第27話「二極の戦い」






 
「こいつ等、ゴキブリかい?」
 倒しても次が立ちふさがる。
 そして、その間に倒された死者が復活するサイクルに落ちいていた。
 完全にイタチごっこにはまっている。
「こちら、救出部隊!」
『はいはいっ! こちら本部です』
「救出に向かう途中で例の事件に遭遇」
『遭遇って、もしかして戦っているの?』
「倒しても復活してくる。どうしたらいい?」
『一寸、待って!』
 通信が一時停止する。
 エイミィが相談しているようだ。
『皆、聞こえる?』
「聞こえています」
『なるべく戦闘は避けて、なのはちゃん達の救出に向かって! さつきさんには私から連絡を取るから……』
「了解!」
 今後の行動が決まったようだ。
「なのは達を救出の前にこいつ等の包囲網を突破せねばならねばならないわけだが……」
「シャァッ!!」
 死者達がクロノ達へ襲い掛かる。
「このままでは、こっちが先に魔力が尽きてしまう」
 戦闘が長引くとクロノ達が不利なのだ。
「死者達だけでどうにか出来る相手ではないな」
 この死者達を指揮している者が現れた。
「誰だ!?」
「先ずは、そちらが名乗るべきではないのかな?」
「僕は、時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ! 今度は、そっちが名乗る番だ」
「余は、リップシュタット! その方等の血を頂たき候」
 リップシュタットと名乗る貴族風の吸血鬼。
「死者共よ、下がれ! そいつ等の血は余が吸う。さぞ、魔力に満ちた血潮を提供してくれるだろう……」
 命じられて死者達が下がって行く。
「どいつから、殺してやろうかな?」
 獲物を物色するリップシュタット。
「よし。決めた!」
 視界からリップシュタットの姿が消える。
 ドム!
「がはっ」
 ユーノの腹にリップユタットの拳がめり込んでいた。
「うげぇ」
 ユーノの口から胃の内容物が逆流して吐き出された。
「先ずは、一匹……」
 ユーノの腹から拳が引き抜かれると音も無く崩れ落ちた。
「ユ、ユーノ!!」
「貴様、ユーノを……」
 アルフのパンチは空をきった。
「隙だらけだ」
 ズン!
 今度は、アルフの腹に拳が叩き込まれた。
「凄く苦しいだろう? でも、この一発だけでは開放してあげないよ」
 リップシュタットは、アルフの首を掴むと何度も腹部を殴りつける。
「うがぁぅ!」
 アルフの口から血が溢れる。
「アルフ!」
「助ける気が無いのなら血を吸わせてもらうよ」
 アルフは、グッタリしている。
 アルフの首にリップシュタットの牙が迫る。
 その時、地面から混沌の獣が数体現れた。
 その気配を察知してアルフを離して後方へ飛んだ。
 混沌もアルフとユーノを包むと地面に潜った。
「混沌だと! 何故、混沌が……」
 混沌の出現に驚くリップシュタット。
「この世界に、ネロ・カオスが居るのか!?」
 思考をめぐらせるリップシュタット。
「余から逃げられると思うな! 二匹は、混沌に喰われたが、貴様等は余が食す」
 殺気が、リップシュタットから溢れる。


「ユーノくんとアルフさん、戦闘不能! アルフは、ダメージ大」
「戦闘空域に巨大魔力反応! 巨大な魔力がさらに巨大になっていきます」
 アレックスが報告する。
「クロノ執務官の最大魔力値をオーバー!」
「急いでさつきさんに連絡を」
「さっきからしているんですが連絡が付きません!!」
「どんな手を使ってでもいいから連絡をとって!」
「わかりました。手を尽くしてみます」




