第16話「なまえをよんで」
『お願い……みんな脱出急いで!!』
エイミィが脱出を急がせる。
直後、大爆発を起こす時の庭園。
「庭園崩壊終了!! 全て虚数空間に吸収されました」
「次元震停止します。断層発生はありません」
「了解」
「第三戦速で離脱……巡航航路に戻ります」
「あれ? フェイトちゃんは?」
「アルフと一緒に護送室……彼女はこの事件の重要参考人です。暫くは隔離になります」
「そんな……うっ痛っ他」
「なのは、ジッとして」
「うん」
「今回の事件は、一歩間違えれば次元断層を引き起こしかねなかった重大な事件なんです。時空管理局として関係者の処遇に慎重にならざらるをえません。それは、わかりますね」
「アリシアちゃんとプレシアさんは?」
「プレシアは、拘束の上、医務室で検査中……アリシアは、休憩室でゆっくりしてもらっているよ」
フェイトは、護送室で手錠を掛けられ拘束されていた。
そして、いろんな事が終わりました。
私とユーノくんが出合ってから今日まで、終わってみれば、なんだかあっという間の日々……。
次元震の余波が収まるまでの間、私たちはアースラの中で過ごして……。
それから……。
「今回の事件解決について大きな功績があったものとして、ここに略式ではありますがその功績を称え表彰いたします。高町なのはさん、ユーノ・スクライアくん、月村すずかさん、月村忍さん、弓塚さつき・ブリュンスタッドさん」
アースラ、クルーが拍手する。
代表して、なのはが賞状を受け取った。
「ヒバリさん、フェイトちゃん達はこれからどうなるの?」
「事情があったとは言え、彼女は次元干渉犯罪の一端を担っていたのは紛れも無い事実だ。重罪だからね。数百年以上の幽閉が普通なんだが……」
「そんなぁ」
「なんだが……状況が特殊だし、彼女が自らの意思で次元犯罪に加担していなかったこともハッキリしています。後は、プレシア本人から聴取と偉い人達に事実をどう理解させるかなんだけど……その辺のことはクロノ執務官にお願いします。心配しなくてもいいですよ」
「ヒバリさん……」
「何も知らされず、ただ母親のネガイを叶える為に一生懸命だった子を罪に問うほど時空管理局は冷徹な集団じゃないから……真に罪を償うべき人物はプレシア・テスタロッサです」
その時、ヒバリに通信が入る。
「何かあったんですか?」
「たった今、医務室でプレシア・テスタロッサが亡くなりました」
「プレシアさん、亡くなっちゃったんだ……」
「死に顔は、とっても幸せそうだったそうだ」
「このことはフェイトちゃんとアリシアちゃんには?」
「まだ伝えていない。特にアリシアには伝えない方がいいでしょう」
「次元震の余波はもう直ぐ治まるわ。ここからなのはさん達の世界へは、明日には戻れると思う」
「よかったぁ」
「ただ、ミッドチルダ方面への航路は、まだ空間が安定しないの。暫く時間が掛かるみたい」
なのは、ユーノ、すずか、忍、さつきは、リンディと会食をしている。
「そうなんですか」
「数ヶ月か? 半年か? 安全な航行が出来るまでは、それくらい掛かりそうね」
「……そうですか……。その……まぁ、うちの部族は、遺跡を探して流浪している人ばかりですから、急いで帰る必要が無いといえば無いのですが……でも、その間ここにお世話になるわけにもいかないし……」
「じゃぁ、うちに居ればいいよ。今まで通りに……」
「なのは、いいの?」
「うん。ユーノくんがよければ……」
「じゃぁ……その……えと……お世話になります」
「うん」
「うふふふふっ」
「ずぅっと徹夜だったんだもん。まだ眠い。」
其処へエイミィとヒバリが入ってくる。
「なのはさん達は、プレシアが亡くなったの知っていますよね?」
「さっき、ヒバリさんから聞きました」
「この事は、まだフェイトさんとアリシアさんには伝えていません」
リンディも伝えていないようだ。
「フェイトさんには事実を伝えるとしても問題はアリシアさんです」
「アリシアちゃんってすずかちゃんとさつきさんが血を送り込んだんだよね。アリシアちゃんも魔法が使えるのかな?」
