第43話「運命」






 
 逃げ惑う局員達。
「早く。はやくぅ!! もう駄目だ……退避!!」

 ブリッジが爆発する。

「こちら、二番艦エステア……『闇の書』の暴走止まりません! 駆動炉もブリッジも奪われました」
 再びブリッジが爆発する。


『操舵システムとアルカンシェルのコントロールを……』
「エステア、アルカンシェルのチャージ反応」
 アルカンシェルのチャージが開始されてしまったようだ。
「発射軌道上に本艦隊!」
「クライド提督、脱出を急げ!!」
 グレアムが命じる。
「エステアは、破棄する」
『先ほど全クルーの避難を確認しました。こちらのアルカンシェルのチャージは後1分ほどで完了してしまいます』
「通信が……」
「エステア艦チャージ終了まで残り68秒! こちらはチャージ完了しています」
「何時でも撃てます」
 グレアムは悩む。
「父様!!」
「アルカンシェル、バレル展開!! カウント0の前にエステアを落とす」
 苦渋の決断を下すグレアム。

 アルカンシェルのバレルが展開される。
 エステアに向けアルカンシェルが発射される。
 アルkンシェルの直撃を受け沈むエステア。


 私のミスだった……。
 『闇の書』の暴走が艦船のコントロールを乗っ取るほどのものだとは予想できなかった。


 ハラオウン一家の写真を見るグレアム。



「アリサちゃん、私行くよ!」
「すずか、一人で行く気?」
「アリサちゃんも行く?」
「当然でしょ!!」
「じゃあ行こう」
 戦場へと向かうすずかとアリサ。



「対象空域の通信妨害、消滅!」
「映像来ます!!」
 映像が映し出される。
「……………………。クロノは?」
「既に研修生と現地に飛んでいます」



「よし、結界は張れた。デュランダルの準備は?」
「出来ている」




「デアボリック・エミッション」
 上空へ放つ銀髪の女。

「……………………」
「空間攻撃」


「闇よ、染まれ!!」
 闇が広がる。

≪Round shield.≫
 なのはがラウンドシールドを張る。


 離れたところで観戦する仮面の男。
「持つかな? あの三人」
「暴走開始の瞬間まで持って欲しいな」

「にゃぁ!」
「ん?」
 あたりを見る仮面の男。
「にゃぁ!!」
「何だ、猫か……」
「そんな所で、何をしているんですか? リーゼさん」
「……………………」
 誤魔化そうとする仮面の男。
「言って居ませんでしたか? 私、吸血鬼だから鼻が利くんですよ。変身していても私は騙せませんよ」
 すずかとの話は、仮面の男に隙を与えた。
 バインドが仮面の男を縛る。
「ストラグルバインド……相手を拘束しつつ強化魔法を無効化するる。あまり使いどころのない魔法だけど、こう言うときには役立つ」
「「うわぁっ」」
「変身魔法を強制的に解除するからね」
「変身を解かなくても、その二人はリーゼさんですよ」
「って、月村すずか! 何でここに」
 クロノは、すずかが居ることに驚いた。

 仮面の男の変身が解かれる。

「やっぱり……」
 すずかは、やっぱりという顔をする。
 仮面の男の正体は、ロッテとアリアだった。
「クロノ……このぉ」
「こんな魔法、教えてなかったんだがな」
「一人でも精進しろっと教えたのはキミ達だろう……? アリア、ロッテ……」
「やっと追いついた!」
 アリサが遅れて到着した。
「すずか、早すぎ! 追うの大変だったじゃない!!」
「ゴメン、アリサちゃん。はやてちゃんを落とした人にお仕置きしないといけないから……」
「ふ〜んいいわ。私も、私怨を晴らさないといけない奴が居るから」
 そう言って、クロノを睨むアリサ。
「僕が何をしたと言うんだ!?」
「自分の胸に聞いてみなさい!!」
「全く身に覚えがないんだが……」
「覚えが無いですってぇ!! 寝込んでいる私の胸を好き放題揉んだの忘れたとは言わせないわよ」
 アリサは、クロノに胸を揉まれたらしい。
「だから、全く身に覚えが無いんだって」
「こっちには、ちゃんと証拠が在るんだからね。本当は、見せるの恥ずかしいんだから……」
 アリサは、自分がクロノに胸を揉まれる恥ずかしい映像を見せた。
 映像には、確かにクロノがアリサの胸を揉む様子が記録されていた。
「執務官!?」
「ヒバリ、キミまでそんな眼で見るのか?」
 怒りの炎を身に纏ったアリサがクロノに近づく。
「純真な乙女の胸をタダで触って揉んだ報いを受けなさい!!」
 燃える剣でクロノを焼き殴る。

