第57話「旅行はトラブルの連続なの」
移動中の車内でなのはたちはゲームで盛り上がっていた。
移動する車は月村家のリムジンバスだ。
車列は、宿泊先へ向かう。
「次は、陛下の番です」
トランプで遊んでいるようだ。
「また『陛下』って言っている!!」
「折角の旅行なんだから楽しまなくちゃ」
移動する車列は異様だった。
途中で何台もの黒塗りの車が合流し車列を作っていたからだ。
「黒い車がいっぱい後をつけてきているよ」
なのはの言葉に反応するすずか。
「(シェーンコップ!)」
『(心得た!!)』
リムジンバスの後ろを走っていた車が停車する。
停車した車からシェーンコップとリンッ、ブルームハルト、ヴァーンシャッフェが下車し不審車の進路を塞ぐ。
「雑種共、我らが主に何の用だ!?」
「我々は、陛下にご挨拶をしたいだけだ」
後続の車列は、すずかに挨拶をしたい集団だった。
彼らは、夜の一族だったのだ。
ローゼンリッターは、デバイスは起動させていない。
「証拠はあるのか?」
「証拠!? そう言う貴様たちこそ陛下のなんなんだ!」
「我らは、主に仕え守る者を持つ騎士だ!!」
「鎧も着ていないのに何が騎士だ!!」
「そんなにも見たいのなら見せてやる。跪くがいい雑種!!」
そういって通信回線を開く。
すると不可視のモニターが空間に現れる。
そのモニターにすずかの姿が映し出される。
「陛下……」
モニターの向こうのすずかに跪く人たち。
「へ、陛下……」
知らない人が見れば、ローゼンリッターに頭を下げているようにしか見えない。
実際には、映像のすずかに頭を下げているのである。
後に旅館ですずかに跪く黒服の集団が目撃されることになる。
『貴方達、移動しなさい!! 他の人たちの迷惑になります』
そう言われ車に乗り移動を再開する。
その列は旅行先まで続いた。
数十台の黒塗りの車が車列を作ったのだ。
黒塗りの車の集団を見た人たちは、ヤクザが攻めてきたと勘違いし警察まで出動騒ぎになった。
だが、それはナンバーで違うことが明らかになる。
「すずか、あの人たちは?」
「私の一族の親戚の人たちよ」
「すずかの?」
「あまり親戚付き合いはないんだけど」
「それに、陛下ってなに!?」
「言ってなかったね。私、一族の当主になったの」
「当主って言うと、あの……」
「長って事よ」
バニングス家の跡継ぎだけあって意味を知っているアリサ。
「それだけではない。陛下は、一族のすべてを背負われたの」
「一族全てって、なんの一族!?」
「夜の一族だ!! このことを知ったら選んでもらわないとならん」
「選ぶって、知っているよね」
「うん」
「若しかして、陛下と契約を……」
「『友であり続ける』って」
「契約を済ませているのなら話してもよいな。陛下、いいですか?」
「いいよ。説明してあげて」
「はい。陛下」
すずかに代わって説明するカーテローゼ。
少女説明中……。
「ふ〜ん。大変なんだ」
「手伝ってあげようか?」
「気持ちは嬉しいけど、私がしないといけない仕事だから」
「助けが要る時は何時でも言いなさい! 微力を貸してあげるから」
色々話しているうちに目的地に着いたようだ。
そして此処でも異様な一団が待っていた。
ここでも皆、黒服の男や着飾った女性がいる。
目的は、すずかのようだ。
日本中から挨拶をしようと、どこから情報を得たのか集まってきていた。
あっという間にバスの乗降口の前に列が出来る。
「いったい何なの!? ついて来たかと思ったら、今度は乗降口を塞ぐし」
「ならば妾が消してやろう……」
殺してこようと言うさつき。
「物騒なことを言うんじゃない!!」
「ならば、そなたが道を作ると申すか?」
「殺ってやろうじゃない!!」
「いや。その仕事は私がやる。すずかの補佐であるあたしが出て行ったほうがいい」
そう言って乗降口へ向かうカーテローゼ。
運転手に合図し乗降口を開ける。
「へ、陛下!?」
「道を開けよ!」
「小娘が偉そうなことを言うな!!」
「我々に命令するな!!」
「すずかの片腕である私の言うことも聞けぬのか? 聞けぬと言うのなら陛下のお友達のO・HA・NA・SHタイムにするぞ」
「O・HA・NA・SHが何だ!!」
「俺達が体に教えてやる」
彼らは気づいてさえ居ない。