「適正検査をしてみないとわかりません。生前は、適正を持っていなかったらしいです」
話がプレシアとアリシアのことに傾く。
「あのヒトが目指していた、アルハザードって場所、ユーノくんは知っているよね?」
「はい。聞いたことがあります。旧暦以前……全盛期に存在していた空間で今は失われた秘術が幾つも眠る土地だって」
「だけど、とっくの昔に次元断層に落ちて滅んだと言われています」
「どうぞ」
「あらゆる魔法がその究極の姿に辿り着き、その力を持ってすれば叶わぬ望みは無いとさえ言われたアルハザードの秘術……時間と空間を遡り過去さえ塗り替えることが出来る魔法……失われた命をもう一度蘇らせる魔法……彼女はソレを求めたのね」
「はい」
「でも、魔法を学ぶものなら誰もが知っている。過去を遡ることも、死者を蘇らせることも決して出来ないって……だからその両方を望んだ彼女は、御伽噺に等しい伝承にしか頼れなかった。……頼らざるを得なかったんだ」
「でも、アレだけの大魔導師が自分の命さえ賭けて探していたのだから、彼女は、若しかして本当に見つけたのかも知れないわね、アルハザードへの道を……今となっては、もうわからないわよね」
「でも、彼女のネガイの一つは最後の最後で叶った」
「そう言えば、プレシアとの会話を記録してたんだけど、その中にアルハザードについて話しているところがあったの」
「それは、本当なの?」
「はいっ!! 問題の箇所を再生します」
エイミィが問題の会話を再生する。
『貴女、ネガイがあるんじゃないの?』
『私のネガイは、アルハザードに行ってアリシアを生き返らせること……』
『貴女のネガイが叶うことはないよ。アルハザードへ行っても死んだヒトを生き返らせることは出来ないから……』
『いいえ、あるわ。アルハザードに行けばアリシアは生き返る』
『プレシアさん、丁度良い機会だから教えてあげるね』
『アンタみたいな小娘に教えてもらうことなんか無いわ』
『良いから黙ってさくらの話を聞けや』
『昔、クロウさんも死んだヒトを生き返らせる術を求めて色んな世界を旅をしたの……
色んな世界を旅して探したけど見つからなかったの……それで、クロウさんは死んだヒトを生き返らせることは出来ないって結論に辿り着いたの……』
『そんな話、信じるとでも思うの?』
『信じるも、信じないも貴女の自由よ。どうしても生き返らせたいというのなら二つほど方法が在るよ』
『アリシアを生き返らせる方法が!?』
「この話、何処まで本当だと思う?」
「何処まで信じていいかわかりません」
「そうね。でも、アリシアさんは蘇った」
「死んだヒトを生き返らせることは出来ないと言っていたのに」
「そうなんですよね。しかも、フェイトちゃんと同規模の魔力まで」
「アリシアさんが魔力を?」
「はい。魔導師適性検査をしてて判明したんです」
「二人の会話でアルハザードが存在が事実だったことが明らかになったわね」
「この事実を報告書に書くわけにはいきませんよね」
事実隠蔽を相談するリンディとエイミィ。
「さつきさんは、アルハザードへ行かれた事は?」
「はい、あります。さくらさん達と一緒に行ったことがあります」
「そこは、どんな所でしたか? 話せる範囲で良いので話していただけませんか?」
「う〜ん……どうしようかなぁ?」
「話せないのなら話せないといってください」
「やっぱり話せません」
「確認だけします」
「アルハザードは、存在しているのですね」
「存在は、しているよ。私も単独で何度か行かされたから」
「そうですか……。 ……!? 貴女、転移魔法が使えたのですか?」
「無理矢理覚えさせられたから……」
「何故、元の世界に帰られないのですか?」
「まだ、用事が終わってないんです」
「用事とは、何なんですか?」
「それは、言えません」
「言えないのならしょうがないわね……」
さつきに謝るリンディ。
「ごめんなさい、食事中に長話しちゃって……冷めないうちに頂いちゃいましょう」