 アリサ、クロノ処刑中……。


「今は、それで勘弁してあげるわ」
「ゲホッ」
 口から煙を吐く。
「この変なのが解決したら、覚悟していなさい!!」
「クロノ執務官……ご愁傷様……」



 隠れたか……。



「なのは、ごめん。ありがとう。大丈夫?」
「うん。大丈夫……」
「あの子、広域攻撃型だね。避けるのは難しいかな? バルディッシュ」
≪Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form.≫
「ヴァルディッシュ! 私も……」
≪Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form.≫
 フェイトとアリシアは、バリアジャケットを強化する。
「はい」
 なのはにレイジングハートを渡すフェイト。
「はやてちゃん……」

「なのはっ!!」
「フェイトォ!」
「アリシア!」
 ユーノ、アルフ、リニスが合流する。
「ユーノくん、アルフさん、リニスさん!!」



「主よ、貴女の望みを叶えます」
 ベルカ式魔方陣が現れる。
「愛おしき守護者たちよ……傷つけた者たちを、破壊します」
 『闇の書』が光る。
≪Gefangnis der Magie.≫
 封鎖領域が展開される。


「前と同じ閉じ込める結界だ」
「やっぱり私たちを狙っているんだ」
「今、クロノが解決法を探している。援護も向かって居るんだが、まだ時間が……」
「それまで、私たちでなんとかするしかないか……」
「「うん」」
 なのはの方を見るアルフとリニス。
「なのは!?」
「うん。大丈夫」



「スレイプニール……羽ばたいて」
≪Sleipnir.≫
 背中の黒い羽根が大きくなってそれに舞い上がる。



 黒焦げに焦げたクロノとヒバリ、すずか、アリサはグレアムに面会していた。
「リーゼ達の行動は、貴方の指示ですね? グレアム提督」
「違う! クロノ!!」
「私たちの独断だ! 父さまには関係ない!!」
「ロッテ、アリア、良いのだよ。クロノは、あらかたのことを掴んでいる。違うかい?」
「……11年前の『闇の書』事件以降、提督は独自に『闇の書』の転生先を探していましたね? そして、発見した。『闇の書』の在処と現在の主、八神はやてを……しかし、完成前の『闇の書』の主を抑えてもあまり意味がない。主を捕えようと、『闇の書』を破壊しようと、すぐに転生してしまうから……」
「……………………」
「だから、監視をしながら『闇の書』の完成をまった。見つけたんですね? 『闇の書』の永久封印の方法を……」
「……両親に死なれ、体を悪くしていたあの子を見て心は痛んだが、運命だと思った。孤独な子であれば、それだけ悲しむ人が少なくなる」
「あの子の父の友人を語って、生活の援助をしていたのも提督ですね?」
「永遠の眠りにつく前くらい、せめて幸せにしてやりたかった……」
 俯くグレアム。
「偽善だ!」
「封印の方法は、『闇の書』を主ごと凍結させて次元の狭間か氷結世界に閉じ込める……。そんなところですね?」
「そう。それならば、『闇の書』の転生機能は働かない
「これまでの『闇の書』の主だってアルアンシェルで蒸発させたりしているんだ! それとかわんない」
「クロノ! 今からでも遅くない。私たちを解放して! 凍結が掛けられるのは暴走が始まる数分だけなんだ!」
「その時点では、『闇の書』の主は永久凍結されるような犯罪者じゃない……。違法だ!」
「そのせいで……。そんな決まりのせいで悲劇は繰り返されているんだ! クライドくんだって……あんたの父さんだって、それで……」
「ロッテ!」
「法以外にも提督のプランには問題があります」
 問題点を言うクロノ。
「まず凍結の解除は、そう難しくはないはずです。どこに隠そうと、どんなに守ろうと、何時かは誰かが手に入れて使おうとする。怒りや悲しみ、欲望や切望、そんな願いが導いてしまう……。封じられた力へと……」

