第21話「フェイトVSアリシア」
「お、お姉ちゃん。最近デバイスを作っているって本当?」
「うん。リンディさんにお願いして部品をそろえてもらっているの」
アリシアは、自前のデバイスを作り始めたようだ。
「えぇっ? アリシア、自分のデバイスを?」
「うん。フェイトのバルディッシュと兄弟機にするつもりなの」
既にデザインも決めているようだ。
しかもバルディッシュと同系機だという。
「バルディッシュっと?」
「うん。全く同じ部品を使って同じものを……」
「それで、アリシア」
「何? フェイト」
「後どの位で完成する?」
「二週間ぐらいで完成するかな? その後、微調整とかあるから……」
「完成したら模擬戦する?」
「うん。私の今の力を見せてあげる」
それからアリシアは、二週間、デバイス作りと平行して調整を繰り返した。
調整しては、確認。
調整しては、確認の繰り返しの日々が続いた。
そして苦労の末、アリシアのデバイスは完成した。
「出来た……私の愛機『ヴァルディッシュ』……ヴァルディッシュ! デバイスモード」
≪Yes sir≫
待機状態からデバイスモードに変形する。
その形態は、バルディッシュのデバイスモードと瓜二つだ。
「動作も問題なしと」
色々とモード変換を繰り返したが異常はなかった。
「アリシアさん、デバイス完成したの?」
「はい。ヴァルディッシュです」
「あら? フェイトさんのバルディッシュとそっくりな名前ね」
「はい」
「若しかして、形態もフェイトさんと同じなの?」
「同じと言えばいいのかな」
「そうなの。模擬戦をしてみる?」
「いいんですか?」
「デバイスの馴らしも兼ねてフェイトさんと戦ってみたら?」
「フェイトと?」
「エイミィ! フェイトさんを呼んでくれないかしら」
「フェイトちゃんですね。直ぐに呼びます」
エイミィに呼ばれたフェイトがアルフと共に入ってくる。
「リンディ提督、話ってなんですか?」
「おっ、完成したのか?」
「うん。ヴァルディッシュです」
「フェイトのと同じ名前じゃんか」
「違うよ。フェイトのは『バ』で、私のは『ヴァ』……」
「そう言えば、発音が少し違うか!」
「フェイトさん、アリシアさんと模擬戦をしてくれないかしら」
「アリシアと?」
「アリシアさんのランク計測もしたいのよ」
「ランク測定なら、私よりクロノの方が……」
「クロノ、まだあの時のダメージが抜け切っていないのよ」
クロノは、まだ戦闘できない体のようだ。
「相手をしてくれるよね? フェイト!」
「はい。でも、アリシアは……」
「フェイトさんの心配はわかります。ですが、この戦闘はアリシアさんが希望したものです」
「わかりました。アリシアと戦います」
「じゃあ準備に取り掛かって! 開始は1時間後でいいかしら?」
「いいです」
「それでいいです」
それから一時間後……。
「ルールは非殺傷設定での一本勝負!」
クロノがルールを説明する。
「フェイトは、あの魔法の使用は禁止だ! あれを使われたら結界が崩壊するのは確実だからな」
「若しかして私がクロノを撃墜した魔法?」
「あぁ、アリシアがアレ受けたらひとたまりもないからな……」
クロノは、忘れている。
アリシアがさつきとすずかの吸血鬼の血を受けて蘇ったということを……。
クロノは、アリシアが吸血鬼だということを忘れていた。
『フェイトちゃん、アリシアちゃん! 準備はいいかな? よかったらはじめるよ』
「準備はいいです」
「私も……」