「なのはちゃん、すずかちゃん、忍さん、さつきさん、此処には何時でも遊びに来て良いんだからね」
「はぁいっ。ありがとうございます」
「アースラは、遊び場じゃ……」
「まぁまぁっ、良いんじゃない。どうせ巡航任務中は暇を持て余しているんだし……」
「艦長まで……」
「ヒバリくんもクロノが入院で訓練相手が居ないでしょう」
「はい」
「クロノが復帰するまで、すずかさんとさつきさんに相手をして貰ったらどうです?」
「相手をして貰いたいのはやまやまなのですが……」
「何か問題でも?」
「自分はAAAです。それに彼女達はSSとSSSですよ? ランクに差がありすぎます」
「艦長命令です。クロノが復帰するまで相手をしてもらいなさい。彼女達にも手加減を頼みます」
「わかりました」
リンディの裁量でクロノが復帰するまで、すずかとさつきが訓練相手に借り出されることが決まった。
そして、私とユーノくんとすずかちゃんと忍さんとさつきさんが帰る朝……。
ユーノは、フェレットに戻ってなのはの肩に乗っている。
「それじゃあ、今回は本当にありがとう」
「強力に感謝します」
エイミィは、ゲートを開く準備をする。
「フェイトの処遇は、決まり次第連絡します。決して悪いようにはしません」
「うん。ありがとう……」
「ユーノくんも帰りたくなったら連絡してね。ゲートを使わせてあげる」
「はいっ。ありがとうございます」
「じゃあ、そろそろいいかな?」
「「「「「はぁい!!」」」」」
「またねヒバリさんエイミィさん、リンディさん」
三人が見送る。
5人が転送されていった。
5人は元の世界に帰ってきた。
「帰ろうか? ユーノくん!! それじゃ、すずかちゃん、忍さん、さつきさん」
なのはとユーノは家に帰る。
「それじゃあ、私たちも帰ろうか、すずか、さつきさん」
忍たちも家路に着く。
「ただいまぁっ!!」
帰宅したなのはを家族が出迎える。
学校では、なのはとすずかがアリサと再開した。
数日後……。
なのはの携帯電話が鳴る。
ベットから携帯を落とし音を止める。
しかし、また鳴った。
落とした携帯を拾って開いた。
すると時空管理局からの着信だった。
「はいっ。なのはです!!」
「う〜ん……」
「えっ!! 本当!?」
「先程、正式に決まりました。フェイトの身柄は、これから本局へ移動、それから事情聴取と裁判が行われる」
『ふぇ?』
『フェイトは多分……いや、ほぼ確実に無罪になります。大丈夫だよ』
『聴取と裁判は、時間が掛かるんです』
「うんうん、直ぐに行く!!」
電話を切るなのは。
「どうしたのなのは?」
「フェイトちゃんが本局に移動になるんだって! 暫くの間……で、その前に、少しだけど会えるんだって!!」
「そうなんだ……」
「私に会いたいって言ってくれているんだって」
「それで、すずかちゃんたちは?」
「多分、すずかちゃんたちにも連絡行っている筈だから……」
待ち合わせの場所にヒバリとフェイトとアルフがいた。
なぜかアリシアも一緒だった。
ヒバリは、監視が目的のようだ。
既に、すずかとさつきは、来ている。
「フェイトちゃぁん!!」
なのはが、走ってくる。
その肩にユーノを乗せて……。
「遅いよ、なのはちゃん!!」
「ごめんっ!! あっ、アリシアちゃんも一緒なんだ」
なのはの肩から飛び降りるユーノ。
「あまり時間がありませんが暫く話してください。僕達は、向こうに居ます」
「ありがとう……」
「ありがとう……」
「アリシアも話すといい」
ヒバリとアルフはその場を離れる。
アルフは肩にユーノを乗せて……。
「なんだか一杯話したいことあったのにへんだね? フェイトちゃんの顔を見たら忘れちゃった……」
「わたしは……そうだね。私も言葉に出来ない。……だけど嬉しかった」
「ふぇ!?」
「真っ直ぐ向き合ってくれて……」
「うん。友達になれたらいいなぁと思ったの。……でも、今日はこれから出かけちゃうんだよね?」
「……そうだね……。少し、長い旅になる」
「また会えるんだよね?」
なのはの方を見て頷くフェイト。
「少し悲しいけど、やっと本当の自分を始められるから」
