第66話「最終戦争!? 勝者はどっち?」






 模擬戦は、双方の先遣部隊の全滅し主力部隊同士の戦いに移ろうとしている。
「全軍、前進するが良い」
 さつきは、全軍の全身を命じる。
 自身も空中に浮き上がり前進を開始する。



 すずかも前進を命じようとしていた。
 双方の残存戦力、全てを動員した総力戦だ。
「すずか、向にはなのはが居るのよ!! ポルカミゼーリア達じゃいい的になるだけよ」
「心配いらぬ!! なのはが之までマガジンを何個使ったと思う?」
「なのはの事だから『全力全壊』とか言って全部使ったんじゃ」
「ほぼ正解。後、1つしか残っておらぬ」
「じゃあ、こっちが攻勢に出る番ね」
「その前に我が軍の通り道でも作ってやろう……」
 すずかは、月の杖を元に戻すと美姫ブリュンヒルトを待機状態からデバイスモードに戻した。
《Diffusion Breaker.》
 すずかは、新しい魔法を構築する。
 美姫ブリュンヒルトの先に魔力の塊が出来る。
 ここまでは、なのはのスターライトブレイカーと何ら変わったところはない。
 違うと言えば、魔力光と大きさだけだ。
 なのはの場合、カートリッジの魔力もプラスしての大きさである。
 それを自前の魔力だけで行なっているすずかは……。
「ディフュージョン・ブレイカー!!」
 すずかは発射トリガを引いた。
 ブレイカーは、敵陣へまっすぐ伸びていく。
 誰もがそのまま突き進むと思った。
 だが……。
 途中で無数の弾丸に拡散した。
 拡散した弾丸は、アリシアと空戦を続けているフェイトにも襲いかかる。
 それも半端な数ではない。
 数億もある弾丸をすべて躱すのは不可能だ。
 途方もない数の為、フェイトも被弾する。
 吸血鬼化して魔力値が増えているのが幸いした。
 撃墜されずに、なんとか踏みとどまった。



 さつき側の訓練生は、すずかのディフュージョンブレイカーで全滅していた。
 圧倒的な数の魔力の弾丸を躱すことも防ぐことも出来なかった。
 観戦中の訓練生は、開いた口が塞がらない。
 『白い悪魔』を上回る魔砲に……。
 最早、砲撃では無い。
 戦艦の主砲の撃ち合いと言ってもいい。
 魔導砲……アルカンシェルを人の身で撃っているのだ。
 開いた口が塞がらないのも当然である。
 彼らは知らない。
 これが、まだまだ序章に過ぎないということを……。
 なのは達、吸血鬼同士の戦いが残っているのだ。
 彼らは此れから目の当たりにする。
 目の前で繰り広げらるる最終戦争を……。
 彼女たちが全力で戦えば観戦席ごと訓練場が消滅するのだ。
 魔法戦もだが肉弾戦もありなのだ。
 彼女たちが一般の訓練生と肉弾戦をすれば胴体がまっ二つにサヨナラである。
 何故なら、なのは達は吸血鬼だ。
 吸血鬼の魔力は巨大だ。
 更に真祖は……。
 正確な数値が測れない魔力を持っている。
 そんな巨大な魔力同士がぶっつかれば次元震も起こりうる。






「(なのは、フェイト!!)」
「(さつきさん!?)」
「(さつき?)」
「(妾達は、訓練生たちを守りながら戦う必要は無くなった!! 逆に向こうは足かせが付いたままだ。戯れてやれ!!)」
 訓練生が生き残っているすずか陣営は、足枷が付いた状態だ。
 それを好いことに訓練生に攻撃を開始するさつき、フェイト、なのはの3人。
 カートリッジをたっぷり持っているフェイトとさつき。
 なのはは、自前の魔力でスフィアを生成し訓練生に撃ち続ける。
 フェイトはフェイトで雷系の魔法を訓練生に放つ。
 そして、さつきはゴールデンバウムで訓練生を峰打ちで倒していく。
 いくらバリアジャケットがあっても真祖の力で振るえば殺してしまうのである。
 さつき、なのは、フェイトによってすずか陣営の訓練生達が薙ぎ倒されていく。
 その様はまさに戦争だ。
 いや。
 戦争とはいえない。
 一方的な暴力だ。