 一方、すずか達は……。
「その方を守る壁は無くなったぞ」
 さつきとすずかによってイレインは倒されていた。
「お前達は、何者なんだよ。イレインを簡単に倒すなんって……」
「氷村遊……貴方を拘束します」
 氷村を拘束するというさくら。
「俺の身柄を拘束するだぁ!? ふざけるな!!」
「貴方は一族の禁を破り一般人を攫って何をしようとしていたか話して貰うわ」
「誰が話すかよ」
 逃走しようと考える氷村。
「誰が逃げていいと言った! 貴様は、この場で処刑する」
 氷村を処刑するという覚醒すずか。
「すずか、氷村は一族の法で裁くから……」
「この下種は、我の友を傷つけた。生かしておく価値はない」
 すずかは、氷村を殺すことしか頭に無いようだ。
「貴様は、楽には死なせん。地獄以上の苦しみを味あわせてくれる」


「すまんが、もう人働きしてきてくれ」
 さつきが使い魔に命じた。
 使い魔は、地面に潜ってクロノ達の救助に向かった。

「この子達も手術が必要です。特に女性の方は……」
 アルフも手術が必要なほどのダメージを受けているようだ。
「困ったわね。全員を助けることは難しいわ。一人の手術だけでもかなりの時間が必要だし、手術室も3つしかないわ」
「誰かを犠牲にしないといけません」
「誰が助かる可能性が高い?」
「魔の気配が感じられる金髪の少女以外は……」
「なのはちゃん達の様態は?」
「心拍数、脈共に低下中! 持って後1時間かと」
「なのはちゃん。がんばって生きて」



「先ずは、その汚らわしい手足を使えなくしてやろう……」
 覚醒すずかが氷村の前に進む。
 そして、腕をを掴むと一気に握る潰した。
 骨が潰れる音がするのと同時に氷村の腹に覚醒すすかの膝蹴りがめり込んだ。
 それは、めり込むレベルでは済まない威力だった。
 氷村の腹を潰しさらには背骨までもへし折っていた。
「ガハッ!」
 氷村の口から大量の血が吐き出される。
 覚醒すずかの膝蹴りは氷村の内臓を一撃で幾つも破壊していた。
 片手で腹を抱え地面で苦しむ氷村。
「今の一撃は、フェイトの分。そして次が……」
 ベキッ!
 足の骨が折れる音が続く。
「アリシアの分……」
 容赦の無い攻撃が氷村に加えられる。
「此れがなのはとアリサの苦しみの分だ」
 覚醒すずかの手にはあの凶悪ハンマーが握られていた。
 その凶悪ハンマーを氷村の腹へ何度も打ち込んだ。
「苦しいか? 何とか言ってみろ」
 再び振り下ろされる凶悪ハンマー。
 振り下ろされた凶悪ハンマーは、氷村の腹に叩き込まれた。
 そして、振り下ろされた箇所を中心にクレーターが出来た。
「我やなのはたちの苦しみが理解できたか?」
 だが返事は帰ってこない。
「気が済んだか?」
「この程度では済まぬ! もっと苦痛を与えてやる」
「ここで止める気は無いのか?」
「我の邪魔をするのなら……」
「どうすると言うのだ?」
「ぶっ殺す」
「止むえんな……」
「死ね!」 
「暫く眠れ!!」
 そう言ってさつきは覚醒すずかの腹を殴った。
 その威力はさつののパンチが肩まで覚醒すずかの腹に深々とめり込んで背中に拳の形が現れていた。
「ごふっ!!」
 覚醒すずかは血を吐いて暴走が止まった。
「世話をかかせおって……」
 すずかの腹に風穴が空かなかったのは、さつきだから成せた技だ。
 力が強すぎれば、すずかの腹に風穴が空き、弱ければ意識を失わせることは出来ない。
 すずかは、さつきの腕の中で眠っている。

