだ。
 時を置かずして報告が入る。
「メイン以外の出入り口の封鎖、成功しました」
 報告を待っていたかのように命令するさつき。
「突入せよ!!」
「総員突入!!」
 犯罪者のアジトに突入する魔導師たち。
 突入後、戦闘が繰り広げられる。
 突入した魔導師が激しく出入りする。
 負傷した魔導師が担架で運び出される。
 負傷者が出るほどの激しい戦闘のようだ。
「弓塚武装執務官!! 負傷者の数が10人を超えました。このままでは……」
「判っておる」
「ですが……」
「そのまま続けよ」
 さつきは、局員たちを囮に使っているようだ。


 もう一方の突入部隊は……。
「ラインハルトさま!! 突入準備整いました」
「弓塚は!?」
「別働隊を指揮して突入しています。敵は、向こうに集中しています」
「よし。ロイエンタール、突入して首魁を捕えよ」
「御意」
 突入部隊を指揮して突入するロイエンタール。
 ロイエンタールは、首魁の下へ向かう。
 さつき達が注意を引き付けている間に首魁の逮捕をするようだ。

「首魁が居るのは、あの部屋だ!!」
 首魁の居る部屋になだれ込むロイエンタール達。
「なんだ!? 貴様たちは?」
「アードリアン・ルービンスキーだな!?」
 ロイエンタールが聞く。
「卿を逮捕する」
「容疑は?」
「質量兵器の密造及び密売、並びに不法所持だ」
「知らんぞ!!」
「黙れ下種!! 言い訳は、取調室で聞いてやる」
 ロイエンタールの部下に逮捕されるルービンスキー。
 その後、ルービンスキー以下のアジトに居た者達が逮捕された。
 ルービンスキーと同じ罪状で……。




 そして、スバルとティアナは……。
「訓練初日から反省清掃…………」
 初日から罰掃除を喰らっていた。
「油断するんじゃなかったわ」
「」
あ。あのホントごめん…………
「謝んないで。うっとうしい」
「掃除が終わったら、また訓練の続きだから、あたし、もっとちゃんとやるから…………。ランスターさんに迷惑かけないように!」
「あのさぁ。気持ちひとつで、ちゃんとやれるんなら、なんで初めからやんないわけ!?」
 ティアナは、怒っている。
「どこかのお嬢が遊び半分で冷やかしに来てんのか知らないけどさ、こっちは遊びじゃないのよ。真剣なの!」
 ティアナは、真剣のようだ。
「あ、あたし、別にお嬢でも、遊びでも…………! 真剣だし…………本気で…………っ!」
「…………掃除が済んだら反省の旨を教官に伝えて訓練復帰。次はもう、さっきみたいな失態許さないから」
「あ…………うん…………」
 ティアナは、スバルに警告する。
 次は、無いと……。
「あたし、掃除道具取ってくるっ! すぐ戻ってくるから!」
 掃除道具を取りにいくスバル。


 憧れで見上げて希望で進んだ管理局魔導師への道。
 あたしはやっぱりダメで弱くて情けないけど。
 決めたから。
 あの日出会った空の星みたいなあのヒトに。
 本の少しでも近づけるように。


 スバルは、懐に仕込んでいる写真を見た。
 その写真は、なのはだった。
「がん。ばる。ぞーっ!」


 次回予告

 スバル「訓練校生活を続けるわたしとティア」
 ティア「落ち着いて!!」
 スバル「そして発表される之までの訓練成績」

 凜「何で、私達だけ昇進がないのよ!!」




 スバル「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第105話『Starting Stars2』」



空港火災から一年後の話みたいだな。
美姫 「新しい子たちも出てきて、賑やかになりそうね」
だな。とは言え、今の所は訓練ばっかりになりそうだけれどな。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
それではこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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