第44話「聖夜の贈り物」






 
「……………………」
 銀髪の女を見上げるなのは、フェイト、アリシア、すずか。


『エイミィさん!』
「状況確認。さつきさんのバイタル、健在!!」

 ユーノ、アルフ、リニスは、戦闘空間を見つめている。
『『闇の書』の内部空間に閉じ込められただけ。助ける方法、現在検討中』




「我が主とあの者も覚めることのない眠りの内に、終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢を……それは永遠だ!」
「永遠なんてないよ。皆変わっていく。変わっていかなきゃいけないんだ! 私も、貴女も……」



「なんとか、入り込めたけど、はやてちゃんはどこかな? 急がないと時間もないし……」
 『闇の書』の中で行動を始めるさつき。
「早く見つけて目覚めさせねばならぬ。『創世の書』と『夜天の書』が同時に揃う機会はもうないかも知れぬからな……」
 さつきは、はやての気配を探る。
「待っていろ! 今、妾が目覚めさせてやる」





「眠い……」
 目を開けるはやて。
 微睡むはやて。
「そのまま、お休みを……我が主。貴女の望みは、私が叶えます。すべて私が叶えます」
 優しくいう銀髪の女。
「目を閉じて、心静かに夢を見てください」


 なのは達は、戦っている。
 銀髪の女は、なのはのシールドを殴り壊す。
「あっ……」
≪Schwarze Wirkung.≫
 再びなのはを殴って海に叩き落とす。
 海中を見つめる。
「……………………」
 直後、なのはが海中から浮上する。
 フェイト、アリシア、すずかも対峙する。
 なのはは、肩で息をする。


「(リンディさん、エイミィさん)」
 なのはは、念話を送る。


『戦闘位置を海の方へ移しました。市街地の火災、お願いします』
「大丈夫。今災害担当の局員が向かって居るわ」
 災害担当の局員が出動したようだ。


「(それから、『闇の書』さんはダダッ子ですが、なんとか話は通じそうです。もう少しやらせてください!!)」
 なのはは、念話を終えると目の前の敵に集中する。
「行くよ!! レイジングハート!!」
≪ Yes, my master.≫
 なのはにこたえるレイジングハート。


「局員到着! 火災の鎮火、開始します」
「無理しないでなんて、言える雰囲気じゃなかったわね」




 なのはは、新しいカートリッジマガジンを装填する。
≪Reload.≫
「マガジン、残り3本。カートリッジ18発!! スターライト・ブレイカー、撃てるチャンスあるかな?」
≪I have a method.≫
「……!?」
≪ Call me "Excellion mode."≫
「ダメだよ。アレは、本体の補強するまで使っちゃダメだって……。私がコントロールに失敗したらレイジングハート、壊れちゃうんだよ?」
≪Call me. Call me, my master.≫
「……………………」



「私は、何を望んでたんやっけ?」
 はやては、微睡みの中に居る。
「夢を見ること。悲しい現実は、全て夢となる。安らかな眠りを……」
「そう……なんか?」




 海鳴の町から、何本もの火の柱が上っている。



「私の……本当の望みは……本当の望みは……」


「お前たちも、もう眠れ!」
「何時かは、眠るよ。だけど、それは今じゃない。今は、はやてちゃんとさつきさんを助ける……。それから、貴女も……」
 薬莢が吐き出される。
「レイジングハート、エクセリオンモード……ドライブ!!」
≪ Ignition.≫
 レイジングハートが、変形する。
「繰り返される悲しみも、悪い夢もきっと終わらせられる」

≪Photon lancer, genocide shift.≫
 フェイトとアリシアの魔法が使われる。
 魔力光、そのままに……。




「私が、欲しかった幸せ!?」
「健康な体、愛する者たちとのずっと続いてゆく暮らし……眠ってください! そうすれば、夢の中で貴女はずっと、そんな世界に居られます」
 首を振るはやて。
「せやけど、それは唯の夢や!」



「うわっ!」
 なのはは、弾き飛ばされる。
「一つ覚えの砲撃……通ると思ってか?」
 なのはは、砲撃バカのようだ。
「通す! レイジングハートが力をくれている。命と心を賭けて答えてくれている」
 空の薬莢が吐き出される。
「泣いている子を救ってあげてって!!」
≪A. C. S., standby.≫
「……………………」
「アクセル・チャージャ起動……ストライクフレイムッ!!」
≪Open.≫
「エクセリオン・バスターA.C.S……ドライブ!!」
 なのはは、突っ込む。