『じゃあ、デバイスを起動させて』
「バルディッシュ」
≪Yes sir≫
「ヴァルディッシュ」
≪Yes sir≫
フェイトとアリシアがデバイスを起動させた。
「ば、バルディッシュとそっくり!」
フェイトが驚きの声を上げる。
「これが私のヴァルディッシュよフェイト」
アリシアがフェイトにヴァルディッシュを見せる。
「最初から本気で掛かってきていいよ」
「魔法に慣れていないアリシアに本気になるなんって……」
「私は、生き返ってから気付いたことがあるの。これを見て」
「な、何を?」
アリシアは、自らの爪で右手首を裂いた。
裂いた手首から血が出る。
裂かれた手首の傷が見る見るうちに塞がり出血も止まった。
「傷が……」
「無駄話は此処までね……ヴァルディッシュ、フォンランサー!」
≪photon lancer.≫
アリシアがフェイトにフォトンランサーを撃つ。
アリシアの魔力は金に赤みが掛かった色だ。
フェイトは、其れをシールドで防ぐ。
「バルディッシュ!」
≪Yes sir≫
バルディッシュは、フェイトに答えるように魔法をセットする。
≪thunder
smasher.≫
「サンダースマッシャー!!」
サンダースマッシャーがアリシアに放たれる。
≪thunder smasher.≫
アリシアもサンダースマッシャーを撃つ。
サンダースマッシャーの力比べだ。
「此処まで、互角の戦いだよ」
「アリシアさんもがんばっているわね」
「でも、経験の点ではフェイトちゃんが有利ですけどね」
誰もが思う。
経験の差でフェイトが勝つと予想している。
誰もが……。
「アルカス・クルタス・エイギアス 疾風たりし天神 今導きのもと撃ちかかれ バルエル・ザルエル・ブラウゼル フォトンランサーファランクスシフト 打ち砕け FIRE!」
ライトニングバインドでアリシアを捕らえたフェイトが攻撃にでた。
魔力の塊がアリシアを襲う。
そんな魔法をアリシアは、喰らった。
「アリシアちゃん、大丈夫かな?」
「今ので決着がついたかな」
「一寸待ってください。まだ、決着がついていません」
まだ決着がついていなかった。
モニターに魔力残量が表示されている。
フェイトの魔力は、既に半分を切っていた。
其れに対してアリシアは、半分弱ほど残っている。
「フェイト! 耐えたよ!」
「今のを耐えたの、なのは以外ではアリシアが初めてだよ」
「じゃあ、今度は私の番だよ」
≪Phalanx Shift≫
「え、詠唱破棄!?」
エイミィは驚いた。
詠唱が必要な魔法を魔法の経験がないアリシアが使ったからだ。
アリシアを襲ったのと同様にフェイトにフォトンランサー・ファランクスシフトが襲い掛かった。
「はぁ。はぁ。はぁ」
アリシアは、肩で息をする。
可也の魔力と体力を使ったようだ。
煙が晴れると辛うじて耐え切ったフェイトの姿があった。
「何とか耐えたよ、アリシア」
「今のも耐え切るなんて流石フェイトね。でも、魔力の残りも僅かみたいね」
残り少ない魔力で次の攻撃をするフェイト。
≪Arc Saber.≫
金の刃を幾つも飛ばす。
「その程度の攻撃じゃ、私には届かないよ」
強固なバリアでフェイトの攻撃を受けきったアリシア。
だが正面にはフェイトの姿はなかった。
フェイトの姿はアリシアの背後にあった。
「それで背後をとったつもりなの? フェイト?」
「えっ?」
それは、フェイトに一瞬の隙を与えた。
アリシアは、隙を見せたフェイトの懐に入り込んだ。
「し、しまっ……」
ズン!