 一方、すずか陣営は……。
 さつき達の攻勢に防戦を強いられていた。
 完全に戦力外の訓練生を切り捨てることも出来ない。
 部下を見捨てるのは恥ずべき行為だからだ。
 必然と守りながら戦わなければならない。
 引かせるにも足並みが揃わなければ、そこを衝かれ全軍壊走につながる。
 引かせるタイミングと自分達が入れ違いに前線に出るタイミングを見定める。
 アリサは、炎の玉を放つ。
「なんで、当たらないのよ!!」
 直球なアリサの魔法は、中々命中しない。
 その数、一つ二つではない。
 傍から見ればアリサが無駄撃ちしているように見える。
 アリサが放った火の玉が消えずに遊弋しているのを気にしているものは居ない。


「なのは、気をつけるがよい!!」
「ふぇ?」
 なのはが間の抜けた声を出す。



「遅い!!」
 アリサが、遊弋していた火の玉をなのはに集中させる。
 なのはを中心に爆発が起こる。
「なのは撃墜って訳にはいかないわよね」
 なのはの防御力の硬さを知っているアリサ。
 爆発が晴れるとバリアジャケットが黒焦げになったなのはが現れた。
「あの程度の火力じゃ、なのはには利かないか……。もっと火力を大きくしないと……」
 アリサもなのはに負けず劣らずのバトルマニアのようだ。





「なのは、大事無いか!?」
「はい。バリアジャケットが真っ黒く焦げてしまいました」
 今のなのはは、『白い悪魔』ならぬ『黒い悪魔』だ。
 純白だったバリアジャケットは、アリサの炎の魔法で真っ黒に変わっていた。
「フェイトちゃんがアリシアちゃんと戦っているなら、私はアリサちゃんとだね」
「では、妾がすずかだな……」
 既に戦闘中のフェイト対アリシア……。
 なのは対アリサ、さつき対すずかの構図が出来上がった。
 すずか陣営の訓練生は、さつきによって全滅させられていた。
 邪魔が居なくなり全力で戦える環境が整った。
 即ち最終血戦の幕開けだ。
 今までのユッタリした戦闘が高速で繰り広げられる。
 最早、一般魔導師の戦闘レベルを逸脱した。
 時々、撃ちあいで出る火花が見えるかという速度だ。
 常人に人の形を見ることが不可能である。
 動体視力が良い者であっても、あまりのスピードについて行くのが精一杯だ。
 常識の高速空中戦の姿は無い。
 吸血鬼同士による非現実の速度での空中戦……。