「フェイトちゃん、アリシアちゃん、少し下がってて」
「すずか、何を?」
美姫ブリュンヒルト、トランジッションモード!!」
≪Transition mode.≫
 美姫ブリュンヒルトが最終形態に変形する。
 トランジッションモード……超高出力砲撃に特化したモードだ。

 『闇の書』は、なのはの突撃をシールドを張って受け止める。
 激しい火花が飛び散る。
「届いてっ!!」
 レイジングハートがカートリッジを消費する。
「ブレイク……」


「まさか……」
「シュートッ!!」

「アルテミス・ブレイカー!!」
 すずかが、ブレイカーを発射する。
 なのはとの攻撃のタイミングを合わせたかのように同時に命中する。


 レイジングハートから魔力の残骸が吐き出される。



 ほぼ0距離……バリアを抜いてのエクセリオンバスター直撃。
 之でダメなら……。


≪Master!≫

 『闇の書』は、何事も無かったように立っている。
「もう少し、頑張らないとだね」
≪Yes.≫



「私、こんなん望んでない! 貴女も同じはずや! 違うか?」
「私の心は、騎士たちの感情と深くリンクしています。だから騎士たちと同じように私も貴女を愛おしく思います。だからこそ貴女を殺してしまう自身が許せない」
「……………………」
「自分ではどうしようもない力の暴走……貴女を侵食することも、暴走して貴女を喰らい尽くしてしまうことも止められない」
「……………………」
 見つめるはやて。
「覚醒の時に今までのこと、少しわかったんよ。望むように生きられへん悲しさ、私にも少しわかる。シグナム達と同じや! ずっと悲しい想い、悲しい想いしてきた」
「……………………」
「せやけど、忘れたらあかん」
 はやては、立ち上がろうとする。
「貴女の今のマスターは、私や! マスターの言う事は、ちゃんと聞かなあかん」
 はやての下にベルカ式の魔方陣が現れる。

「名前をあげる。もう『闇の書』とか『呪いの魔導書』とか言わせへん。私が呼ばせへん!」
 涙を流す銀髪の女。
「私は、管理者や! 私には、それが出来る」
「無理です。自動防御プログラムが止まりません。管理局の魔導師が戦っていますが……それでも」
「それでもダメなら妾が力を貸してやろう……」
「誰や?」
 コツコツと足音が近づいてくる。
 闇の中から姿を現すさつき。
「妾か? 妾は弓塚さつき・ブリュンスタッド……」
 『創世の書』を携えたさつきが現れた。
「外では、そなたを助けるべくすずかも戦っておる」
「すずかちゃんが?」
「外からだけでは止められぬ。外と内が力を合わせよ」
 外と内とで止めるよう言うさつき。
「そなたしか、止めることが出来ん! やれるな? すずかの友よ」
「やってみる」
 暴走制御をする決意をするはやて。
「その前に妾の血を少し飲んでおけ!」
「さつきさんの血を?」
「少し魔力の補給をしておけ」
 さつきは、手首を裂いてはやてに血を飲ませる。
 はやてが血を飲む姿は妖艶だ。
「ぷはぁっ!! 美味しかった」
 はやては、血が美味しかったようだ。
「また今度、飲ましてくれるか?」
「飲みたかったら何とかするが良い」
「そうやった」
 暴走制御に取り掛かるはやて。


「止まって!」
 はやてが言う。


 すると外でも異変が起こる。


『(外の方……管理局の方、すずかちゃん!)』
「……………………」
「はやてちゃん!?」
『(そこに居る子の保護者、八神はやてです)』
「はやてちゃん?」
『(なのはちゃん? すずかちゃん? ホンマに?)』
「(なのはだよ! 色々あって皆で『闇の書』さんと戦っているの)」
 『闇の書』の動きがぎこちなくなる。
『(なのはちゃん、すずかちゃん、なんとかその子、止めてくれる?)』
「(……………………)」

