第65話「血戦!! 模擬戦も全力全壊」
二つのチームに分かれて行われる公開模擬戦……。
それに巻き込まれる訓練生は……。
「なんで、俺たちまで巻き込まれないとならないんだ!?」
「それに突撃部隊って……。真っ先に撃墜されるじゃん」
彼らはまっさきに撃墜される運命にある。
いくら指揮官が優秀でも前線に出なければならない以上、常に死と隣合せだ。
今回は模擬戦だから死ぬ可能性はない。
いや、無いわけではない。
吸血鬼であるなのは達がその気になれば一瞬で殺されてしまう。
なのは達は、爪で簡単に引き裂くことが出来るのだ。
彼らが吸血鬼と同じ土俵に上がるのが間違いである。
だが、命令である以上は従わざるを得ない。
分隊長は吸血鬼だ。
その上、総大将は吸血鬼の真祖と来る。
彼女たちが全力を出せば広大な土地が地図上から消えてしまうのだ。
「化け物は、化け物が集う訓練校に行けばいいのに……」
小声で呟く。
「そこのお前!! 聞こえているぞ」
「なっ。聞こえないように小声で言ったのに……」
「小声だろうが、聞こえておる。妾たちの聴力を舐めぬことだ!!」
小声で言ったのに聞こえていたようだ。
「エリートだからって生意気な……」
「では、先鋒はそなたにしよう」
愚痴を言った訓練生は先鋒を務める羽目になった。
口は、災の元が現実になったのである。
彼は、不用意な発言で先鋒を任せられてしまった。
それが彼の管理局生活における悪夢の始まりであった。
彼の名は、ミュッケンシュヴァイクと言う。
「何で俺が先鋒なんだ!?」
「そなた、戦いたいのであろう?」
「先鋒はいやだ!!」
「戦いたいから名乗りを上げたのではないのか?」
「だから、俺は先鋒なんてやりたくないんだ!!」
「そなたが戦いたいと思ったから先鋒に選んだのだぞ? 何ならビッテンハルトにやってもらうぞ!?」
「ビッテンハルトに任せるぐらいなら俺がやる」
上手く乗せられるミュッケンシュヴァイク。
完全に掌の上で踊らされている。
ビッテンハルトとミュッケンシュヴァイクは、さつきの配下だ。
その上になのはとフェイトが上級指揮官扱いで配置されていた。
「面倒なことしなくても全力全壊だよ!!」
ここでも全力全壊ななのは。
ことあるごとに全力全壊と言う。
なのはの悪癖である。
暫く、全力全壊による被害が出ることになる。
これは、後に教導隊に入るまで続くのである。
この全力全壊の悪癖が『白い悪魔』と呼ばれるようになる原因とは想像していないなのはである。
フェイトとアリシアは、姉妹と言うことで『双金の死神』、『双金の姉妹』と呼ばれることになる。
この模擬戦は、彼女たちの二つ名を世界中に知らしめることになるのだ。
双方のチームは、開戦時間を待っている。
開始と同時に双方の突撃部隊が偵察を兼ねた突撃を開始するだろう。
今かと待ち構える訓練生たち。
そして開始が合図される。
「突撃部隊、逝くがよい!!」
さつきは、突撃部隊に突撃を命じた。
命じられた訓練生がすずか陣営に突撃を開始し始めた。
対抗チーム総大将、すずかは目を瞑って周囲を調べていた。
「動いたか……」
目を見開くすずか。
その目は、普段の目の色ではなく黄金である。
「すずか、どうするの?」
すずかに指示を求めるアリサ。
「アリシアは、迎撃部隊を率いて敵を迎え撃つがよい」
すずかは、アリシアに迎撃を命じる。
「じゃあ、一寸遊んでくるね」
遊ぶというアリシア。
彼女が戦えば、怪我人が出るのは必死だ。
その為、遊ぶと言ったのである。
吸血鬼とし生き返っている為、力を抑えないと簡単に殺してしまう恐れがある。
「あんまり遊ぶと私が遮那でなぎ払ってやるからね!!」