「これって、模擬戦なんだろ?」
「模擬戦の筈なんだけど……」
「最早、最終戦争と言ったほうが良いんじゃ……」
 訓練生達も感づき始める。
 もう、模擬戦ではなく最終戦争だと……。
 目の前で衝撃波が発生するが、戦闘を見ることが出来ない。
 スピードが速すぎてついていけないのだ。
 時々、演習場にクレーターが出来る。
 魔砲戦によるものか分からない。
「もう最終戦争だ」
 魔砲同士の撃ち合いもある。
 魔砲で地形が抉り取られる。
 彼女達の砲撃は、魔法と呼べるものではない。
 魔砲クラスだ。
「俺達の方まで流れ弾が来ないよな……」
 彼の不安は現実の物になる。
 その時、目に前に炎の塊が迫ってきた。
 彼を中心に炎に包まれた。
 観客席に炎の塊が飛び込んだことで騒然となる。
 次は自分が巻き込まれるんじゃないかと……。
 だが、何時までたっても炎がやってくる気配がない。
 恐る恐る目を開ける。
 すると素手で炎の玉を掴んでいた女性が立っていた。
「暑くなると周囲が見えなくなるのは変わらないわね」
 そう言って、炎の玉を握りつぶした。
 何故か月村忍が観客席に居た。
 焼けた手の皮膚が再生されていく。
 忍も吸血鬼の真祖である。
 次々飛んでくる炎の玉を素手で握りつぶしていく。
 炎の玉を素手で握りつぶす忍の非常識ぶりに訓練生は恐怖する。
 そんな忍に声をかける教官。
「所属を言え!! 管理局員ではないようだが……」
「貴方が教官!?」
「質問をしているのはこっちだ!!」
「管理責任がなっていないのでは? 観客席の安全をとる責任があるのでは?」
「五月蝿い!! 逮捕されたいか!?」
「そう……。管理責任を棚に上げて点数稼ぎをしようというのね」
 忍から魔力があふれ出す。
「魔導師だったか……」
「それがどうしたの?」
「管理局法違反で逮捕してやる」
「出来るのならどうぞ。貴方では私には勝てないわよ」
 殺気を込めた魔力を開放する。
 忍の殺気に当てられた訓練生達がバッタバッタ気絶していく。
「訓練生も守ることが出来ないなんて教官辞めたら?」
「ば、馬鹿にするな!!」
 そんな教官の腹に拳を叩き込んだ。
 忍のパンチは背中に拳の形が出来るぐらいめり込んでいた。
 忍が拳を引き抜くと教官は糸が切れた人形のように倒れ観戦席を転げ落ちた。
 転げ落ちた教官はピクピク痙攣をおこしていた。
 そこへまた炎の玉が飛んで来る。
 それをまた素手で握りつぶす。
「アリサちゃんには向こうに帰ってきたらお仕置きしないとね」
 忍は、今度アリサにお仕置きするようだ。





「なんだか寒気が……」
 アリサは、寒気を感じた。
「戦闘中に余所見とは余裕だねアリサちゃん」
 アリサに隙が生まれる。
 その隙を逃すなのは出は無かった。
「しまっ……」
 アリサは、なのはのバインドに捕らえられた。
「ゼロ距離からのバスター!!」
 アリサは、成すすべも無くなのはの魔砲に飲み込まれた。
 魔法に触れて一ヶ月あまりのアリサではどうしようもなかった。
 王族の庭園ロイヤルガーデンでの特訓期間を加えてもなのはに部があった。
 なのはと8ヶ月以上の実戦経験の差がある。
 なのはによってアリサは撃墜された。
 嘗てフェイトが受けたそれを上回る砲撃だ。
 アリサの現在の防御力では防ぎきれなかった。
 アリサを撃墜したなのはは、次の標的を探す。
 そして、標的をアリシアに決める。
 アリシアと戦っているフェイトの元へ飛んでいく。
 アリシアとO・HA・NA・SHをしようというのか?



「アリサちゃんが撃墜されちゃった」
「戦闘中に他人の心配とは、余裕だな」
「だって、私とさつきさんが全力で戦ったら不味いでしょう」
「確かに不味いな……」
「逆になのはちゃんみたいに全力全壊でやります?」
「それも良いかもな……」
 すずかとさつきの全力全壊の戦いが始まろうとしている。
 既に最終戦争状態なのだ。
 これ以上の最終戦争をしようと言うのだ。
 その最中、すずかは魔法を構築する。
 なのはを撃墜すべく……。
「妾がさせるとでも思うか?」
「思っていないよ。でも……」
 さつきが動くより早くすずかは魔法の構築を完成させる。
 それを美姫ブリュンヒルトの強化改良されたECIシステムが実現させる。
 戦いながらの高速演算だ。
「でも、何だ!?」
「妾の魔法の構築は終わっておる」
 すずかも王族口調になる。
「なら、撃たせるわけにはいかぬ!!」