「(魔導書本体からのコントロールを切り離したんやけど、その子が走っていると管理者権限が使えへん。今、そっちに出てるんは自動行動の防衛プログラムだけやから……)」


「……………………」
 目をパチくりさせるなのは。




 『闇の書』の完成後に管理者が目覚めている!?
 之なら……。



「なのは、すずか!」
 ユーノが念話を送る。

『(分かりやすく伝えるよ。今から言うことを出来れば、はやてちゃんとさつきさんも外に出られる)』
「うん」


 ユーノ、アルフ、リニスは飛行する。
「どんな方法でもいい。目の前の子を魔力ダメージでぶっ飛ばせ!! 全力全壊、手加減なしで……」


「流石、ユーノ君! わかっりやすい!!」
≪It's so.≫


『(すずか、そなたもだ! トランジッションモードで全弾構築して最大出力のトランジッションブレイカーを撃て!!)』
「(全弾構築するなって言ったのさつきさんじゃぁ……)」
『(良いから撃て!)』
「(でも……)」
『(アレは、お前に枷を付ける為に言ったのだ)』
「(枷って)」
『(お前は、吸血鬼の真祖だ! その力は強大だから……)』
「(私はちゃんと制御できています)」
『(それは、分かっておる。だがあえて言ったのだ)』
「(じゃあ撃って良いんですね)」
『(今は、非常時だ! なのはとは言わんが全力全壊×10で撃ってやれ!!)』
「(分かりました。全力全壊×20で撃ちます)」



「全弾構築って……それに全力全壊×20って……」
 さつきの指示に驚くエイミィ。
「そんなことしたら、美姫ブリュンヒルトが……撃てたとしても被害は?」
 未知の砲撃に対応に苦慮するエイミィ。
「それに、すずかちゃんの体への負担は?」







「星の息吹よ!」
 完全を期すためにすずかが空想具現化を使う。
 空想具現化で出された鎖が防衛プログラムを縛る。


「エクセリオンバスター、バレル展開!! 中距離砲撃モード」
≪All right. Barrel shot.≫

「トランジッションブレイカー、全弾発射構築!!」
 全弾発射構築される。


 なのはが防衛プログラムへ攻撃する。

 直撃して、魔力ダメージが通る。


「夜天の主の名において汝に新たな名を送る。強く支える者、幸運の風、祝福のエール……リインフォース」
 はやてが新たな名を送った。


 ユーノ、アルフ、リニスが防衛プログラムを縛る。
 砲撃魔法が使えないフェイトとアリシアもサポートに回る。
 さらにすずかが、空想具現化で出した鎖で強力に補強する。


「エクセリオンバスター、フォストバースト」
 なのはは、発射体制を整える。
 すずかは、トランジッションブレイカーの発射構築を急ぐ。



「行くよ、すずかちゃん!」
「うん! なのはちゃん」
「ブレイクシュートッ!!」
「トランジッションブレイカーァッ!!」
 なのはとすずかが同時に砲撃する。
 なのはの魔法とすずかの魔法が合体しながら『闇の書』に迫る。
 すずかのトランジッションブレイカーがなのはのエクセリオンバスターを飲み込みながらと言った方がいいだろう。



「(新名称『リインフォース』を認識。管理者権限の使用が可能になります)」


「さて後は、はやてが出てくるのを待つだけだ」
 一足先にさつきが『闇の書』から出てきた。



「(防御プログラムの暴走が止まりません。管理から切り離された膨大なエネルギーが時期暴れ出します)」
「うん。まぁ、何とかしよう。行こうか!? リインフォース」
「(はい。我が主!!)」


『(皆、気を付けて! 『闇の書』の反応、まだ消えていないよ!!)』
 警告を発すエイミィ。



「さて、ここからが本番よ」
 ここからが本番らしい。
「クロノ! ヒバリくん、準備はいい?」
『はい。もう現場につきます。アリサも一緒です』
 リンディはあるキーを手に取る。
「アルカンシェル……使わずに済めば良いけど」


 次回予告

 フェイト「『闇の書』本体から切り離された自動防御プログラムが暴走する」
 なのは「立ち向かうのは、私達管理局チームとそして、そして?」
 フェイト「『闇の書』事件のこれが最終血戦」
 なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第45話『夜の終わり、旅の終わり』」
 はやて「長い夜は、もう終わるから……」


さつきがはやてと接触したみたいだが。
美姫 「やる事はそう変わらないみたいね」
さて、事件もいよいよ大詰めかな。
美姫 「次回はこの後すぐよ!」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る