アリサも血の気が多いようだ。
それを言うとさつきチームのなのはとフェイトもである。
吸血鬼の血が戦いを求めているようだ。
ビッテンハルト、ミュッケンシュヴァイク指揮の突撃隊とアリシア指揮の迎撃部隊の戦闘が始まる。
双方の訓練生はミッド式の汎用デバイスで砲撃を始める。
突撃側が前進しようと撃てば、迎撃側は押し戻そうと撃ち帰す。
攻めては押し返されの一進一退が続く。
訓練生たちの力は変わらない為、押し切るまで行かない。
アリシアも手を出さずに後方からフォトンランサーを放つ程度に留めている。
吸血鬼の血が騒ぐのを押さえ込んでいるようだ。
それも限界が近いらしい。
徐々にフォトンランサーの数を増やしていく。
「アリシアが出てきているようだな……」
吸血鬼の目で遠くの様子を見ている。
吸血鬼の視力だ。
普通の人では見ること出来ない距離の様子を見ることが出来る。
それに気配で状況を知ることも出来るのだ。
「フェイト、アリシアの相手をせよ!!」
さつきは、フェイトに出撃を命じた。
戦闘相手は、姉アリシアだ。
フェイトの出撃は、アリシアも察知した。
フェイトと戦う為に上空へ飛び上がる。
空を飛べない訓練生を他所に空戦をするつもりだ。
彼女たちが防御力を無いに等しい訓練生たちの中で戦えば怪我人ではすまない。
双方部隊、全滅するのである。
それを防ぐ為に空戦をせざるを得ない。
当然、制御を外れた流れ弾が直撃することもあるだろう……。
そして流れ弾が向かった先には……。
「?」
ミュッケンシュヴァイクがいた。
「何かが近づいてくるような……」
それは、急速に迫ってくる。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
フェイトとアリシアの戦闘による流れ弾が直撃した。
それによって、彼は撃墜判定をくらった。
「ミュッケンシュヴァイク!!」
叫ぶビッテンハルト。
「ミュッケンシュヴァイクが墜ちたか……」
「堕ちたね」
なのはも見えたようだ。
「なのは、出たいか?」
「出たいです」
「だが、まだその方の出番ではない」
「えぇっ!! 私も出たいよ」
「その方には、ここぞと言うときに全力全壊のスターライトを撃ってもらう」
さつきは、なのはに全力全壊のスターライトブレイカーを撃たせるつもりだ。
それを聞いたなのはは、早く撃ちたくてウズウズする。
吸血鬼の血が戦いを求めているのか?
観戦席で戦闘を見ている他校の訓練生は……。
「空戦が出来るのに陸士に来るか?」
「本当……」
口々に文句を言う他校生。
「どうせなら士官学校に行けばいいのに……」
「目障りでしょうがないよな」
そんな彼の肩に手が置かれる。
ニコッ!
彼は、連行されていった。
そして……。
「うぎゃぁぁぁ!!」
観戦席まで届く悲鳴をあげた。
「なんだ!?」
悲鳴に周囲を見渡す。
「グリューデスが居ない」
「もしかして今の悲鳴……」
「グリューデスじゃ……」
その頃……。
その当人、グリューデスは……。
人気のいない場所で、O・HA・NA・SHされていた。
グリューデスは、5人に取り囲まれていた。
彼に逃げ道はない。
「雑種!! 我らが王の悪口を言っていたのは貴様か!?」
シェーンコップが効く。
「私たちの主の悪口を言ったのか‘はい’か‘イエス’でお応えください」
「‘いいえ’と‘ノー’はないのか?」
「あると思いますか? 今回の場合、必要ありません」
「正直に言ってもらおうか?」
ブルームハルトは、指を鳴らす。
グリューデスは、ガタガタ震えている。
「仕方ありません。シェーンコップ、少し痛めつけてあげなさい!!」