ドス黒いオーラを放っているさつきの存在に。
「たっぷりと犯してやるから覚悟しろ」
「お前達、死ぬ覚悟は出来たか?」
「はぁ!? 死ぬ覚悟だぁ?」
「お前のほうこそ犯される準備は良いか?」
「陛下の許しも得ている。安心して逝くがよい」
「そんなにもイキたいか!? 今すぐにイカせてやる」
「選民に付き合った私が馬鹿だった……。之より実力で排除する」
実力で排除すると宣言する。
「素直に道を開けなかったことを後悔せよ」
戦闘態勢に入る。
彼らは知らない。
カーテローゼの戦闘力を……。
「カーテローゼ! 止めなさい!!」
「陛下!!」
「陛下!?」
乗降口に姿を見せるすずか。
威勢を放っていた黒服の男達が平伏する。
陛下になったすずかの言葉は破壊力満点だった。
「あなた達、降りられないから道を開けなさい!!」
「はっ、陛下の仰せのままに……」
道が出来、降車できるようになる。
「やっぱりすずかちゃん、凄いね」
「うん。すごいね」
「黒服の人たちが引き下がったし……」
「それより部屋に荷物運んでしまうわよ」
早く部屋で休みたいというアリサ。
別の車に乗っていたイレインがやってきて運んでいく。
バスのトランクから荷物を運んでいく。
二泊の旅行にしては量が多い。
全員分の荷物が積まれているようだ。
フロントでは、高町士郎がチェックインをしていた。
予約してあるとは言え、人数が人数なだけに時間が掛かる。
当然ながら一般客も居る。
チェックインを済ませると荷物を持って確保した部屋へ向かう。
部屋へ荷物を運ぶのも一苦労だ。
皆がそれぞれの荷を持って運ぶ。
なのはたちと比べすずかの量は多かった。
それもその筈である。
一族の仕事を持ち込んでいるのだ。
普通少女では持てないであろうその大荷物を運んでいたから目撃者は目玉が飛び出たらしい。
「なぁ、氷村はん。ここはどこやろう?」
安二郎と氷村は、異世界へ島流しされていた。
「分かりません」
氷村も場所が分からないらしい。
「おのれ、ホームズ!! 首を洗って待っていろ」
「教授!? 人が居ますよ」
「人だと!!」
「そんなの無視してメカを造らんかぁ」
モリアーティ達はメカを造っていた。
そのメカを造る秘密墓地ならぬ秘密基地に侵入者がいた。
異世界に島流しされた月村安二郎と氷村遊だ。
「どこから侵入した!?」
侵入者と見なすモリアーティ。
「さっき、ホームズとか言ってまへんでしたか?」
「貴様! ホームズの回し者かぁ!?」
「あんさん等もホームズに……」
「若しかして、貴様達もか!?」
「ホームズよりもあの小娘だけは、犯してやらねば傷が疼く」
「私達は同士ということだ! あの小娘とホームズに復讐しようではないか」
此処にモリアーティ一味と月村安二郎、氷村遊の共同戦線が結ばれた。
協力関係を結んだ彼らが研究施設を連続で襲う3ヶ月前のことだった。
なのは達は、割り当てられた部屋で寛いでいた。
なのは、フェイト、アリシア、アリサ、すずか、カーテローゼ、アルフ、リニスはトランプで遊んでいた。
皆が遊べるだろうポーカーだ。
ポーカーはアリサ、すずか、カーテローゼが圧倒的に強かった。
なんどやってもなのはは勝てなかった。
「なのは、弱すぎ!!」
「ひどいよぅ。アリサちゃん」
「事実を言ったまでよ」
「じゃあ、アリサちゃんにはO・HA・NA・SHかな?」
アリサにO・HA・NA・SHすると言うなのは。
魔法戦では、圧倒的になのはが有利なのだ。
「なのは、丸焼きにしてやるわ」
「アリサちゃんこそ返り討ちにしてあげるよ」
なのはとアリサの魔法戦が勃発しそうな雰囲気だ。
「なのはもアリサも少し血を抜く必要がある様ね」
「血って……」
ガプッ
アリシアがなのはに噛みついた。
「じゃあ私も……」
カーテローゼは、アリサに噛みついた。
なんとカーテローゼは、吸血鬼だった。
アリシアとカーテローゼは、危険値ギリギリまで血を吸う。
血を吸われた二人はフラフラだ。
之で当面の危機は去った。
血を吸われ戦線離脱したなのは、アリサ以外はゲームを再開した。
全力全壊で楽しむはずが吸血による失血で初日はリタイアとなったのである。
なのはとアリサを除いたメンバーでゲームが続けられた。
当然、罰ゲームを受けることになる。
次の脱落者は誰なのか?