別の場所では、すずかとさつきがアリシアと話をしている。
「来てもらったのは、返事をする為……」
「……ぇ……?」
「キミが言ってくれた言葉……『友達になりたい』って」
「うんっ、うんっ!!」
「私に出来るなら……私で良いならって……。だけど、私、どうしたらいいかわからない。だから、教えて欲しいんだ!! どうしたら友達になれるのか……」
「……ぁ……」
「簡単だよ」
「ぇ?」
「友達になるの凄く簡単!!」
凄く簡単だと言うなのは。
「すずかちゃんとさつきさん、もうアリシアちゃんと友達になっているよ」
すずかとさつきは、アリシアと友達になっているようだ。
楽しそうに話す声が聞こえる。
「なまえをよんで!!」
名前を呼んでと言うなのは。
「初めは、それだけで良いの。キミとか、貴女とか、そう言うのじゃなくて、ちゃんと相手の目を見てハッキリ相手の名前を言うの!!」
一呼吸おいて言うなのは。
「私なのは、高町なのは!! なのはだよ!?」
「なのは?」
「うん。そう」
「なの……は?」
「うんっ」
「なのは」
「うん」
なのはは、目を潤ませる。
フェイトの手を握るなのは。
「ありがとう……なのは」
「うん」
「なのは」
「うんっ!」
「キミの手は暖かいね、なのは」
涙を零すなのは。
「少しわかったことがある。友達が泣いていると同じように自分も悲しいんだ」
「フェイトちゃぁん!!」
フェイトに抱きついて泣くなのは。
「ありがとう……なのは。今は、離れてしまうけど、きっとまた会える。そうしたら、またキミの名前を呼んでも良い?」
「うん。うん……」
「会いたくなったらきっと名前を呼ぶ」
フェイトを見上げるなのは。
「だから、なのはも私を呼ぶ。なのはに困ったことがあったら、今度はきっと私がなのはを助けるから」
「アンタの所の子は……なのはは、良い子だね」
アルフも何故か泣いていた。
「フェイトがあんなに笑っているよ」
ヒバリが立ち上がる。
立ち上がってフェイトとなのはのと頃へ歩む。
「時間です。そろそろ良いですか?」
時間を告げるヒバリ。
「うん」
「フェイトちゃん!!」
突然、なのはが自分のリボンを解き始めた。
解いたリボンをフェイトに差し出す。
「思い出に出来るもの、こんなのしかないのだけど……」
「じゃあ、私も……」
フェイトもリボンを解き始めた。
フェイトもリボンを差し出す。
ソレをお互い交換した。
「ありがとう……なのは」
「うん……フェイトちゃん」
「きっと、また……」
「うん。きっと、また……」
アルフが、ユーノをなのはの肩に乗せる。
「ありがとう。アルフさんも元気でね」
「いろいろ、ありがとうね。なのは、ユーノ。それに、すずか、さつき」
「それじゃ、私も……」
「ヒバリさんも元気でね」
「えぇ」
「それにしてもアリシアちゃんってフェイトちゃんとそっくりだね」
「それは……わたしの……お姉ちゃんだからかな?」
アリシアの事をお姉ちゃんと呼ぶことを決めたようだ。
「アリシアちゃんも元気でね」
「お母さんの願いを叶えてくれてありがとう……すずかにさつき」
なのは、ユーノ、すずか、さつきは送還されるフェイト達を見送った。
なのはとフェイトは手を振り合う。
アリシアもすずか達と手を振った。
そして、海鳴の地からアースラへ収容された。
暫くのお別れだ。
次回予告
なのは「フェイトちゃんと別れ別れの私、なのは」
なのは「いつもの連絡でユーノくんとクロノくんが大喧嘩を……」
なのは「どうしよう……」
なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第17話『それから』」
プレシア、やぱり助からなかったか。
美姫 「でも、アリシアが蘇ったのを見れただけ幸せかもね」
どうだろうな。折角、生き返ったのにという想いもあるんじゃないかな。
美姫 「これもまた一つの結果だしね」
フェイトやアリシアもどうにか落ち着いているみたいだし。
美姫 「さて、次回はどうなるかしらね」
ではでは。