アンゼロットが攻撃命令を出す。
それを受けローゼンリッターが、攻撃を始める。
彼は、ベルカの事を知らなかった。
古の話でしか存在しないベルカの騎士が目の前にいる。
「雑種!! 運が良かったな。その目でベルカの騎士を見ることが出来たのだからな」
シェーンコップは、サラマンドルのカートリッジをロードした。
それに続いてリンツとヴァーンシャッフェもカートリッジをロードする。
ベルカの騎士達に取り囲まれたグリューデスに逃げ場はない。
空を飛ぶことが出来ない彼は袋の鼠だ。
「では、守護騎士の皆さん。私たちの主を侮辱したことを後悔させてあげなさい」
アンゼロットが処刑命令を出した。
それを受け、ローゼンリッターは攻撃を開始した。
一方的な制裁と言うなの……。
グリューデスがローゼンリッターに制裁を受けている頃……。
模擬戦は一進一退を繰り返していた。
上空では、アリシアとフェイトが空戦を繰り広げている。
お互いが高速での空戦だ。
まったくの同じ魔法なのだから威力も同じである。
ただ違うのは、魔力光だ。
フェイトが金色なのに対してアリシアは、紅みがかった金色である。
空中を高速で戦う二人を双方の訓練生は撃つ事ができない。
下手に撃てば、見方を撃つことになるからだ。
当然、地上で撃ち合いになる。
さつき陣営の方から複数のスフィアが飛んでくる。
飛んできたスフィアは、すずか側の訓練生に次々命中する。
それを機にさつき側の訓練生が一気に押していく。
「すずか、なのはが撃ってくるけどどうするの?」
「アリサちゃん、なのはちゃんと戦う?」
「良いじゃない!! なのはと戦ってやろうじゃん」
アリサは、なのはと戦うため前線に出て行く。
「すずかは、どうするの?」
「私は、露払いをするよ」
そう言って『創世の書』を呼び出す。
呼び出すや頁をめくる。
魔導書の魔法を使うようだ。
魔導書のことを知らない訓練生たち。
すずかは魔導書に触れ右手を戦闘空域にかざす。
「アルテミスシュート」
なのはのアクセルシュートの数百倍の数のスフィアが発生する。
想像を絶する数に見方の訓練生も恐怖を抱く。
今は敵とはいえ同じ仲間に放たれるのだ。
「逝くがよい!!」
すずかは、躊躇うことなくトリガーを引いた。
すずかの命令と共に、数千発のスフィアがさつき陣営の訓練生に降り注ぐ。
なのはから受けた損害を返してもお釣りが来るほどである。
あまりの数に土埃が空間に舞い上がる。
すずかは、土埃が晴れるのを待つ。
すずか達は見えても訓練生達が状況確認を出来ないのだ。
土埃が晴れるのを待って命じる。
「突撃するがよい!!」
すずかは、突撃を命じた。
さつき陣営に一気に攻め込むすずか陣営の訓練生。
敵味方の戦闘不能判定を受けた訓練生を踏みつけながら……。
そんな彼らが見たのは、ピンク色の巨大な魔力の塊だ。
そう。
『白い悪魔』事、高町なのはがスーライトブレイカーの発射準備を終え待ち構えていたのだ。
「全力全壊……」
≪Starlight Breaker.≫
なのはは、全力全壊のスターライトブレイカーを撃った。
観戦席で見ている訓練生は真っ青になる。
すでに魔法ではなく魔砲なのだ。
それは、教官たちにも言えた。
自分達のランクではとても止められるものではない。
訓練校は違えど、同期の訓練生が吹き飛ばされたのだ。
凶悪な魔力を前に絶句状態である。
彼らは、口々に語る。
『白い悪魔』と……。
彼らに悪魔と言わしめるに相応しい砲撃だったのだ。
すずかとなのはの攻撃で双方の突撃部隊は全滅した
僅か一撃で先行部隊が全滅したのだ。
だが、双方共に主力部隊が残っている。
ここで突撃を命じられて動けるだろうか?
