6月3日 PM9:05
 海鳴市 中丘町

 車椅子の少女が一人で暮らしている。
『留守電メッセージは1件です』
 ピーと電子音が鳴る。
『もしもし。海鳴大学病院の石田です。明日は、はやてちゃんの誕生日よね』
 車椅子の少女は、はやてと言うらしい。
『明日の検査の後、食事でもどうかなぁ? と思ってお電話しちゃった。明日、病院に来る前に返事をくれたら嬉しいな』
『メッセージは以上です』
 車椅子で寝室へ向かうはやて。
 寝室に着くと車椅子からベットへ移った。
 ベットで本を読むはやて。
 時計は0時を指そうとしている。
「あっ、もう12時……」
 そして、時計が0時を指した瞬間……。

 1冊の本が不気味な光を発し始めた。
 不気味な光を放つ本に驚くはやて。
「うぁっ!」
 不気味な光を放つ本が宙に浮いて封印している鎖のようなものを引きちぎった。
 ページが勝手にめくれる。
≪Ich entferne eine Versiegelung.≫
 本が『封印を解除します』と言う。
 謎の本がはやての前に下りてくる。
≪Anfang.≫




 第22話「はじまりは突然になの」






 
 12月1日 AM6:35
 海鳴市 桜台


 なのはが、魔法の練習をしていた。
「それじゃあ今朝の練習の仕上げ、シュートコントロールやって見るね」
≪All right.≫
「リリカル・マジカル」
 なのはの足元に魔方陣が現れる。
「福音たる輝きこの手に来たれ。導きのもと鳴り響け」
 なのはが呪文を詠唱する。
 なのはは、手に持っていた空き缶を空へ放り投げる。
「デバインシューター……シュート!!」
 指先の光の弾丸を発射する。
 弾丸が缶に当たる。
「コントロール……」
 弾丸をコントロールして空き缶に当てていく。
≪Eighteen. Nineteen. Twenty. Twenty-one≫
 レイジングアートがカウントを取る。
「アクセル……うっ……ぅぅぅっ」
≪Fifty-five. Sixty. Sixty-four. Sixty-eight. Seventy. Seventy-three.≫
「ぅぅぅっ……くっぅぅっ」
≪Ninety-eight. One hundred.≫ 
「はぁっ……。ラストッ!!」
 なのはは指を振り下ろす。
 落下する缶を撃つもゴミかごには入らなかった。
「はあぁっ」
 ため息をつく。
≪Don't mind, my master.≫
「あはははっ、ありがとうレイジングハート……」
 なのはは、空缶を拾ってくずかごへ入れた。


 私、高町なのは。
 わりと最近までは、ごくごく平凡な小学三年生だったのですが……春先に起こったとある事件がきっかけで魔法使いになってしまいました。 

「今日の練習、採点すると何点?」
≪About eighty points.≫
「そっかぁっ」


 私に魔法と幾つもの出会いや勇気をくれたあの時の皆とは、今は少し離れ離れ……。
 でも、きっと、また直ぐ会えるから。 


「なのは! 郵便が来ているぞ!」
「えっ!! 本当?」
「海外郵便。差出人フェイト・テスタロッサ」
「ありがとう……おにいちゃん」
「いつものあの子だね? また、ビデオメール?」
「うん! きっとそう」
「その文通も半年以上になるよな?」
「フェイトちゃんとそのお姉ちゃんのアリシアちゃん、今度、遊びに来てくれるのよね? 家に来てくれたら、お母さん、う〜んと歓迎しちゃう」
「うん」
「ユーノも本当の飼い主が見つかっちゃってメッキリ寂しいしね」
「お前は、特に可愛がっていたからな」
「えっと、でもまた預かることになるかもだよ。その飼い主さん次第……」
「だと、いいなぁ」