「子供達は、楽しく遊んでいるみたいね」
子供達は仲良く遊んでいるようだ。
「リンディさん。お砂糖ミルク入り緑茶です」
エイミィがリンディのお茶を持ってきた。
「ありがとうエイミィ」
エイミィが淹れたお砂糖ミルク入り緑茶を飲むリンディ。
「あの。リンディさん、それは……」
得体の知れない飲み物のことを聞く士郎。
「あっ。気にしないで」
気にするなといわれても気になる。
喫茶店の経営者だけあってどうしても気になるのだ。
美味しいのならメニューに加えようというのだ。
「あれを飲んだら舌がおかしくなるぞ」
また失言するクロノ。
「じゃあ、クロノくんには之を飲んでもらいましょう」
クロノの前に湯飲みを差し出すエイミィ。
その湯飲みにはリンディの十倍の砂糖が入っているのだ。
飲む前から吐き気を覚えるほどの甘い匂いがする。
激甘ミルク入り緑茶だ。
「どうしたのクロノくん!! 早く飲まないと無理やり飲ませるよ」
クロノに逃げ道はなかった。
自分で飲んでも、無理やり飲まされても末路は同じだったからだ。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
自ら飲んだクロノの顔は青紫に変わり気絶した。
最凶のドリンクで撃沈となったクロノも退場した。
恐るべしお砂糖ミルク入り緑茶。
それも夕食の直前のことだった。
「気絶したクロノくんは、布団に放り込んで……」
クロノの荷物をクロノの上に置いた。
クロノは、悪夢を見ているだろう。
「そろそろ、夕餉だから子供達を呼んで」
子供達を呼ぶよう言う桃子。
呼ばれたなのはたちがやってくる。
「あれ!? クロノくんは?」
「あぁクロノくんは、疲れて寝ちゃったから……」
お砂糖ミルク入り緑茶で気絶したとは言わない。
「そうだ!! なのはちゃん達、クロノ君の分の料理食べる?」
「クロノくんのでしょ。いいの!?」
「いいの、いいの! アルフは肉を食べるでしょ」
「肉♪」
涎が出るアルフ。
「アルフ、涎!」
「あっ」
あわてて涎を拭うアルフ。
「夕餉の前にしておくことがあるからちょっと外すね」
そう言って料理が運ばれてくる部屋から隣の部屋に行くさつき。
「……………………」
目を瞑って何か呟く。
「そなたに悪夢を見せてやろう。妾からのお年玉だ!!」
何もない空間から狸の置物が現れた。
現れた狸の置物はクロノ上に落ちた。
落ちた場所は、腹部だった。
「ぐぇっ!!」
小さくても重量は、30キロはある。
クロノの口周りは激甘ミルク緑茶で汚れた。
「暫く悪夢を味わうがよい」
腹部に落ちた狸の置物で再び気を失うクロノ。
腹部を圧迫する物で悪夢を見ることになる。
それは、時間とともに重くなるものだった。
大きさは変わらずに重量だけが増えるから気づかれにくい。
「一晩悪夢にうなされ続けるがよい」
さつきは、夕餉のため隣の部屋へ戻った。
これで、フェイト達が盛りの付いた獣に犯される心配はなくなった。
「それじゃあ「「「「「「「「「「いただきまぁす」」」」」」」」」」」
夕餉の宴会が始まる。
ただ一人を除いて……。
隣の部屋では、既にクロノが悪夢に魘されていた。
「それ、食わんのか? 食わんのなら我が食うぞ」
「シェーンコップ!?」
凍りついた目でシェーンコップを睨むすずか。
皿に伸ばしかけていた手を止めるシェーンコップ。
すずかが放った気配は、武芸者でも動きを止めるほどだった。
「すずか?」
「何でもないよ」
何でもないことはない。
全員が箸を止めるほどなのだから……。
それほどにまで凄まじいオーラだったのだ。
その後の夕食は楽しい物だった。
悪夢を見続けているクロノともう一人、シェーンコップを除いて……。
「シェーンコップさん、どうぞ」
シェーンコップに酒を進める士郎。
「酒は……」
「シェーンコップ、飲まないの!? それとも飲めないの?」
「我に飲み干せないものはない!!」
「じゃぁ飲んで!!」
シェーンコップにお酒の入ったコップを渡すすずか。