否。
動けない者がほとんどだろう……。
「あ、悪魔だ……」
「今の手加減ナシで撃っていたぞ!!」
「聴き間違いじゃなければ、『全力全壊』って……」
「『全力全開』って、この全開だろ!?」
「セリフから判断すると、こっちの全壊の気がするんだが……」
「逃げる準備をしてた方がいいんじゃ」
逃げる用意をしようとする訓練生。
当然、教官の許可が無ければ席を立つことは出来ない。
軍隊とは、そういうものである。
なのはの全力全壊スターライトブレイカーの直撃を受けた訓練生は全滅判定を受けた。
それだけでは無い。
既に撃墜判定を受けている敵見方も巻き込んだのだ。
なのはの砲撃をよそ目にフェイトとアリシアは、空中戦を続けていた。
なのはの砲撃を察知して巻き込まれない高度まで上昇し戦っていたらしい。
「ふっふっふっふっ」
なのはの目はすわっている。
「もっと大きいの逝きます」
アレが全力全壊ではなかったようだ。
もっと大きな砲撃をするらしい。
正に悪魔……。
ここに『白い悪魔』が降臨した。
敵味方に畏怖の念を込めた二つ名が付いた。
なのはは、すずか本陣へ照準をつける。
一気にかたをつけるようだ。
「レイジングハート、カートリッジロード!!」
≪Load
Cartridge.≫
カートリッジをめ一杯ロードする。
カートリッジの魔力も上乗せする。
なのはの眼が紅く光る。
吸血鬼の魔力も上乗せする。
すでにさっきの数倍の魔力をチャージしているなのは。
最早、人間アルカンシェルと言っても差し支えない。
「なのは、撃つがよい!!」
さつきが発射を命じる。
どうせ、すずかには防がれるだろうがな……。
さつきは、防がれると予想する。
「すずか!! なのはが……」
「わかっておる!! 美姫、モードリリース!!」
すずかは、美姫を待機状態にする。
無論、バリアジャケットまで解除はしない。
同時に胸元から封印の鍵を手繰りだす。
「月の力を秘めし鍵よ……」
すずかが呪文を唱えだすとミッドともベルカとも違う魔法陣が現れる。
「真の姿を我が前に示せ、契約の元すずかが命じる。封印解除!!」
ペンダントだった物は、三日月状のオブジェが付いた杖に変わった。
杖は、すずかの身長の2倍ほどの長さだ。
腰のホルダーから1枚のカードを取り出す。
「我らを守る盾となれ盾!!」
すずかが巨大な盾を張り終えるのと同時に……。
ドゴォォォン!!
なのはのスターライトブレイカーが直撃した。
誰もが模擬戦終了と思った。
激しい閃光が収まるのを待つ。
「全員撃墜!?」
「撃墜できておらぬ!!」
「えっ?」
「お前の砲撃が直撃する直前にすずかがシールドを張った!!」
「じゃぁ……」
「誰も撃墜できておらぬ」
なのはは、魔力とカートリッジを無駄に消費したことになった。
残りのカートリッジマガジンは、後1つしか残っていない。
すずかに防がれたり無駄遣いしているような形になっている。
残りのカートリッジから言ってなのはに火力は期待できない。
全力全壊の全力全壊スターライトブレイカーを防がれたのが痛い。
砲撃できなくなったら砲撃魔導師の意味を成さない。
なのはは、カートリッジが少ないがさつきとフェイトにはまだ沢山ある。
それに、さつきは本人自身が有り余る魔力を持っている。
全軍の指揮官という立場でまだ攻撃に参加していない。
さつきは真正ベルカの騎士でもある。
愛機である『ゴールデンバウム』を待機状態のままにしている。
当然、騎士甲冑は纏っているが……。
さつきがゴールデンバウムを抜けば一瞬で戦いは終わる。
同じく真祖であるすずかは倒すことは出来ないだろう……。
彼女達は、個人で数十個部隊の戦力と同等である。
たった一人で世界一つを壊せるほどの戦闘力があるのだ。
訓練生たちが居る間は前哨戦でしかないのだ。
観戦者が見れば現状で最終戦争に見えている。
これは、まだ最終戦争ではない。
「そろそろ妾も動く頃か?」
いよいよ、さつきも動くようだ。
果たしてこの模擬戦はどうなるのだろうか?
次回予告
フェイト「既に最終戦争と化している模擬戦」
フェイト「私たち短期講習組の戦闘と化す」
さつき「妾も戦う時が来たようだな……」
なのは「次回『魔法少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』」
アリサ「第66話『最終戦争!? 勝者はどっち?』」
アリシア「称えなさい!! 紅き月を」
訓練生たちが可哀相に思えてきたよ。
美姫 「まあ、それでも指揮官たちからすれば前哨戦みたいだけれどね」
というか、あの二人が本気でやりあったら辺り一面大惨事にならないか。
美姫 「……さて、どうなるかしら」
あー、無事に終わるのを祈っておこう。
美姫 「それではこの辺で」
ではでは。