 フェイトちゃん、アリシアちゃん、ユーノくん、クロノくんにリンディさん、エイミィさん……。
 みんな元気かな〜。




 同時刻。
 時空管理局艦船アースラ。
「管理局本局へのドッキング準備全て完了です」
「うん。予定は、順調! 良いことね」
「失礼します。艦長、お茶のお代わりは如何ですか?」
 お茶のお代わりを持ってきたエイミィが聞く。
「ありがとうエイミィ……頂くわ」
 湯飲みにお茶を注ぐエイミィ。
「本局にドッキングしてアースラも、私たちもやっと一休みね」
「ですね」
「子供達は?」
 リンディは、湯飲みに角砂糖を入れる。
「今は、休憩中のはずですよ。クロノ執務官とフェイトちゃんとアリシアちゃん、さっきまで戦闘訓練していましたし……」
 リンディは、湯飲みにミルクも入れる。
「それに付き合っていましたから……」
「そぉう。明日は、裁判の最終日だというのに、マイペースね」  リンディは、お砂糖ミルク入り緑茶を飲みながら羊羹に目をやる。
「はい」
 羊羹をエイミィに差し出すリンディ。
「まぁ、勝利確定の裁判ですから……」



 休憩室では多くのクルーが休憩を取っていた。
 その一角にフェイトたちは居た。
「さて、じゃあ最終確認だ。被告席のフェイトは、裁判長の問いにその内容どおりに答える事」
「うん」
 フェイトは、頷く。
「今回は、アルフも被告席に入ってもらうから」
「わかった」
「で、僕とヒバリさんとそこのフェレットもどきは、証人席。質問の回答は、其処にあるとおりに」
「うん、わかった。で、おいっ!」
 突如怒るユーノ。
「誰がフェレットもどきだ! 誰がぁ!?」
「キミだが、なにか?」
「あ゛っ。そりゃぁ動物形態で居る事も多いけど、僕にはユーノ・スクライアと言う立派な名前が……」
「ユーノ……まぁまぁっ」
「クロノ、あんまりいじわる言っちゃ駄目だよ」
「大丈夫。場を和ませる軽いジョークだ」
「アリシアさんにクロノ執務官の血を抜いてもらう必要があるようですね」
「止めてくれ! アイツは際限なく吸うから……」
「んぐぐぐっ」 
 ユーノは怒りが爆発しそうだ。
「事実上、判決無罪! 数年間の保護観察と言う結果は確実と言って良いのだが……一応、受け答えはしっかり頭に入れて置くように」
「「はいっ!!」」
「はいっ」



『おつかれさまリンディ提督。予定は順調?』
「えぇレティ、そっちは問題ない?」
『ドッキング受け入れとアースラ整備の準備はね』
「え?」
『こっちの方では、あんまり嬉しくない事態が動いているのよ』
「嬉しくない事態って?」
『ロストロギアよ。1級捜索指定の掛かっている超危険物』
「あっ」
『幾つかの世界で痕跡が発見されているみたいで、捜索担当班はもう大騒ぎよ』
「そう……」
『捜査員を派遣して、今はその子たちの報告待ちね』
「そっかぁ」




 12月2日 AM2:23
 海鳴市 オフィス街
「ぐわぁぁぁっ」
 数人の管理局員が倒されている。
 倒したのはハンマーを持った赤いゴスロリ服の少女のようだ。
「雑魚イな……。こんなんじゃ、大した足しにもならないだろうけど……」
 少女が持っている本を開く。
 局員達から、何かが出てくる。
「お前らの魔力、『闇の書』のエサだ!」
「「ぐわあぁぁっ! ぁあぁぁぁっ」」




 12月2日 PM4:24
 風芽丘図書館
 
 一台のリムジンが図書館の前に止まる。
 リムジンからすずかが降りる。
 図書館に用があるようだ。
「じゃあ、また明日ね」
「うんっ!」
「ばいば〜いっ」


 すずかは、図書館で本を探している。
 本を探しているすずかが何かに気づいた。
 車椅子の少女は、欲しい本に手が届かないようだ。
「あっ」
 すずかが車椅子の少女に駆け寄る。
「あっ」
 すずかが本をとる。
「コレですか?」
「はい。ありがとうございますっ」