「現場が心配なのですみません。いったん失礼します。アリサ、君はここに居ると良い。カートリッジを使い切った君は居ても役に立たない」
 墓穴を掘るクロノ。
「誰のせいでカートリッジを使い切ったと思ってんのよ! アンタのポケットで私に弁償しなさい!!」
 クロノに怒鳴るアリサ。
「それとも、そんなお金が無いとでも?」
「わかった。なのは達の補充分も入手してくるから待っていてくれ!」
 カートリッジを調達に行くクロノ。
「すずかだっけ? 何で私らだって解ったんだい」
 すずかに聞くロッテ。
「初めてあった時言いませんでしたか? 私が吸血鬼だって……」
「そういえば、そんなこと言っていたような」
「私、吸血鬼だから鼻も効くんですよ。それに気配もわかりますから」
 リーゼたちは後悔した。
 すずかと直接会っていたことを……。
「折角変身したのに匂いと気配でばれたんじゃお手上げだ!」
「匂いで解るんじゃ、変身魔法の改良が必要だ」
 変身魔法の欠点が明らかになった。
 匂いと気配を変えることは出来ないのだ。
「すずかちゃんと直接会ったの失敗だったか」
「エロスケにバレたのは別として……」

「カートリッジ、入手してきたぞ」
 大量のカートリッジを袋に入れ戻ってくるクロノ。
 
「そんな大量のカートリッジを如何するのだクロノ?」
「後さき考えずに大量に使っているかもしれませんので……」
 クロノは、なのは達が無計画にカートリッジを使っていることを危惧する。
「クロノ!」
 クロノを呼び止めるグレアム。
「はい」
「ありがとう。デュランダルを彼に……」
「父さま」
「そんなぁ」
「私たちにもうチャンスはないよ。持っていたって役に立たん」
 クロノにデュランダルを渡すアリア。
「どう使うかは、君に任せる」
 デュランダルを見るクロノ。
「氷結の杖……デュランダルだ!!」



 フィトとアリシアが銀髪の女と切り結ぶ。
 それをユーノ、アルフ、リニスがサポートする。


 ユーノの鎖が銀髪の女の足に絡みつく。
 アルフは、右手を縛る。
「砕け!!」
≪Breakup.≫
 ユーノのバインドが難なく砕かれる。


≪Plasma smasher.≫
≪Plasma smasher.≫
「「ファイヤ!!」」
 フェイトとアリシアが同時に攻撃する。

≪Divine buster, extension.≫
「シュートッ!!」
 
 三つの砲撃が銀髪の女に迫る。
「盾を……」
≪Panzerschild.≫
 両腕を伸ばし砲撃を受け止める。
「剣を撃て、血に染めよ」
≪Blutiger Dolch.≫
「穿て、ブラディー・ダガー」

 なのは、フェイト、アリシアに命中する。

「とが人達よ、滅びの光よ」
 銀髪の女がかざした手になのはの魔方陣が現れる。


「まさか……」
「アレは……」


「星よ集え、全てを撃ちぬく光となれ……」


「スターライト・ブライカー……」

 それは、まさしくなのはのスターライト・ブレイカーであった。

「アルフ、ユーノ!」>
「あいよ」
「リニスも……」
 総員が退去する。
 スターライト・ブレイカーから逃げるように。


 見る見るうちに光の球は大きくなる。
「貫け閃光……」



「なのはの魔法を使うなんて……」
「なのはは一度蒐集されてる。その時にコピーされたんだ」

「フェイトちゃん、こんなに離れなくても……」
「至近で食らえば、防御の上からでも落とされる。回避距離を取らなければ……」
 なのはは、コピーされたスターライトを見る。
 全速力で距離を取る。



「この辺までくれば……」



「スターライト・ブレイカー……」
 なのはたちの方へ発射する。
 スターライト・ブレイカーはすべてを飲み込みながら迫ってくる。
 フェイトとアリシアは、シールドを張る。
≪Wide area protection.≫
 なのはもシールドを張る。
「なのはちゃん、下がってて」
「すずかちゃん」
「すずか!?」
「なのはちゃんの魔法、使わせてもらうよ」
 すずかは、美姫ブリュンヒルトを構える。
≪Starlight Breaker.≫
 ノーチャージで撃つすずか。
「チャージタイム0で!?」
 驚くフェイト。
 チャージタイム0で、迫りくるスターライトと同程度のエネルギーを発射した。
 スターライトをスターライトで相殺したのだ。