「氷村遊の身柄を拘束して! それから現場の処理を」
 次々指示を出すさくら。




 クロノ達は……。
「うわぁっ」
 吹き飛ばされていた。
「弱い。弱すぎる」
 クロノ達は、空を逃げ回っていた。
「弱すぎて相手にならんわ」

「強すぎる……逃げようにも隙が無い」
 背を向けて逃げようものなら背後から串刺しにされかねないのだ。
「投げられた缶が当たっただけで骨折とは……」
「ク、クロノ執務官……」
「キミは、大丈夫なのか?」
「大丈夫では、ありません。ジュースの缶が直撃したお腹が凄く痛いです」
 ヒバリの口の端には血が垂れている。
「執務官こそ骨折しているではないですか」
「戦闘中にする話じゃ……ヒバリ!」
「なんですか? 執務……」
 再びジュースの缶がヒバリの腹に直撃した。
「がはっ」
 ヒバリは盛大に血を吐いた。
 ジュースの缶の形が背中に現れていた。
「ヒバリ!」
 腹にジュースの缶の直撃を受け意識を失ったヒバリは飛行魔法が解け地面へ落下していく。

「まず、1匹!」
 落下してくるヒバリを待つリップシュタット。
 爪を伸ばし串刺しにしようとする。
 其処へさつきの使い魔の混沌が再び現れた。
 その使い魔が、ヒバリを呑み込んだ。
「我の邪魔をするか! ネロ・カオス!」
 リップシュタットはさつきの使い魔をネロ・カオスの混沌と勘違いしている。


「なっなんだ!」
 クロノとリニスも混沌に喰われた。


「クロノ達と連絡は?」
「取れません! 交戦中なのか、または殺されたか……」
「引き続き呼びかけて」
「はいっ!!」



「メス!」
 なのは達の緊急手術が行われている。
 メスでどす黒く変色した腹部が切り開かれる。
「こ、此れは……」
 開腹して言葉を失う医師。
 開かれた腹部の中は内臓がグチャグチャだった。
「破壊された内臓を摘出開始」
 破裂した内臓が摘出されていく。
 同じ手術が同時に行われている。
 特になのはとアリサは酷い状態だった。
 殆どの内臓が原型を留めないくらい破壊されていた。
「バイタル低下!」
 一足早く手術が開始されていたなのはのバイタルが低下する。
 この手術室は、王族の庭園ロイヤルガーデンの中にある。
 施術が可能な臓器は破損部を除去される。
「駄目です。もう持ちません」 
「その方等に任せて居れぬ! 下がれ!」
「君! 医者でもないのに手を出すな」
「最早、貴様等の手に負える状態ではない。妾が直す」
 なのはの前へ進むさつき。
「患者に何をする!」
「失った臓器を再生させるまで」
 そう言って影から混沌を出し破損した臓器へと作り変えていく。
 作られた臓器は正常に機能を開始していく。
「よそ見している暇は無いぞ! この者を縫合せぬか!!」
 さつきに一喝されてなのはの腹を縫合していく。
「はっはいっ」
 一喝された医者がなのはを縫合していく。
 なのはの縫合を医者に任せアリサの方へ向かう。
「もう、この子の体力がありません」
「手の尽くしようがない……」
「そこを退け!!」
 アリサの手術している医師をどかせるさつき。
「もう、助けようがありません! 出血を止めるので精一杯なんです」
「言われた通りにして」
「ですが……」
「我々の力でもどうしようも無いのだから彼女に任せなさい」
「医師でもないのに……」
「いいから、彼女に全て任せなさい」
「はい……」
「施術の邪魔だ! 下がっておれ!」
 再び混沌で臓器を修復していく。
 修復に使われた混沌は、アリサの破損した臓器の変わりに働き始める。
「この者の施術は終わりだ!」
 さつきは医者にバトンを渡してフェイトの手術室へと移動する。