「そっかぁ、同い年なんだぁ」
「うん。時々、此処で見かけとったんよ。あっ同い年ぐらいの子やって」
「実は、私も……」
 二人は、くすっと笑う。
「えっと、わたし月村すずか」
「すずかちゃん。八神はやて言います」
「はやてちゃん」
「ひらがなで『はやて』……変な名前やろう?」
「そんなことないよ。綺麗な名前だと思う」
「ありがとう」
 再びくすりと笑う。


 すずかがはやての車椅子を押す。
 はやてを待っているらしい女性が会釈をする。
 すずかも会釈をした。
「ありがと、すずかちゃん。ここでえぇよ」
「うん。それじゃあ」
 すずかは、手荷物をとる。
「お話ししてくれておおきに。ありがとうな」
「うん。またね、はやてちゃん」



「はやてちゃん、寒くないですか?」
「うん。平気! シャマルも寒くない?」
「わたしは、ぜんせん」
 シャマルがはやての車椅子を押す。
 その先にはピンク色の髪の女性……。
「シグナム」
「はいっ」
 シグナムも一緒に歩く。
「ばんごはん、シグナムとシャマルは何が食べたい?」
「あぁ、そうですね。悩みます」
「スーパーで材料を見ながら考えましょうか?」
「そうやね」
 何かを思い出したようにはやてが言う。
「そう言えばヴィータは今日も何処かお出かけ?」
「あぁ……えーっと……そうですね……」
「外で遊び歩いているようですが、ザフィーラが付いていますので、あまり心配は要らないですよ」
「そうか?」
「でも、少し距離が離れてもわたし達は貴女の側にいますよ」
「はい。我等は何時でも貴女の側に……」
「ありがとう」



 12月2日 PM7:45
 海鳴市 市街地

 本を持った少女と青い毛の狼が宙に浮いている。
「どうだ? ヴィータ、見つかりそうか?」
「居るような、居ないような……」
 ヴィータは、何かを探しているようだ。
「こないだから時々出てくる妙に巨大な魔力反応……アイツが捕まれば一気に20ページくらいは行きそうなんだけどな」
「分かれて探そう……『闇の書』は預ける」
「オッケー、ザフィーラ! あんたもしっかり探してくれよ」
「心得ている」
 ザフィーラは、別の所へ探しに行った。
「封鎖領域展開!」
≪Gefangnis der Magie.≫
 封鎖領域が展開される。


 なのはは、勉強をしている。
≪Caution. Emergency.≫
 レイジングハートが、緊急事態を伝える。
「へっ?」
 なのはの家も結界に包まれる。
「結界?」



「魔力反応大物見っけ!!」
 大物を見つけたようだ。
「行くよグラーフアイゼン」
≪Jawohl.≫
 ヴィータがなのはの方へ向う。



≪It approaches at a high speed.≫
「近付いて来ている? こっちに?」
 なのはが、レイジングハートに聞く。
 不安そうになのはは、窓の外を見る。




 ヴィータは、なのは目掛け飛んでいる。
≪Gegenstand kommt an.≫





 なのはは、ビルの上で待ち構える。
「あっ」
≪It comes.≫
「あっ、えっ!」
 なのはへ何かが飛んでくる。
≪Homing bullet.≫
 なのはは、シールドで誘導弾を防ぐ。
 その背後から、ヴィータが襲ってくる。
「テートリッヒシュラーク!!」
 ハンマーでなのはを殴る。
 それをシールドで防ぐ。
 しかし、なのはは、吹き飛ばされビルの上から落ちる。
 落ちるなのはをヴィータは追う。
「レイジングハート、お願い!!」
≪Standby, ready, setup...≫
 なのはの願いに答えるレイジングハート。
 落下しながらなのはは、変身する。
 魔導師の防護服……バリアジャケットを実に纏う。
 赤い宝石だったものは、なのはの杖へと姿を変える。