「(なのは!? なのは、大丈夫?)」
「(フェイト!?)」
「(アリシア!?)」
 念話で状況を確認する。


「(すずかちゃんが、0タイムでスターライトを撃って……)」
『(0タイムだって!? チャージ時間が無かったのに?)』
「(でも、実際にすずかちゃんは、私のスターライトを……)」


 スターライト同士がぶつかって爆発する。


「相殺されたか……」
 呟く銀髪の女。


「エイミィさん! 現状は?」
 現状を聞くユーノ。
『(すずかちゃん、スターライトで『闇の書』のスターライトを相殺!)』
「(相殺!? あのスターライトを?)」
『(ユーノくん、なのはちゃんたちと合流して)』
「(了解!)」




『なのはちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、すずかちゃん! クロノ君から連絡、『闇の書』の主に……はやてちゃんに投降と停止を呼びかけてって』
「(はい)」
 なのはは説得を始める。
「(はやてちゃん。それに『闇の書』さん! 止まってください!! ヴィータちゃん達を傷つけたの、私たちじゃないんです)」
「(シグナムたちと私たちは……)」


「我が主は……この世界は……自分の愛する者を奪った世界は、悪い夢であって欲しいと願った。我は唯、それを叶えるのみ。主には、穏やかな夢の中で永遠の眠りに……」


「……………………」


「そして、愛する騎士を奪った者には……永遠の闇」


「『闇の書』さん!」
「なのはちゃん、なんで本当の名前を呼んであげないの? 『夜天の書』って」

「お前も私をその名前で呼ぶのだな……」

 地面から、変な化け物が出てくる。
 変な化け物に、なのは、フェイト、アリシアが縛られる。
 何故か、すずかだけ無事である。

「それでも良い……」
 縛られ、締め上げられ苦しむ。
「私は、主の願いを叶えるだけだ」
「願いを叶えるだけ? そんな願いを叶えたら、それではやてちゃんは本当に喜ぶの? 心を閉ざして何も考えずに主の願いを叶えるだけの道具で居て、貴女はそれでいいの?」
「我は、魔道書……唯の道具だ」
「だけど、言葉を使えるでしょう? 心があるでしょう。そうでないと、おかしいよ。本当に心がないのなら、泣いたりしないよ」
 銀髪の女が涙を流す。
「この涙は、主の涙。私は、道具だ! 悲しみなどない」

「バリアジャケット、パージ!!」
≪Sonic form.≫
 フェイトがバリアジャケットを爆発させつるみたいなのを吹き飛ばす。
「悲しみなどない。そんな言葉を、そんな悲しい顔で言ったって、誰が信じるもんか」
「貴女にも心があるんだよ。悲しいって言っていいんだよ。貴女のマスターは……はやてちゃんは、優しい娘だよ」
「だからはやてを開放して! 武装を解いて。お願い!!」
「はやてちゃんを返してくれないと、お仕置きしないといけなくなるよ」
 お仕置きするというすずか。


 地面から炎の柱が上る。
「早いな……もう、崩壊が始まったか。私も直、意識を無くす。そうなれば、直ぐに暴走が始まる。意識のある内に主の望みを叶えたい」
≪Blutiger Dolch.≫
 なのは、フェイト、アリシア、すずかの周りに赤いクナイのようなものが現れる。
 4人は、一瞬で中へと回避する。

「この駄々っ子!!」
≪Sonic drive.≫
「言うことを」
≪Ignition.≫
「飛び込むな馬鹿者!!」
 突進するフェイトの首を掴んで後方へ投げ飛ばすさつき。
 その手には、『創世の書』がある。
 フェイトを後方へ投げ飛ばした勢いのまま、さつきは突っ込む。
「お前も、我が内で眠るがいい」
「妾は眠らぬ。汝の主を助けてやる」
 さつきは、言う。
「さつきさん!!」
 叫ぶなのは。

≪Absorption.≫
 さつきは、待ってたとばかりに『闇の書』に吸収された。
「全ては、安らかな眠りの内に……」


 次回予告

 なのは「『闇の書』に閉じ込められてしまったさつきさん」
 なのは「『闇の書』の中で眠り続けるはやてちゃん」
 フェイト「聖なる夜に降りしきる悲しみと」
 なのは「そして小さな贈り物」
 フェイト「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第44話『聖夜の贈り物』」
 なのは「願いはきっと届くから」


目覚めた闇の書との戦いか。
美姫 「すずかが居る分、苦戦とまではいかずにすみそうよね」
で、自ら闇の書の中へと飛び込んださつきと。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
それではこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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