「う〜ん……」
「目が覚めたすずか?」
「ここは……」
「病院よ!」
「何で、私ここに」
「覚えていないの?」
「記憶が……」
「すずか、貴女は暴走していたの。暴走をして氷村を殺そうとしてたのよ」
「私が?」
「暴走した貴女は、さつきさんにお腹を殴られてやっと止まったのよ」
「さつきさんにお腹を……」
「凄かったわよ。すずかのお腹に肩まで腕がめり込んでいたから」
 すずかは、自分のお腹に手を触れる。
「お腹を殴られた貴女は血を吐いて意識を失ったわ」
「私、どの位意識を失っていたの?」
「6時間ほどよ」
「お腹を殴られただけで6時間も?」
「そうよ」
「それで、なのはちゃん達は?」
 なのは達の心配をするすずか。
「なのはちゃん達は、今、緊急手術を受けているわ。内臓破裂が酷くて助かるかどうか……」
「なのはちゃん達、危ない状態なの?」
「凄く危険な状態よ。手術に耐えられるか……」
「なのはちゃん……」
 友達の心配をするすずか。
「なのはちゃん達なら心配しなくてもいいわよ。さつきさんが助けるって」
「それで、なのはちゃん達は?」
「なのはちゃんとアリサちゃんの手術は終わったって……」
「フェイトちゃんとアリシアちゃんは?」
「アリシアちゃんの手術は一番早く終わったわ。吸血鬼の血を受けているだけあって、手術中に自己治癒で治っていったって」
「フェイトちゃんの手術は?」
「まだ終わって居ないわ」
 フェイトの手術はまだ終わっていないようだ。
「後、どの位かかるの?」
「わからないわ。危険な状態だということは変わらないわ」
「様子を見に行ってこようかな?」
「今は、すずかも休みなさい! まだ、さつきさんに殴られたお腹が痛いのでしょう?」
「う、うん」
「皆の手術が終わって皆が目を覚ましたら教えてあげるから……」
 そう言われてすずかは眠りについた。



「施術完了!」
 手術が終わったようだ。
「暫くは様子を見ていてくれ!」
 ストレッチャーで個室に運ばれていく。
 そしてさつきは椅子に持たれかかっていた。
「ふぅっ。疲れた!」
 さつきは、疲れきっていた。
「ここから出たら使い魔の補充をしないと」
 さつきは、なのは達の治療に使い魔の大半を使っていた。
 中には貴重な幻想種も含まれていた。
「なのはちゃん達を助ける為には仕方なかったから」
「お疲れ様! 疲れたでしょう」
「はい。疲れました」
「貴女も少し休みなさい。目を覚ましたら教えてあげるわ」
「そうします」
 そう言ってさつきは、個室へと下って行った。



 その頃、リップシュタットは……。
「閣下、申し訳ありません。折角の獲物を逃してしまいました」
「混沌が居るのでは迂闊に行動できぬな!」
「今後、如何なさいます?」
「そんなもの決まっておるだろう。混沌の目を盗みつつ勢力を拡大させる」
「今宵は、もう……」
「もうじき夜も明ける。また夜までは眠るとしよう」
「死者達は既に城に回収しております」
「この借りは必ず返してやる。首を洗って待っておれネロ・カオス!」
 リップシュタットは、まだネロ・カオスと勘違いしている。
「リップシュタットよ啓も休め! 此れは余からの命令だ」
「御意!」
 夜が明ける。
 海鳴の地を恐怖に陥れる吸血鬼事件の幕は上がったばかりである。
 


 次回予告

 なのは「さつきさんのお陰で一命をとり止めた私達」

 フェイト「ベットから起きようとして襲ってくる激痛」

 アリサ「何でお腹が縫ってあるのよ!」

 すずか「よかった。皆、助かったんだね」

 ???「カットカットカット!」

 ???「カットカットカットカットカットカットォ!!」

 アリシア「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第28話『偽りの夜なの!?』」


どうにか一命は取り留めたみたいだな。
美姫 「とはいえ、内臓が使い魔のものよね」
どんな影響があるのか。もしくは全くないのか。
美姫 「どっちかしらね。次回には説明があるかしら」
それじゃあ、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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