 ヴィータは、手に鉄の弾のようなものを持っている。
≪Schwalbefliegen.≫
「フッ!!」
 グラーフアイゼンで弾を撃つヴィータ。
「どりゃぁぁぁあぁぁぁっ!!」
 ハンマーを振り下ろすヴィータ。
 それを間一髪でかわすなのは。
「いきなり襲い掛かられる覚えはないんだけど? 何処の子? いったい何でこんなことするの?」
 ヴィータは答えず、さっきの弾を二つ出す。
「教えてくれなきゃ、分からないってばぁ!」
 ヴィータの背後になのはは、スフィアを回す。
「ん?」
 ヴィータもそれに気付く。
 一発は避けたがもう一発はグラーフアイゼンで防ぐ。
「このやろぉぉっ!!」
≪Flash Move. Shooting Mode.≫
 ヴィータの攻撃をかわすと同時にシューティングモードにかわる。 
 なのはは、レイジンハートをヴィータの向ける。
「話を……」
 レイジングハートがチャージを始める。
「あっ」
≪Divine≫
「聞いてってばぁ!」
≪Buster.≫
 ヴィータ目掛けて発さされる。
 ヴィータには直撃せず、ギリギリのところで回避された。
「あっ……」
 ボロボロになって落ちていく自分の帽子を見る。
「くっっっっ」
 凄く怒った顔でなのはを睨むヴィータ。
「グラーフアイゼン! カートリッジ、ロード!」
≪Explosion.≫
 グラーフアイゼンの魔力が跳ね上がる。
≪Raketenform.≫
 グラーフアイゼンの形が変わる。
 先の尖ったハンマーにロケットが付いたような形に……。 
「ふっ、ふぇぇぇ!?」
 驚きの声を上げるなのは。
「ラケーテンッ!!」
 ロケットの噴射が始まる。
 ロケット噴射の推進力で一気になのはへ襲い掛かる。
 シールドで防ぐも意図も簡単にシールドを破壊しレイジングハートを破損させる。
「ハンマーァッ!!」
 なのはは、吹き飛ばされビルの窓を破ってビルの中へぶち込まれた。
「けほっ! げほっ、かはっ」
 咳き込むなのは。
「でやぁぁぁっ!!」
 完全に叩き潰さんとするヴィータ。
≪Protection.≫
 破損した状態でバリアを張るレイジングハート。
 必死に耐えるなのは。
「ブッちぬけぇ!!」
≪Jawohl.≫
 ヴィータは、なのはのバリアとバリアジャケットを同時に破壊した。
 吹き飛ばされたなのはは、生身で壁に叩き付けられた。
「はぁはぁはぁっ」
 肩で息をするヴィータ。
 グラーフアイゼンから排気と同時に空のカートリッジは排出される。
「あっ、あぁぁぁっ」
 苦痛の声を上げるなのは。
 身動きが取れないなのはに歩みよるヴィータ。
 身動きが取れないながら破損したレイジングハートをヴィータに向けるなのは。



 こんなので終わり?
 嫌だ……さつきさん、ユーノくん、クロノくん、アリシアちゃん、フェイトちゃん!


 ヴィータのグラーフアイゼンを受け止めるフェイト。
 フェイトとアリシアが、ヴィータに対峙する。


「ごめん、なのは! 遅くなった」
 なのはに謝るユーノ。
「ユーノくん?」

「仲間か?」
 フェイトとアリシアから間合いを取るヴィータ。
 フェイトとアリシアは、ヴィータにデバイスを向ける。
≪Scythe Form.≫
≪Scythe Form.≫
「友達だ……!」


 次回予告

 なのは「始まりは、何時だって突然」

 なのは「だけど、あまりに突然すぎるこの事態……」

 なのは「混乱、困惑、どうしよう」

 フェイト「強敵の出現にピンチの私達」

 フェイト「襲い掛かる彼女達の目的とはいったい……」

 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第23話『戦いの嵐、ふたたびなの』」

 なのは「リリカルマジカル」

 フェイト「がんばります」


原作で言うとA's編に突入か。
美姫 「最初はあまり大きな変化はなしね」
ここからどうなっていくのか。
美姫 「それじゃあ、この辺で」
ではでは。



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