 そして、なのはは……。
「フェイトちゃん、応援に来たよ!!」
 アリサを撃墜したなのはがフェイトに合流する。
「なのは!?」
「アリサはどうしたの?」
「アリサちゃんは撃墜したよ」
「そう。アリサを……」
 アリシアが、吸血鬼の力を全て解放する。
 それを合図になのはとフェイトも吸血鬼の力を解放する。
 目が紅くかわる。
「行くよフェイトちゃん」
「うん」
 なのははフェイトとの連携技を撃つようだ。
「逝くよアリシアちゃん。私とフェイトちゃんの中距離殲滅コンビネーション空間攻撃ブラストカラミティッ!」
 なのはとフェイトがチャージを開始する。
「全力全壊」
「疾風迅雷!」
「「ブラスト・シュートッッ!!」」
 なのはとフェイトの殲滅魔法がアリシアを飲み込む。
 吸血鬼のアリシアも唯では済まない。
 フェイトと互角だった所になのはが加わったのだ。
 戦況が一気になのは、フェイト側に傾く。
 アリシアを中心に爆発が起こる。
 爆発が晴れるとバリアジャケットがボロボロにになったアリシアが現れた。
 胸元は裂け、身発育の胸が露になっていた。
「きゃぁっ」
 アリシアは、慌てて胸を両手で隠す。
 それ以前に撃墜判定を受けていた。
「フェイトちゃん、すずかちゃんを落しに逝くよ!!」
「う、うん」
 なのはは、完全に『白い悪魔』LV2に入っていた。
 簡単に落とせないと分かりつつ……。
 アリサに次いでアリシアも落ちたことですずかの劣勢は決定的になった。




「残るは、お前だけだ!!」
「そのようだな」
「何を余裕で話しておる!? 直になのはとフェイトが合流する。妾達3人を相手にどう挽回する?」
「挽回!? だって、もうなのはとフェイトを落とす為の詠唱は終わっている」
 さつきは、なのはとフェイトの方を振り向く。
 なのはとフェイトが飛んでいる上空に巨大な魔力の塊があった。
 それは、ミッド式に置き換えられた月落としだった。



≪Caution. Emergency.≫
 レイジングハートが警告を発する。
 レイジングハートの警告に周囲を見渡すなのは。
「なのは、上!!」
 フェイトが空を指差して言う。
「ふぇぇぇぇっ!!」
 巨大な魔力の塊に声を上げる。
「そんなことよりなのは」
「う、うん」
 なのはとフェイトは急いで逃げる。
 巨大な魔力の塊は速度を増して落ちてくる。
 当然逃げ切れる速度は出せない。
 あまりにも巨大な為、逃げ切ることが出来ないのだ。
 巨大な魔力の塊は逃げるなのはとフェイトを飲み込んで地面に落下した。



 それを見た訓練生は戦慄した。
 あり得ない巨大な魔力の塊が落ちたからだ。
 それでも戦闘は続く。
 止められる者が居ないのだ。
 それ以前に自分の身の安全の確保だけで忙しいのである。


 すずかの月落としに巻き込まれたなのはとフェイトは……。
「あぁん。撃墜されちゃった」
 撃墜されていた。
 月落しで出来た巨大なクレーターから起き上がる。
 なのはとフェイトのバリアジャケットもボロボロだ。
 アリシア以上の破損だ。
 上半身、素っ裸なのだ。
 その為動くことも出来ない。



「残ったのは妾とそなただけだな」
「負けませんよ」
「持てる全ての力を持って掛かって来るがよい!!」
 最後まで残ったのは双方の総大将、さつきとすずかだ。
 今、さつきとすずかの勝敗を掛けた戦いが始まった。
 手加減なしの全力全壊最終血戦が……。


 次回予告

 なのは「想像を超えたさつきさんとすずかちゃんの全力全壊の最終血戦!!」
 フェイト「模擬戦から数日後、訓練校に入ってはじめてのお休みの日」
 すずか「でも、私は一族の仕事が……」
 アリサ「影で暗躍を始めるモリアーティ一味」
 アリシア「次回『魔砲少女リリカルなのは〜吸血姫が奏でる物語〜』」
 さつき「第67話『それぞれの休日』」
 すずか「称えよ紅き月よ」



やっぱり最後はこの二人だけになったか。
美姫 「というか、この二人が本気でやり合う事はないわよね」
……多分、その辺は分かっていると思いたいが。
美姫 「この周辺が無事に済めば良いけれど」
いや、既にあちこちクレーター状になっているけれどな。
美姫 「それではこの辺で」
ではでは。



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