コップを持ったまま固まっているシェーンコップ。
「シェーンコップ将たる者、飲み干せますよね? ‘はい’か‘イエス’でお答えください」
管制者からも飲めと言われたら逃げ道はない。
「如何したのですか? 早く飲んでください♪」
「これぐらい飲み干してくれる」
グイッと煽るシェーンコップ。
「良い飲みっぷり……ささっもう一杯!」
再びシェーンコップのコップに注がれる酒。
それを再び一気に飲み干す。
その後何度もシェーンコップは飲み干す。
だが、だんだん顔が赤くなってくる。
魔法プログラムが酒に酔ったのだ。
「目がグルグル回る」
シェーンコップの目はグルグル回っている。
バターンっと仰向けに倒れた。
アルコールによる最初の脱落者となった。
未成年である子供達はジュースやお茶で乾杯してた。
「そうだ、ドイツ語で乾杯しようよ」
「良いわね」
「ねぇ。ドイツ語って、なんていうの?」
「フェイトちゃんやアリシアちゃんにも教えてあげるね」
「待ってください陛下」
「どうしたの?」
「私が教えたいです」
「じゃあ、お願いね」
「皆、コップを持って」
コップを持つように言うカーテローゼ。
「プロージットって言って」
「プロージットね」
アリサは覚えたようだ。
「「「「「「プロージット!!」」」」」」
なのは達は、ドイツ語で乾杯した。
「子供達は子供達で盛り上がっているし、大人は大人で盛り上がりましょう」
大人チームに何故かファリンも混じっていた。
持ち込んできた赤ワインを飲んでいた。
流石にここで血を飲むわけにもいかないのだ。
そして、クロノは……。
「うぅ〜ん」
悪夢にうなされ続けている。
「そろそろ、一次会はお開きとしますか」
一次会は、終了した。
子供達は寝る時間だ。
之からは、大人たちの時間である。
明日も運転しないといけないからアルコールが残るようなことは出来ない。
二次会は、アルコールではなくお茶ですることになった。
外では、イレインが車両や建物の警備をしていた。
月村安二郎と氷村遊の同調者が襲撃してくる可能性があったからだ。
「こちら司令機003! 各機状況を知れせよ!」
この場は、数十機のイレインによって警備されている。
まるで要人警護並みだ。
実際は要人には違いない。
ただし裏社会の要人だ。
赤外線望遠カメラを搭載されているので吸血鬼並みの視力がある。
チリ一つ見逃さない精度だ。
旅行初日の夜はふけていく。
ただ一人、悪夢にうなされているクロノを除いて……。
体をロープで縛られて身動きが出来ないのだ。
寝込みのアリシアとフェイトを襲った前科があるから当然である。
獣を自由にしてはいけない。
獣を自由にすれば、襲われて犯される危険がある。
獣扱いされるクロノ。
布団の上からもロープで縛られているのだった。
獣クロノに自由はない。
「あのう。僕の出番は?」
完全に存在を忘れられていたユーノだった。
次回予告
なのは「旅行二日目」
フェイト「二日目はどこに行くのかな?」
カーテローゼ「陛下♪」
アリサ「こんな所でラブラブするな!」
さつき「どこかの馬鹿のせいで具現化するタタリ」
すずか「旅行先の満月の夜に開演するタタリの夜……」
???「汝が時を刻むなら、我は時を遡れり―――」
???「汝が時に逆らうならば、我は時を刻むものなり―――」
???「めぐれめぐれゆらぎの数無くなるときまで。我もてまわせ、汝が時計―――」
???「剣と化せ我がコード!!」
アリサ「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』第58話『悪夢の開演!!』」
???「僕の存在を忘れるな!!」
さつき「タタリを具現化させた責任をとるがよい」
追放したはずなのに、逆に仲間を作ってしまっているんだが。
美姫 「氷村たちの所に運が良いのか悪いのか、あの二人が来るなんてね」
この事がどんな影響を及ぼすのか。
美姫 「それじゃあ、この辺で」
ではでは。