フェイトの腹部にアリシアの左拳が叩き込まれた。
「ぐふっ」
フェイトは、両手で腹部を抱え苦しむ。
「如何? フェイト、苦しいでしょう?」
「あ、アリシア……」
「今まで、お腹を殴られたことないでしょう!?」
腹部への打撃、直ぐに回復するダメージではない。
「フェイトちゃん、今のダメージで戦闘力大幅に低下」
模擬戦をモニターしているエイミィが言う。
「アリシアちゃん、フェイトちゃんに更に攻撃……」
モニターには、フェイトへ攻撃するアリシアの姿が写される。
モニターは、その映像だけはない。
いろんな角度の映像が沢山ある。
「あわわわっ。フェイトちゃんが吐血!!」
「クロノ! 直ぐに戦いを止めて!」
『は、はい』
「アリシア、其処までだ!」
勝負ありと見て戦いを止めるクロノ。
「うっっ。かふっ」
血を吐くフェイト。
「エイミィ、直ぐに医務室で治療の準備だ」
「ふぇ、フェイト、ごめん。大丈夫?」
アリシアがフェイトの心配をする。
「だ、だいじょう……ごふっ」
再び血を吐くフェイト。
「フェイトさんの緊急手術の用意を……」
「フェイトちゃんとクロノくんとアリシアちゃんを回収します」
回収されたフェイトは、直ぐに医務室に運ばれ治療が開始された。
治療の結果、胃の血管が破れ出血していた。
吸血鬼の力で殴られていて内臓にもダメージがあった。
だが、出血は思ったほど酷くなく手術は辛うじて回避できた。
それでもフェイトは、2〜3日の絶対安静が必要だった。
そして、アリシアは……。
「さて、アリシアさん。何故呼ばれたかわかっていますね」
「はい」
「何でフェイトさんのお腹を殴ったのですか? フェイトさんが助かったから良かったものの……」
「ご、ごめんなさい」
「アリシアさんには罰を与えます」
「罰?」
「これから3日間、フェイトさんの看病を命じます」
「看病?」
「それから、アリシアさん。看病中に血を飲むことを禁じます」
「はい」
それから3日間、アリシアは血を飲むことを禁じられフェイトの看病をした。
フェイトの回復後、ビデオメールを仲良く録ってなのはたちに送った。
『返事が遅くなってごめんね。こないだ言っていた私のお姉ちゃん……』
『アリシア・テスタロッサです』
約束どおり、フェイトがアリシアを紹介する。
このディスクは、特別版だ。
「ふ〜ん、この子がアリシアと言うんだ! 見れば見るほどフェイトとそっくりね」
「そっくりなのは、当然だよ」
『こないだフェイトと大喧嘩をしてわたしがフェイトのお腹を思いっきり殴ってフェイトに怪我させたのが遅れた原因なの』
『とっても苦しかったんだよ。なのは、すずか、アリサも殴られたら苦しくて息が出来なくなるよ』
「(すずかちゃん! 私、お腹を殴られたことがあるんだ。それで一杯血を吐いたんだ)」
「(私もあるよ、なのはちゃん)」
「(すずかちゃんも?)」
「(うん。何度も殴られて、一杯血を吐いてお腹の中がグチャグチャになっても殴られたんだよ)」
「(その後、死に掛けた私をさつきさんが治してくれたんだよ。ユーノくんでも治せなかったから)」
「(私もなんだよ。私の場合は、手の施しようがないから、さつきさんの血を飲まされたよ。その時、体が熱くって、あまりの激痛に狂いそうになったよ)」
「あんた達、見る気あるの?」
一時停止したアリサがなのはとすずかに言う。
「ごめん、アリサちゃん。ちゃんと見るよ」
「(すずかちゃん、この続きは後でね)」
「(うん、なのはちゃん)」
『それで、アリサにすずか。DVDと本もう少し貸してくれないかな? まだ、全部見ていないし読めていないから……』
『アリサにすずか! 私も見たいものがあるのだけど送ってくれない? リストは、DVDと一緒に送ってあるから……』
「声までそっくりじゃどっちがどうだか分からないじゃない」
「見分け方は簡単だよ。フェイトちゃんが着けているリボン、私のだから……」
「アリシアって子も同じような髪留めつけているわよ」
「なのはちゃん、瞳の色で区別できるんじゃぁ……」
「あっ、そうか……」
「あれ? アリシアの目の色ってフェイトと同じ?」
「の、はずなんだけど……」
『なのは、すずか、アリサ、ごめんね。そろそろ、DVDの収録時間が残っていないから、続きはまた今度話すね』
続きは次回と言うフェイト。
『また今度ね、なのは、すずか、アリサ』
『またね』
そこでDVDがとまった。
収録時間ギリギリだった。
そして、新たな事件が間近に迫っていた。
次回予告
なのは「平和な日々を過ごす私達……」
ユーノ「フェイトの裁判も後僅か」
なのは「えぇっ!? 私、襲われる覚えないんですけど?」
なのは「一体誰なの?」
なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第22話『はじまりは突然になの』」
ちょっとやり過ぎたアリシア。
美姫 「ひょっとして自分の力を制御できないのかしら」
もしくは、これぐらいなら大丈夫と思っていたか。
どちらにせよ、大事にはならなかったみたいで良かったじゃないか。
美姫 「今の所は平穏な日常って感じだけれど」
それもそろそろ終わりそうな感じだな。
美姫 「どうなるかしらね」
それではこの辺で。